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イシス、乱入する

「ふ~んふ~ん♪」


カミルの後ろを旅装姿のイシスは上機嫌に鼻歌を歌っていた。

ミハウ部族長の家から、ポーレ族の兵士が駐屯する西門の外まで視線を集めていたことを意に介さず。


「あ、猫さん!」

その原因は、人狼の領地では珍しい、人猫姿のイシスに街行く人の視線が集まっているのもあるが。


「ママー!お馬さんだよー!」

ポコッポコ………。

その横を“服を着た”人馬の女の子が歩いているので、余計に目立っていた。


今、声を出した子供はその珍しい光景に声を上げ興味津々な様子だが、中にはエミリアが話したような“首狩り人馬”の話を思い出し泣き出す子供もいた。


チラリと、カミルが後ろを確認する。物陰にはクヴィル族の密偵だろうか、何人か路地裏から様子を窺っていた。


(昨日の今日で妹君に護衛を殆んど付けないんだもんな)

魔王は「大丈夫だろ~」と言っていたが、既にカミルが感じただけでも3組に後を付けられていた。




「此処です」

案内されたのは、カミル達が居る第5中隊が所属するポーレ第2連隊の本営。


門番2人組も、イシスと人馬の女の子を見て一瞬驚いた様子を見せた。

カミルは魔王から預かった書類を出して、通門手続きを始めた。

「第5中隊のカミル・ジェリンスキ伍長です。魔王様の妹君、イシス様をお連れしました」


カミルの一言に門番がイシスと書類を何度も見返した。


“魔王様の妹君が人猫!?”


有り得ないと書類を見るが、確かに書類には魔王様の妹“イシス”種族“キマイラ”と書かれていた。


“キマイラ”って何だ?と、門番二人は話し合うのをイシスは横目で眺めつつ、“勝手に”門を通りすぎた。


「どちらまで?」

ポコポコと人馬の女の子も後に続く。

「ほら、あれトマシュじゃない?」

イシスは目当てのトマシュを見付け、後を付け始めた。


「何だこの、“キマイラ”って?」

門番の一人、カミルの先輩が聞いてきた。


「異種族間で産まれた人の総称、だと魔王様から伺ってます。何でも魔王様の父上が人狼で母上が人猫とかで」

「そうか………」

彼等の常識では異種族間で子供は出来ないものだと信じられていたが、魔王様がそう言っている以上そうなのだと、納得する他なかった。


「では、コレを………おい、イシス様は?」

「えっ!?あ、イシス様!」

イシスがトマシュの居る隊舎に入っていくのが見えた。



「で、さっきの続きなんだけどさ」

「いや、違うっての!」

トマシュは誤解を解こうと必死だったが、魔王との様子を見た同期は、信じなかった。

結局あの後は、戻ってきたアルトゥルとライネが集まっていたトマシュの同期を解散させて、示達を聞きに行ったのだが、トマシュの同期間だけでなく、中隊全体に“トマシュが魔王様とできてる”と噂になってしまった。


「ん?」

人だかりの中がどうなっているか、イシスはジャンプして見ようとした。


「おい、てめぇらいい加減にしやがれ!」

「大した事なんか無いんだから、帰った帰った」

「良いだろ、減るもんじゃないし」

ライネとアルトゥルが追い返そうとするが、非番の軍曹など古参兵も集まってきた。

『ゲッ!軍曹まで来やがった。トマシュすまね。追っ払えねえや』


階級的に上等兵のライネとアルトゥルは軍曹に逆らえなかった。


「お前の色恋沙汰なんかどうでも良いよ。で、魔王様ってどんな人だった?」

「えっ!?」

朝の騒ぎの続きかと思ったら軍曹から予想外の質問が出た。


「いやさ、一昨日と来れば、魔王様が襲われただろ、そん時どうだったか?」

トマシュにやっかみ半分で卑猥な質問をしていた同期連中も軍曹の質問の答えを聞きたそうな素振りをした。

伝え聞いた話だと、“襲撃者を血祭りに上げて冒険者ギルドの6階を吹き飛ばした”となっていた。


「通ります」

トマシュが何て答えるか周りが固唾を飲むなか、イシスはトマシュに近付こうと人を掻き分け出した。

「あの時は、冒険者ギルド長のゲルダ女史と騎士団長のランゲさんとで“軍団編成”について話し合ってて」

「お、おいトマシュ!」


トマシュが会談の時に出た、軍団編成に言及しようとしたので、アルトゥルが急いで止めた。

『馬鹿野郎、まだ決まってもねえ事を言うんじゃねえ』


アルトゥルが止めたが遅かった。

軍団編成と聞いて聞いていた兵士が一気にざわついた。

「すいません、通ります………」

そんな中、顔を突っ込みながら強引にイシスは前へ進み続ける。


「おい、規模とか話してたか?」

「ランゲには何て言ってた?」

「本当に夏に攻め込むのか?」

「ちょっと!」

矢継ぎ早に質問が飛び出し、興奮した兵士が一気に詰め寄った。

(うがぁ~~~)

イシスは人だかりの真ん中で押し潰された。


「ちょっと、押さないで!」

まさか、小さい人が居るとは兵士達は思わなかった。

「ん?」

「何だ?」

流石に、何か小さいのが目の前を押し通ったので何人かは可笑しいと思った。


「ん"~~~~!」

「っ!」

人の間から人猫の頭が出てきたので、トマシュとアルトゥルはビックリした。


「えっ!?」

「うっわ!誰だ!?」

人猫の女の子に気付いた兵士が道を開けた。

ポンッとイシスは人だかりから飛び出し、トマシュの胸に飛び込んだ。

「ふ~っ」

「イシス?」


「えっ!?イシスちゃん!?」

「イシスって、え!?」

「へへへっ………」


イシスの人猫姿に混乱するライネとアルトゥルをよそに、イシスはゴロゴロと喉を鳴らしながら、頭をトマシュに擦り付けていた。

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