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異空間収納の秘密

「あれは小熊座よね?」

村の外れに並んだベンチでイシスとトマシュは星を眺めていた。

「確かそう。で、あっちのケフェウス座の瞬いてる星が北極星」


トマシュが指差した星を見て、イシスは考え込んだ。

(小熊座のコカブではなく、ケフェウス座のアルフィルクが北に近いのか)


イシス達が生きていた世界と此所の世界の星座は、基本的に同じ名前だが、形が歪な上に場所が微妙に違っていた。


「イシスの世界と星座は同じなの?」

「少し、違うね」

イシスが何時もの様に懐から何かを取り出した。


「私達の世界だと、北極星は小熊座のコカブだったよ」

イシスが広げたのは、パピルス製のロールに描かれた天体図だった。

「ただ、北極星の高さは変わらないね」


「ねえ、何時もの不思議に思ってたんだけどさ」

「ん?」

「ちょくちょく色んな物を出してるけど、何処から出してるの?」


思い起こせば、金貨や服 、人馬のエルナ様の剣帯から投げ槍と、どう考えても出てくる物が可笑しかった。

「あー………。えっと………」

イシスは左手で耳の後ろをボリボリと掻いた。


「大体は、私やニュクスのお墓の副葬品だよ。武器とかはニュクスが死んだ時に沈んだ軍船に積んでた物だね」

「………墓?」

「うん、墓」

「君達の?」

「うん」


ちょっとだけ、トマシュは考えた。“多くね?”と。

「多くない?」

「まあ、私のお墓は2つ在るし。片方のは“死後の世界で不自由しないように”って結構な数の副葬品が入れられたし。ニュクスの墓も私のお墓の隣だけど、弟達が色々と本を入れてたし」

「どんだけ大きいの?」

「大体、そうね………」


イシスが何かいい例えになるような物がないか考えている間、耳と尻尾を左右にパタパタ動かした。

「お墓の在る石室自体は、今カエが使っている執務室位だけど、墓が入ってる神殿の建物は冒険者ギルドの建物より大きいね」


「………はい?」

冒険者ギルドの建物は長辺で100メートル、短辺でも70メートルは有るが、それよりデカイ神殿?

「敷地はケシェフの街の商業地区と殆ど同じかな」

色々とスケールがデカイ話なので、トマシュは考えるのを止めた。


「ところで、カエの墓は?」

「遺言だと“荼毘に付して、街の郊外の墓に入れてくれ”って書いてたし、副葬品も指輪や愛用品の石板(タブラエ)位だから小さいお墓みたいだよ」

イシスとニュクスはエジプト式の地下に石室を設け、其処に遺体と副葬品を納めるタイプの墓だが、カエはローマ式の簡易な(といっても街道沿いにデカイ墓石が建っているが)墓だった。


「こっちだと、どんなお墓が在るの?」

この世界に転移してきた時に墓は見ていたが、何か気になりイシスは質問した。


「君達が出てきた洞窟の外の墓と大体同じだね。荼毘に付してから、巫女や神官が立ち会って、墓に納めるんだ。ただ、家族が多いから一族で墓が固まる事が多いね。後、夫婦は死後も一緒に居られる様にと同じ墓に入るのが一般的だよ」

ふと、トマシュは自分の父親の葬儀の事を思い出した。

「遺体が無い場合は生前使っていた品を代わりに入れるね………」


結局、葬儀の時は父親の遺体は無く、墓には愛用していた剣が納められた。

真相を知っている祖父は、事件以来人が変わったように寡黙になり、とても事件の事を聞ける雰囲気ではなく。何があったのか聞き出す前にファレスキが攻め落とされ、それ以降生きているのかも判らない状況だった。


時々、“祖父が父親を殺したのでは?”と、トマシュは嫌な考えに襲われる時がある。


事件当時、祖父と一緒に居たフランツも詳しい事はトマシュに教えていないのも有るが。フランツ曰く「遺跡の途中でニナを見付けて、俺達で運び出してる間に、お前のじい様達が遺跡の奥に行って、戻ってきた時に、お前の父親が死んだ事を聞いた」と。

要は、フランツ達も遺跡までは行ったが外に出て直ぐに、トマシュの祖父達が出てきたのだ。


「墓石はその人の職業に合わせるか、好きだった物の形だね。商人だと帳簿だとか秤。船乗りだと海図(チャート)や六分儀。兵士は剣とか盾。でも、ケシェフのお墓は仮埋葬だって考えている人も多いから、木の板に名前を書いただけだったり印を付けた石を置くか。それか、家に置いてる人も居るね」


「おい、居たぞ」

フランツがショーンとデイブを呼び寄せた。

「あー居た居た。てか、何してるんだろ?」

「近い近い、ありゃ恋人の距離だって」


トマシュ達の後ろに生えた垣根越しに、いい歳をした男3人が様子を窺うという、何とも間抜けな絵面だった。


「何話してんだ?」

微妙に距離があるので、微かにしか声が聞こえなかった。



「そう言えば、あの“芋”って何?」

「芋………は芋だよ。野菜の1種で根菜類だよ」

トマシュは落ちてた木の棒を使い地面に絵を描き始めた。



「絵かなんかを描いてるね。文字かも知んないけど」

前屈みになって何かをしてる以外、状況が判らなかった。

「で、フランツ。どうするんだよ」

「何がよ?」

「止めんの?止めないの?」


デイブは何時止めるのかフランツに聞いたが、フランツは“

いや、俺に聞くなよ”と思った。

「別に問題無さそうだし、いいんじゃないの?」

ショーンは比較的呑気に構えていた。



「後、平たいパンの上にチーズと一緒に乗ってた、ベラドンナみたいな赤い実は何?」

イシスが左手を翳すと、地面に輪切りにされた丸い実が描かれた。

「ああ、トマトだね。ベラドンナよりも赤い実でソースにしたり 、生で食べたり。あと、トマトと芋は同じナス科ナス属だから………」


祖母の影響で園芸に詳しいトマシュの話は深夜にまで続いた。




「はぁっはぁっ!」

村の北方。森の中を盗賊二人は追ってくる何かから逃げようと走り続けていた。

最初は冒険者が追ってきたのかと思ったが、姿が見えず、様子が可笑しい事に気付いて走り出したのだ。

「後すこしだ、もうすぐだ………」

既に30分以上は走っているが、追ってくる何かは付かず離れず、一定の距離を保っていた。


「ホッホッホ!ギャー!」

「何で………何で…猿が………」


鳴き声から猿らしい事は判るが、不気味だった。

転生してから、一度も猿を見てなかった彼等が何で猿に追われているのか、理解が追い付かなかった。


「ギャー!ギャー!」

一匹の猿が咆哮を上げた。

「避けろっ!」


老けた方の男の一言で若い方の男が右に避けようとしたが、間に合わず、石が左肩に当たった。

「うっ!」


「ホッフォッ!」

「ギャッギャーー!」

「ホーー!」


一つだけ判ることは、追ってくる猿は明確な敵意を持っていることだった。

古代だと星は神事に使うので必然的に詳しくなるとかならないとか。


まあ、光害無い時代であれば、今とは比較になら無いほど良く見えるので。

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