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10:流れる命と時間

あれから、勉強を中断して昼食をとった。弁当を買わなかったので、母さんからもらった小遣いはいくらか浮いた。今度トラソーの課金の足しにでもしようと思う。←嘘嘘。課金なんてしたこともない。そういえば、前に、伊藤くんと『トレーディングカードゲームのパックを買いまくるのと課金してソシャゲのガチャを引きまくるの、どっちが無駄か』って論争をしたっけなあ…下らない話をするのは本当に楽しかった。確かあの頃、僕はモノとして残らないぶんソシャゲの方が無駄だという主張を決して譲らなかったけども、今ならわかる。

どっちも無駄だ。

ところで、何故金を使わずに済んだのかといえば、浜口くんがわざわざ手料理を披露してくれたからだ。レシピ本をこまめに見て作っているようだったので、普通に美味しかった。まあ、こんな感じになるだろうなぁ、っていう味だ。

彼女の妹である相生さんを交えて、三人で席に着き食べていたのだが、相生さんの僕に対する追求は凄まじきこと火の如しって感じで、もう止まることを知らなかった!



告白はどっちから?初対面はどうだった?ていうか何時出会ったの?何処まで進んでるの?おねーちゃんのどんなところが好き?おねーちゃんの可愛いところを百個言ってみて?――――…………



「酷い目に遭った」

「ごめん」

大事にしてくださいね!と言い残して相生さんが自分の部屋に戻ってしまった後、僕らは勉強道具を片して、テレビゲームをしていた。『トランス・ミグレイション・オブ・ザ・ソウル 2』。浜口くんが廃人レベルになるまで遊んでいるアプリ(まあ僕も遊んでるけど)の前身、じゃねえか、元となった家庭用ゲーム機用ゲームの第2作で、最新作。1よりも大勢で遊びやすくなっていて、楽しいんだよなー、伊藤くんともよくやったものだ。因みに、今はドラゴンになって空から火球を落として人間どもを蹴散らしているところ。建物がぶっ壊れたり逃げてゆく人間が燃えるのを見るのは爽快以外の何物でもない。無力な彼らは猟銃でこっちにバンバン撃ってくるけど、まあ当たらない。ただ、ひとしきり人間の村を滅ぼし終えて、この後はボス戦で、縄張りに現れた巨人と交戦しなきゃならない。彼らの動きは遅いが攻撃の一振りの威力は抜群で、体力もめちゃめちゃにある。それでもし負けたりしたら、僕は今度は――……何に生まれ変わるんだろうなあ。あ、死んだ。蟻んこに生まれ変わった。

「あとでちゃんと言い聞かせとくから」

「大体そもそも、何であんなわけのわからない嘘ついたのさ」

 まあ、わけのわからない嘘と言うのなら、そもそも男装の件からそうなんだけどね。まあそれは今はまだいい。

僕が浜口くんの彼氏だと思い込んでいる相生さんの質問責めに、そもそも浜口くんと交際などしておらず、女性と話すという行為そのものが苦手な僕はもちろん何も答えられるはずもなく、しどろもどろになっていたのだけれども、代わりに全部浜口くんが受け答えしてくれていた。事実にないことを数々訊かれるので、そこは全て、嘘偽りで補って。

「僕の彼女なんて嘘、ありえなすぎて一発でバレちゃうんじゃねー」

 そりゃ、相生さんに質問責めにされるわけだよ、自分の姉が訳の分からない男を連れてきたらどんな男なのかを探りたくもなるよな。

「いや、それは、うーん、でも、私、キミのこと好きになるかもって、前に言ったじゃん?」

「え、うーん」

「とぼけなくていいから」

凄まれるので、「あ、うん、言ったかもね、朧げに覚えてる」と僕は言う。本当は常に意識してしまうほどに深く深く僕の記憶に刻まれているけど、それを言ってしまうと浜口くんに意識しているということがバレてしまうわけだし、弱みを握られてしまうような気もして、そもそもなんかダサいから、本当のことは絶対に言いはしない


「じゃ、キミに彼女ができないってことはないでしょ、だって私がいるもん」

「もんって…」

「寺内くんはイヤ?私けっこー可愛いと思うんだけどなー」

「まあ、うん…うん」

そうかもしれないけど自分を自分で可愛いと言っちゃう人ってどうなんだろ。とか、僕は謙虚が売りな国・ニッポンの生まれだからそんなことを思ってしまう…。それに、いやいやだからなんなのとも思う。僕に対して誘惑のようなものを行なっているけども、まさか別に僕と付き合う気でもあるまいに。

