復活!
「お疲れ様です~」
厨房の隅にいきなり魔王とトマシュが転移して来たが、そんな事に全く動じず、妖精さんが挨拶してきた。
「ああ、ご苦労様」
兵士達がケシェフの街に着く前に、転移でミハウ部族長の屋敷にこっそりと戻った魔王達だったが、何かふわふわした雰囲気の妖精のメイドさんに見つかってしまった。
「エミリアを見なかったか?」
カミルの事をエミリアに言う………。為ではなく、エミリアに見付からないうちに用事を済まして出掛ける為にエミリアの所在を聞いた。
「リーゼさんの所です」
「リーゼ?」
誰だったか?魔王が記憶を掘り起こした。
「捕虜の魔術師ですよ~」
「ああ、そうか」
『誰だっけ!?』
『おいこら!』
『拷問されてた女の人だよ!』
カエが完全にど忘れしていたので、イシスとニュクスが記憶を見せた。
『あー、そう言えば居たなあ』
カエからしてみれば、“大量に捕まえた捕虜の1人”程度にしか覚えていなかった。
「それと、お届け物が届いていますよ~。く~る便で」
「く~る便?」
何じゃそりゃ?
「お部屋に置いておきましたので確認してください」
「うむ、ご苦労」
『なんだろ?』
『憑代じゃないの?』
『あ、もう出来たのか。早いな』
トマシュと手を繋ぎ、見付からないよう慎重に魔王は階段を登った。
『ねえ、姿を消す必要ある?』
わざわざ魔法で姿を消している事にトマシュは疑問を感じる。
『いや、その………』
“イタズラがバレた子供じゃあるまいし”と、トマシュが呆れてる事に魔王も薄々感じていた。
『カエ達のせいじゃないでしょ。寧ろ、あのまま獣人化して暴れてたら、どうなってたか判らないんだし』
『うん………』
魔王の執務室に入り、トマシュが扉を閉めたところで魔王が背中寄り掛かってきた。
『カエ?』
昨日、魔王はヨルムの所から戻った時のように顔を埋めていた。
「トマシュは優しいな………」
「で、コレなんだろ?」
魔王の気が済んだ所で、改めて執務室を見渡していると1メートル四方は有りそうな木箱が魔王の机の前に置いてあった。
「恐らくは、ヨルムからだろうな」
魔王は大きさからして憑代が入っていると判断して、開けようとするが。
「あれ?開かない」
「ねえ、手紙が有るよ」
トマシュがデスクに置かれた手紙に気付き手に取った。
「宛先はグナエウス・ユリウス・カエサル・プトレマイオス様。差出人は………ゴブリン語だ。“JACK&JONATHAN PUPPET COMPANY”って書いてある。意味は………ジャックとジョナサンの傀儡社。傀儡の会社?」
トマシュから手紙を渡され、封を切ってみると中から通販等で良く見る商品の明細書だった。
「………英語?」
トマシュ曰くゴブリン語だが、神様から一通り言語を覚えさせられた魔王は、英語で書かれていることに気付いた。
「憑代4体10万ドル………………。4体!?」
イシスで1体、ニュクスで1体の計2体のはずが、何故か4体と記載されていた。
『どういうことだ?』
『予備とか?カエの分とか?ほら、カエが女性の身体を使っているから男性の身体の憑代が入ってるのかも』
『でも、それだと1体余るよ。それに私とニュクスの憑代の事しか聞いてないし』
「憑代って、要は聖霊や神様が使う“身体”の事だよね?」
「うむ、ヨルムがイシスとニュクス用に届けると言っていたが、4体はちと多いな」
他に何か無いかとデスク周りを捜すと、手紙がもう1通見つかった。
「こっちは、宛先が“グナエウスさん”で差出人は“ヨルムンガンド”だ」
「どれ?」
魔王が手紙を受け取り、ペーパーナイフを持った時だった。
急に木箱が勢い良く開き、蓋が大きな音をたてて床に転がった。
「う、ゲッフォゲホ!」
「何処だここは………」
木箱から顔を出したのは人狼の若い男女。
「え!?貴女達は!?」
出てきた二人に見覚えがあったトマシュが驚き、声を上げた。
「なっ!君は」
「テメエ!」
口が悪い女がトマシュに気付き、木箱から身を乗り出すと裸だった。
「うわっ!」
直ぐに二人が全裸だと気付き慌てて顔を背けた。
「っちょ、カエ!?何処!?」
その時に魔王の方を見たが居なくなっていた。
しばらくするとデスクの反対側から、ゆっくりと耳を後ろに倒した状態の魔王が顔を出した。
どうやら、音に驚いて隠れたようだ。
「何の騒ぎ!?」
騒ぎを聞き付けたマリアと妖精のメイドさん達が部屋に入ってきたが、全裸の人狼二人に気付き、妖精さん達は「きゃ~~」と悲鳴を上げた。
「素っ裸です!」
「痴女です!」
「痴漢です!」
「ストリーキングです!」
「誰か!衛兵を呼んで!」
「ああもう!静かになさい!」
裸に耐性がない………………訳ではなく。とりあえず面白そうだと騒ぎ立てる妖精さんをマリアは叱った。
「裸………?」
「え………?」
人狼二人が視線を下に向けると硬直した。
「え!?うわ!」
「見んじゃねえぇぇ!!!」
女の方が男の顎を思いっきり殴り、意識を失った男は箱の中に消えていった。
「ん?貴様は………」
「あん?」
デスクの陰から立ち上がった少女を女は見たが。
「ま、魔王様!?」
デスクの陰から現れたのが魔王だと気付いたマリアが慌てて例をしたのとは対称的に。
「ひっ!」
魔王だと気付き女は短く悲鳴を上げて固まった。
「なな、何でここに………」
女からしたら、一番会いたくない相手の魔王が目の前に居たので、恐怖で身体が震え出した。
「貴女達こそ何で此処に??」
マリアも人狼二人が誰なのか思い出した。
だが、本来なら此処に居る筈がない二人がなぜ此処に居るのか?
「ここは私の部屋だぞ」
魔王からしても、この二人は覚えていた。
と言うよりも、“殺してしまったことを後悔していた”
マリアの視線を感じ、魔王は“何もしてないぞ”と両手を上げるジェスチャーをした。
「ママー!」
魔王が保護していた、襲撃者の子供、ハンスが女に気付き、近付いてきた。
木箱から出てきたのは、何故か前日に魔王が返り討ちにした襲撃者だった。




