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辺境の騎士団と奴隷達

象のゴーレムに乗った逃亡奴隷の案内で、イシスが放ったゴーレム達は彼女の主人が捕まっている城へと進んでいた。


寄り道に付き合わされる盗賊達は気の毒だが。


メキメキと音を立て、象のゴーレムが鼻を使い木を押し倒すと視界が開け、目の前に巨大な山脈が広がった。

森を抜けて、谷の上に出たのだ。


「彼処です。あの城がそうです!」

逃亡奴隷は谷の向こう側、標高が4000メートルは在る山の麓を指差した。



「結構大きいわねえ」

地方騎士の館を想像していたゴーレムの女は、山の麓の崖に突き出た石造りの城を見て感嘆の声を上げた。


山脈を越えた先に在るドワーフの領土と人馬の領土に接する辺境の城で、過去に3回人馬の進行に耐えた難攻不落の城として、人狼の間では有名だった。現在はイゴール卿が率いる騎士団が所持しており、主に奴隷を使った鉱山の管理拠点として使われている。


様子を窺おうと、ゴーレムの男は象に登ってきた。

「アレは………採石場か」

逃亡奴隷が指差した城が立つ崖の下に露天掘りの採石場が見えた。

「はい、この辺は固い石が採れるのと聞いています。それと更に下の方には鉱山と荘園も広がっています」


下を覗くと、立派な館と幾つもの倉庫が並んだ荘園が見えた。

「あの倉庫から人が出てくるけど?」

ゴーレムの女が倉庫の1つで様子がおかしいことに気付いた。

「あれは、奴隷の選別です。使えなくなった奴隷をふるい分けているんです」


一方、ゴーレムの男は侵入経路を探そうと城を見ていたが。

「むうぅっ………」

見下ろす形で見ているが城の入口は見当たらなかった。

「どういう造りだ?」


「城の入口は昇降機(リフト)とトンネルです」

「昇降機だぁ?」

「ブレンヌス、アレ!」


ゴーレムの女に名前を呼ばれ、ゴーレムの男は嫌そうに「何だ?」と答えた。

「彼処、奴隷が」


ゴーレムの女が指差す先で奴隷が立たされていた。

「奴ら何をしている?」

「さっきから、奴隷を何人か選んでるわ」


逃亡奴隷は小さい声で「棄てられるんです」と言った。

「採石場や荘園で働けなくなった奴隷は谷底に突き落とされるんです」


「気に食わんな………」

ブレンヌスはそう言うと、象から降りた。


「奴らを潰すぞ」

「え!?」

谷底に降りていくブレンヌスをゴーレムの女が追う。

「ちょっと、イシス様に黙って…」

「あんな所業はカエサリオン様は望まれておらん。報いを受けてもらう」


完全に独断専行なのだが、こうなっては止められない事をゴーレムの女は重々判っていた。

「奴隷とは言え、人を物の様に扱いおって……。奴隷どももだ!誇りまで傷つけられておいて何故立ち上がらん!」

ゴーレムの女の方を見ずに、ブレンヌスは叫んだ。

「………どうなっても知らないわよ」




「コイツは駄目だ」

一人づつ奴隷を診ていた人狼の老人は、人熊(じんゆう)の奴隷が顔色が悪かったのでそう言い放った。


「おら、こっち来い」

他の人狼に腕を捕まれ、強引に引っ張られた人熊の奴隷は声も上げずに、奴隷の集団の外へ出された。


「コイツもだ、肺をやられてる。後、コイツも」

人狼の奴隷と人間の奴隷も同じく外に出された。


「何匹ダメになった?」

気だるそうに柵に寄りかかり、天を仰いでいた身なりの良い人狼は人狼の老人に尋ねた。

「10匹。殆ど肺だ」

「10匹か………」


身なりが良い人狼は奴隷の状態を頭の中で反芻した。

4週間前に入荷した奴隷は5匹、2週間前は7匹。

先月は鉱山で崩落が起き、11匹死んでいる。入荷12匹に対して使えなくなった奴隷が21匹。バカでも人手が不足しているのは判る。


「今週は30匹買いたいが用意できるか?」

「30ですか?」

柵を挟んむ形で選別作業(・・・・)を見ていた奴隷商人は表情こそ変えなかったが、無茶な依頼に辟易としていた。


「30匹となると、ガキも買い取って貰わねば」

「ガキ?」

大人しか買っていなかったが、子供も居ると聞き、身なりが良い人狼は思わず聞き返した。


「ええ、大っぴらに奴隷狩りは出来ないので、娼館に出せない、とう(・・)が立った奴隷に子供を産ませてるんですよ。人馬や人間は1回で1匹しか産みませんが、人猫や人狼なら直ぐに増えるんで」

20年前から、チェスワフ部族長がヴィルノ族の領地で奴隷狩りを止めさせていたが、奴隷業者は法の闇を掻い潜り、隣のポーレ族の領地やクヴィル族の領地で誘拐や奴隷狩りをしていた。

最初のうちは、家出人や捨て子、孤児等を誘拐するか、人間の奴隷業者と協力して東の人猫を狩ってやりくりしていたが、人間との戦争後は人猫が手に入らなくて苦労していたのだ。


苦肉の策で奴隷に子供を産ませた子供を売るつもりではいるが、まだ幼く売ったことはなかった。


「あの位か?」

身なりが良い人狼が指差したのは、16歳程の人間の子供。

「いえ、10歳ぐらいですけど」

「何人居る?居るだけ欲しい」

「100は居ますが………。ガキですよ」

予想外に食い付きが良いので、奴隷業者は聞き返した。


「判ってねえな、ちっこいガキだぞ。鉱山で小さい坑道を潜り込むのに都合が良いだろ。本当はドワーフやゴブリンが良いんだが、持ってねえだろ?」


突然、奴隷達と身なりが良い人狼の部下達が小競り合いを始めた。

「おいおいおい、何だ何だ?」


見ると、人猫の男の子が剣を持った管理人相手に飛び掛かっていた。

「離せ、この」


流石にいきなり切り殺す訳にはいかず、管理人は棍棒で殴っていた。


「早く引き離せ、何やってんだ」

「このガキがいきなり襲い掛かってきたんだ」

人間の男の子が連れていかれそうになったので、人猫の男の子が助けようとしたのだ。

流石に子供が他の子供を助けようとした様子に他の奴隷達も抵抗しだした。


「物の道理を教えてやれ」

身なりの良い人狼が命じると、側に控えていた魔術師が冷気を奴隷に浴びせる。


「躾がなってないな。おい、どうなってる」

冷気を浴びせられた奴隷が下がるのを見つつ、身なりの良い人狼は部下を叱責した。

「あのガキは何かと反抗的なんですよ」


冷気を浴び、頭髪が凍結しだしても、人猫の子供は人間の子供の手を握ったまま離れようとはしなかった。

「何時もああです。アイツはガキどもを庇うんですよ」

「フム………」


身なりの良い人狼は辺りを見渡し、奴隷の寝床に使っている倉庫の脇に、ふるい藁が投げ捨てられているのに気付いた。

「気が変わった。あのガキも殺せ。火炙りでな」


あかん。


ドワーフの忍者と空中船を出すタイミングを逃してしまった。

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