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キャッスルシャーク4~ファイナル~

何か、鮫とタコを合体させたサメ映画も有るみたいですね。

「おっと!」

エンジンの力で機体が引っ張られ、前転しかけたので、フェンは慌ててエンジンのスロットルを絞り、エンジンのパワーを抑えた。

(全く、軽い木製の複葉機にこんなハイパワーのエンジンなんか載せるんだからな。マジめんどくさいなあの人。後、排ガスが焦げた醤油臭い)


「よっとっと」

カミルが真ん中の航法士席に着いたのを確認してから、今度はスロットルを緩め、複葉機の尾部が持ち上がりだしたところで、車輪のブレーキを緩めた。


「え!?っちょ?あれ??私は!?」

フェンが複葉機を走らせたので、ジョンは大慌てで飛び上がり。

「ホワチャー!」

「みゃ!」

黒猫の眉間を右の拳で小突いた。


「にゃ!?」

するすると小さくなった猫は、辺りを見渡しながら、首を傾げた。

「行くよ、お嬢さん」

猫を左手で抱え、ジョンは「とぅっ!」と地面を蹴った。


「うわぁ………凄い………」

どんどん加速する複葉機にカミルは年相応の反応をした。

「うおっ!?」

不意に身体が下に押し付けられる感覚に襲われ右を見ると、複葉機が乗っていた机が遠退いていった。


「え!?っわ飛んだ~~!!!」

竜等に乗って空を飛ぶ人は居るのは知っていたが、機械で空を飛ぶのは人狼どころか、カミルの住む世界では誰も経験したことがなかった。


「…ぁって~!」

「ん?」

「待って~!」

フェンとカミルが声がした左を見ると、猫を抱えて空を飛ぶジョンが此方に向かってきていた。

「はあぁぁ!?」

“人が空を飛んでる!?”とカミルは驚いた。


「ちっ!」

ジョンの事を置いていこうと思っていたフェンが軽く舌打ちをした。


新体操の選手ばりに空中でくるりと回転し、一番後ろの席に座ろうとしたジョンだが、空を切った。

「あらら!?」


ジョンはもう一度、複葉機に向かって加速し、座ろうとしたが再び空を切った。

「あれ?」


さすがに可笑しいと、今度は複葉機をジーっと見ながら近付くと、フェンが複葉機の方向舵を操作して避けているのが判った。

「ちょっと!乗せて乗せて!」


3度目の正直でジョンが席に座ると、フェンは機首を馬小屋の2階部分に開いた穴に向けた。


「外に出たら大きくするから、加速しといてくれ」

螺旋状にクルクルと上昇し、穴に対して十分に高度(1メートルかそこらだが)を取ってから、穴めがけて急降下を始めた。


「止まれ!警察だ!」

異変に気付いた警官隊が馬小屋のドアを破り、突入すると同時に、複葉機は外に飛び出た。


突入した警官隊や外で指揮を執っていた警察署長が爆音のする方を眺めると、大きくなった複葉機が*“バンク”をしながら遠ざかって行った。

*バンク:飛行機が羽根を左右に降って(ロール)行う合図。





「………ねえ、アルトゥル。ドワーフ語の本とか読めるの?」

「ん?」

“茶の湯入門”と書かれた本を眺めていたアルトゥルにトマシュが尋ねた。

「いや、こいつは異世界の言葉(日本語)で書かれた本だぜ」

「え?」


トマシュが歩み寄り、開かれているページを読み上げる。

〈茶の湯は粉末にした茶葉、“抹茶”を茶筅で………〉

トマシュがスラスラと音読して見せた。

「ほら、ドワーフが良くする茶の湯の本じゃん」


「………え?」


なに言ってるんだ?

