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森での遭遇


真っ暗な森の中、フランツは火の周りで寝ている仲間達から少し離れた場所に腰掛け、南の方角を見ていた。

天気は悪く。雨は降っていないが、空は分厚い雲に覆われ、焚き火以外の光は無かった。


流石に夜は冷えるため、フランツは外套の上に毛布を羽織っていたが、右手は外套の隙間に入れ、常に拳銃を触っていた。

本当なら小銃が欲しいが、小銃はすべて冒険者ギルドが管理しており、フランツが自由に使えるのは、転生者の知り合いに作って貰った38口径のリボルバー拳銃位で、魔物を相手にする時は、剣で切りつけた方が良いぐらいの威力しかない。


しかし、除隊後に40年以上も警察に居た習慣からか。フランツは拳銃を手にしている方が落ち着いた。


(俺の家の近くに、ニナとヤンが住んでいる。そして、あの兄弟の口振りだと、俺をニューヨークで待っている。あの兄弟が見せた住所は俺の家と同じ通り。………そう言えば、犬のチェルキーはどうなったんだ?俺が死んだ後に誰か引き取ってくれたんかな)


最初は事件について考えていたが、飼い犬のビーグル犬の事を思いだし、そっちの方が気になっていた。


「どうしたの?」

不安になり、ソワソワしているのをアガタに見られた。


「ああ、ちょっとな………」

アガタが近付いてきて、背中合わせになる形で座った。

「当てて見ようか。弟の事を考えてたでしょ?」

「ある意味で半分正解だ………。ニューヨークに住んでた時の飼い犬の事を考えてたんだ」


アガタが上を向いたので、頭頂部がフランツの背中に当たった。

「犬?アンタが?」

クツクツとアガタが笑うので、フランツの身体も少し揺れた。


「笑うこった無いだろ」

「だって、普段は犬に吠えられると尻尾を巻いてるのに、犬を飼ってただなんて。想像つかなくて」

「そこら辺のデカいだけの犬と一緒にすんな。アイツは賢いんだぞ」

一頻り笑い、「ふー」とアガタが息を吐くと白かった。


「不思議ね。死んだと思ったら、変な世界で人狼になってるんだなんて。前世のお母さんが知ったら何て言うかな」

「………どうした?」

普段、前世の事を殆ど話さないアガタが珍しく、前世の母親の事を気に掛けた。


「ほら、遺跡で前世の世界に帰れるって話だし。それで、気になって」

「……帰りたいのか?」

今まで一緒にいる事とは多かったが、良く言えば前向き、悪く言えば能天気なアガタに前世の未練があるとは思わなかった。


「んー………うん。1度帰れるならね。お母さんに謝りたくてね。アンタは犬以外で何か無いの?」

「別に、帰りたいとは思わないさ。前世でも独り身だったし、子供も居ないしな」

「独り身………へえ……」


雰囲気から、アガタがニヤニヤしているのをフランツは察した。

「お前だって似たようなもんだろ。この世界で28にもなって結婚して無いんだから」

「それはアレよ。私に釣り合う人が居ないのが悪いだけだし」

「何だそりゃ」


鳥の鳴き声が聴こえ、2人とも耳をそちらに向けたが、特に変わった様子はなかった。

「南の方は本当に大丈夫かな?」

「イシスが大丈夫だって言ってたんだ。大丈夫だろ」

「でも、またイゴールが嘘を言っているかも知れないでしょ。冒険者ギルドはナチ党の事ばっか追い続けているけど、アイツの方がよっぽど悪人だよ」


「どっちも変わらん、さ」

気配に気付き、フランツが外套の中に入れている尻尾を2回動かし、何か居ることをアガタに合図した。

「熊?」

「いや、小さいが多いぞ」


『…っ!』

狸寝入りをしながらフランツ達の会話を聞いていたトマシュも森の中に居る生き物の気配に気付いた。