「うん…ん…うん?いやいやいや、待って待って、浜口くんって僕と付き合いたいの?そもそも…好きになる云々言ってたけど、そもそも喋り始めて少ししか経っていない、付き合いの短い人間に対してそんな感情、普通抱く?」「愛に時期は関係ないんだよ…出会って食事してホテルに行って翌日入籍とかよくあることなんじゃない?」

下世話すぎるわ。同意を求められてもわからない。

「っていうか、寺内くんはどうなの」

「?」

「私のこと好き?」

「いや全然」

「……」

「いや、あの、そういう風にはまだ見れないっていうか」

「あー、恋愛的にはってやつね」

「うん、そうそう、それそれ」

「私もだよ」

「…」

「なんなんだよって顔?」

「いや、わかんないけど…うんそう、なんなの?僕のことを弄びたいの?浜口くんは」

「いや?好きになるかも〜、って言ったんじゃん。好きって言ってないし、愛じゃないし」

なーんだ、愛じゃないのか〜。もしかしたら、本当に、って少し思っちゃってたよ。期待してしまってた。なんてね。


「私、中学校の頃までは普通に女の子の格好してたんだ。でもね、これまでに誰とも付き合ったことがないんだよ。なんでかわかる?」

「さあ」なんで高校デビューで男と偽り出すのかの方にしか興味の焦点は当たらないからなあ。

「おかしいと思わない?だって、こんなに可愛いのに、彼氏の一人や二人、いたっておかしくないと思わない?」

なんか今日の浜口くんはウザいな。

まあ、悔しい話だけど、浜口くんは可愛い。ぶっちゃけた話、男だと思いこんだままでも性的興奮を覚えてしまってもおかしくはない、そのくらい可愛いのだ。まあ、彼女は(自称ではあるが)、性別で言えば本当に女性な訳で、つまり、正統派に可愛くて、正統派に性的興奮を覚えかねないし、正統派にそういう妄想をしかねないし、ともすれば正統派に付き合いたいとすら思いかねないのだ。今はまだそうでもないってだけで、これからどうなるとも限らない。それだけの魅力を浜口くんは持ち合わせている。

「なんででしょう」

意地悪っぽい笑みを浮かべる浜口くんに、「なんで?」と僕は少し間を置いてから訊く。自分で考えろと言われるかと思えば、そこまで意地悪でもなかったらしく、「それはね、下らないなーって思うから」とあっさり明かす。

「下らない、って何が?恋愛が?」

「うん。まあ、あとはそれと、周りの人皆…」

「いい男がいないってことね」

「いや、性別問わず、だよ」

硬い言い回しだな、そりゃ。

「友達たくさんいるのに、そんな風に思ってたんだ」

「嫌いだって前にも言わなかったっけ?それに、友達なんていないし」

「友達だって思ってないってこと?」

「いや?違うよ、思う思わない以前に皆死んじゃったじゃん」

ああ、確かに。

友達の死は悲しくない女・浜口つばさ。

「あの時、大体私の友達が殺されちゃったんだよね、陽キャに恨みでもあったのかな、あのテロリスト」

「……」

「わかってるよ、なるべくこんな話はしない。だっていつも私の態度見て寺内くん、ドン引きしてるもんね。本当だったら普通、周りの人が死んだら悲しいもんね」

浜口くんはなぜか、言い訳じゃないけど、取り繕うようなことを言ってくる。死んで嬉しいという彼女に僕がどんな挙動を取っていたのかはわからないけど、それはそれはわかりやすく、酷いものだったのかもしれない。いや、浜口くんが目敏いだけか。

