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森の外縁

なんとも異様な光景だった。


森の中でヒヒが3匹、傷だらけの12名の盗賊達をロープで拘束しているのだ。

盗賊達の両手は細いロープで拘束され、先端は象から延びた太いロープに結び付けられていた。


「フォフォ!」

1匹が大きな岩の上に登り、吠えだした。

「フォーキャーフォフォ!キャーギャー!」

ロープを指差したり象を指差している事から、何かを説明しているようだが、男達にはヒヒが何を言っているか判らず困惑した。


見兼ねた他のヒヒが大きな岩を登り吠えているヒヒに近づいた。

「普通に喋れぇ!」

なんと、他のヒヒが吠えていたヒヒの頭をひっぱたき喋った。

「ファッ!?」

ひっぱたかれたヒヒは岩から飛び降り、女盗賊の後ろに隠れた。


「さ、猿が喋った………!」

酷く混乱した男達を意に介さず、喋り出したヒヒが代わりに岩の上に登った。


「愚かな盗人奴もめ!貴様等は我が(ファラオ)の怒りに触れたのだ。コレから貴様等には我が(ファラオ)の元まで走ってもらう。3日間、昼夜を問わずにだ!」


ヒヒの言ったことに盗賊達がどよめくが、周りに居るヒヒ2匹は囃し立てるような吠え声を上げた。


「貴様等が言いたい事は判る。走り切れないとな。だが安心しろ!その為に象で引っ張ってやる!」


ヒヒの無慈悲な宣言に盗賊達は絶望した。事実上の死刑宣告である。男達は慈悲を乞い、女達は泣き崩れた。


「安心しろ、今回に限り我が(ファラオ)は慈悲を掛けて下されたのだ!死ぬことはない!倒れたものは我々が傷を癒してやる。だから止まること無く走り続けろ!」


象が一声鳴き、駆け始めた。


「走れっ!走れぇぇえっ!」


既に全力疾走で走らされている盗賊達の背後から、ヒヒの狂気を孕んだ笑い声が聞こえてきた。





「森に入るなら、全員が遠くに転移してもいいように各自で数日分の水と食料を持ってた方がいいな」


ポレコニチェンレ村を出た後は、大きなトラブルに会うことなく、森の外縁部に在る村まで到達し、今は門の詰所で兵士と話し込んでいた。

「チェスワフのじい様から聞いてたけど、実際どんなもんなんだ?」

フランツと話しているヴィルノ族の兵士は、両手を肩幅に開き。「いやもう、お手上げさ」と前置きをした。


「昨日も商人が森の中を通って開拓地に行く時に、草むらに入った瞬間に便所の前まで飛ばされたよ」

ソコに有ったのは、村の公衆便所………………。と言っても、掘っ建て小屋の中に桶を置いただけの代物だが。


「………便所?」

「ああ」

「何で?」

「丁度、草むらで用を足すつもりだったらしい」

フランツが怪訝な顔をする後ろで、「まあ、間に合ったわけか」とショーンが呟いた。


「で、その商人が便所で用を足してから、此処に転移の事を報告してくれたんだが、今度は村を出た瞬間に元居た場所まで転移したらしい」

“なんだそりゃ?”と思い、フランツはメモを取る手を止めた。

薄く切った木の板に転生者仲間に作って貰った鉛筆を使って書いていたが、果たして書くに値する内容なのかと。


「他には?」

「ああ、一昨日までのは書類に纏めてあるから持っていってくれ」

そう言うと、兵士は袋からA4サイズの羊皮紙が100枚綴られたファイルを取り出し、フランツに渡した。


「多いなぁ………」

「まあ、この村に上がってきた報告分だけだから、開拓地に行けばもっと多いと筈だ」

フランツはファイルをペラペラと捲り流し見た。


「後、フィリプ卿から“セーヌ(La Seine)川に泊まれ”と言付けされたよ。宿代は持つってさ」

フィリプが指定してきた宿は、普段は商人等の裕福な人しか泊まらないような上等な宿だったが、フランツはあまり快く思わなかった。


