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転移した先は目的の村でした

「えーと………?」

フランツ達と一緒に居た筈が、一瞬で見知らぬ村の入り口に転移していたので、トマシュは人数を確認した。


「アガタさんに、エルナ、イシスに母さん………は居るね。馬も荷物も異常無いね。でも、フランツさんとショーンさんとデイブさんの3人が居ないと………」

全員でお互いを見合い、異常が有るか詳しく確認し合う。


「何が起きたの?」

全員無事なのを確認したアガタがイシスに聞いた。

「転移したみたいですね。ただ、前触れが一切無かったので、ビックリしましたが」

不安そうにイシスを抱き締めたニナの手をイシスは軽く握った。


「あの、もしかして転移してきたのでしょうか?」

若い兵士が1人、門から出てきた。


アガタが場所を確認する為に馬から降り、地図を広げて兵士に見せた。

「ええ、街道から脇道に少し入った所に居たんだけど、気付いたら………。ここは何処でしょうか?」


アガタが指差した所を見て兵士は安心した様子だった。

「ああ、そこですか。この村はそこから10キロ森の中に入った村ですよ」

「あらぁ………」

「いやぁ、近くて良かった。ひどい場合は南西の山脈から飛ばされる人もいるんですが」


場所が判ったので取り敢えずは一安心だが。

「で、どうすんのさ?」

トマシュはイシスに小声で訪ねた。

「手持ちのゴーレムは6人とも盗賊を追わせてるから、私達が先に到着しちゃった事を伝える手段は無いし………」


「丁度、定時連絡の伝令が出るので、言付けておきますよ」


「うわっ!」

ドシャリと、巨大な馬に乗った男の妖精が1人転移してきた。


巨大な馬の背中には折り畳まれた妖精用の小さなテントやフライパンに鍋、ヤカン。薪から干し肉と旅道具から食料まで積まれていた。

「あ!?あれ………?ここは天国?」

恐る恐る回りを見渡した妖精の顔には深い皺と長い髭がたくわえられていた。

「どうかしました?」


兵士の呼び掛けに、妖精は青い顔をしながら答える。

「えーと、大森林の西の山脈で空に大きな船が火と煙を吐きながら浮いていたのを見たんです。急いで知らせようと山を降りたのですが、途中崖から落ちて………ってあれ!?」


妖精は村の名前が書かれた看板を掛けてある大木を見て声を上げた。

「何で!?」

鞍の左脇に巻き上げられていた縄梯子を下ろし、馬から降りた。

「帰って来たんだ………」



「つまり、あの妖精さんは100キロ先の山脈から来たと」

フランツが居ないので、代わりにトマシュが門の詰所で兵士から情報を聞くことになった。


その間、イシス達は村役場への挨拶や宿の調整をしていた。


「そう。この森を出て、旅をしてたけど。崖から転落した時に故郷の家族が頭をよぎって、気付いたらここに転移してたんだとさ」

チェスワフ部族長の署名付きの書類のお陰で、門番の少年兵が机に調書を広げ見せてくれた。しかも、調書で記録した内容以外にも、聞き取り調査の中で出てきた雑談も教えてくれた。


「その空に浮いてた船に心当たりは?」

「いや何も。荒唐無稽だよ。船が空を飛ぶと思う?」

トマシュが石板にメモ書きしつつ、思い付いた事を口にした。

「“Airship”とか“Airplane”の可能性は?」

「何だって?」

「ガスを袋に入れて浮く乗り物と、翼の“Lift(揚力)”で空を飛ぶ乗り物だよ」

「いや、そんな物は………“ここでは”目撃されていない」


「ほい、紅茶」

奥から別の少年兵がソーサーに乗せたティーカップをトマシュの前に出した。

「ありがとうございます」


トマシュがソーサーと一緒にティーカップを持ち上げてから、一口飲むのを兵士達は注意深く確認していた。

「っ!………なんでしょうか?」

トマシュは注目を集めている事に気付いた。


「イギリス人か?」

「え?」

「意外とアメリカ人かも」

少年兵達が言っている意味が判り、トマシュはティーカップを置いてから両手を上げた。


「残念だけど、僕は転生者じゃないよ」

トマシュの一言に、少年兵の耳が少し垂れた。

「え?違うの?」

「それにしては、普通に紅茶を飲んだなあ」


どうやら、紅茶を飲む仕草で転生者か判断していたようだ。

「幼馴染みに転生者が何人か居て、その内の2人が特に作法に厳しくて、覚えたんだよ」

ライネは判るが、普段はだらしない振る舞いのアルトゥルが食事の作法に厳しいのだ。


「なんだ違ったか」

「年のわりに落ち着いてるから、君もかと思ったんだけどな」

「2人は転生者なの?」


机の向かいに座っている少年兵から話しだした。

「俺は元スコットランド人で、前世は警察官だった」

「俺は元ハンガリー人で、前世は電気工事士。後、この村の住民は殆どが転生者だよ。チェスワフ大尉(・・)がこの世界で路頭に迷っている転生者を集めて保護してくれているんだ」


神聖王国で、“転生者を集めて訓練している”とカエから聞かされた事を思い出した。考えることは何処も同じのようだ。


「なあ、AirshipとAirplaneの事は何処から?また、知り合いの転生者から?」

トマシュは腰に着けた雑嚢から本を1つ出した。

「この本だよ。挿し絵にゴブリン達が描いた機械のスケッチがあるんだ」


この世界のゴブリンは妖精やドワーフと見た目に違いは少なく、3者の違いは文化的な違い。具体的には、妖精は神獣の元に森や人の周りに住み、ドワーフは魔王ロキを頂点にした幕藩体制の元に田畑を切り開き、ゴブリンは独自の王を頂き地下に都市を築いている等だ。


「ゴブリン………へぇー。噂には聞いてたけど、こんな本を作ってるのか」

人狼には馴染みがないゴブリンの事を知り、少年兵達は興味深く本を読んでいた。

「地下都市………ニューロンドンか。イギリスっぽいんだな。この建物なんかビッグベンそっくりだ」

挿し絵には時計盤の上部が洞窟の天井に突き刺さる時計台が描かれていた。


「どうやってこの本を?」

質問した側から、トマシュが他にドワーフと竜人の本を取り出したので少年兵達は息を飲んだ。

「母の知り合いの冒険者が貸してくれたんだ。後は、冒険者だった両親に色々見せてもらったよ。このドワーフの港街にも行ったことがあるよ。ところで、イギリスってどんな所なの?」


本来の目的でもある転移の捜査をすっかり忘れ、フランツが到着するまで、トマシュ達は話し込んでしまった。


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