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チェスワフとフランツ達


「すみません」

「申し訳ございません」

「すみません」


訳も判らず関所に連れてこられたチェスワフ部族長にイシスとエルナ、更に騒ぎに気付いたトマシュは何度も頭を下げた。

「ほら、ニュクスも」


イシスに促され、ニュクスも頭を下げつつ「すみませんでした」と渋々ながら謝った。


『何でよ!』

『馬鹿っ!物には順序ってあるでしょ!』

ニュクスは、“家畜管理法”で馬鹿げた扱いを受けているエルナを思い、“チェスワフ部族長本人を此処に連れてきて、命令をしてもらえれば良いんじゃね?”と、安易に考えてしまったのだ。

勿論、そんな安易な行動をした事をイシスに怒られたわけだが。


「あー、いや。気にしてませんよ」

チェスワフ部族長は懐から、ドワーフが良く使う“矢立”を取り出し、小屋に備え付けられた羊皮紙を手に取った。


*矢立:携帯式の墨壺と筆がセットになったもの。チェスワフ部族長はドワーフの港町、吉田で買った竹製の矢立を愛用している。


「私達としても、“家畜管理法”で人馬を家畜扱いするのは腹に据えかねていたが、ギルドの反対が強くて何度も改正案を潰されてきてな」

チェスワフ部族長が“家畜管理法第4条”の執行停止の政令を書き上げ、受け取った勅命と一緒に審査官の男に見せた。


「正式な政令と勅命だ、この娘を人として通してくれ」

審査官の男が確認し、エルナの通行許可証に“通行許可”と判子を押した。


「これでヴィルノ族領内なら自由に移動が出来る。ただし、無くさないように」

「はいっ」

通行許可証を受け取ったエルナはパッカッパッカと嬉しそうな足音を出し、小屋から出ていった。


「ありがとうございました」

トマシュとイシスが御礼を言い、待合室に戻るのを見て、チェスワフは声を掛けた。

「イシス様、通行審査は終わったのでは?」


イシスはキョトンした顔をしながら振り返った。

「書類の確認があるから待ってくれと」

チェスワフが審査官の男の方を向いた。

「書類に魔王様の名前とポーレ族部族長の名前が連名されているので、ケシェフの連絡官に確認を取っています」


審査官の男の説明に、チェスワフは顔を強張らせ、耳打ちした。

「この人、魔王様の妹君だから間違いじゃないぞ」

「ええっぇ!?」


審査官の男が慌てて許可証に判子を押してる横をチェスワフがもう一枚書類をしたためた。

「これなら、ヴィルノの役人しか判らない内容になっているから、一々確認をされることもあるまい」

チェスワフが渡した署名入りの証明書は幾何学模様の透かしが入れられていた。


「何から何まで、ありがとうございます」

イシスが書類を受け取り、ペコリお辞儀をした。

「ところで、どちらまで?」

「えーと………南の遺跡の方へ」

トマシュが場所を説明できずにいるイシスの代わりに、壁に掛けられている地図を使い説明した。


「このまま街道を南下して大森林の北西に在る遺跡まで向かうつもりです」

チェスワフが苦い顔をしながら「あそこは……」と言葉を濁した。


「あら?何か?」

ニュクスが軽口を叩いたのでイシスが尻尾でニュクスを叩いたら。

『何よ!?』

『相手は部族長でしょうが!』


「うむ、実はそこの遺跡の近くで鉄の鉱脈が見つかりましてな。まだ、関係者しか知りませんが街の開拓も始まり、周辺の調査を冒険者ギルドがしたのだが、問題が起きまして。あー、ヤンの息子のトマシュ君だったかな?他に連れは?」


トマシュに見覚えが有ったので、もしや冒険者が同行していないかとチェスワフは考えた。

「フランツさんとショーンさん、それにデイブさんとアガタさんに母が一緒です」

「そうか、それでは全員喚んでくれんか?説明しておきたい」

「わかりました」


大事じゃないか?とトマシュは小屋から顔を出し、フランツ達を喚んだ。


「フランツ、トマシュが手招きしてるで」

「あん?」

暇を持て余し、街道から10メートル程離れた野原で双眼鏡を使い渡り鳥を眺めていたフランツとショーンがデイブの一言で小屋を見た。

「何だ?」

「ま、行きましょか」


先頭を進んだフランツが小屋の中に身体を半分入れたところで「げっ!」と叫んで止まったので、ショーンとデイブが追突した。

「何だよ!」

「止まるなよ………」


「開口一番“げっ!”とか何だ!“げっ!”とか」

中から聴こえてきた声に気付き、ショーンとデイブはフランツの背中越しに顔を出し「うわー………」と声を漏らした。


「お前らもか!ったく、ヤンキーどもが。ほら、トマシュとイシス様の為に説明するからこっち来んか!」

よっぽど会いたくないのか、嫌々ながらも3人は小屋に入ってきた。


「何で居るんだよ?」

「ニュクス様に連れて来て貰ったんだ。ほら、メモ出さんか!」


「ああ、長いわよ。って、うへぇぇぇー」

最後に小屋の反対側から入ってきたアガタが一番嫌そうな声を出した。

「貴様もか!ほらさっさと来い!」


チェスワフが出発前にフランツが示した森の入り口と遺跡の中間を指差した。


「貴様らがイシス様の“護衛”だから教えてやるがな。現地の妖精の助言も有り、此処に街を建設したんだが、遺跡の方を調査に行った冒険者5人が半日しか経っていないのに、何故か森の反対側。ビトゥフの街壁に移動してな。他にも、工事の作業員が気付いたら西の妖精の村に移動したり。倉庫の中身が道に移動してたり。一番ひどい場合だと、現地の妖精が家から出ようとしたら、家に戻っていた等。兎に角、原因不明ですが人や物がかってに動き回るんだ。判ったか!?」


「へーい」

「「「「はいっ!」」」」


「あ、馬鹿っ!」

フランツが生返事をしたのをショーンが注意する間も無く、チェスワフが脳天に拳骨を振り下ろした。


「ふぎゃっ!?」

「真面目に聞かんか。こん、馬鹿(だらぁ)!」


チェスワフは森の麓の村を指差した。

「どうせ、此処に寄るつもりだったんだろ?此処で最新の事件とか報せるように手配してやる。あと、フランツ。貴様、元刑事だったよなぁ?」



物のついでにと、チェスワフがフランツに厄介事を押し付けようとするのを見て、イシスがトマシュの袖を引いた。

「ねえ、チェスワフ部族長とフランツさん達ってどういう仲なの?」

「見習い冒険者時代の先輩後輩だってさ」

「ああ………」




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