リーゼのその後
いつも同じ夢を見る………。
見馴れた街の中で弟の背中を追い掛ける夢を。
弟はチョロチョロと人混みを避けて逃げようとするが、最後には追い付いて弟を抱き寄せる。
“帰らなきゃ”
そう思い、家への道を探すが、今度は帰り道が判らない。
よく知っている街の筈なのに帰り道が判らず、不安な気持ちに襲われる。
気付くと、手を繋いでいた筈の弟が、大人の男の人に肩車をされて何処かに行こうとしていた。
私はその見馴れた後ろ姿に何かを叫ぶが、男の人は振り向かずに歩き続けた。
男の人の隣には女の人と、他に若い男の人が居た。
私は何度も何かを叫ぶが、4人は一度も振り返らずに遠くへ行く。
「きゃ~」
何か重たいものが、私の足元に潜り込んでくる感覚で目が覚めた。
「あれ?」
見慣れない天井。開いた扉からはドタドタと走る音と子供の笑い声が聞こえてきた。
「こら、待ちなさい!」
タタタタッと小さい人狼の子供が1人、扉の前を通り過ぎた。
「人…狼……?」
自分の身に何が起きたのか思いだし、寝惚けていた頭が一気にはっきりした。
昨日、人狼に捕まり。その後、拷問を受けて、それから女の子に助けられて………。
モゾモゾと何かが足元で動き丸まった。
「っ!?」
掛けられていた毛布を持ち上げると、自分の尻尾を抱き抱えた小さい人狼の子供と目が合った。
「シーっ!」
「????」
黙っててくれと言いたいのか、その子は小さい指で静かにしてとジェスチャーした。
「お身体は大丈夫ですか?」
声がした方を見ると、昨日助けてくれた人狼の神官と女の人が扉から入ってきた。
「え、ええ。大丈夫です」
正直、習っている間は使うことが無いと思っていたポーランド語をこんな形で使うことになるとは。
「食欲は有りますか?」
最後に食事を取ったのは昨日の昼だった。
「有ります」
そう言うと、メイド姿の小さい人間が食事をお盆に乗せて部屋に入ってきた。
見た目は10歳位だろうか?
「こちらは、黒パンとザワークラウトにソーセージになります」
小さいメイドがお盆をベッド脇に置かれたテーブルに乗せながら説明を初めた。
よく見ると、耳が少し尖っている?
もしかして………。
「妖精?」
小さいメイドはスカートの縁を持上げ、ちょこんとお辞儀をした。
「はい、メイドの妖精になります」
お祭りで仮装をした子供みたいだ。
「名前は?」
「秘密です」
妖精がそう答えた直後、建物の外で鐘が鳴り、部屋の外が騒がしくなった。
「モンちゃん、行くよー」
「は~い」
部屋の外からの呼び掛けにメイドの妖精が返事をした。
「では失礼します」
メイドの妖精がペコリとお辞儀をして、出口へ向かう。
「お出掛け?」
神官の問い掛けに、メイドの妖精はハニカミながら答えた。
「女子会です」
扉の前でもう一度ペコリとお辞儀をし、そそくさと出ていった。
………モンちゃんか、覚えておこう。
「あっ!こら!」
女の人が足元に隠れてた子供に気付き、声を出すと。「きゃきゃ」と笑いながら男の子がベッドから飛び出てきた。
女の人に抱えられ、男の子はニコニコとしている。
「エミリア、この子をカミラの所にふれへく…。連れてくよ」
喋っているのもお構いなしに、女の人の顔を男の子は触れたり軽く“ペチペチ”と叩いていた。
「う、うん」
エミリアと呼ばれた神官と二人きりになった。
「………私はどうなりますか?」
魔王の側近でもある神官に直接聞くのはどうかと思うが、思わず聞いてしまった。
「魔王様と相談したのですが、転生者の貴女を良く思っていない人が多いので、一度魔王様の奴隷になってもらいます」
「そうですか」
ある程度は予想していたけど、奴隷か………。
この世界の奴隷は何をやらされるのだろう。
前世のイメージだと、アメリカの農場奴隷しか思い浮かばない。
-顔が良いから、娼館で働かせる事も考えたが-
魔王が昨日言っていたことを思い出した!
どどどどど、どうしよう!!!
しょっ娼館ってアレだよね?
お、女の人が男の人とその………。前世でパパとママがそのしてたことを知らない人と?………。うわああ!ムリムリムリ!!
「あ、大丈夫?」
顔を両手で覆い、伏せていたら神官の人に心配された。
多分酷い顔をしていると思う。
「し、知らない男の人と添い寝とか無理です!」
「………………………はい?」
「はい?」
「添い…寝………?」
「寝相が悪いから娼館で働くのは無理です!」
「はい?」
「え?」
「魔王様はリーゼさんに身の回りの世話をして貰うつもりですから、娼館に売られる事は有りませんよ。………………と言うか、娼館って、女の人が男の人と話をするだけじゃ?」
「え?」
「え?」
「ただいま~」
男の子を送り届けた女の人が戻ってきた。
「マリアさ、娼館って女の人が男の人と話をする場所だよね?」
「………………はぁ?」
怪訝な顔で女の人は固まった。
「添い寝をする場所ですよね?」
「ん?うん!?」
女の人は目を白黒させる。
「あの………二人が言っている事は間違って無いと言うか。何て言うか………。娼館って女の人が男の人にセッ◯◯する場所なんだけど」
「はぁ!?」
「ええ"!?」




