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ポルツァーノ兄弟

「なあ、フランツだけどさ」

「ん~?」

「何かポルツァーノ兄弟を避けてねえか?」


フランツ達と離れ、商店の建設が進む村の中心に差し掛かった所で、デイブがきりだした。

「まあ、何かおかしいっちゃ、おかしいよね?でもさ、何かどっかで聞き覚えが有るんだよね。ルイージ・ポルツァーノとマリオ・ポルツァーノ………どこで聞いたんだっけかな?なあ、デイブは覚えはないか?」

「あー確かにどっかで………何処だ?」


途中、道の脇に穴を堀り工事している現場が在ったので、2人は一列になり、通り抜けた。


「この村に居ることも喋るなとか。あんまり余計なことは言うなとか。なあ、もしかしてフランツって、イタリア人が苦手とか?」

「いや、無いんじゃないか?101時代はイタリア系の仲間も居たし。軍に残ってたからデイブも面識有るんじゃないか?グエラって奴」

フランツとショーンは第2次大戦中に101空挺師団に所属していたが、デイブは20年以上後のベトナム戦争時に101空挺師団に所属していたので、前世での接点はないのだ。

「あー、何か居たなそんな名前の少佐。ハーバー大佐と何時も一緒に居たな」

ショーンが「ぷはっ!」と吹き出した。


「何だよ」

デイブはもらい笑いをした。


「いや、ははっ。あのロンが大佐とか想像つかなくってさ」

ショーンは笑うのを我慢するのに必死だった。

「よく議員になれたと思うよ。まあ俺らと一緒に軍に居た時はまだ20の子供だったから、軍に残っていた間に何かあったのかも知れないけど」

ショーンが「ヒヒヒ」と引き笑いまでして笑いをこらえようとした。


「おいおい、笑いすぎだぞ。………っと、あー着いた着いた」

危うく通りすぎそうになったが。2人は目的のポルツァーノ兄弟が住む家に着いた。

「てか、デカいな」

………どちらかと言うと屋敷だった。

「確かに………冒険者にしては羽振りが良いね」

何処か怪しいが2人は門を開け、ドアをノックした。





「あー、ここだな」

フランツ達は庭の外から真新しい家を見ていた。

「変わったデザインですね」

道路側に芝生の生えた庭がある、アメリカンスタイルの一軒家にトマシュは感想を漏らした。

「まあ、俺達の前世でよくみるタイプの家だなぁ」


フランツはチラリと横目で道路を見ると、なんと下水道の工事をしていた。

(チェスワフの爺。ここに転生者村どころか、都市でも作る気か?宿には蛇口まで有ったぞ)

貯水槽付きの建物まで散見でき、まるで前世の町並みの再現をしているのかとフランツは怪しんだ。


「兎に角入りましょう」

トマシュが木製の門に手を掛けた時だった。


「ワンワンワンッワンッ!」

犬が家の陰から飛び出てきた。

「うわあっ!」

ビックリしたトマシュがフランツに抱き付いた。


犬は縄で繋がれていたようで、門の手前で縄が延びきり、犬は門の手前で吠えまくっていた。


「おいおい、落ち着けトマシュ」

耳を垂らし、尻尾を股に巻くほど怯えたトマシュにフランツは話し掛けたが、フランツの尻尾はビックリした時にパンパンに膨らんだままだった。


「おい、フランツ(・・・・)駄目じゃないか」

「ん?」


飼い主の人狼の若い男が出てきた。

「フランツを奥に入れてくれ」

犬の名前“も”フランツだったようだ。

「………待った、あの人」


恐らく、例の兄弟なのだろう。もう1人若い男が出て来て、フランツとトマシュに気付いた。

「本当に来たな」

「ああ」


後から出てきた男が、一度、犬を裏に連れて行き。もう1人がフランツ達に歩み寄ってきた。


「フランツ・バーグ警部ですよね?ヌーローク市警の」

「なっ!?」

“面識が無く、転生者でも無いのに、何故知っている?”

フランツは何時でも銃を抜けるように、身構えた。


「ニューヨーク市警のフランツ・バーグ警部だ。何故俺の前世を知っている?」

フランツの返事に男は声を出して笑い、犬を繋ぎ戻ってきた兄弟に振り返えると。「やっぱりバーグ警部だ。ジュリアの言ってた通りだ」と言った。


「ジュリアから貴方が来ると聞いていたんです」

「何?」


男は門を開けると。「立ち話はなんです。どうぞ入って下さい」と、二人を家に招いた。





カプチーノを飲もうと持ち上げたカップを小刻みにソーサーにぶつけ、“カタカタ”と鳴らしながらもショーンは何とか一口飲めた。

この世界では高級品のコーヒーを飲んだのに、恐怖で味なんか判らなかった。


一方のデイブは血の気の引いた顔で硬直していた。


「バーグ警部とは前世で世話になったよ」

2人とは対照的に椅子に深々と座り、リラックスした様子で話をしている伊達男はポルツァーノ兄弟の兄、ルイージ。


「君たちがバーグ警部の遣いで来てくれたのは嬉しいよ」

壁に寄っ掛かった、やせ形の神経質そうな男のマリオだ。

「彼は良い警官だったよ。公正でな」


他にも黒服でビッシリと決めた男が5人微動だにせず、壁や扉を背に立っていた。


ルイージはどこか遠くを見ながら話を続けた。

「彼は私とマリオの友人でね。お陰で一家は日陰から出れたからね」


ショーンとデイブは心の中で、フランツに文句を言いまくっていた。

“ポルツァーノ兄弟ってニューヨークマフィアのポルツァーノ一家のドンじゃないか!”と。

すっかり忘れていた。50年代のニューヨーク・マフィア抗争でポルツァーノ一家は新聞やラジオニュースを賑わせていた。


「それで、転移事件の件かな?」

「はっ、はぁい。そうです」

除隊後は居留地の町医者だったショーンは思わず言葉を上擦らせた。


「ルイージさんとマリオさんが遺跡から転移した時の詳細を知りたくてですね」

ルイージは「う~ん…」と唸り、座り直した。


「私達は前世に未練が無いからね」

「未練…ですか?」

ルイージは静かに首を縦に振ると、マリオが話を続けた。


「前世に未練が有る者は、前世に戻ることができるんだ。そこで未練を絶ちきると、この世界に戻ってこれるんだ」


「戻れる!?」

「前世の世界に」

思わず、ショーンとデイブは顔を見合わせた。


「ちょっと待ってください、戻れると言っても。……あー、その。この身体じゃ未練を絶ちきる以前の問題では。私何か、今は人狼です。人間じゃない。それに私は前世は黒人です。家族や知り合いと接触なんか出来ないですよ」

デイブの言うとおり、見た目も全く違うが。そもそも人狼なんて居ない世界なのだ。普通に警察に不審者として捕まるのが目に見えていた。


「その心配はない。前世の死ぬ前に戻れるからな」

ルイージの一言に、ショーンが「マジかよ」と呟く。


「フランツに教えてやってくれんか?86年に戻ってみないかと?」

「………何故です?」


ルイージが何を言っているのか、2人は判らなかった。


「まあ、彼なら判る」

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