アルトゥルはそう思った。


「これもドワーフがよく着てる“着物”の本だし、“忍者”の本に………」

「っちょ、待て。異世界の本じゃねえのか!?前世だと着物、忍者、茶の湯とか、日本って国の文化だったぞ」

アルトゥルだけでなく、トマシュも若干困惑しているのが魔王にも伝わった。


「いや、ドワーフだよ。小さい時に家族でドワーフの街に行った時に、実際に茶の湯をやったし」

「え!なっ!?」

ライネが略奪品の山から地図を見つけて一枚引っ張りだした。


「こっちの世界のドワーフだけど、どうも日本文化っぽいんだ」

ライネが見せた地図はドワーフの領地を描いたもので、街や地名が日本語で書かれていた。


「“吉田”、“中津”、“和泉”!?何だこれ?」

「知らなかったの?」

ライネが半ば呆れた反応を示した。

「たまにだけどファレスキの港に貿易船が来てたじゃん」

トマシュも似たような反応を示した。


あれ?と思い、イシスがトマシュの腕を引いた。

「ねぇねぇ、トマシュはアルトゥルが前世(異世界)の記憶を持ってる事には驚かないの?」

トマシュが「え?」と顔に書いてありそうな顔をした。

「いや、前から教えてもらってたし。たまに異世界の話も聞いてたし」


ライネが補足説明を続けた。

「正直、珍しく無いんだよね。ほら、人狼って多産でしょ?兄弟の中に1人、2人前世の記憶を持ってる人が居ても不思議じゃないんだ。特に僕みたいに、前世でも今の父と親子だったりと、前世で繋がりが深い人が親兄弟で転生することもあるし」