「僕が何か言えることじゃないよ」いや、本当にね。


「でもね、私、寺内くんが死んだら泣くと思う」

嘘くせ〜。

「寺内くんがいなくなったら私、悲しむよ。だって寺内くんは私の同類だもんね」

はあ!?何言ってんだ、馬鹿か!人の死を喜ぶサイコパス女と僕を一緒になんかするな!なんて言葉が胸に渦巻いて、行くところを知らないから渦巻き続ける。

「私が死んだら、寺内くんは悲しんでくれる?」

「…そんな、意味がわからない」

「まぁ、今こんな感じだし、私もいつそうなるかわからないからね、お焼香くらいはあげに来てよね」

「そりゃ、酷い皮算用っていうか」

「皮算用の意味多分違うよ〜」と浜口くんはくすくす笑う。僕は別に何も言わない。

死ぬくらいなら引っ越せばいいと思う。

死神の被害は続いている。

でも、死神以外にも、明らかに人間に殺された形跡のある死体が発見されるという。死は伝染する。頭のおかしい誰かが死神の殺した流れに乗っかって来たのだろう。

1日に2、3体ペース。

ペースはかなり早い。それが同一犯によるものなのかはわからないが…。

僕も浜口くんもいつ死ぬかわかったものじゃない。

死ぬ前に引っ越して安全を図るべきなのかもしれないけど、母さんは特に何とも言わない。浜口くんの方はどうだか知らないが…


「お姉ちゃん、何でそんなこと言うの」


と、再び現れた相生さんが言う。髪型がさっきと違って、髪を下ろしている。


「お姉ちゃんとその人が似てるだなんて…付き合ってるの?」

「いや、付き合ってないけど、…似てるものは似てるんだからしょうがないじゃん?」

「似てないよ」

「あーもう、頑なだなあ、別にいいでしょ、私の思うくらい」

「だめ」

相生さんと浜口くんはだんだん険悪な雰囲気になってゆく。

「こんなヤバイ人に似てるってそんなわけないし」

え、僕ってヤバイ?そうなの…?いい意味で、か。違うよなあ。

「ハイハイわかったから。でも私の勝手でしょ?」

「だめ」

「なんで」

「なんででも」

「なんででも、ってねえ」

「二度とこんなこと言わないで」

「あのねえ…!」

語尾を上げた浜口くんを、あーでかい声出しそうだと思って見ていると「まあまあ落ち着いて、おねーちゃん」と相生さんが現れ、浜口くんを宥める。……


「相生さんが、ふたり?」

僕はさぞかしボケーとした顔をしていたろう。そんな僕に不機嫌そうに、喧嘩していた方の相生さんは、

「名前を呼ばないで。関わりたく無い。私は相生じゃない。明石よ」

「ごめんなさいおにいさん、妹がこんなで。失礼しましたー」

「妹って、私たち双子でしょ!」

「うん。でも、先に生まれたのは私」


おお、同じ顔が言い争っている。浜口くんに顔を向けると、彼女はごめん、と口パクで僕に言う。いやいや、僕が原因の言い争いっぽい、ていうか、なんでこの明石さんという人はこんなに僕を親の仇のようにヤバイやつやばいやつと糾弾するのだろう。会ったことある?無いよね。

毛色が違うダブルの喧嘩を見ながらあたふたする僕のシャツの裾を、浜口くんは横からくいくいと引っ張って、小声で「今のうちに帰っちゃおう、送るからさ」なんて提案を持ち出す。ナイスアイディア。



✳︎




それからも、夏休み中に僕たちは度々会って遊ぶ。でもなんどかに一度は明石さんに遭遇してガミガミ言われるから、そのうち明石さんに隠れて、密会と称して会うようになる。特定の人物にのみとはいえ秘密を持ち、それを浜口くんと共有することや密会という単語のエロティシズムに僕は悶えるけども、別にエロいことなんかにはもちろんならなくて、普通にゲームして、話して、買い物をして、そうして時は過ぎて、夏休みが終わる頃には街の犠牲者は夏休み前から約5倍に増えていて、ついに政府から市民に避難勧告が出され、ここまで粘った寺内家も浜口家も岬野咲市から引っ越して、岬野咲はほとんどゴーストタウンとなる。避難勧告に応じない市民もドクロに殺される。人間の殺人犯の方はそのうち警察に捕まる。そいつは家のクーラーボックスに15人分の遺体の一部を保存していた。学校も編入試験なしに別のところに入れられ、もう浜口くんと会うことはなくなるけど、普通に携帯で連絡を取って、毎日のように通話する。彼女は夏休み明けの他校では、普通に女子の格好をして暮らしているらしい。いや、本当にあの男装はなんだったんだろう。一方、岬野咲からきた呪われているらしい僕は時期も時期なので孤立していじめられたりもしながら時間はあっという間に過ぎ、1月になり、僕はセンター試験でほどほどの点数を取って地元の大学を受験し、合格する。浜口くんは東大か京大に行くのかなと勝手に思っていたらそんなことはないらしく、僕と同じ大学を志望し、受験し、合格する。






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