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転移門

「どうぞ」

姉が行方不明になった兄弟から、コーヒーと比べると比較的安価だが珍しい紅茶を出してもらった。


「ありがとうございます」

トマシュは出された紅茶を一口飲んだが、フランツは腕を組んだまま兄弟から視線を逸らさなかった。


「何で俺の前世を知っている?君達の姉とは面識は無い筈だが?」

フランツはそう言ったが、フランツから見て右側の弟は首を横に振りながら「いえ、面識は有りますよ」と言った。

「姉の話だと、86年にヌーロークで助けてもらったと」

「………86年?」

「ええ、2月に倉庫で」


フランツは前世の記憶を呼び起こす。

86年2月………。警部だったフランツは殺人事件の捜査で部下達とブルックリンに在る倉庫に踏み込んだ記憶はあるが………。


「人違いじゃないか?」

フランツは2月17日。件の倉庫に踏み込んだ後、犯人に銃で撃たれ殉職していた。


左側の弟が「いえ、勘違いでは無いですよ」と続けた。

「姉は何時も“あの事件の後に死んじゃったけど、フランツ・バーグ警部に助けてもらった”と」

「女の子を狙った連続殺人事件です」


「確かに連続殺人事件の捜査で倉庫に行ったことはあるが、記憶にない。他の誰かと勘違いしているんだろう」


「それはないと思いますよ」

「姉は今日、貴方達が来ることを教えてくれましたし」

「………何?」


1卵性の双子なのか、弟達は交互に話を続けた。

「遺跡から前世の世界に戻る直前ですよ」

「橋を渡っている最中です」

「“フランツ・バーグ警部が少年と訪ねて来るから”」

「“遺跡まで来るように伝えといて”」

「姉はそう言ってました」

「少年の両親も前世の世界に居ると」


「………え?」

突拍子も無い話に、トマシュは驚いた。

両親が異世界に?父親のヤンは死んだし、母親のニナは記憶を失っているが、ついさっきまで一緒に居た。



「君の父親が異世界との門を開いたんだ」

「だけど門自体が古くてその時は失敗したみたいなんだ」

「本当は向こうに行っている間は身体は保存されるんだけど」

「そうならなかったから、君の両親は戻って来れないんだ


トマシュの目が左右に泳いだ。


「どういう事だ?」

「選べるんですよ」

「元の世界に戻るタイミングを」

「その時に、貴方達がこの家に来るイメージが見えたと」

「少年の両親のイメージも有ったと」

「ヌーロークで人間の姿で住んでいるそうです」

「コレが姉が残した住所です」


羊皮紙の切れ端を右側の弟が懐から出した。

「コレ………。俺の家と同じ通りじゃないか」


よりにもよって、ブルックリンに在るフランツが住んでいた家のご近所だった。


「姉は向こうで待っています」

「君の両親とこっちに戻ってくるつもりで」

「それと他の11人の転生者も待ってますよ」

「おい、ちょっとまて。その話が本当なら。何で転生者じゃないヤンとニナは俺の居た世界に?」


弟達はまるで鏡に写したように、同じタイミングで足を組んだ。


「ご存知無いので?」

「5年前、貴方も遺跡に居らしたでしょう?」


確かに居たが………。


「誘拐事件の調査で立ち寄ったら、たまたま出会しただけだ。そっちは無事に解決したんだが………」


結局、誘拐ではなく商人の娘が、風来坊の男と駆け落ちしただけで。娘さんを送り届けて終わるはずだったが。娘さんを保護した直後に“ニナとヤンが倒れた!”とニナ達と一緒に居たアガタが知らせてくれた。

