14:責任
眼が覚める。
時計を見ると、長針は5、短針は4を少し過ぎたくらいの点を指していた…まどろっこしい言い方をしちゃったけど、つまりは四時五分。いつもより1時間程度、早起きしてしまったわけだ。
しかし、不思議ともう眠くはない。今日はやけに目覚めがいい。
まだ薄暗いから、目を瞑れば、眠くなくても眠れそうじゃああるけど…よし、寝よう。
どうせやることもないし、暇つぶしに持ってきた文庫本も読み終わってしまったし。一人きり…いや、隣では兵庫が寝てるんだけどね。現状一人でできることといえば、夢を見ることくらいしかない。どうせ僕には思い出せないとはいえ人間、夢というものは誰でも見るものらしいから、夢の中の僕にくらい、夢を楽しんでもらおうじゃないか。
よし、おやすみなさい。
そんな感じで開いた瞼を再び閉じた僕だったのだけれども、何も考えず、無心でいると、いくら目覚めが良かったとはいってもじきにふわふわ浮くような気持ち良さが身体中を襲い始め、「ああ、もう落ちるな」とか朧げに思いつつ、僕は意識を取り戻そうとすることなく、意識が落ちて行くままにまかせて、二度寝が完了する2秒前。
「起きてー」
はい、起きましたー。
兵庫がまだ朝早いからと僕に気を使いつつ揺さぶってくるから、僕はそのやさしき心遣いに感謝しつつゆっくりと起き上がり、あくびをしつつ、目をこする。
「何時ー?」
「五時二十分くらい」
え?ちょっと早過ぎじゃないですかね。
そんな軍隊じゃないんだから…ま、いいか。
僕は立ち上がり、ググーッと伸びをする。
「朝ごはんどうしよっか」
「まだ缶詰余ってるよ」
「それ食べたらちょっと散歩行ってくるから」
「あ、私も行く」
断る理由なんてない。
適当に飯を食った後、兵庫とあたりをゆっくり歩いて回る。湯気が黙々と立ち上り、情緒あふれる建物群。この雰囲気を僕と兵庫はしみじみと感慨深く、「うわーすごいねー」とか言いつつ歩く。
「そう言えばさ、そこのお湯、百度超えてるらしいよ」
「ええ、マジで。どうしてそんなことになるわけ?」
百度が限界なんじゃなかったの。
「いや知らないけど」
なんなの。
適度な運動を終えてパッチリ目も覚め、昨日の計画を二人で再確認し、僕らはワゴン車に乗って出かける。運転するのは兵庫。彼女はまだ大学が機能している頃にばっちり運転免許を取得していたのだ。一発合格だと言っていた。ちなみに僕はずっとママチャリ。
宝石店に入っても、大方のものはなくなってしまっている。ガラスのショーケースには穴があき、中身は空っぽ。ここに僕らが探し求めているものはなさそうだ。いろいろ探しても結局ないから、僕たちは他人の家に忍び込み、他人のものを頂くことにする。
「そこまでしている?それ」
「絶対いる」
そうですか。まあ、運転してるの君だし、僕としては何も言うことはない。
目的のものを手に入れると、今度はそこらのホテルへ。おっと、エロいことするためじゃねえぜ。そこにもまた、目的のブツがあるわけよ。
で、まあ、今度は一発で見つかる。
それらを無理やり車に乗っけて僕らは、最後に、本命の目的地に向かう。
✳︎
「病める時も健やかな時も、ピンチな時には助け合い、悲しい時には慰め合って、一生、共に愛し合うことを誓ってね、ケンちゃん」
「わかった」
テレビドラマとかで見るみたいに鐘は鳴ってないし、神父もいない。しかも、さっき来た時にはおじいさんとおばあさんの死骸もあったから、それはもう裏に捨てたけど、まだ死臭がする気はする。それでも、ステンドグラスから差し込む神々しい光は、ロマンチックさを醸し出す。これが僕らの結婚式だ。適当に持って来たウエディングドレスにスーツだから、僕たちのサイズには合ってないけど…僕は他人のものだったプラチナでできたリングを兵庫にはめてやり、彼女と深い深いキスをする。
兵庫が教会で結婚式をしたいと言ったから実行に移したのだが…彼女は、これで満足できているだろうか?儀式を終えて、僕らは着替えて温泉街に戻る。人は一切見かけない。この辺りにまだ人はいるのだろうか。
部屋に戻って、やることもなくなったのでぐでーっとしていると、ラフな姿の兵庫が僕の背中の上に乗っかってきて、「ねえねえ」と言う。
「ねえねえ」
「なに?」
「子供欲しい」
「ふーん…」
て、え。子ども?
「なにその顔。嫌なの?私と子ども作るの」
こんな世の中で…というか自分たちでとは言え式も挙げたわけだし責任取るもクソもないけど、子どもって言われると想像もつかない…。
責任取るって結婚するってことじゃない。子どもを大人になるまで死なせることなく愛情込めて育て上げることだ。最近缶詰ばかり食べている僕らに、果たしてそのようなことができるのか…?




