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街中にて

“見た目で損しているようです”の書き直し、“下”になります。

「ランゲ様、宜しいですか?」

部屋の扉を叩きながら、従士の1人が話し掛けてきた。

「ああ、入ってくれ」


従士の少年はゆっくりと部屋に入り、一礼してからソファーに座るランゲの側まで来た。

「別に畏まらなくって良いって」

ランゲからすれば、まだ子供の従士が四六時中、気を張るのは可哀想だと思っていたが。

「…いえ、一瞬の油断が命取りになりますので」

(少しは年相応の反応をしても良いのにな)

自分の従士の堅物具合に半ば呆れつつ、ランゲは質問した。


「それで、外の様子は?」

この街の特産品でもあるガラスを使った窓越しに、部族会議が開かれる集会所の外で住民が騒いでいるのが判った。

「…はい、何者かが魔王様降臨の事実を暴露し、既に住民にその事が広がっています。また、不穏分子の活動も活発な様でして、どこもしきりに外部と連絡を取り合っています」

従士の説明に、ランゲは顔を曇らせた。


「魔王様降臨がバレた…、一体誰が」

「…我々が墓地を離れた直後でしたので、恐らく立会人の中かと」

予定では、魔王と部族会議で今後の事を話し合うが。数日間は降臨の事を隠匿する筈だった。


「警護の者はどうなってる?」

「既に冒険者ギルドが…。一般人に混じり警護しておりますが」

「そうか」

悲しいかな。クヴィル族の騎士団の中に不穏分子が居るせいで、ランゲは身内の騎士団員ではなく外部の冒険者ギルドに協力を求めていたのだ。


「それと、商業系ギルドの一部がミハウ部族長に、ポーレ族に対する非難決議を求めて押し掛けています」

「またか…」

クヴィル族のミハウ部族長に商業系ギルドの連中が押し掛けるのは今に始まった事ではないが、タイミングが悪かった。立場上、部族長が自部族のギルドからの要求を拒否出来ず、最低でも議場で非難声明は出さねばならない、暗黙のルールが有った。


「ミハウ部族長の非難声明が終わるまで、魔王様の足止めをしてみてくれ」

「畏まりました」



門を抜けるとスラムとは打って変わって、石造りの建物に囲まれた広場だったが。

「ここも臭い」

「そうですかね?都市は大体こんな臭いがしますし」


『臭いが酷いのは良いとして、チラホラと私達の方を見たり噂をしている住民が居るわね』

『まあ、この格好だからな』

魔王の服装は、古代ローマ人が良くする薄手の格好という事もあり、中世的な服装の中では嫌でも目立つものだった。


「ん?」


上から声がすると思い魔王が見上げたら、建物の四階の窓から此方を見ている住民と一瞬目が合った。


しかしだ。


「寂れてるなあ」

広場の外周をエミリアと歩くが、人の気配が全く無かった。

「前は市場が有ったのですが、東門の外に避難民が住み着いてからは往来が減りまして。今は南門に大きな市場が出来たことも有りまして、そっちに商人が移り住んでから寂れてしまいました」


4階建ての大きな建物に囲まれた大広場に、打ち捨てられた市場の名残である出店の残骸が残されており、余計にさびしい印象を覚えた。


「街の人口は何人位だ?」

「籍がある人で10万人。籍の無い私達の部族や冒険者を含めると7万人と聞いています」

聞き慣れない単語に、魔王は耳をピクリと動かした。

「冒険者?」

「大昔の遺跡で遺物を探したり、魔物退治や魔物の巣を駆除して素材を集めてくる人達の総称です。他にも住民や部族長から依頼を受けて盗賊退治から家の修理まで何でも受け付けています」


エミリアが言った事に魔王は首をかしげた。

「盗賊退治や魔物の退治とかは軍の仕事だろ?」

「基本的に街や周辺にある村は守りますが、ソコから外れた街道や遺跡等に居る盗賊とかは対処しないんです」


「なぜ?」

「兵士の殆どは農民なので自分の土地から離れた所には出向かないんです、部族の騎士階級や街の兵士が対処していた時期も有りましたが、戦争が始まってから盗賊も増えましてキリが無いんです」


