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憲法会議

「飯だ!」

ガンガンと警棒で牢屋の鉄格子を叩く音が地下牢に響き渡る。


場所はクヴィル族の城塞。看守の兵士2人が食事………。いや、収監されている人間の捕虜に言わせれば“腐った吹かし芋”を乱暴に鉄格子の隙間から投げつけていた。

「よっしゃ!当たった!」

1人が投げた芋が、捕虜のシャハト卿の頭に当たった。


「ゲフォッゲフォッ………」

捕虜の1人が咳をした。


「おい、コイツ様子がおかしいぞ」

捕虜の咳が激しいので、芋を投げていない方の看守が光石のライトを捕虜に向けた。

「ん?ありゃあ血か?」


ベッド代わりの藁と毛布代わりの麻製の穀物袋に血が付いて居るのが確認できた。

「肺病か?」

「面倒だな」


魔王様から“殺すな”と命令されているので、しょうがなく看守達は鉄格子を開けて治療をすることにした。

「おい、起き上がれっか?」


看守が左手で腕を引っ張るが、捕虜は自力で起き上がれない様子だった。

「看護長を喚んでくる」

「ああ、たのっ!」


突然、捕虜を掴んでいた左手が引っ張られ、看守は床に崩れ落ちた。

「うわっ!」

倒れた瞬間に看守の胸を踏み、捕虜はもう1人の看守に体当たりをした。

「隊長っ!」

捕虜が頭を打ち、朦朧としている看守の腰から鍵束を奪い、向かいの檻に投げ込んだ。


「この野郎!」

先に倒された看守が捕虜の首に腕を回し、檻に引き戻そうとした。その時、向かいの檻から手が出て、鍵穴に何かを刺そうとする仕草をしていたので、看守は倒れている看守が鍵を奪われたことに気付いた。


「おい、鍵を盗られたぞ!」

仲間の一言に看守が身体を起こし、腰を触れると確かに鍵束がなかった。

「この!」

慌てて警棒を拾い上げ、鍵穴を弄る手を警棒で叩いたら。

「鍵返せオラァ!」

まだ目の焦点が定まらず、2発を鉄格子に当てたが、3発目で手に当てることができた。


「あっくっ!」

“じゃらり”と金属製の何かが落ちる音がした。

「ビビらせやが………」

鍵束だと思い看守がしゃがみ、手に持ったが違和感に気付いた。大きいのだ。


「なんだ?鎖?」

持ち上げると、鎖付きの手枷だった。


「ぎゃぁあ!」

仲間の叫び声を聞き、振り替えると同時に顎を殴られた。


「あっ!?は?」

何が起こったのか理解できないまま、複数人に殴られ、看守は倒れた。


「急げ、騒ぎに気づかれる前に出るぞ」

看守が鍵を取り返そうとしている間に、もう囚人が更に3人外に出ていたのだ。


最初に投げ込まれた鍵で手枷だけ外し、鍵は更に隣の檻へと回さす。そして手枷を外した囚人が手枷の鎖を鍵穴に突っ込み、まるで解錠しようとしているように騙していたのだ。

こうして、3人目が檻の鍵を開けたタイミングで、3人が飛び出て看守を殴り倒したのだ。


「思いの外上手くいったな」

そう言いながら檻から出たシュルペは、手の甲を擦りながら周りを見渡した。

「カール、武器を取って見張りに付け。アントンは狗を檻に。ヘルマンは俺と来い」

部下に指示を出し、シュルペはアントンと共に檻と鉄格子の鍵を開けて回った。


「シャハト卿、お怪我は?」

顔に尋問(・・)で出来たアザが有ったがシャハト卿は元気だった。

「問題ないが、どうやって逃げる?」

「捕虜を可能な限り集めて、王の城へ転移します。彼処の転移門はまだ使える筈です」





「騎士や部族長の権利を憲法で保証しなくて良いのか?」

ミハウ部族長の家の会議室では魔王主催の“憲法制定検討会”が行われていた。


「憲法で権利を保証する程の物じゃねえよ。クヴィル族やポーレ族は伝統的に民会を尊重しているから“まだ”良いけど、他は領地持ちの騎士連中が幅を聞かせているし、奴等の専制的な統治を保証する義理なんざねえよ」


