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7:常識の感覚は自分の感覚

一日一死レベルで続いていた『ドクロの刺青』印の連続変死は、9人ほどの犠牲者を生み出したところで突然パタリと止んで、ここ最近は三日に一度ほど、ドクロマークが手首に刃物か何かによって彫られたうえに死ぬという、事件が新たに発生し、被害者は未だに増え続けていた。ただし、死因の方は相変わらず不明、らしい…ということを僕はまた浜口くんから伝え聞いた。被害者は相変わらず女性ばかりで、しかも、今度は『タマシイイタダキマシタ 死神』と書かれた紙(A4サイズのコピー用紙に筆跡がわからないよう定規で書いてある、すげえちゃちい)までご丁寧にも置いてある、らしい。

ただ、先述の通り、やっぱり未だ死因は不明で、刺青のようなあざのような、消えないドクロマークから切り傷になったことで多少人間味が増したからといって、一連のドクロ事件を人間の仕業だと決めつけるのは些か早計であるような気がする。しかしまあ、ドクロが刺青的なものから切り傷に変わったことで、ドクロのマークと死ぬことの関連性が薄そうだということくらいはわかった、ということでーーーー……そんな中。


「ドクロ事件は人間の仕業だから、犯人捕まえようよ」


と僕に向かって、完全に決めつけた様子でそう言い出したのはもちろん浜口くんだった。浜口くん以外に僕と話してくれる人っていないし、当然だよなあ?


「何言ってんの」

「何って、まんま…ってどうしたの、その包帯。ボケ頭の矯正?」


包帯巻いたくらいでどうにかなるくらいの頭なら毎日二重にも三重にも包帯巻いてくるんだけどね。そう、あれは3日前の放課後のことだった。なんかテンションが上がって、『ボルテック・フィニーッシュ!』と叫びつつ階段の手すり部分を滑り台のようにして滑っていたら誤って頭を打ってしまうという

「アホ以外の何者でもない」

ことがあったのだ、って、僕の心を読んで的確な台詞を挟まないでくれ、浜口くん。いや、でも仕方がないことなのだ。その時の僕は、前日に観たビルドの最新話を思い出しては興奮していたのだから。いやー、負ける気がしなかった。



そんなわけで現在、僕の頭には包帯がぐるぐるに巻き付けられている。自分の後頭部を触ってみて濡れてた時には少しびびった。病院で何針か縫ってもらうくらいの怪我だった。施術が終わった後、会社を早退してきた母さんにげんこつをもらった。母さんがあんなに怒っているのを見るのはとても久々のことだったので文句をブーたれたりはせず、甘んじて受け入れた。家に帰ってから、訊かれたのでケガの理由を話すと、蹴飛ばされた。流石に痛すぎたので僕のようなやつでもちょっとムカついたからその日は夕食も食べず、不貞寝した。


「ーーって、別にどうでもいいでしょ、キミのケガした日の経緯なんて!それより犯人、犯人!」



それからしばらく、放課後の時間帯には、僕と浜口くんは探偵ごっこと称して市内を歩き回り探索していた。

誰にも、警察にだって方法がわからないような、もちろん証拠もまるで見つからない殺人を犯すような犯人が、街をただうろうろ歩いただけで発見できるはずもないだなんてことは、僕にも浜口くんにももちろんわかっていて、結局やったことといえば買い食いしたり歌ったり球を転がしたり太鼓を叩いたりと遊びの内容ばかりだったから、浜口くんはただ、遊び相手が大体いなくなったりPTSDの治療にかかって休んだり、そんな雰囲気じゃなかったりする中で、心置き無く遊びたかっただけなのかもしれなかった。一連のドクロ事件に興味を寄せているようなそぶりも全て嘘で、本当はただ遊ぶ口実が欲しかっただけだったのかもしれないと思った。

ところが、物事というのは思わぬ方向に転がるものだ。

ヒラコーにも、ついに被害者が出た。それも、男性の…。

ここでやっと、僕と浜口くんは「もしかすると自分も死ぬのかもしれない」と思い始めていた。その後は相変わらず女性ばかりが被害に遭っているから多分僕は大丈夫だと、頭では思うのだけれども、まあ、心配は心配だし、めちゃくちゃ怖い。やっぱり、男も死ぬ(アタリマエ)…。


「まあ別にボク、死んでもいいんだけどね」

「はあ?意味わかんないよ、それ」

僕は、女子と知った浜口くんとでも、結構話せるようになってきている。やはり、何事も慣れだな、と実感する。

「今だって別に、何かやりたくて生きてるわけじゃないし。のほほーんって、惰性で、流されるがままに、適当に生きてるだけで、死んでないってだけ、みたいな感じで。意味ある?そんなの」

「だから、死んでもいい?」

「うん。どっちでも変わらないんじゃない?」

いやー、何事も命あっての物種だよねー。死んだ後のことがわからない以上、今生きている僕にとってはこれはこの上ない真理だよ。

でも、浜口くんにとってはそうでもないみたいで、そう言うその目に茶化すような感じも、慌てた感じも、誤魔化す感じも、無理した感じも見受けられなかった。普通も普通といった感じの眼だった。


僕は別にまだ死にたくない。やりたいことがあるとかじゃなくて、普通に、死ぬのが怖い。当然の感覚だ。死後はどうなるのかわからないわけだから、至極真っ当なはずだ。

僕はいつか必ず死ぬ。それがいつかはわからない。100年後である可能性だってある。もちろん、明日という可能性だってある。今この瞬間という可能性だって。


異様に死が蔓延しているこの街で、僕はもしかしたら、殺されるのかもしれない。今流行っているのはドクロだけど、もしかすると、他の何かに…それはもしかしたら自殺衝動にかもしれないし、不安にかもしれないし、思想にかもしれない。

でもひとまず、明日の分のご飯はある。どうせ、明日も5時くらいに起きてダラダラしてギリギリの時間に登校して授業を受けて勉強して帰ってゲームして飯食って風呂入って寝て起きてダラダラして……と、いつも通りの日々を過ごすだけだ。



余計な心配をしたってしなくたって、明日もどうせ生きている。


そう思うのが普通で、きっと間違っちゃいない。












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