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部族会議での方針発表


まあ、結論から言うと。部族長の中でヤツェク長老を擁護してたのはヴィルノ族部族長のチェスワフだけだった。

17部族居る内、1部族がポーレ族に対して好意的、敵対的なのが髭面のミハウ部族長が率いるクヴィル族を含め6部族、中立的なのが残りの10部族。あまり良い状況ではなかった。


一通りの紹介が終わって各部族長の意見陳述が始まったが、早速ミハウからポーレ族に関する意見が出た。

「ポーレ族の避難民によりこのケシェフの街の治安は悪化の一途を辿っており、スラムの不衛生な環境のせいもあり商業に多大な影響が出ている。6万人分の食糧については引き続き支援をするで、魔王様には素早く失地回復に勤めて頂きたいとお願い申し上げます!」

「恥を知れー!」

「何が支援だ!言い値で食糧を売り付けている癖に!」

「治安維持にポーレ族の兵士を使っているだろうが!」


『うお、ヴィルノ族の議席から激しいヤジが飛び出したよ』

『当のポーレ族は………おとなしいなお前ら、何か言い返しなさいよ』

黙り込んで項垂れるポーレ族の面々に魔王と姉妹は半ば呆れていた。


「静かに!今回の民会は意見陳述だけで下品なヤジは控えてもらおう」

議長の一言で多少は静かになったが、ヴィルノ族とクヴィル族の双方から相手を卑下する話し声だけは止まなかった。



後は、やれ北西から攻めてくる人間と戦ってくれとか、やれ人間に災いを起こしてくれとか、やれ人馬等異種族を制圧してくれとか、自分たちの部族の身の回りで起きている問題ばかりだった。

『正直、眠い…』

魔王はさっきから欠伸を噛み殺して必死に我慢していた。

『そういえば、魔王って何するのかな?』


そもそも、魔王と姉妹たちは数合わせで呼ばれただけなので、魔王が何なのか今一把握していなかった。


『アレクサンドロス大王やハンニバル・バルカ、スキピオ・アフリカヌスそして私の父の様に遠征でもするのか?』

『キケロの様に議会で熱弁を奮う?グラッスス兄弟やガイウス・マリウスの様に民衆プレブスの味方になる?コルネリウス・スッラの様に大粛清を行う?』

ざっくりと人間と戦って最後まで生き残るという勝利条件しか聞いていないから何をしたら良いか判らず、3人とも黙り込んだ。


「最後にポーレ部族長のマリウシュの意見陳述になります」

マリウシュが起立し、意見陳述の原稿だろうか。羊皮紙を懐から出して読み上げ始めた。

『って、うおい!?エミリア尻尾を振りまわすな。私の尻尾をバシバシ叩いてるぞ』


「私達ポーレ族は失われた土地の回復を望みますが、願わくば人間や他の妖精や亜人種族との共存共栄を望みます」

議場がざわめき出した。

「私の両親や兄弟は先の戦で戦死しましたが、彼らの願いでも有った共栄の道こそが残されたポーレ族の願いでも有ります」

マリウシュが発言を終えた瞬間、ポーレ、ヴィルノ族を除く議員が半数程立ち上がり、一斉にマリウシュを批判する罵詈雑言を含むヤジが一瞬だけ飛び交った。

最初に異変に気付いたのは議長だった。ヤジを治める為に立ち上がり自身も発言した議長だったが、自身の声だけでもなく、議員達のヤジ。更には勢い良く立ち上がった際に倒した筈の椅子が倒れる音さえ聞こえなかった。

続いて、ヤジを飛ばしている議員達も気付き辺りを見渡しだした。


「私が彼に聞きたい事があるので、君達の出す音は全て消さして貰ったよ」

本来なら忍び込んだりするときに音を消す風魔法を応用して、魔王はマリウシュと自分以外の人は音は出せないが音が聞こえる状態にした。

「さて、君の部族は他の種族との共存共栄を望む様だが何故だね?」

マリウシュが軽く深呼吸をしてから質問に答えた。

「私達の部族が治めていた地域には大河が流れており、地域の中心はファレスキと呼ばれる港町で、古くから交易で栄えていました」


マリウシュが議場の壁に描かれた地図を指差してファレスキの街が何処に在るか示した。

今居るケシェフの街から北の山脈を越えると大河が有り、大河に沿って北西に向かうと海に出てファレスキはそこの三角洲に存在する港町だった。

「その為、他の亜人種族はもとより、北方の人間とも交流が有り彼等が只の野蛮人ではなく、友人に足り得る存在と認識しています」

『人間………ねぇ』

魔王達は“人間”を見たことがないので、イメージがつかなかった。


「では次の質問だが。私は残念な事に“人間”という存在を見たことが無いのだが、どの様な存在なのかね?」

「人間と私達の違いは尻尾の有無です。彼等は尻尾を持たず、更には耳に毛は生えていなく、変わった形をしており悪魔種族の様に側頭部についています。社会制度は王制の国が多く、全ての国が同じ神様を信じています」

『ユリア様やロキみたいな見た目かな?』

特徴から、神様に似た連中だと3人は感じ取った。


「その交流が有った人間に攻められた訳だが、なぜ攻めてきたかわかるかね?」

「人間の神官より神託が下され、開戦することになったと、人間の商人達から聞かされました。しかし、彼等の全てが神託を盲信している訳ではなく、実際に攻めて来たのは交流が殆ど無い王国でした。そして、交流が有った王国が仲裁を申し出て来ましたが、結局戦になりました」

