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ゴーレムの襲撃

過去の戦争でも使われた、高さは10メートルはある城壁の所にまで荘園の騒ぎが聞こえてきた。


「何の騒ぎだ?」

奴隷を囲っている荘園と鉱山に通じる門の矢倉部分で警備している新入りの兵士が内側に振り向きながら呟いた。


「おおかた、騎士の誰かが奴隷を的に弓でも撃ってるんじゃねえか?」

先輩の言った事に新入りの兵士はギョッとした。

「珍しかねえぞ。動く的とか少ないからな。お前もどうだ?戦に出る前に一人ぐらい殺しといた方が気楽だぞ」


からかい半分で先輩から言われ、新入りは耳を垂らした。

「おいおい、あんまり脅かしてやるな」

見かねて隊長が諌めに入った。


「そうは言いますけど、コレからデカイ戦が始まるんすよ。コイツみたいな新兵がいきなり戦場で斬り合いをするのは無理っすよ。せめて奴隷で度胸でも付けなきゃ、直ぐにおっ死んじまいますよ」

先輩の言っている事もまんざら冗談ではない事は新入りは理解していた。


新入りは食うや食わずの生活に嫌気が差し、家を出て、各地を放浪していたが、ある噂を聞き“荒鷲の騎士団”の兵士になったばかりだった。

「ポーレ族が魔王様の召喚を始めた」

先月からヴィルノ族の領地ではその噂で持ちきりだった。

騎士団に志願するか、部族の兵士に志願するかで迷ったが、ヴィルノ族では絶えず近隣の異種族と小競り合いをしているため騎士団の発言力が強く、特に待遇の良い“荒鷲の騎士団”に志願したのだ。


しかし、新入りは人を殺したことなどなく、剣もマトモに握った事がない人生を歩んできたので、実戦で自分がマトモに戦えるか自信がなかった。

そして、奴隷とは言え無抵抗な人を傷つける事に新入りは恐怖を抱いていた。


「ん?誰だありゃ?」


見張りの1人が門に近付いてくる2人組に気付いた。




「で、正面から歩いている訳だけど、どうしたい訳?」

「アイツらのリーダーを潰して奴隷に選ばせるさ」

盗賊を追いかけていた筈が、いつの間にか現地の騎士団の跡取りを助ける事になり。さらに、頼まれてもいない奴隷の為にリーダーを潰すとブレンヌスが決めたことに半分諦めてはいるが、ゴーレムの女はブレンヌス1人にだけ責を負わすつもりはないので、一緒に戦う腹積もりでいた。


