対猟兵戦
『イシス、南側の5人が走りだした!他の4人もそっちに行った。東側から7人、西側から2人』
銃声と叫び声に気付いた兵士達がイシスとフランツの居る北側に移動を始めた。
「東側から7人、西側から2人来ます」
フランツとショーンは気絶させた兵士からギリースーツと銃を奪い取っていた。
「ショーン、俺がアイツらのフリをして同士討ちを誘うから、西側の2人を牽制してくれ。イシス、混乱が起きたら何か魔法で大騒ぎを起こしてくれ」
フランツは東側はの7人組の方へ走り、ショーンは木に登り銃を構えた。
「うおっ!」
顔のすぐ横を銃弾が掠め、西側から回り込もうとしていた兵士はその場に伏せた。
「仲間がやられて銃とギリースーツを盗られた!」
フランツは叫びながら、7人の前に出てきた。
「助けてくれ、2人組の男に銃を奪われた」
東側の兵士達に仲間だと騙そうとしたのだが。
「貴様!手を上げろ!」
「え"!?」
フランツのドイツ語は完璧完璧な筈なのに、銃を突き付けられた。
「この間抜け!尻尾が丸見えだぞ」
(うなああ!?しまった!)
ギリースーツの隙間から尻尾が見えていた。
つい、前世の癖で。尻尾を入れずに目の前に出てしまったのだ。
「何やってるんだよ、もう!」
『うわわ!?フランツさんが捕まった!』
『え!?どういうこと!?』
目の前に躍り出て、銃を突き付けられたのを見ていたが、トマシュに何て説明すべきかイシスは困惑する。
『と、取り敢えず助けるから』
「この犬っころが!」
「犬はねえだろ!狼だ」
小銃を取り上げられて、フランツは地面に跪かされていた。
「オオオ…」
突然、声がし。木がメキメキと音を立てて動きだした。
「ああああァァ!」
兵士の1人が頭を掴まれて、持ち上げられた。
『ちょっと!大きな反応が増えたけど何!?』
『木を動かしてみたの』
イシスが木に命を吹き込み、木がゴーレムと化したのだ。
『でも、まっさらな魂を入れたからちょっと危ないかも』
『なんじゃそりゃ?』
「……ぁぁぁぁあああああ"あ"あ"!!」
トマシュ達の“足元”近くの木の枝に兵士がぶつかった。頭を掴まれた兵士が放り投げられたのだ。
『ちょっと!兵士が飛んで来たんだけど!』
『待ってよ。今、力加減を覚えさせているんだから』
木の根っこが地面から持ち上がり、兵士達は必死に銃を撃つ。
「化け物だ!」
歩きだした木が近くに居た兵士に狙いを付け、根っこを持ち上げた。
あからさまに、兵士を踏み潰そうとしたので、狙われた兵士は全力で走り、他の兵士達は木に射撃を集中させたが。
「うわっ!」
走って逃げる兵士の脚に、蔦が巻き付いた。
「ああぁぁっ!あ、あああー!」
木が振り上げた根っこの下にまで兵士を引き摺ったのだ。
「このっ!」
「Nein!」
兵士の1人がパンツァーファウストを構えたが、他の兵士が真後ろに立っていた。
パンツァーファウストが発射され、後方爆風に襲われた兵士がその場に倒れる。
「あ"あ"あ"あ"ー!!」
上半身を焼かれた兵士の叫びで、撃った兵士は自分がしでかしてしまったことに恐怖した。
しかも、振り返り呆然としていた兵士は更に恐怖に襲われる。パンツァーファウストは外れたのだが、木が撃った兵士に反応して枝を振り落としたのだ。
『あー!待て待て!握り潰すな!』
死者を出さない様にと、木に吹き込んだ魂に加減を書き込んでいるが、予想外に大暴れをするので、イシスは必死に書き込んでいた。
ギリギリの所で、攻撃を止める命令を出してはいるので今のところは死者は出ていないが。
『引っ張るな!脚が千切れる!締め付けすぎだ!内臓が破裂する!』
加減を知らない木が少し枝や蔦を動かす度に、兵士達が死にかけるので半ばテンパっていた。
普段はある程度命令を学習している魂を入れていたが、手持ちの魂6柱は、盗賊を追わせたきり帰ってこないので、新しいのを入れたのだが、もう限界だった。
『もう、動くな!』
「動きが止まった!撃て!」
急に動きを止めた木に、兵士がパンツァーファウストを放ち、木は大きな音を立てて倒れた。
「おい、犬が消えたぞ」