『職業軍人があまり居ないのか?』

『そうかな?』

魔王が姉妹達と話している間もエミリアの説明は続いたら。


「ただ、私達の部族は土地を追われたのでカミル…、墓地の門に居た兵士のように軍務に専従している者が多いです」

「そういえば、墓地の門に13歳の少年兵が居たが、何歳から成人なんだ?」

意外な人物について質問を受けたのにエミリアは驚いた。


「トマシュ達の事ですね。一応は16歳で成人扱いですが、見習い兵は12歳からなれるので家計の助けにと志願する子供は多いですね」


『えーとだ、騎士階級、兵士ときて見習い兵か、見習い兵は廃止して代わりに学校に入れた方が良さそうだな』

『数学と簡単な測量位出来ないと軍で役にたたないし、魔法も多少は使えれば戦力の底上げになる』

『あ、猫』

魔王と人狼の妹は真面目に話し合っているが、人猫の妹は違うことに気を取られていた。


『ただ、“家計を助ける為”に入隊している者が居るとなれば、減った分の収入を補填出来なければ学校に行かずに他の仕事に就く者も出るだろうなあ』

『麦でも配給する?』

『あー、行っちゃった』


『…』

『…』

『ん?何?』


『いや、別に』

『いえ、別に』


『あ、後そうだなあ』

「トマシュとカミルの軍装が違ったけど、もしかして軍装は自前なのかな?」


カミルは革製の鎧を所々金属のプレートで補強していた鎧に剣を携えていたが、トマシュは真新しい革製の鎧では有ったが金属のプレートは一切無い簡素な物で、武器も槍と短剣と軽装だった。


「ええ、自前で用意するのが基本ですね。ただ、トマシュは商人から軍装一切を借りて使っていますが。商人との決まりで戦に着ていく時は買い上げる事になっていまして、生活が苦しくて購入資金が貯まらないので戦になったら鎧と槍を返して木の棒で戦わないといけないとボヤいてます。同じように商人から借りてる見習い兵の殆どが戦の時は鎧を着けずに戦うつもりだと聞いています」


「駄目じゃん!」

「です、よね………」



『あーもう、問題だらけじゃない!』

『見習い兵は解散だ、解散』

戦は数の優劣が勝敗を決める重要な要素だが、それにも限度というものがある。

見習い兵を無意味に戦場に放り込んだところで、無駄に死傷者を増やし。彼等の面倒を見るのに余計な人材を割く必要がある上に、モラルの低下した集団を軍内部に抱えた状態になるのだ。

指揮官の命令を無視して勝手に突撃するならまだましだが、逆に敵を目の前に1人、また1人と逃げ出し。結果、連鎖的に兵士が敵前逃亡し軍勢が崩壊する恐れすらあった。


『騎士階級は良いとして。一般兵を中心の軍組織へ軍制改革をしなければ駄目だろうなあ』

『そうなると1、2年は掛かるかしらね』

兵士1人を育て上げるのならそれだけの時間で良いだろうが。


『いや、5年は掛かるだろうな』

防衛を出来る組織なら3年でも良いだろうが、戦争をする組織となると倍以上の労力が必要なのだ。正直、魔王の5年と言う言葉に根拠は無いが。5年以内に何らかの結果を残せないようなら。それは他の魔王に対する敗北に等しいのだ。


『まあ、父祖達がやり遂げた事だから私にも出来るだろう』

魔王は自分に言い聞かせるように言ったが。



『『あ、胃が痛い………』』

『あ!今度は猫の親子だよ』


『…まあ、悩んでもしょうがない』

『…何とかなるかな』

『?』


天然気味の人猫の妹の前で悩むのも馬鹿馬鹿しくなり、魔王と人狼の妹は多少気持ちが楽になった。


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