「まあ、報告は以上だ。“バーグ警部”」

宿を経営しているのは、フィリプ卿の関係者。村を警備している兵士達もフィリプ卿が前世から使っている元傭兵だった。




「これは?デートに遅れそうだって慌てて出掛けたら、一瞬で待ち合わせ場所にまで飛んでるよ」

ファイルから羊皮紙を何枚か取り出し、わざとらしく大声で読み上げながら、トマシュは宿の部屋で戸棚や調度品の隙間を調べていた。


「当たりだろうな。こっちは子供が高熱を出した母親が医者の所に行こうと、子供と家を出た瞬間に医者の家に飛んでる」

フランツも同じく大声で読み上げ、鏡に手を当てて反射の具合を確かめたり、両手で光を遮る形で影を作ってから中を覗き込んだりしていた。


部屋は、宿の名前がわざわざポーランド語で“セーヌ川(Sekwana)では無く、フランス語で“セーヌ(La Seine)川”と表記しているだけの事はあり、アール・ヌーヴォ様式で統一されていた。


「…………何してんの?」

鏡が掛けられている壁の脇からアガタが呆れた表情で現れた。

(マジックミラーかもしれないだろ!盗聴もされて無いとも限らんし)

アガタはフランツの右耳を引っ張った。

(は、な、せっ!バカ!)


音を立てない様に抵抗するフランツをアガタは無言のまま引っ張り、壁の裏側を見せた。

「こっちは洗面所だし、壁の薄さは5インチ(12.7センチ)しかないのにマジックミラーの筈あるか!盗み聞きもイシスちゃんがゴーレムや風魔法で防いでるのよ!」


「あ………」

照れ隠しでフランツは明後日の方を見た。


「で、“ガニマール警部”。捜査はどうなんだい?」

フランツは眉間にシワを寄せて「おいおい」と文句を言った。


「言っとくが、俺は検挙率は良い方だったぞ」

アガタは洗面台に腰を掛けて、フランツを値踏みするように眺めた。


「じゃあ、“クルーゾー警部”」

「俺は殺人課だ。そんな怪盗ばっか追っ掛けてる無能じゃない。………まあ、どうでも良い。取り敢えず傾向は判った」


フランツはトマシュに指示をだし、2人で羊皮紙を5つに分けてテーブルに並べて見せた。


「まず、全体の4割を占めるのは、基本的に被害者が行きたいと思った場所にいきなり移動している」

アガタが書類のを幾つか手にとって読んでみると、確かに畑に行こうと玄関を出た瞬間に、畑に転移した人や、雨漏りの修理をするために納屋から大工道具を持ち出した住民が、いきなり屋根の上に転移した事例が書かれていた。


「で、次に多いのは第3者が被害者に彼処へ行ってほしいと思った場所。それと両方の事が同時に起きた複合パターン」

こちらは来客が有った時に、本人が不在だったのがいきなり転移で出先に戻されたり、恋人同士が親の目を掻い潜って逢瀬をしようとした時に待ち合わせ場所に転移した事案だった。


「どちらかと言うと、………………便利なのか?」

アガタの一言に、トマシュはアガタが読んでいた、“屋根の上に転移した事案”の書類の後半部分を人差し指で示した。


「でも、この人は梯子を掛ける前に転移しちゃったから、周りの人が気付くまで半日以上屋根の上に取り残されたし、屋根の上で“帰りたい”と願っても転移できなかったんだ」


アガタが詳細部分を読み直すと、どうにも中途半端で便利なのか不便なのか判断がつかない内容だと読み取れた。

「ハチミツが切れた人が蜂の巣の前に転移させられ大怪我………。鶏が屠殺場から鶏舎へ転移………。罠に掛かった猪が猟師の目の前で転移し、その猪に体当たりされ猟師が大怪我………。どっちらかと言うと、被害に会うケースが多いと………」


「それと、この周辺でも転移騒ぎが起きてるらしいから、要注意だ」

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