盗賊のアジト
「泥棒が出たが、途中で逃げた…と?」
朝イチでトマシュが村の自警団を喚びに行ったのだが、日がすっかり昇った頃に、ようやく自警団が宿屋にやって来た。
「はい、物音に気付いた時には裏口から逃げられました」
念の為、人馬のエルナとイシスは宿屋の2階に隠れていた。
「捕まりますかね?」
エルナは心配してたが、イシスは呑気に答えた。
「私が放ったゴーレム達が盗賊のアジトを見付けたから捕まえてくる筈だよ」
「……はい?」
エルナがイシスをマジマジと見た。
「あ、昨日の球ですか?」
「そうそう。今、木でできた門の前で小競り合いをしてるよ」
「て、訳だよ!自警団のパトロールを増やしとくれよ」
女将さんが自警団に食って掛かるが、自警団は「そうは言うけど」と、ぼやきながら石板にメモを書いていた。
「まあ、報告しときますよ」
それだけ言い残すと、自警団はさっさと引き揚げていった。
「全く、異世界でも警官はそれかい!税金泥棒!」
女将さんが自警団が遠くに言ったのを確認してから文句を言った。
「………俺は違ったぞ」
フランツがひょうきんな顔をしながら自分を指差す。
「あんたは別よ!警官じゃなくて“良い”警官だったよ」
女将さんはため息を吐きながらパンを切り始めた。
「後…まあ、あの若造を擁護する訳じゃないが。とりあえず、昨日の件は村の自警団が記録に残るんだ。他の宿屋でも窃盗関係の被害届が出れば、なんかしら対策をとるし」
切ったパンをまな板の端に寄せながら女将さんは呟いた。
「ドーナツでもサービスするか………」
「コーヒーもサービスして」
女将さんが瓶を開け、ピクルスをスライスし始めた。
「チコリコーヒーなら有るけど?」
「いや、いい」
冗談で言ったのに、まさか代用コーヒーを薦められるとはフランツは思わなかった。
「ったく、もう10時前か」
本当なら、6時には出発するつもりだったが、自警団がなかなか来なかったせいで遅れてしまった。
「はい、これを持っていきな」
女将さんがバスケットを持って来た。
「サンドイッチが入ってるから、道すがら食べな。バスケットは帰りにでも返せば良いよ」
「何から何までありがとう」
フランツがバスケットを受け取り、イシスの馬の背に乗せて落ちないように結び付けた。
イシス本人はと言うと、すでにニナと馬に乗り寝息を立てていた。
「後、嬢ちゃんにはコレ」
そう女将さんが言うと、袋をエルナに差し出した。
「え!?」
「開けてみな」
エルナが袋を開けると、ジンジャーブレッドマンが袋一杯に詰まっていた。
「いいんですか!?」
まさかのプレゼントに驚くエルナに女将さんは優しく微笑んだ。
「昨日の気に入ってくれたみたいだからね。帰りも色々ご馳走を用意しておくよ」
森の中にぽっかりと空いた崖。その崖の入り口付近でヒヒが3匹、叫び声を上げていた。
奥には盗賊団のアジトがあるのだが木の柵と門が聳え立ち、外部からの侵入を拒んでいたが。
「あっち行け!」
盗賊が2人、門の上から矢を放ち、ヒヒを追いやろうとするが器用に避けられていた。
「フォフォハッ!ギャー!」
それどころか、ヒヒは自分達で弓を作り、矢を打ち返してきた。
「クソ、何なんだよアイツ等!」
盗賊の1人が悪態を吐いた。
最初の異変は日の出前。街道沿いの村を荒らしに行っていた仲間2人が怪我をした状態で戻ってきたのだ。
てっきり、兵士か自警団にやられたのかと思い、直ぐに仲間数人でアジトに運び込もうと駆け寄ると、「猿に追われてる……」と比較的怪我の軽いベテランが言うと、鳴き声が聞こえてきた。
最初は何かの間違いかと思ったが、実際に前世で動物園やテレビで見た猿が3匹姿を現した。
それからは、門の外で鳴き声を上げる猿に向かい矢を放ち続けているが、一向に引き上げる気配を見せなかった。
「おい、ありゃ何なんだ?」
もう1人がヒヒの後ろで何かが動いたのに気付いた。
「おいおい………。マジかよ」
現れたソレは門に向かい突進してきた。
「に、逃げろ!」
大慌てで門から飛び降り、走り去る背後からソレの鳴き声が聴こえてきた。良く、絵本やテレビから連想される「パオーン」と鳴き声ではなく、地獄の底から聞こえてくるような、怒気と殺意を孕んだ鳴き声で。
「お、おい。なんだ!?」
応援に来た盗賊の仲間は状況を掴めず、立ちふさがった。
「ぞ、象だ!」
そう叫ぶのが精一杯だった。
立ちふさがった仲間の腕を振り払うと、背後の門が吹き飛ぶのは同時だった。
「アーーッ!」
鼻を鞭の様に振り回し、象は手当たり次第に盗賊を鼻で殴り付けた。
「はぁっ…はぁっ…………」
運良く、門の残骸に隠れる事が出来た1人が這いずりながら残骸の奥へ向かった。
“トットット”
「っ!」
突然、盗賊が隠れている残骸の上を何かが走る音が聞こえた。
「………ふぅ………ふぅ………」
盗賊は必死に息を殺そうとしたが、恐怖で息が整わず、両手で口と鼻を隠した。
「グルルルゥ……」
「……はぁっ!」
呻き声がしたが盗賊は恐怖でその方向を見ることが出来なかった。
「はっはっはっ………はっ……」
手足が震え、心臓が痛いほど脈打った。
「グゥオオッ!」
「ぎぃややゃゃ!」
爪を足に引っ掛け、盗賊を引っ張る。
「ああッ!あー!」
下半身は出てしまったが、盗賊は瓦礫に捕まり、必死に抵抗したが。
「ああああぁぁ!」
とうとう、盗賊は引きずり出された。
「うわああ!」
盗賊を引きずり出したのは、ヒョウだった。
ヒョウは叫ぶ盗賊に馬乗りになり首筋に噛み付いた。
ちなみにですが、アメリカで良くある青やら緑色の奇抜な色のクッキー何ですが、地味に美味しい物のが有ります。
一枚でお腹一杯になりますが。