「選ばせるって言ってもねえ………」

“どうせ騎士団が血祭りにされて終わりだろうなあ”程度にゴーレムの女は思っていた。




「人狼の男と、人猫の女です」

「見りゃ判るわ」

「イゴール卿が追わせている人猫の女ですかね?」

「いや、あんなに老けて無いだろ」


予定外の通行人に門番達は“何の用事か”と話始めた。


「人狼にしては見たことがない格好っすね」

やや時代遅れな2人組の風貌に1人が気付いた。


「この先は荒鷲の騎士団の領地だ!何の用か!?」

門の前に立っていた兵士が呼び掛けたのが矢倉にも聞こえてきた。


「何処の部族ですかね?」

「さあな?女も人猫の割には見たことねえ格好だし」

銃眼から覗いていた先輩達の位置からは2人を見れないので、新入りは床に開けられた石落としの穴から門を覗き込むために屈んだ。


「奴隷商人の傭兵かなんかだろう」


「あ"っ!」

石落としの穴から、門の様子を窺っていた新入りが叫んだので隊長と先輩兵士が振り向くと、石落としから血飛沫が吹き出ていた。


「お、おい!大丈夫か!」


隊長は新入りを引き起こし、怪我が無いか確かめた。

「どうした!?」

「く、首が……」


「首?」

血飛沫が収まったので、先輩兵士は石落としを覗いた。



「おい、よせ!」

隊長が「危ない」と言おうと口を開けると同時に、先輩兵士は頭から石落としに引きずり込まれて行った。


幅が20センチも無い石落としを無理矢理通ったので、肉が引き裂かれる音と、叫び声が周囲に響き渡った。


「化け物だ!鐘を鳴らせ!」


隊長が指示を出すと、屋上に居た兵士達がレバーを引き、普段使っている門の外側に落とし格子が降り、襲撃を報せる鐘を鳴らす装置が動き出した。



本来なら、人馬やドワーフの襲撃を報せる鐘が100年ぶりに。





「何だ?」

門の鐘に呼応し城の鐘も鳴り響き、火炙りの準備をさせられていた奴隷達と見張っていた人狼の騎士団員達は周りを見渡した。


「おい、中止だ。奴隷どもを倉庫にしまえ!」

門から更に、大軍の襲撃を報せる赤と黄色の狼煙まで上がり、指示役の身なりが良い人狼は部下達に命令を出す。


初めての事態に戸惑いつつも、奴隷達は騎士団員達に棍棒で追い立てられ、倉庫に移動させられた。

奴隷が半分倉庫に入ったところで、指示役が管理人の肩を掴み小声で指示を出した。

「防衛戦で邪魔になる。奴隷をしまいこんだら燃やせ」

「はい!?」


聞き返した管理人の頬を手の甲で3回叩き、指示役は言い直した。

「城壁の中の事を知ってる連中が敵に協力したらどうすんだよ。出入口に油を撒くのを忘れんなよ。火を着けたらお前らも城まで上がってこい」


踵を返し、小走りで奴隷業者の元に向かう指示役の背中を見つつ(あの野郎、また面倒事を押し付けやがって)と、管理人は心の中で文句を言った。


管理人に言わせてみれば、“騎士の連中は普段偉そうな癖に何か有れば逃げ出す”ような連中で、普段からいけ好かなかったが………。


管理人は中堅の兵士に声を掛け、命令を伝えた。

「奴隷を入れたら、正面の入口にだけ閂を掛けて油を撒け」

管理人の意図に気付いた部下の兵士は「斧も渡しますか?」と聴いてきた。

「それも良いな。物分かりが良い奴に渡しとけ」




落とし格子に手を掛け、ゴーレムの女は強引に引っ張り一瞬でバラバラにしてしまった。

「ホント、何も魔術的な仕掛けとか無いのね」

そう言っている間にも門を片手で押し開き、ブレンヌスと中に入っていった。

「カエサリオン様も呆れ果ててたな。“コレなら攻城兵器なぞ要らないかも”とな」


カエ達が居た世界では、門に触れるだけで電流が流れたり、触れた人を炎上させる魔術が施された門が当たり前のように存在していたが、此処の城門は至って普通の城門だった。

「そうねえ。ちょっと拍子抜けよね」


ゴーレムの女が門から手を離すと、ジャラジャラと鎖が鳴る音がし、門が勢い良く閉じた。

門を自動で閉めるための錘で勝手に閉じたのだ。


「ふんっ。錘は使っておるのだな」

そう言い捨てたブレンヌスの耳はピンと立っていた。


上を見上げると、石落としから覗いていた新入りと目があった。

「ひっ、ひぃぃー!」

「まてぇ、小僧!」


ブレンヌスは肩から腕を“もう1本”伸ばし、石落としから離れた新入りの首に巻き付かせた。

「ははぁっ!はあっ!」

「大丈夫か!?」


“自分も先輩みたいに引き裂かれる!”

新入りは恐怖で呼吸をする事も忘れてしまった。


信じられない力で引っ張られ、新入りは引き倒されたまま、石落としまで引き寄せられた。


「小僧」

顔が石落としの上に来たところで、声を掛けられた。

ゆっくりと頭を回し、石落としから下を見ると、男の顔があった。

矢倉の石落としから地面まで5メートル以上は有る筈なのに、直ぐ目の前に。


「イゴール卿は居るか?」

自分が所属する騎士団長の所在を聞いてきた。

「い、居ない」

「っ………居ないかあ。何処に居る?」


正直に答えて良いわけは無いが、恐怖から新入りは正直に答えてしまった。

「ビトゥフの街だ!魔王様が復活されたから騎士団の集まりがあって!」

「ふうむ………」


男が顔を反らし、一瞬だけ首に巻き付いた“何か”の拘束が緩くなったが、再びキツく閉め直された。


「イゴール卿の倅のリシャルドは何処だ?」

首にはそれほどの負荷は掛けられてないが、矢倉の床がメキメキと音を立て始めた。

「し、城の塔だ。一番崖に突き出てる塔の中だ」

「そうか、ありがとうよ」

新入りは礼を言われると突き飛ばされ、身体が宙を浮いた。


「うわっ!」

「怪我は!?」

床に叩きつけられた新入りに隊長が駆け寄った。

「た、助かった………」


矢倉の銃眼から2人組が荘園に向かい歩くのが見えた。

「おい、馬に乗れるか?」

「え!?」

隊長が何を言っているのか理解が出来なかった。


「逃げんだよ。奴らの事を街に報せるためにな。ほら、用意しろ」


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