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奴隷解放戦線

「良いか、誰が攻め込ん出来たか判らねえ。だから、倉庫から脱出したら計画通りに、トンネルを抜けて領地から出ろ」


倉庫の扉に閂を掛けながら、管理人の男は中に居る奴隷に説明をしていた。


「トンネルを抜けたらそのまま山の裾に沿って下っていけ。仲間が居るはずだ」

「でも、今日(・・)の襲撃は計画にないだろ?FELN(奴隷解放戦線)の仲間と落ち合えるのか?」

「大丈夫だ。アイツらは狼煙を見てくれてる筈だ。………火を着けるぞ!」


部下達が倉庫から十分に距離を置き、油と目隠しの煙を出す為の藁を撒き終えたのを確認し、手で指示を出すと、部下の1人が松明で油に火を着けた。

「幸運を!」


管理人はそう叫ぶと、部下を引き連れ城へと向かった。




「どうすんだよ!」

「今、考えてる!」

門の矢倉の上部では、騎士団の兵士2人が何やら揉めていた。

「何で、解放戦線の仲間じゃないのに狼煙を上げたんだ!」

実は、管理人の部下達とこの2人は“奴隷解放戦線”のメンバーなのだが。


「隊長が“化け物だ!”って叫ぶからつい………」

本来なら、明日。奴隷解放戦線のメンバーが門に襲撃を掛け、どさくさに紛れて、奴隷を全部逃がす計画だったのだ。

しかしながら、2人の位置からは下の騒ぎは判らず、狼煙を上げた後に悠々と荘園に歩いて行く男女を見て、勘違いで狼煙を上げたと思ったのだ。

「ついじゃねえよ、こん馬鹿!」

怒っていた兵士は梯子を降り、城壁の上に降りた。


「俺は“誤報だ”って伝えてくっから、奴隷が此方に来たら追い返してくれ!」

城壁の上から更に、床に設置された扉を通り、城壁内の厩舎に降りた所で、隊長と新入りに出会した。

「あっ!隊長。間違えて、狼煙を上げたんで、城に誤報だと伝えてきます」


てっきり、隊長も誤報だと城に伝えにいくものだと思ったが。

「待て待て、城に行くな!」

隊長は慌てて、兵士の腕を掴んだ。

「えっ!?」

「アイツら化け物だ!もう、3人殺された!」


隊長の鬼気迫る雰囲気に兵士は気圧された。

「3…え!?」

兵士が戸惑っている間も、隊長は馬に鞍を載せていた。

「逃げるぞ!逃げて、イゴール卿にこの事を伝えるんだ!」


どうしたものか。兵士が悩んでいる間にも、隊長は厩舎の扉を開け、馬を2匹、外に引き出した。


「ああ、もう荘園もやられた」

門の前からは丘が邪魔で荘園の建物は見えないが、煙が立ち上るのが見えた。


「嘘だろっ………」

あの男女が何なのか判らないが、逃がす筈の奴隷達が襲われたと兵士は思った。


「おい、急げ!戻ってくる前に逃げるぞ!」

隊長にもう一度逃げるように促され、兵士は仲間を呼びに行った。




「おのれ!鬼畜どもが!」

火の手が上がるのを見て、ブレンヌスは荘園に走り出した。


「火を消せるか?」

「流石に………。いえ、何とかなるわ。1ヶ所だけ先に消すから、貴方は倉庫から奴隷を避難させて」

火魔法は苦手だが、良い方法を思い付いたので、ゴーレムの女はブレンヌスに奴隷の避難を任せた。


倉庫の近くまで来ると、ゴーレムの女は地面に手を着いた。

(程よく乾燥してる………コレなら楽ね)

ゴーレムの女が手を着いた地点を起点に地面が波打ち、砂が舞い上がった。

「息止めて」

「とっくにしとらん」


舞い上がった砂が砂嵐の様に正面の入り口付近を覆い、炎は酸素を失い一気に弱まった。


砂が入り口から離れ周囲の炎を消すために、左右に割れたのを見るや、ブレンヌスは正面の入口の閂を外し開け放った。

「貴様ら、表に出ろ!」


裏口からコッソリと脱出を始めていた奴隷達は、打ち合わせに無かった正面からの闖入者に驚き、一斉に振り返る。

「お、おうっ…」

ブレンヌスの顔を見た奴隷達の異様な熱気に、ブレンヌスはたじろいだ。


「「「わあっー!」」」

一斉に奴隷達はブレンヌスに群がった。

「ぬわあぁ!?」


「どうし………あら」

火を消し終えても誰も出てこないので、ゴーレムの女が中を覗くと、ブレンヌスは人馬や人猫と言った異種族の奴隷の女達にキスされたり、男達に担ぎ上げられたりと、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。


