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捜査会議

いつも通り、宿で2部屋を借りて、女部屋と男部屋に別れた。

そして今は、男部屋の方でフランツはトマシュ、ショーン、デイブの4人で情報の精査をしていた。


「村の東5キロ、街道沿い。………赤色。行き先は………、この村だ」

「赤色………」

調書を読み上げるフランツの指示で、トマシュは掲示板に貼られた地図に赤いピンを2本。転移元と転移先の2ヶ所に刺した。

刺したピンはデイブとショーンが判りやすいように、タグが付いた同じ色の紐で結んでいく。


「最後が………あー。遺跡で、黄色」

トマシュは7本目の行き先不明の黄色のピンをどうにか遺跡に打ち込んだ。


「ありゃま」

ピンの多さに、フランツは“どうしたもんかと”髪を掻き上げた。


刺されたピンは、自らが望んで転移した赤色が212本。他人が望んで転移した青色が148本。原因不明の緑が36本。行方不明になった黄色が7本。


「ようやく終わったけどさ」

「これ邪魔じゃないか?」

ショーンとデイブがそう言うのも無理はない。

転移元のピンと転移先のピンを結んだ紐で、地図の大半が隠れてしまった。


「改めて見ると多いですね………」

「まあ、だが。法則は有るな」


フランツはフリーハンドだが、持っていた鉛筆で遺跡から大体半径5キロの円を描いた。

「遺跡から3マイルを境に原因不明が極端に増えてるし」

次は大体半径80キロの円を描いた。

「転移事件が起きているのは半径50マイルの範囲内だ」


ショーンが苦虫を噛んだような顔をした。

「これ、遺跡に入れないでしょ」

フランツは右手で鉛筆を回しながら眉間にシワをよせる。

「そうなんだよな。こりゃ厳しいだろうな」


ドアが開き、隣の部屋からイシスとアガタがお盆に乗った軽食と紅茶が入ったポットを持って入ってきた。


「なんか判った?」

アガタは男部屋に備え付けてあったカップをソーサーに並べながら何時もの調子で質問した。


「ああ、取り敢えず状況毎に色分けしつつ、発生場所にピンを刺してみたんだが。原因と思しき物は判った」

フランツが指差した先を見て、アガタは「あ~…マジ?」と言葉を漏らす。


「マジだ。全部、遺跡から半径50マイル以内で発生しているし、半径3マイル以内だと理由も無しに転移してる事件もある、それに行方不明者が12名出てる」

アガタはフランツに紅茶が入ったカップを渡すと、腕を組んで地図を眺めた。


「いやいや、コレはどうしたもんかね」

「ああ、遺跡に原因が有るんじゃニナを連れていけないし」


アガタもフランツ達に混じり、地図を眺めて話し合いを始めたが。

「この黄色のピンは?」

後ろで見ていたイシスが黄色のピンが一ヶ所にだけ固まっているのに気付いた。

「行方不明になった事件だよ?ほら、コレ」


トマシュがイシスに黄色に割り当てられた“行方不明者”の調書を渡した。


「詳細はまだ読んでないんだけど。行方不明になった事件は7件。被害者は12名で、みんな遺跡に入ろうとしたみたいなんだ」


1枚ずつイシスは目を通した。


・神殿入り口に通じる橋を渡りきると同時に消失

・神殿入り口に通じる橋を渡り消失。渡っている途中、孫の声が聞こえると証言

・橋の途中で「母さん」と叫び走りだし、橋を渡りきると同時に消失



「この黄色の集まりは行方不明なんだが、コレの調書からまず手を付けて詳細を照らし合わせよう」

フランツが指示を出している後ろで………。


「行方が判らない人達、みんな橋を渡ってる」

「何?」

イシスが調書の一部を指差しながらフランツ達に見せた。


「ほら、渡りきったらみんな消えてる。後、橋の真ん中から様子がおかしい人が出てるし、途中で引き返せば何か判るかも。それにこの人“孫の声が聞こえる”って書いてあるけど、年齢は18歳。という事は転生者だよね?」

トマシュは“もしかして、遺跡で起きた別の事件も?”と思い、遺跡に刺された緑色のピン。“原因不明”の調書から遺跡で起きた事件を探した。


「この人達も橋を渡っているけど、全員ビトゥフの街に飛んでる」

「どれだ?」

フランツが見ると、5人組の冒険者。関所でチェスワフ部族長が言ってた冒険者の事件だった。


「本当だ、………他には無いか?」

ショーンとデイブも手伝い、他の“原因不明”35件の調書から遺跡で起きたものを手分けして探した。


「あったよ、冒険者3人がこの村に転移してる」

「こっちもだ、宿屋の“セーヌ川”に冒険者6人組が転移してる」

「!コレ!コレなんか、行方不明の事件と同時に起きてる。3人の内1人が行方不明、2人がこの村に転移してる」


トマシュは見つけた調書をフランツ達に見え易いように向きを変えてテーブルに置き、イシスが読んでた調書をまた探し始めた。

「コレ、この人」


トマシュが見付けた行方不明と原因不明の調書を全員で見比べる。


「この3人は知ってる。姉弟で冒険者をしてて、行方不明の姉が確かに転生者。弟2人は転生者じゃない」

アガタと面識があった。

「もしかして、転生者だけ行方不明になる………」

フランツは額の左側を掻きながら考えを纏めていたが。


「あー、待った。この原因不明の事件なんだけど。被害にあった冒険者、転生者だったよ」

ショーンが別の調書から違うパターンの事件を見付けた。

「ああ、こいつか。元イタリア人のポルツァーノ兄弟だ。フランツ、ほら。女の為に騎士と決闘した」

どうやら、冒険者の間では有名な冒険者のようで、フランツも「なんだ、アイツらかよ」と呆れた顔をした。


「この2人の場合は橋を渡りきってこの村に戻って来たけど、それぞれ別の場所に転移してる」

「何処だ?」

フランツの質問に、ショーンが調書を読み上げる。

「兄貴のルイージは奥さんが寝てた寝室。弟のマリオは………“夕陽楼”?とか言う場所だな」


いよいよ判らなくなり、フランツはため息を吐いた。

「んー?転生者だと無条件で行方不明になるとかじゃないのか?」


「ねえ、行方不明者の元の国籍は?取り敢えず、この姉弟の姉はメキシコ人だったよ」

アガタの一言で、フランツ達は記憶を探るが。


「いやあ、判んないな………」

「他の奴と面識無いな」


行方不明者の殆どは、ヴィルノ族の領地で活動してたので、フランツ達と接点があまり無いのだ。

「この人達、この村に戻って来てますし、今もこの村に居るんじゃないですか?」


2つの事件の被害者は都合が良いことにこの村に住んでいた。

「あー、確かにな。よし、ショーンはデイブとポルツァーノ兄弟の所に行ってくれ俺はトマシュと姉が消えた弟達の所に聴き込みに行ってくる。アガタとイシスはニナ達と宿に居てくれ。17時には全員で宿に集合だ」


操作の方針が決まり、聴き込みに行く4人は聞き込み先の居場所と名前などをメモに取ってから宿を後にした。

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