その後は、ショーンとデイブに現場を任せて、ファレスキのニナの父親の家に報せに行った。


「貴方を撃ち殺した男も転生者してたんですよ」

「何!?」

「その転生者が元の世界に戻ったのを見て、行き先が異世界とは知らずに慌てて追いかけたそうで」

「他にも、行方不明の11人以外にも元の世界に戻った人が居るかもしれないとか」





「南の方で住民が転移する事件が頻発しているが、何か知らないか?」

カエが一連の転移事件をヨルムンガンドに問い詰めたが、何の事か判らないのか、パンケーキがフォークに刺したまま間の抜けた表情でヨルムンガンドは固まった。


「何それ?」

「知らんのか?」

「うん。ヴィルマは聞いてる?」

「私は何も」


しれっと、ミハウ部族長の家のメイドをしていたヴィルマがヨルムンガンドの脇で給仕をしていた。

実は、エルノ誘拐事件以降。ヨルムンガンドから“地下から出るな”と、留め置かれていたのだが、ミハウ部族長の家では誰も気付いていないのだ。


(この女、普段から正体をボカしていたな)

ヴィルマが普段から人の記憶をボカして半分空気の様に仕事をしていた事をカエは感付いていた。

(大方、人狼の情報収集だろうが、油断ならん)

情報があらぬ所から漏れ、ロキ等に伝わるのではと、カエは危惧していた。


「ヴィルマが知らないんじゃなあ。南の何処?」

「大森林と呼ばれていたな。現在、ヴィルノ族の転生者が中心になって入植している」

「大森林………」


ヨルムンガンドは異世界のニュースを見るためにテーブルに立てていたタブレットを左手で操作し、この世界の地図を画面上に表示した。


「んー?………うん!?」

右手で飲んでいたココアを噴き出しそうになった。


「え?何で?」

「どうしたの?」

カップを置くと、タブレットを持ち上げ、両手で捜査を始めた。


「開いてる」

「何が?」

ヨルムンガンドは側に控えていた妖精のメイドさんに画面を見せ、指示を出し。指示を受けた妖精のメイドさんは大急ぎで部屋から出ていった。


「とりあえず、大丈夫。直ぐに止めるよ!」

「いや、何をだよ」

「あー、その。異世界との門だよ、遺跡に異世界との転移門を設置してたんだけど、誰か開けたみたいで………。まあ、大丈夫。心配しないで。向こうに行っている人も全員元に戻すから」


「まあ、君がそう言うんなら問題はないんだろう」

そう言い残し、カエは転移で帰ってしまった。


「どうしたのですか?」

青白い顔になったヨルムンガンドを心配してヴィルマが声を掛けた。

「………転生者が何人も元居た世界とこの世界を行き来してるんだよ。どうしよう。あそこって管理している天使とか居ないじゃん」





一度ミハウ部族長の家に転移してから、カエはイシス達が待っている宿に転移してきた。

「どうだった?」

出迎えたイシスに「把握してなかったな」とぼやく。


「全員いるか?」

「ニナ達は隣だが」

カエが確認するとニナとエルナは別室に居たが、2人に聞かせる話でもないので構わず続けた。


「あの2人は良いだろう。ヨルムンガンドに確認して来たが、異世界同士を結ぶ門が在るのは間違いないが、開いてる事は知らなかったようだ。直ぐに閉じる措置を取るとは言っているが、恐らく時間は掛かるだろう」


フランツが手を上げた。

「門が閉じられるとなると、向こうに行っている人はどうなりますか?」

「こっちに連れ戻すつもりのようだ。だから、ヨルムンガンドの妖精達が門を閉める前に行方不明者を救出する必要は無いが………。その前に現地に入って欲しい」


「え、何で?」

トマシュが不思議そうに質問した。


「異世界への転移門が先月から暴走した原因を知りたいんだ。ヨルムンガンドは中立の立場だから、原因を教えてくれないかもしれないからな。後、可能なら異世界を結ぶ転移門の仕組みを知りたいんだ」


フランツが掲示板に貼っている地図の前に立って、説明を始めた。

「我々が遺跡に向かうとなると、早くても2日は掛かります。途中、湿地も在りまして、天候次第だと足止めされるかもしれません」

「まあ、門が閉じた後に着いても構わんさ」


カエはそう言ったが、本音では異世界同士を結ぶ転移門の仕組みを知りたがっているのをトマシュは感じていた。

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