騒ぎに乗じて、フランツが逃げ出しているのに、ようやく気付いたが既に姿は無かった。
「何人やられた?」
「5人だ!」
残っている兵士は4人。最初にやられた4人と合わせると9人も倒されてしまった。
「おい、居たぞ」
イシスにより素っ裸にされた最初の4人を兵士の1人が見付けた。
「引き揚げるみたいだ」
トマシュの一言で、隠れていたフランツとデイブ達はようやく一息つくことが出来た。
トマシュ達は何処に居たのかと言うと、襲撃された場所から北に少し進んだ位置にある木の上に居た。
イシスが木々の枝と枝の間を蔦で覆い、馬が乗っても大丈夫な強度を持つ足場を作っていた。
「何だったんだアイツら?」
フランツ達が奪い取った銃やギリースーツ、柄付き手榴弾にガスマスクと言った装備を眺めながらデイブが呟く。
「このガスマスク、竜の革だ」
アガタはゴムの代用品として竜の革が使われている事に驚き、手で伸ばしたりして感触を確かめていた。
「どうする?俺達も引き揚げる?」
目的は判らないが、銃を持った兵士に待ち伏せを食らったのだ。
ショーンの言うとおりに、引き揚げるのも選択肢の1つではあるが。
「イシス、ニナとエルナだけケシェフに戻せないか?遺跡に着く間だけでも安全な場所に居させたいんだが」
話し掛けられたイシスは鼻から溜め息を吐き、頭を掻いた。
「それなんですが。まだ、長距離の転移は出来そうに無いです。それと、ケシェフに残っているカエ達と念話でやり取りしてみたのですが、そっちも繋がりません。何かが干渉して、違う念波………魔力の波長が邪魔をしています。方向は向こうです」
イシスが指差したのを見て、トマシュは驚いた。
「そっちの方向に兵士達が引き揚げて行ったよ。だけど、そんなに大きな波長は感じないけどな?」
イシスが言うような魔力は特段感じないので、トマシュは不思議がった。
「えっとね」
イシスがトマシュの手を握った。
「もうちょい先。この辺かな」
「ん?」
イシスに誘導された場所に意識を向けたら、確かに反応は有った。
「………あ、有った有った。でも、何だろう?何か、普通じゃないよね?」
「でしょ?大きい筈なんだけど、何かおかしいよね」
「いや、何がおかしいんだ?説明してくれよ」
何が起きているのか知りたくなり、フランツが尋ねた。
「大きな魔力の歪みが在るんですが、波長が殆ど出てないんです」
「つまり?」
「何て言うか………。大きな滝が目の前に在るのにコップから水を垂らした程度の音しか聞こえない。みたいな………」
トマシュが何とか判りやすい様に説明したが、フランツは首をかしげる。
「大きな魔力を出さないと可笑しい物が向こうに在るのですが、実際には小さい魔力しか漏れていないんです」
イシスの説明で、フランツは一応納得は出来たが。
「それが動いている間は念話と転移が無理なんじゃないかと?」
「ええ、それしか考えられないです」
「なあ、それって俺達の世界と往き来出来る転移門じゃないか?」
デイブの発言をイシスは首を縦に振り肯定した。
「可能性は有ります。周りに漏れる筈の魔力が異世界に流れているのかもしれないです」
「参ったな」
進むのはともかく、このまま退いても安全か?
それを確かめる必要が出てきた。
「武器は何がある?」
「まあ、猟兵だけあって悪くないね」
ショーンが蔦で編まれた足場の上に毛布を敷き、フランツ達が奪い取った物を並べていた。
「Kar98kにそっくりなスコープ付き小銃が3丁、スコープが着いてないのが2丁。ワルサーP.38にそっくりなのが4丁。鍵十字が刻印されたナイフが2本。Kar98kの弾が入った雑嚢4つ、挿弾子が5本ずつ入ってるから、装弾されたのとは別に100発。弾が入ったワルサーの弾倉4本。手榴弾5本。地雷2個」
「なるほど………な」
しばらく銃を手に取りつつ眺めたフランツは、ショーンとデイブにスコープ付きの2丁を渡し、自身はスコープが付いていないものを手に取った。
「後退出来るか探ってくる。ショーンとデイブは此処でアガタ達と待機。イシスとトマシュと俺の3人で行ってくる」




