エミリア「魔王様が増えた!」
ドタドタと、慌ただしい足音が廊下から聞こえてきた。
「エミリアか」
「「だね」」
がちゃりと扉が開き、カエの予想通りエミリアが出てきた。
「魔王様!戻ってきたなら………」
エミリアの耳と尻尾が垂れ下がり、目を白黒させた。
「増えた!!」
よっぽどビックリしたのか、今度は尻尾が思いっきり膨らんだ。
「猫だ!!」
次に、人猫のイシスを見てエミリアが叫んだ。
「落ち着かんか!」
カエの一喝でエミリアが身体を強張らしたが、少し落ち着いたようだ。
「す、すいません。まさか、目を離した隙に増えるとは思わなくて。じゃなかった!魔王様、カミルが獣人化すると服が破けると思うのですが」
『ゲッ!』
(そうだった。カミルに起きた事をエミリアに伝えづらいから会わないようにしていたんだった………。ん?)
「何故、獣人化の事を?」
まだ、カミル達はケシェフに到着していないのに何故?
「マリウシュから早馬が送られて来まして。カミルが獣人症の呪いを受けたと連絡を受けてますよ?」
『あん餓鬼ゃー!!なに勝手に早馬なんて出したんだ!』
エミリアを心配させまいと、呪いの正体が判るまで黙っておくつもりだったが、部族長のマリウシュが状況を報せるために早馬を出していたのだ。
「魔王様のお陰でカミルを初め、兵士や騎士団が全滅の危機から救われたと専らの噂ですよ。本当にありがとうございました」
「………え?」
「………ん?」
「………?」
エミリアの反応は全くの予想外だったので、3兄妹はお互いに顔を見合わせた。
「あわや先遣隊に獣人症が広がる前に駆け付け、カミルの獣人化を押さえるだけじゃなく、獣人症を発症しながら理性を保つ狼男を生け捕りにするなんて」
まるで、冒険譚を話す子供の様なエミリアに3人は少し驚いた。
「いや、別に全滅はしなかったと思うぞ」
騎士団と冒険者が善戦してくれたし。正直、カミルが獣人症の呪いを受けなければ、トマシュの身体を間借りしていたカエだけで何とかなっていただろう。
「そうそう、フランツさん達も狼男を1体倒したし」
重ねてニュクスも否定した。
「でも、聞きましたよ。エルノさんが捕まっている廃城の壁を魔法で吹き飛ばしたり、エルノさんを助けたり」
カエは手で顔を覆った。
「いや、エルノさんはヴィルマ達と自力で脱出したし、フランツさん達やピウスツキ卿の娘さんが活躍したし」
前世でニュクスと故郷のエジプト軍相手に戦っていた時の方がよっぽど苦労した位だった。
あの時は、軍団と共にこっそりシリアに上陸したカエとグナエキアからカエに変装したニュクスが艦隊を率いて挟撃したのだが。カエの方はナイル川でサイや象、果てはワニを操る魔術師相手に手こずり。ニュクスの方はアレクサンドリア沖でエジプト海軍と正面からぶつかり合い、最後はニュクスが用意した巨大な青銅のゴーレムの群れで守備隊を蹴散らしていた。
「あ、そうだ。怪しい転生者を捕まえたからトマシュが取り調べをしているんだ。そっちに行ってくれんか?」
復活した2人組を調べるのに“エミリアに確認してもらいながら”とトマシュに言ってた事をカエは今思い出した。
「トマシュが転生者の取り調べをですか………?」
「うむ、向かいの会議室でな」
「判りまし………、っと。魔王様、カミルの服なんですがどうします?獣人化する度に服が破けると不便だと思うのですが?」
『取り敢えず気にするのは、服なんだね………』
他に気にすることは無いのかと、イシスが呆れてる念話で漏らした。
「私が捕虜からどうしてるか聴いとくから、先に取り調べに行ってきて」
「はい」
ニュクスに促されて、エミリアが3人に一礼してから退室すると、カエはデスクに、ニュクスはソファーに倒れ込んだ。
「何で先触れ何か出すかなあ~」
「本当、せめて一言有っても良いでしょ」
2人は顔と耳を完全に伏せた。
「それだけ“勝利”に飢えてたんでしょ」
イシスは1人、マリウシュを肯定してから窓際に立ち、外の様子を風魔法で聞き耳を立て始めた。
(魔王様が狼男を倒したって本当か?)
(ミハウ部族長の孫も無事だってさ)
(聞いたか?犯人は神聖王国の人間だったって)
(魔王様が捕虜を100人以上捕まえたとよ)
「ちょっと、誇張されてるけど」
さすがに捕虜を100人も取って無いので、イシスは苦笑いをした。
「父上だって、わざと情報を全部民衆に教えないで、ちょっと勿体振ってみせてたし」
ニュクスの右耳とカエの左耳がピクピクとイシスの方を向いた。
「それって………」
「………………先生の受け売り」
2人は同時に顔を起こした。
「ところで、あの2人はどうするの?」
「うーん、そうだな」
「ふゆぅう………」
魔王の寝室から人馬の女の子が目を擦りながら出てきた。
「あ、魔王様。お帰りなさいませ」
人馬の女の子が気付く前に、さささっと3人は乱れた髪や衣服を直し、姿勢を直した。
「うむ、ちょうど良いところに来たな。ハンスとエマの両親だがどんな人物だ?」
襲撃者の拠点で人馬奴隷だった女の子なら、人となりを知っているだろうと聞いてみた。
「ヴィム様とエリザベート様ですか?そうですね」
魔王が3人に増えていた事に一瞬戸惑ったが、“姉妹かなぁ?”と人馬の女の子は納得した。
「優しい人です。お二人共、私の身体を手入れして下さいますし、言葉も教えてくださいました」
「言葉をね」
「夫婦仲はどう?」
ニュクスが気にしたのは、夫の方が妻の裸を見た瞬間、妻に殴られたからだ。
“女の方は元男”と聞いているのでそれのせいかとも思っていた。
「最近は良いですね。私が買われた直後はエリザベート様がヴィム様を避けていましたが、エマちゃんとハンス君が生まれてからは二人で居ることが多いですね」
「避けてた?」
人馬の女の子が“余計な事を言っちゃった”と後悔しながらも、補足の説明をした。
「エリザベート様が最初は情緒不安定だったんです。“何で、自分なんだ!”って泣き叫んだり暴れたりして」
ニュクスが腕を組んで考え込む。
『無理矢理子供を作らされた?』
『そんなに苦かね?』
『カエは私達の身体を使うのに馴れてたから抵抗が無いだけでしょ』
「ですけど、ハンス君達が生まれてからは人が変わったように落ち着きまして。言葉使いも、お淑やかになりましたし」
“ま、いっか”と、3人は違う質問を人馬の女の子にしていった。




