土の中に居る
「全く、クソ餓鬼ども」
馬に乗ったフランツ一行を見送り、チェスワフが小屋の中でぼやいた。
「じいちゃんこそ、フランツさんに手を出すとか。もう、一人立ちしてるんだよ」
実は検査官の男は50人以上いるチェスワフの孫の一人だった。
「喧しいわ。ワシはケシェフに戻るからな」
そう言い残し、チェスワフは小屋を出て街道を北へ向かい走り出した。
「え、っちょ。走るの!?」
チェスワフが説明している間に、ニュクスが不貞腐れて、帰ってしまったので自力で帰る必要があったが、まさか走るとは検査官の男は思っていなかった。
「パイロットの脚力を舐めるなよ~!」
いや、前世での話だろと、審査官の男は心の中で突っ込んだ。
「全く、あのクソ爺」
馬に乗っているフランツが頭を擦りながら「いってぇ~」と言葉を漏らした。
「アンタが軽口を叩くからでしょ」
「痛いの痛いの飛んでけー」
ニナが心配して、フランツの頭を撫でた。
「う~ん………」
イシスは地図を広げながら悩んでいた。
「どうしたの?」
トマシュがぎこちなく馬を近付かせながら話し掛けた。
「人や物が移動するって、転移魔法だと思うけど、何でだろう?って」
地図を見る限り、全体的になだらか丘が点在し、その上に森があるだけで、遺跡と妖精さんの村が点在しているだけで怪しいところはない。
「“地磁気異常”が関係するのかな………」
「いや、それは無いと思うよ」
後ろで聞いていたデイブが近付き、説明を始めた。
「この辺の“地磁気異常”は地面に鉄鉱石が多く含まれているからで魔法の類いは関係無いっしょ。そもそも、方位磁石は結構狂う物だしさ。魔法が無い転生前の世界でも、方位磁石が狂って船や人が行方不明になる事故もあったし」
「う~ん、となると。やっぱり遺跡かな。でも、この様子だともしかして近付けないだろうし」
「ところでさ、転移魔法で一気に移動できないの?」
「へ?」
トマシュの問いに、イシスは目をパチクリさせた。
「それなんだけど、一度行ったことがある場所じゃないと怖くて使えないんだよね」
「何で?」
イシスが右掌を上に向け、道端から拳程の大きさはある土塊を掌の上に浮かばせた。
「地図で見ただけじゃ、この辺一体に、何か建物か木があるか判らないでしょ?」
土塊がトマシュの目の前で平らに広がり、木や建物が生えた。
「で、良く判らない状態で転移なんかしちゃうと」
土で出来た木や建物に土人形が突き刺さりジタバタと動いた。
「こんな感じで嵌まっちゃうなら、まだ良いんだけど。顔が埋まっちゃうと息が出来ないし、いきなり現れて馬車に轢かれたら危ないからやりたくないんだ」
地面や建物の壁に顔が埋まり止まった土人形と馬車に轢かれた土人形が現れた。
「スケキヨ…」
「異世界転生…」
様子を遠巻きに見ていたフランツとアガタが呟いた。
「ん?」
「ねえ、“一度行ったことがある場所じゃないと”って話だけど、人や物の配置とか変わるし、全部記憶できるものなの?」
イシスが掌を閉じると、土塊に戻り、道端へ飛んで行った。
「そこは、あれよ。魂の記憶なら結構完璧に覚えているし。前回と差違が無いか、先に念波を飛ばすし。まあ、念波を飛ばして確認すれば初めての場所には行けないことはないけど、距離感が掴めないし」
正直、距離が開けば開くほど、方位と距離に誤差が出るし。ロキみたくこの世界の神様や広義では天使である神獣ヨルムンガンドとは違い、この世界の正確な情報を手に入れられないので使いにくいのだ。
「うにゃ!?」
すっとんきょんな声をイシスが上げたので、トマシュが振り替えると、ニナがイシスの耳をいじくっていた。
「母さん!ダメだって!」
ニナはイタズラがバレた子供の様に身体をビクリとさせ、ぶうむくれた。
「トマシュばっかズルい」
「え!?」
ニナは尻尾と耳を立たせ怒りだした。
「トマシュばっかイシスちゃんとお話ししてズルい!」
「ちょっと、母さん!」
「ニナっ!おい」
フランツも心配して馬を引き返らせた。
『えーと、ニナさんってそんなに猫好きなの?』
『じいちゃんが猫嫌いだった反動で、昔からだけど。記憶が無いのに、こんなに駄々こねるなんて』
見かねたイシスが自分が乗っている馬の上に両足をのせ、ソコからゆっくりとニナの前に乗り移った。
「ふぅ………。ニナさん。コレなら一緒に居られますよ」
わざわざイシスが自分の馬に乗り移って来たので、ニナは満面の笑みを浮かべた。
『良いの?』
イシスは頭をニナの胸に擦り付けながら、ゴロゴロと喉を鳴らした。
『旅は長いしニナさんの機嫌が悪いまま、ふぅぉぉぉおおお!』
ニナが何を思ったのか、機嫌良く立たせていたイシスの尻尾の付け根を触った。
「ふにゃ~~~………」
「母さん!尻尾はダメだよ!」
「わっ!?」
イシスがだらりと身体を倒し、馬の首にもたれ掛かったので、ニナは慌てて手を離した。
「だ、大丈夫!?」
「大丈夫………」
様子を見ていたフランツが何が起きたのか判らず慌てている様子のトマシュに耳打ちした。
「いいかトマシュ。人生の先輩として教えておくが、人猫の女の子と遊ぶ時は尻尾の付け根は………」
「何、下ネタを教えてるんだい!」
アガタがフランツの耳を引っ張って端に引っ張っていった。
「イテテテテ!」
「13の子には早いでしょ!ったく、下品なんだから」
「べ、別に早かねえよ。トマシュ位の歳で妻子持ちもいんだから」
「じゃかあしい!」
トマシュに余計な事を吹き込まそうとしたフランツを引き離したつもりだったが。
「ハハハ………」
(ホントは人猫の女の子が弱い所って知ってるんだけどな)
兵士をやってたので、何だかんだ猥談を聞いていたトマシュは、イシスがああなった原因を知っていた。
そろそろ忍者でも出すかな




