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出発準備

「なんだ、トマシュ達の方が先に着いてたのか」


もみくちゃにされてるイシスをニナから引き離そうと、トマシュとアガタが四苦八苦している所に、遅れてフランツが現れた。


「ニナ、ダメじゃないか」

イシスの耳が横を向く、所謂イカ耳の状態で尻尾も膨れ気味で左右に忙しなく揺れていた。


「離してあげなさい」

「………はーい」

ようやく解放されたイシスはパタパタと走り、トマシュの後ろに隠れた。


「むー………」

イシスは余程嫌だったのか、“ふんっふんっ!"と鼻息が荒い。

「んー………、ずるい」

トマシュの背中を掴んで様子を窺っているイシスを見て、ニナはトマシュに“ずるい”と一言漏らした。


「それで、ニナの呪いは?」

「………記憶に靄が掛かってる。ただ、高位の呪術だから原因を確かめに行った方が良い。今の状態で無理に呪いを解こうとすると、魂ごと霧散しかねない」

ちゃっかり、イシスがニナの魂を調べていた事にトマシュは驚いた。


「そ、それで。治りそうなの?」

イシスはトマシュを心配させまいと笑顔を作った。

「大丈夫。慎重にやれば」


本当は全く判らなかった。

“何故呪いが作用し続けているのか”、皆目検討がつかないのだ。


生きたまま記憶を奪うには、大変な労力が掛かる。その為、記憶を封じる方が簡単だが、ニナの呪いは妙だった。

普通、後者の場合は記憶が蘇らない為に記憶の外側の領域………、魂の外殻に呪いを何重に重ね掛けして封じるのだ。


イメージとしては箱の中身が外に出ないように、上に重りを載せていくのだが、外からの衝撃。例えば、しまわれている記憶に関係する刺激に接すると重りが揺らぎ、やがては記憶が蘇るのだが、その重りに相当する呪いが小さいのだ。


ニナの場合は全ての記憶を失ってしまったのは確かなのだが、そうだとしても、1週間………。いや、1日も経たないうちに自然と記憶を取り戻せる程度の呪いでしかなかった。


全ての記憶………。


ちょっと冷静に考えてみれば、五感で感じ取った記憶。視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚。この全ての刺激が一斉に呪いを揺さぶり、呪いが解けるはずなのだ。


だが、ニナは5年も記憶を封じられ。その間、トマシュや実の両親と一緒に居たのに何故?


呪いを掛けられた時に何が有ったか、確かめる必要があった。




「此処から南門を出て街道を南下、初日と2日は街道沿いの村の宿屋を使って、3日目からは人気が無い森に入るので、野宿になる。で、5日目には目的地の遺跡に着くだろう」


フランツが居間のテーブルに地図を広げて説明する。

「フランツさん、この“地磁気異常”って何ですか?」


イシスが森の中に点在する“Anomalia Magnetyczna”が気になり尋ねた。


「ここらだけ、方位磁石が北を向かなくなるんだ。あー、方位磁石って言うのはコレの事で、常に北を指すんだ」

フランツが出した方位磁石は、カーキ色のケースに入った2センチ四方の物だった。

イシスが試しに廻してみると、“N”と書かれた赤い部分が確かに家の裏庭、北側を向いた。


「すごい。これなら曇ってても方向を見失わないね」

「まあ、そうなんだが。この森の様に、たまに局地的な磁気異常があってね。この丸の中に入ると、北じゃない違う方向を向いてしまうんだ」


見ると、“地磁気異常”は目的地の遺跡周辺に何十と点在していた。

「え!?どうするの?」


フランツがもう一枚地図を出した。

その地図は要所要所での方位磁石の向きが判るように、目印になる場所が絵付きで描かれていた。


「コレを見ながら慎重に行くか、現地の狩人に“道が変わってないか”聞くしかないな」

最初の地図に小さい線が幾つか描かれており、フランツがそれを指でなぞった。


「殆どが妖精が使う獣道だから、回り道をしているから余り使いたくないがね」


「フランツさん、他には誰が同行するのですか?」

トマシュが気になって質問した。


「ショーンとデイブ、あとアガタだ」

「え!?」


トマシュが意外そうな声を上げた。

「ニナを連れて行くのに女の子2人とオッサン3人で行かせる訳無いでしょ?」

「でも、アガタさん。仕事は?」


アガタが胸を張ってみせた。

「元リーダーの為なら仕事ぐらい休むわよ。それに、フランツのアホが変なことをしないとも限らないからね」


「おいおい、妬くなよ………。あいたっ!」

音から察するに、机の下でアガタがフランツの脚を蹴ったようだ。


「冒険者ギルドには出発する事を伝えて有るし、馬や必需品も打ち合わせ通り用意してある」


再び、フランツが地図を指差す。

「今日の日の入り前には、此処。ポレコニチェンレの村まで進むぞ」




「おでかけ♪おでかけ♪」

相変わらず、少女の様に上機嫌なニナにアガタは旅装を着させている間、トマシュは裏庭でボーッとベンチに座っていた。


「隣良い?」

心配になり様子を見に来たイシスだった。

「ん?良いよ」

静かにイシスが座った。


「………何を考えてるの?」

「………………判るでしょ?」

魂の根元がトマシュと繋がっているのだから、確かに知ろうと思えばトマシュが何を考えているのか判るが。


「………貴方の口から聞きたいな」

流石にトマシュの心にズカズカと土足で押し入る様なことは、イシスはしたくなかった。


「怖いんだ。あの日、何があったのか知ることになるのが。それに、記憶が戻っても父さんは死んでるし、母さんがそれで悲しむことになるのも」

元気なく、耳と尻尾を垂らすトマシュの肩にイシスは頭を擦り着けた。

「確かにお母さんは悲しむでしょうし、知りたくないことを知ることになるかも知れない。でも、貴方はその運命から逃げるつもりは無いでしょ?」

トマシュが肩に当たっているイシスの頭を撫でながら軽く抱き寄せた。

「………勿論、全部見届けるつもりだよ」

トマシュはこの状況になって理解する事が出来た。カエが抱き付いて来るのは、不安だったからだと。





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