『イシス!何か居るよ!』


念話で呼び掛けるとイシスは「ん~…」と声を出しながら猫の様に4つ足で立ちながら身体を伸ばした。

『馬鹿っ!』



「消えた?」

気配がする方を向かずに動くのを待っていたフランツ達だったが、気配が消えたので、耳を澄まして必死に気配を探した。

「あー……。イシスが音を立てたから、警戒されたんだね」


「参ったな。泥棒トカゲの類いだと面倒だ」

フランツが警戒した“泥棒トカゲ”は体長1メートル程の竜種。羽根などは退化しており、臆病な性格なので普段は人を襲うことなど無いが、冬の初めのこの時期は違った。

餌の豊富な秋に子供が産まれ、冬の初めのこの時期は餌を求めて人里近くまで下り、冒険者の荷物や民家の食糧を荒らしたりする。基本的に無害なのだが、姿を見られたりしない限りずっと後を着けてくる。


「追い払えるかな?」

「どうだろうな」

放置しても良いのだが、食糧の入った荷物と一緒に関係がない荷物を盗まれる事もあるので、可能なら追い払いたいが。基本的に付かず離れずのギリギリ姿を見せない距離を保つので、追い払うのは難しかった。


「ん?」

筈だったのだが。

「なにか来る!」

トマシュが探知魔法で泥棒トカゲの群れが走ってくる事に気付いて叫んだ。

「全員起きろ!」

今までに無い動きにフランツが叫んだ。


「うわっ!恐竜!?」

寝惚けたショーンは泥棒トカゲを見て叫んだ。

「キャアアア!」

「うるせえな!何だこいつ!」

「泥棒トカゲだ!荷物を取られるな!」

デイブが耳を押さえる程の奇声を上げながら、泥棒トカゲの群れは焚き火の周りを一目散に走り抜けて行った。


「何だ………?おい、皆無事か?盗られた物はないか?」

一同は呆然としていたが、フランツの一言で我に帰り。荷物と馬を確認しに動いた。


「馬と荷物は無事です!」

脚の速いエルナが馬と荷物を確認している間、お互いの無事を確認するが。

「大丈夫?怪我した!?」

ニナが踞り、震えているのをトマシュが気付いた。


光石の入ったカンテラを取り出したエルナが戻ると、ニナは泣きじゃくっていた。

急に現れた泥棒トカゲをお化けか何かだと思い泣き出したのだ。


「ん?」

聞き馴れない音にイシスが耳を後ろに向けた。

「何だろ?」

「ヘリか?」

デイブとショーンも音に気付き、デイブには聞き慣れたヘリのローター音に聴こえた。


「まさか、ヘリコプターだなんて」

しかし、音は段々と大きくなり、此方に近付いて来る。

突然、音のする方向が真っ白な光に包まれ、音を出していたそれが姿を出した。


「何だありゃ!?」

「ジャンボジェット!?」

森の上空を滑るように飛ぶソレに度肝を抜かれた。



「アガタ!」

ボッ!と音がし、フランツがアガタを突き飛ばすと、2人が居た場所に大量の水が降り注いだ。


「うわああああ~!」

逃げそびれたデイブが全身ずぶ濡れになり、焚き火も水で消された。


「飛行船って奴?」

地面に寝転んだ状態になったアガタがフランツに聞いたが、フランツは「違う」と否定した。

「ヒンデンブルク号よか小さいし、プロペラもあんなにでかくないし、煙突なんてないぞ」


フランツが見たことがある、ドイツのツェッペリン飛行船と同様に、葉巻型ではあるが。ツェッペリンは船体下部に人が乗るキャビンが在るが、目の前を進む飛行船はキャビンが見当たらず、船体上部に、黒煙と火の粉を撒き散らす煙突が2本見えた。


「飛行船は水素かヘリウムを積むが、あんなに火を焚いたら、ヘリウムを積んでいても危ない」


バタバタと音を立てながら、飛行船は船首を上に向け闇夜に消えていった。


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