アルトゥルが言ったことに、他の出席者は首を縦に振り肯定した。

主な参加者はミハウ部族長、チェスワフ部族長、フィリプ卿、ヤツェク長老、冒険者ギルドのエーベル女史、そしてライネだった。

本来ならこの場に居ることなど出来ない農家の倅が言い放った事を他の出席者が肯定したのは、既に前世がアメリカ合衆国の元上院議員、ロナルド・ハーバーだと知っていたからだ。


「憲法で記載すべき事は、“権限”としての“魔王の立場”と“国家”を形成する“人民”、立法府、国家権力、国家と各部族の立場………」

アルトゥルの列挙する内容を書記役のエミリアが必死に速記していた。


「“人民”はどうやって、ぼかそうかのぉ?人狼と書いてしまうと、将来的に領土を取り戻した後に人間を追放せざるをえないだろうし、魔王様の妹君は人猫だしの」

ヤツェク長老が気にする“誰の為の国家”か、そこが問題だった。


「しかし、人狼と書かないと、騎士の中には人馬の解放運動だと思って反対するだろ?」

フィリプ卿の心配は、騎士の独立性が強いヴィルノ族で騎士が離反するかだった。ポーレ族、クヴィル族と違い、封建主義が根強い土地だけに騎士の発言力が強く、労働力として奴隷が多いのだ。


「取り敢えず、人種は明記せずに“人民”で行こうと思うんだ。奴隷に関しては関連法案で財産と明記して、保有するのが逆に面倒になるようにしねえか?」


「と言いますと?」

アルトゥルの言った事にフィリプ卿が質問した。


「まず、奴隷の待遇を改善させる。魔王様がした家畜管理法の一部停止だけじゃなく、奴隷管理法を制定して最低限の衣食住を保証させるんだ。内容も奴隷の保護じゃなく、衛生環境の向上や公的秩序の維持に焦点を当ててだ」

現在、鉱山奴隷は馬小屋未満の不衛生な小屋に押し込まれ、病気で死ぬものも少なくない。勿論、全ての鉱山経営者が好きで奴隷を劣悪な状態にしている訳ではなく、一部の悪徳業者が採算を取るために奴隷を酷使するので、他の鉱山でもコストを掛けられないのだ。


「奴隷保護の世論ですが、現在各冒険者ギルドで宣伝工作を進めており、経過は順調だと報告が上がっております」

エーベル女史のが報告をしていると、リーゼが扉から音を立てずに入ってきた。


「ニュクス様」

リーゼは何かをニュクスに報告すると、「引き続き見張れ」と指示をもらい、いそいそと会議室を後にした。


カエ以外の全員が“はて?”と感じたが、カエは会議を進めた。

「奴隷を手放す者も出ると思うので、処分される前に不要な奴隷を買い取る方向で法案を組みたい。コレなら下手に殺される奴隷や路頭に放り出される奴隷は居ないだろう」


「まあ、悪かねえな。んじゃ、次は部族長、騎士、魔王と国家の立場か………。提案だが、部族の自治権を認めた連邦制国家が一番良いんじゃないか?」


「ふむ………」

「良いかもな」

ミハウ部族長とチェスワフ部族長が肯定したが。


「いや、ここは現在の民会で発言権がある部族長と騎士団を世襲制の貴族院にして、自由民から選出した議員が所属する庶民院の両院制で行くべきだ」

意外なことにライネが代案を出した。


「イギリスじゃねえか!」

「そっちだってアメリカでしょうが」

どうやら、各々の母国の制度を押しているだけのようだ。


「州を跨ぐと法律が微妙に変わるからアメリカはめんどくさいんだよ。何だよ“トラックの前部座席に羊を載せたまま、運転席を離れてはいけません”って。仕事で助手席に羊を載せなきゃいけない此方の身にもなってよ!」

「いや、何で羊を助手席に載せてるんだよ!てか、イギリスも大概じゃねえか、“国会議事堂の中で死んだら有罪”とか“甲冑を着けて議会に入ってはならない”とか」


「おいこら!本題に戻らんか!」

カエの一言で二人はようやく静かになった。

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