『神託か、この世界のルールで魔王役が治めている地域を荒らす様にしているのかな?』


………………、マリウシュが言っていることは何処までが真実か。魔王の実体験からすると、指導者が子供だと、実の親を含む周りの大人は都合の良い風に事実をねじ曲げ、若い指導者を騙す事が多々ある。



魔王はミハウ部族長だけ無音化の魔法を解いてから、わざとらしく左手を挙げ、魔法が解けた事を大袈裟にアピールした。

「ミハウ部族長、貴方はマリウシュ部族長の人間に対する認識をどう考えている?」

「………マリウシュ部族長の言うとおり、全ての人間が神託を信じているわけではございません。神託を受ける神殿が世俗的で人間達からの信望が昔ほど篤い訳では無いのです。その為、開戦するまでの一月程前に人間から情報がもたらされ、開戦回避の為の交渉が行われたのも事実です。しかしながら、彼等の中には非常に狡猾で支配欲が強い王国も有り、神託を利用して私達の土地を奪っているのが現状です」

他の議員の無音化も解除し、次はチェスワフに意見を求める。


「チェスワフ部族長、交渉が決裂するに至った経緯を教えてくれるかね?」

「はい、交渉が始まり二週間経った早朝に、人間の神聖王国の兵が突如、ファレスキに攻め込んで来ました。攻撃に気付き、仲介者のマルキ王国の外交官と神聖王国から交渉に来ていた神官と外交官を捜しましたが既に逃げた後で、代わりに街の城塞の武器庫、街中を流れる大河に掛かる橋そして城門に転位門の魔方陣が用意されており、そこから神聖王国の兵士が侵入し陥落しました。この騒動で前部族長、マリウシュの父親と母親、そして兄弟が帰らぬ者となりました」

『転位門を使って城内に侵入して明け方に武器庫や要所を抑えられたか』

『面倒な事をするわね』

『まあ、ポーレ族の失地回復を計るのも(やぶさか)では無いね』


他の部族長の意見陳述で有った、人間と戦ってくれやらと条件は合うし。ケンタウロスでは無いが奴隷を確保出来れば経済も回る、何よりも人間が攻めてくる前に打って出れば戦争の主導権を握れる。

魔王からすれば良いことづくめだった。


魔王は部族長に指示を出す為に、徐に立ち上がる。

「今後の方針としては、夏を目処にポーレ族の領地に攻めいった人間の討伐を目標とする」

議員達からどよめきが起きた。


何故夏なのか?

夏は麦の収穫時期で、保存食にする野菜類の栽培時期が重なる農繁期であり、半農半兵が基本の兵士は動員できず、騎士階級だけで戦うのか?

それとも魔王だけで戦うのか?


「そして要望だが、10日以内に各部族から私に、どの様な物資がどれだけの量供出でき、戦争に動員可能な16歳から30歳の自由人と半自由人の男性が何人居るかを報告して貰いたい」


まず騎士階級から疑問の声が上がった。“一般人が数ヵ月で自分たちと同じ戦列に加わる事ができるのか?”と。

勿論、無理だ。だが使い道はあると魔王は考えていた。


自由人階級からは、自分たち自由人はともかく。“半自由人が命を擲なげうって戦うのか?”“半自由人と違い農地を持つ自分達が軍務に取られいつ終わるかも分からない戦に参加出来るのか?”と疑問の声が上がった。

魔王の考えでは家業を継げない次男坊以降の者や、資産を持たない者を対象に募集して、職業軍人化するのでソコは問題なかった。


「コレは強制ではなく、例え一切の供出をしなくとも結構。只し、供出された物や軍務に貢献した者にはそれ相応の見返りは用意するつもりだ」

“強制ではない”と断りを入れているが、これで一切出さない訳にもいかず、部族長たちは同じ部族の有力者たちと“何を出せるか”とひそひそ話を始めた。


そうして連鎖的にほぼ全ての議員が近くの議員と話し合いを始めて、しばらく経ってから議長が発言した。

「魔王様の要望に対して何か質問が有るものは?」

議員が何人か手を挙げ、議長が質問者を指名していく。

「私達の部族が治める地域は東の森を越えた先にあり、馬を使って往復するだけで9日は掛かります。とても10日以内に正確な報告をすることは出来ません」

「間に合わない部族に関しては詳細な報告ではなく、概略で構わない」

質問してきた部族に限らず、他の部族でも後から「追加で供出します」もしくは「供出できません」と言い訳する逃げ道を魔王はわざと用意した。


「半自由人も戦争に動員するとの要望ですが、彼等が軍装一式を用意できるとは思いません」

「私の軍に関しては軍装一式の用意は不用。全て軍から支給の形を取るつもりだ」

これは、トマシュをはじめ少年兵達が装備がちぐはぐなので、戦力の均一化を図るために事前に言っておいた。


「軍の指揮はいったい誰が?」

「指揮権は私と各部族から優秀な者を充てるつもりだ。只し、自らの出身部族の為では無く、全ての部族の為に戦って貰う」


「魔王様は結婚してますかー!」

若い声だった。

「既婚で子供が二人………、って何だこの質問は」

悔しがる声と共にどっと笑い声が起きた。

飼い猫のニコライに邪魔されつつも、何とか改稿中…




ええ、PCだと邪魔されるのでタブレット用のキーボードとマウスを買いましたよ。

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