城への突入
それを見た瞬間。ゴーレムの鷹は“やってしまった”と後悔した。
投石機で打ち出そうとしている岩を敵の大将の近くに放り投げ、降伏しろと勧告する腹積もりだったのだが。
今、敵の大将と思われる人物は火だるまになり、一面火の海になった城の上部で逃げ場を探していた。
恐らく、肺が焼けて呼吸が止まっているのだろう。
他にも城の上部に居た全員がもがき苦しんでいるが、誰も声を上げれず。1人、また1人と倒れるか、城から飛び降りて行った。
ブレンヌス達の居る荘園からも、爆発音と共に火の海になった城の上部が見えた。
「しまった!」
ブレンヌスはリシャルドが巻き込まれた事を恐れた。
「行くぞ!」
ゴーレムの女と一緒に駆け出したブレンヌスは真っ直ぐ、管理人のホセに向かって行った。
「うわわっ!」
城の惨状に目を奪われていたホセは信じられない速度で走ってきたブレンヌスに抱えられ、声を上げた。
「案内しろ」
「えっ!ぶわ!?」
抱えられた状態のまま林を突っ切ったのだが、ホセの顔面に木の枝がぶつかった。
城の下に到着すると、城から飛び降り、絶命した兵士達の死体が幾つか落ちていた。
「城への入り方を教えろ」
「てか、あんた誰だよ!」
「あ"!?」
何処の誰だか知らないが、散々ひっかき回され、危うく奴隷達に危険が及び掛けたのだ。ホセが怒るのも無理はない。
「魔王の配下だ!リシャルドに用がある!」
「え"!」
どっかの頭の可笑しい魔術師か何かだと思っていたが、男が魔王の配下だと言い出し、ホセは理解が追い付かなかった。
そもそも、何でリシャルドに用があるのか?
「ほら言え!」
「そ、そこのボロい小屋の中にあるトンネルか上から昇降機を降ろして貰わないと入れない」
「小屋か」
ホセの指差した小屋に入ろうと、ブレンヌスが扉に手を掛けた。
「ぅぅうわああああっ!」
突然、叫び声がし。人狼が落ちてきた。
「何だ?」
琴切れた人狼は先に飛び降りた人狼とは違い、火だるまになった訳ではなかった。
「あら、昇降機が傾いたのね」
「何?」
上を見ると、昇降機を吊り上げていたクレーンが燃えた影響で片側のロープが切れ、昇降機が中間地点で宙吊りになっていた。
「アレは?」
「あれは………、荘園と鉱山を任されてた騎士と奴隷業者だ。ざまあみやがれ」
「隊長ー!」
ゴーレムの鷹が降りてきた。
「乗ってください。上は火の海です」
自分がやったことは伏せて、ゴーレムの鷹はブレンヌス達を上へと運ぼうと姿勢を低くした。。
「リシャルドの妻子に頼まれたんだ、そうじゃなきゃ相手にせんわ!」
ホセの首根っこを掴みながら、ブレンヌスは強引に鷹の背中に乗った。
「妻子………。人猫のヤニーナと娘か!無事なのか!?」
ホセはブレンヌスに詰め寄った。
「ああ、無事だ。彼処で待ってもらっている」
指差された崖の上をホセは見たが。
「見えねえ………。ま、良いか。判った、ヤニーナの頼みなら協力するよ」
「あああ、落ちる………」
90度傾いた昇降機で、奴隷業者と身なりの良い人狼は必死に昇降機にしがみついていた。
「離せジジイ!」
奴隷業者が脚を掴んだので、身なりの良い人狼は足で蹴った。
「な、何をするんだ」
「ウルセエ、重いんだ。降りろクソジジイ」
「何やってるのかしら?」
「知らんな」
鷹の背中から様子を見たブレンヌス達は呆れ果てた。
ブレンヌスが振り返りホセを見ると、目線で昇降機を示した後、右手の親指だけを突き出した状態で握った。
親指は水平だが、フラフラと上下に振っていた。
ホセは昇降機とブレンヌスの右手を交互に見ると、同じように右手を握り、親指を下に向けた。
「ロープに近付けろ」
ブレンヌスの命令で鷹はクルリと向きを変え、ブレンヌスは身体の中から、騎士団の追跡者が使っていた剣を一振り取り出し、構えた。
「ふんっ!」
ロープに羽が触れないように、右に90度傾けた鷹の上に立ったまま、ブレンヌスは器用にロープを切った。
「ありゃ……」
無視してくれれば良いや程度に考えていたホセは、悲鳴を上げながら落ちていく騎士と奴隷業者を見て呟いた。
「ま、良いか」
今までの悪行を散々観てきたホセは、どうでも良いことを頭から振り払い、上の城を改めて見据えた。
「彼処!彼処は火が回ってない!」
ホセが投石機が据え置かれた台に火が回っていないことに気付き、声を上げた。
「案内できるか?」
近くで見ると、城の巨大さが判った。端から恥まで300メートルは有りそうな城が、崖側に50メートル以上突き出ていたのだ。
「ああ、任せてくれ」
鷹がゆっくりと投石機の横に着地し、ブレンヌス達は飛び降りた。
「んな!?ホセ!?」
「わりい!」
物陰から出てきた、兵士の右膝をホセが思いっきり蹴った。
「いってえええぇぇ!何しやがる!」
兵士は蹴られた膝を抱え、崩れ落ちた。
「リシャルドを助けんだ。邪魔しないでくれ!」
「馬鹿、だったら左膝を蹴ろ!この野郎!」
「へ?」
兵士が立ち上がり、ホセの胸ぐらを掴んだ。
「えっ、ちょ!何で動けんの!?」
「こっちは普通の脚だ!蹴んなら義足の方を蹴ろ!足止めになってないぞ!」
仲が良い相手なので、適当に動けなくしようと義足を蹴ったつもりだったが、ホセは左右間違えていたのだ。
「あー………。足だけに?」
「ウルセエ!馬鹿!………ったく。持ってけ!リシャルドが閉じ込められてる部屋の鍵だ」
鍵がホセに手渡された。
「俺は逃げるからな!リシャルドの居る区画はイゴール卿の部下しか居ない。後の事は適当にやってくれ!」
「わりい、恩に着る!」
「こっちだ」
仲間の兵士がトンネルの方に逃げたのを見送ると、ホセはブレンヌス達に城の中に入る通路へ案内した。
「コレは………石を積み重ねた訳じゃないな。掘ったのか?」
壁や床は石で出来ているが、目地が一切無かった。
「あー、かれこれ1000年ぐらい前だったっけ?昔の騎士が掘ったとか。………おっと!」
「おい、お前ここで何を…」
通路の角で騎士と鉢合わせした。
仲間から「イゴール卿の部下しか居ない」と聞いていたホセは、躊躇せずに剣を抜き、首筋に一太刀浴びせた。
「何をする!」
しかし、流石は騎士と言うべきか。寸での所で、手甲で逸らされ。剣先が騎士の頬を掠めた。
「げっ!」
「退け!」
今度はブレンヌスに引っ張られ、ホセは勢い良く元来た通路に放り投げられた。
今度はブレンヌスが騎士に斬りかかったが、騎士抜いた剣で受け止められた。
「っ!面白い!」
騎士の反応の良さに、ブレンヌスは歓喜の声を上げ、一太刀、二太刀と剣を振るうが、いずれも剣で止められ、火花が散った。
「コイツはワシが相手する!お前らは他所から向かえ!」
「ハイハイ」
また始まったとゴーレムの女は諦めて、ホセを起こしに向かった。




