オッサン達の思出話
「おおう……のー」
急に開いた扉に鼻を打ち付けたフランツが鼻を押さえながらしゃがみこんだ。
「ああ、もう。邪魔!」
「ふげっ!」
フランツを突き飛ばしたアガタは部屋の中を確認し、室内に泥棒が居ないのを確認したら裏口から外の様子を見た。
「何処だ?」
既に辺りは暗く、辛うじて隣の物置小屋が見える程度の視界だった。
「えーと………向こう!」
トマシュが指差したのは、村の正門がある東ではなく北側だった。
「あ、転けた」
姿は直視出来ないが、念波から転んだことが判った。
「うわっ!」
(バカ野郎!大声出すな!)
転けた拍子に声を出した、若い方の男は頭をひっぱたかれた。
「………にげんじゃねー!」
(ほらみろ!バレちまったじゃねえか)
背後から声がしたので、2人は大慌てで村から逃げようとした。
「一体、何の騒ぎだい?」
麺棒片手に慌てて駆け付けた女将さんが見たのは、鼻を押さえながら廊下でうずくまるフランツ、フランツを介抱するショーンとデイブ、食事を運んだ部屋の中でオドオドするエルナとニナと金属の玉を懐から取り出し食事が置かれた長机に並べているイシスだった。
「と、隣の部屋から男の人の叫び声が聞こえてその………」
エルナは完全にテンパっていた。
「フランツが出てって、変な声を出して、アガタも声を出して、それからえっと」
ニナは少し落ち着いていたが、いかんせん語彙力が無いので説明がまどろっこしかった。
『ゴーレムに追わせるから戻ってきて』
『え!?ああ、判った』
イシスが並べていたのは、鉄球に自分達の血を混ぜて創ったゴーレムの核。
6個並べた所でイシスが命令を出した。
<賊を生きたままバラバラにしてこい。殺してくれと懇願するまで殺すでないぞ!>
せっかく気持ち良く食事をしていたのを邪魔されたのでイシスは怒り心頭だったが。
『言っとくけど、生きたまま捕縛しないんだったら、本気で怒るよ!』
トマシュに生け捕りにするように釘を刺された。
<待て>
勢い良く動き出した球だったが、3個ほど止まりきれず机から落ちてしまった。
『生け捕りにしても、旅の邪魔じゃない?』
『次の宿の有る村で役人に突き出せばいいよ。懸賞金も出るだろうし』
“なるほど”、とイシスは納得した。
<生け捕りにしてこい。殺すでないぞ!>
今度は止められる事もなく、鉄球達は勢い良く窓から飛び出ていった。
「どうも泥棒みたいなんだ。幸い、物は盗られなかったけど」
鼻血を出したフランツの処置はショーンに任せて、デイブが女将さんに事の顛末を説明していた。
「泥棒………ねえ。最近は出なくなってたんだけど。また出たとなると………」
街道沿いで、クヴィル族とヴィルノ族の領地を別ける関所に一番近いこともあり、村に滞在する旅人が多いためポレコニチェンレ村では泥棒に悩まされてきた。
つい先月も泥棒が捕縛されたばかりだし、この宿でも過去に泥棒沙汰が有ったので、部屋の鍵は開けにくいものを使っていた。
「女将さん、犯人は部屋の鍵を抉じ開けたみたいだよ」
トマシュが鍵穴に光石を使ったカンテラをかざして調べたところ、微かにだが、金属で擦ったのか錆びが取れた跡があった。
「せっかく、弟に拵えて貰った鍵なのに」
「気に病むこった無いよ。この鍵を抉じ開けれる奴なんざ、早々居ないさ」
鼻を左手で擦りながらフランツが右手で出したのは、中世に良く有るウォードキーと言われる鍵………………ではなく。近代になってから発明されたシリンダーキータイプの鍵だった。
「ふーん………」
イシスが“何だこれ?”と鍵を取り、鍵穴に刺してからガチャガチャと動かしだした。
「まあ、盗られた物は無いけど。念の為、役人には届けを出そう。もしかしたら、流行りの盗賊の下っぱだと厄介だし」
フランツが言った“流行りの盗賊”。
ファレスキの街が堕ちる以前から、転生者の中には徒党を組んで悪事に手を染める物が居ないわけではなかった。中世の封建的な価値観に自由主義全盛の20世紀から来た転生者が順応出来る筈がなく。ライネの父親のラツゥネク氏の様に家業を継いだ者やアルトゥルの様に真面目に働いている者は居るが。中には、フランツやチェスワフの様に比較的しがらみの少ない冒険者になるか、盗賊に身をやつす者が決して多くないのだ。
「そうね、じゃあ明日の朝に役人を呼ぶから、その時はお願いね」
「ああ、御安い御用さ」
「疲れた………」
ベッドに潜り込むなり、フランツがぼやいた。
「ぼやきなさんな。こっちだって、うろちょろするニナの面倒を見てたんだから」
ショーンが上着を脱ぎ身体を拭きながら言葉を漏らす。
「まあでも、2年前より大人しくなったよな」
デイブはファレスキの街からケシェフの街にニナを連れ出した時の事を思い出していた。
「あん時ゃ、“家に帰りたい!”って駄々こねて大変だったろ?トマシュが途中で大泣きしてから大人しくなったけど」
「まあ、なあ………」
「しかし、ニナも今年で30だっけ?」
ふと、ニナの年齢をショーンが話題にした。
「いや、トマシュはニナが16の時の子だから29だろ」
フランツが指折り数えた。
「だな、俺と1歳違いだから、今年29だ」
フランツがベッドの端に腰掛け直して当時の事を思い出した。
「あん時はヤンの奴がニナと寝たって知ったオッサンを止めるの大変だったよな」
「そうそう、まさかあの後トマシュを妊娠するんだもんね。異世界でホントの意味でショットガンウエディングを見る羽目になるとは」
「まあ、ショットガンの代わりに戦斧だったけどな」
トマシュの両親を中心とした狂乱騒ぎで小一時間盛り上がった時だった。
「………そう言えば、トマシュの奴遅くね?」
デイブの一言に3人は顔を見合わせた。
「今何時?」
ショーンが懐中時計を開いて確認する。
「10時過ぎてる」
再び3人は顔を見合わせる。
「おいおいおいおい、勘弁してくれ!」
「相手は魔王様の妹君だよ!」
「全く親父に似やがって!」
3人は同じ事を考えていた。
“トマシュまで一夜の過ちをするんじゃない!”と。