奴隷達は異国民の格好をしたブレンヌスを“奴隷解放戦線”のメンバーと勘違いしてしまったのだ。


「あ、りがとう」

ゴーレムの女の元にも片言ながら感謝の言葉を良いながら、子供達が集まり、抱き付いてきた。

「あらあら」

抱き付いてきた人猫の子供の頭をゴーレムの女は優しく撫でた。




「上手く逃げましたかね?」

城に通じる昇降機とトンネルへと走る管理人と兵士達は奴隷達の身を案じていた。

「信じるしかねえよ」


目隠し代わりに植えられた樫の林を抜けると上から怒鳴り声が聞こえた。

「おい、ホセ!どうなってるんだ!」

声の主は昇降機で上昇中している、指示役の身なりの良い人狼の男だった。

「この役立たずが!奴隷どもが逃げ出したじゃねえか!」


「んな!?」

(どうなってるんだー!)

城から見えないように、裏口から出ろと指示したのに、まだ低い位置に在る昇降機から逃げていることがバレた。

管理人のホセは目を右往左往させ、酷く狼狽した。


城へと目を向けると、出し狭間や、塔の上に据え置かれた投石機と弩弓が荘園を攻撃しようと向きを変えていた。

高所に在る分、遠くに飛ばせるので、荘園にも余裕で投石や矢が届く。


「どうします?」

「………戻るぞ!」


管理人の一言に「あいよ、ボス」と兵士達は答え、荘園の方に戻っていった。


「おい、てめえら!どこ行くんだ!?」


指示役の罵声が聞こえてくるが、誰一人振り返らなかった。




「奴隷解放戦線のメンバーですか!?」

「何ぃ?」

素っ裸の人馬の若者に声を掛けられ、美女に囲まれているブレンヌスは聞き返した。


「ど・れ・い・か・い・ほ・う・せ・ん・せ・ん・の・メンバーですか!?」

「何だそれは!?」

Frente!(フレンテ) Esclavitud(エスクラヴィトゥド)! de Liberación(リベレション)Nacion!(ナション)

「違う。魔王、グナエウス・ユリウス・カエサルの配下の者だ!」

人馬の若者は首をかしげたが。「まあ、誰でも良いや!ありがとう!」とブレンヌスを担ぎ上げた。


「おーい!」


ホセと呼ばれた管理人と部下達が走って戻ってきた。

「兄貴!?」

「ん?」

ブレンヌスを担いでいた、人馬の若者がホセを見てつぶやいた。

(コイツら転生者とか言う奴等か)


「逃げろ!狙われているぞ!」


「間もなく発射できますが、射ちますか?」

城の留守役を勤める騎士に、従士が聞いた。

「火弾を使え」

単眼の望遠鏡で荘園を眺めていた騎士は短くそう言った。

「全く、門番は何やってるんだ?」

側に控えている参謀役の騎士も望遠鏡で門を眺めつつ文句を言った。

「アイツら逃げておるぞ。雑兵め」


金で雇っている兵士達が持ち場から逃げ出すのが彼等には気に食わなかった。



「慎重に行け」

兵士が5人係で椎の実型の石を城内から投石機に運んでいた。

運んでいるのは彼等が言うところの“火弾”。火魔法で火炎と油を撒き散らす様に造られた攻城兵器用の投石だった。


「一旦、置け」


投石機にセットする前に一度、兵士達は地面においたが。


「っ!伏せろ!」

巨大な何かが突っ込んできたので、兵士達は床に伏せた。


「何じゃ、アレは!」

「ロック鳥か?」

騎士達が立つ位置からは、それが良く見えた。巨大化した鷹のゴーレムが投石機の近くを掠め飛んだのだ。


巨大な鷹のゴーレムは一度距離を取ると上昇した。


「はぁあ!?火弾が無ぇ!」

「何!?」

兵士の1人が火弾が消えた事に気付いた時には、巨大な鷹が空中で宙返りをし、火弾を騎士達に向け放り投げた後だった。

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