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ポレコニチェンレの宿

「ふうっ………」

結局あの後、泣き出してしまったエルナだったが、一頻(ひとしき)り泣いてから疲れて寝てしまったのでアガタとニナを残し、イシス達は隣の部屋に移動した。


「まさか、急に泣き出すなんてな」

トマシュが外套を壁に備え付けられたフックに掛けた後。脚絆(きゃはん)を外す為、ベッドに腰を下ろしてから本音を吐露した。


*脚絆:ゲートルとも言われる。

ズボンの裾を引っ掛けたり、長時間歩く時に脚を締め付け、疲労軽減を図る為に足首に着ける布製の被服。

足首から脛下に巻くタイプの“巻き脚絆”は映画で日本兵がしてるのを映画等で見たことがある人は多い筈。


「あの娘、今朝ミハウ部族長の家を出る時も、最初は人前に出るのを怖がってたんだ」

イシスは腰に着けた背嚢から地図を出し、部屋の隅に置かれていたテーブルに拡げながら今朝の様子を説明し始めた。


「単純に人に馴れてないだけだと思ったんだ。実際、最初はオドオドしてたけど、直ぐに元気になったし………」

イシスはカエとニュクスと相談した上で、“外の世界を知って見聞を広げさせよう”と旅に同行させたのだが、よかれと思って連れ出した結果、エルナを傷付けてしまった。


「トマシュは知らないかもしれないが、チェスワフの(じじい)が部族長になる20年前までヴィルノ族は南で人馬狩りをして、北の人間に売り捌いたりしてたからな。拐われた家族を取り戻そうとする人馬と流血沙汰とかしょっちゅう有ったし、人馬の親子が別の人に買われて生き別れたり日常茶飯事だったんだ」

デイブが荷物をベッド放り投げながら嫌そうに言い放ち、涙を拭った。


「俺達が居た国でも、かつてはそうだったが。次第に“これは間違っている”ってみんな気付きだしたから俺も医者になれたし。レストランで白人と飯を食える様になったんだ。この世界でも早くそうなって欲しいよ」

デイブの言葉に「白人?」と、イシスとトマシュは首をかしげたので、ショーンが説明を始めた。


「俺達の居た世界は人間しか居ない事は知っていると思う。こっちみたいに人狼、人馬、人猫、人熊、ドワーフ、ゴブリン、人間………みたいに別れてないんだ。文明を持っているのは人間だけで他は動物。ただ、人間しかいない分、肌の色で差別があったんだ。今の俺達の肌の色だと白人。黒々とした肌の人が黒人。後は、黄色人種とか居たよ」


トマシュが“何で?”と疑問に思った。

「肌の色ぐらいで、争う必要なんて無いんじゃ?」


ショーンは「そう思うだろうが」と前置きをした。

「こっちの世界みたいに、一目で“異種族”だと判らない世界だったからか、とにかく粗探しや競争をするんだ。で、外見上一番差違が出る肌の色で差別をしたり、同じ肌の色でも言葉や習慣がちょっと違うと憎しみあったり。俺達の国も黒人を奴隷にして酷い扱いをしてきたし、奴隷解放を巡って内戦も経験したよ。ただ、ナチ党みたいなファシスト連中は最後まで酷かったな」



「俺達の国は新大陸………。って言っても判んねえか………。あ、ちょっと待って」

フランツが自分の雑嚢から“アメリカ史”と題名の付いた本を一つ取り出し、かつて自分達が居た世界の地図が書かれたページを出した。

「俺達の国は白人が住むヨーロッパから海を渡った先に見つかった大陸で、ヨーロッパからの移民が移り住んで出来た国なんだ。最初は移り住んだ人達はアメリカ大陸に居たショーン達、インディアンと仲間良くやってたけど。アメリカに入植する人が多くなると、インディアン達を追い出し始めたんだ………」


フランツは「このページだ」と指差したのは、19世紀に行われたネイティブアメリカンの強制移住について書かれたページだった。


「フランツ、どこでそれを?」

フランツが見せたページに、移住させられるネイティブアメリカンを描いた有名な絵画が印刷されていたので、ショーンは気になった。

「ん?ああ、捕虜から貰ったんだ」


捕虜からだとしても、どうやって異世界の絵を印刷したのか、ショーンとデイブは疑問に思っていた。

「昨日、見せられた時は驚いたさ。聞くところによると、神聖王国の神官が転生者の記憶を元に魔法具を使って写本したらしい」


トマシュが写実的な技法で描かれたページを興味深く見つめていた。

「トマシュ、読んでみるか?」

フランツの一言に、トマシュは尻尾をブンブンと降りながら「良いんですか!?」と返事をした。


「ああ、昨日一通り眺めてみたが、変な事は書いてないし、前から本は好きだろ?」

手渡された本をしげしげと眺めながら、トマシュはページを一枚一枚捲り、読み始めた。


「そうだ、イシス。女将さんが言ってた噂って本当かい?」

ショーンが噂の内容を思いだし、思わず尋ねた。

「え?」

「“魔王様が人馬を解放して兵士にする”って話だよ。何か聞いてない?」


イシスは「あーっ………」と言葉を発した後、右人差し指で右頬を擦りながら、目をそらした。

「いや、その。人馬を家畜扱いする事を止めさせるだけで、人馬を奴隷として使うのは止めないつもりだよ」


イシスのまさかの一言に一同は「はあっ!?」と声を上げた。

「従軍して市民権を獲るか、買うのなら自由民にはするけど、奴隷が居ないと経済が回らないでしょ?だから、奴隷からも志願者を募るけど、そんなに数は取らないし。この先、人馬に限らず捕虜を取る機会があれば、積極的に奴隷にするつもりだよ」


「ちょっと、それは本気で言ってっ!」

食って掛かる勢いで立ち上がったデイブをショーンが制した。「人を人として扱わないなんて、赦されてたまるか!」


デイブの尻尾と耳をいきり立たせた、鬼気迫る雰囲気にトマシュが立ち上がり、イシスとの間に割って入った。

「おい、落ち着け。この娘は2000年前の人なんだ。社会からして違うんだ!」


ハッとしたデイブの耳と尻尾がだらりと垂れ下がった。

「………………ゴメン」


「なあイシス」

沈黙を破ったのはフランツだった。

「魔王様にロン………アルトゥルと“奴隷解放について話し合ってくれって”頼めないか?」


「判った、伝えておくよ」

どうも奴隷に対する価値観の違いがあると、薄々感じていたのでカエに伝えることにした。


書いてて思い出しましたが私の祖母曰く。第2次大戦後、横浜に米軍が上陸して来た時、アフリカ系の兵士が先に上陸して来たそうです。


何でも、上陸後に日本人に襲われても良いようにだとかで、酷く怯えていたとか。


(´・ω・`)なんだかなー。


因みに、チョコレートやパンを手渡ししてくれたのは、カマボコ兵舎に居たアフリカ系の給養員(大量にパンを焼いてたそうです)だそうで、白人の兵士から貰った記憶はないとの事。


(´・ω・`)チョコレートは缶詰めに入ってたので、レーションの余り物のようです。

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