「へぇー」


“大方、この世界の神様のロキが適当な管理をしているんだろう”と魔王3兄妹は納得した。


もっとも、10人兄弟が当たり前の人狼だから相対的に転生者が多くなっているだけで、比率で言えば人間と変わらないのだ。


『あ、タコがやられた!』

ニュクスが念話で叫んだ。

『破壊されたか?』

『大丈夫だけど、死んだフリをさせてる』

3号に倒された大ダコのゴーレムの事だった。


『これで死んだフリをしているのが鮫が2体とタコ1体と………。残りのタコは?』

『転移門と接続されていた、魔術回路の解析に1体。中央の吹き抜け回廊を見張っているのが1体』


「あー、居た居た!」

「ん?」

振り替えると、ヨルムが蛇の下半身を器用に使い、新しく開いた転移門から出てくるところだった。

その後ろをぞろぞろと、仰々しい防護服姿の妖精さんが何十人も遅れて出てきた。


「あら?何か用?」

ニュクスが身体の操作を奪い答えた。

気付けば、トマシュ達が硬直していた。

「ルール違反だよ」

「?」


3兄妹で話し合った。

『何だ?』

『さあ?』

『何か有ったっけ?』


「人間の神殿を攻撃しないってルールが有ったでしょ?」


ヨルムの一言に魔王は腕を組んで固まった。

『誰か聞いてたか?』

『聞いて無いわね』

『聞いてないよ』


「とりあえず、神聖王国への攻撃は一旦止めて。報復がしたいんだったら、他の人間の街とかを破壊する分には問題ないから」

「断る」

「なっ!」


本当は直ぐにでも引き上げるつもりだったが、ヨルム相手に有利な見返りを期待できそうだと虚勢を張ることにした。

「そんな話は一言も聞いていないし、こっちは大事な部下を1人廃人にされてるしね。この程度で怒りが収まるとでも?」


ヨルムの後ろでは、妖精さん達が金属探知機やタブレットの様な装置を使い、神殿から略奪したものを調べていた。


「カミルさんとクンツさんは私が責任を持って元に戻す。だからっ!」

魔王の尻尾がピクッと揺れた。

『おっ!悪くないな』

『でも、ロキの所の神獣だし他に見返りがあるんじゃない?』

『もうちょっと押してみない?』


尻尾をわざとらしく怒った時の様に立たせてから、魔王は深めに溜め息を吐いた。

「判ってないわね。私は部下を廃人にされたのもそうだけど、私に対して手を出した事に怒っているのよ?」


一方のヨルムは魔王の目を見据えたまま、静かに発言した。

「始まって直ぐにゲームを滅茶苦茶にしたら、お姉ちゃんが他の神様の怒りを買うんだよ?」


『何か有ったっけ?』

『さあ?』

『さあ?』


「パパが神聖王国の神官を通じて人間を動かしているのに、神殿の権威が落ちる事をしたら、何が起こるか判らなくなるでしょ?」

『そんな事言われても、な?』

『知ったことじゃないし、ね?』

『そもそも、マリウシュ部族長の話だと人間自体が神殿を信じなくなってる筈だよね?』


「それが何か?そっちの不都合でしょ?そもそも、マリウシュ部族長に聞いた話だと、神殿の信託を信じてない人が多いんだし。今更変わらないんじゃないの?」


ヨルムが「うぐっ」っと一言だけ声を漏らし、黙ってしまった。


『なあ、泣いてないか?』

『え、嘘』

『泣かしちゃったね』

ヨルムは「だって、いけないんだもん………」と良いながら泣きじゃくり出した。


「あ、あの………。良いでしょうか?」

ヨルムの身の回りの世話をしている妖精のメイドさんがゆっくりと手を上げた。


「カエサル様のお気持ちは重々承知しておりますが、魔王が人間の神殿を直接攻めるのは禁止………とまでは行きませんが、避けることになっています。過去に神殿が弱体化した時に人間が出鱈目に周辺を攻め立てたのでコントロールするために、最後まで神殿組織を残しとこうって事になりまして」


『そんな話は』

『聞いてない』

『うん、聞いてない』

3兄妹は何のこちゃ?と思った。


「なので、今日のところはお願いします。せめて勇者の召喚が行われるまでは、お控えいただきたく………」

妖精のメイドさんが恭しく頭を下げた。


『まあ、そう言うことなら』

『退いても良いかしらね?』

『戦利品は有るし』

本音はヨルムを泣かしたのが申し訳なくての発言だが。


「対価として、カエサル様の妹君の憑代をご用意しますので………」

魔王の耳がピンッと立った。

「ほぅ………」


魔王が上機嫌になったのに気付き、妖精のメイドさんが続けて説明した。

「ニュクス様は人狼。イシス様は人猫の憑代です」


魔王の尻尾が上機嫌にゆっくりと振れているのを妖精のメイドさんは見逃さなかった。

「判った、今日のところは引き揚げる」

「………ホント?」


ヨルムがうつむいた状態で質問した。

「約束は守る」


「じゃあ、ケシェフに帰ったら憑代を届けるよ!」

急に元気になったヨルムだっが、目が腫れていた。


「後、危ない物が無いか調べてるけど、コレどうするの?」

ヨルムが指差した略奪品の山は防護服を着た妖精さんが半分ほど調べ終わっていた。


「勿論持って帰るつもりよ」

小物はトランジスターから大物はディーゼルエンジンの模型まで雑多な山を見て、ヨルムは“ホントに持って帰るの?”と思った。

そして、ちょっと時代錯誤過ぎると思った。


「何で、ディーゼルエンジンが………」

中世程度の科学水準の世界の筈が、何でこんなオーパーツが………。

「神聖王国が転生者を集めて私が死んだ2000年後の技術で色々と造っているらしい。本当は人間が開発してる原爆関連の物を集めるつもりだったが」

ヨルムどころか、妖精さんが何人か振り返った。


「どこでその情報を?」

魔王の目がカエの鳶色に変わった。

「拐われてたエルノさんからだ。神聖王国側から開発に協力するように誘われたのと、生前見た具体的な設計図も誘拐犯に見せられたと」


ヨルムが自分のタブレットを取り出して住民のリストを表示した。

「エルノさんが生前見たって言ってたけど、どういう事?」

「生前、その原爆の開発に関係してたと本人は言ってたぞ。それにアルトゥルとライネも阻止するべきだと」


前世の略歴を見ると、エルノの前世。エドガー・コーエンは1940年に収容所を脱走し。その後、ドイツ侵攻前のオランダ経由でアメリカに逃亡し、原爆開発に携わっていた。


「………関係者がそう言っているなら間違い無いか」

しかし、ヴィルマが神官に推薦したエルノが物理学者だった事は知らなかった。それは妖精さん達も同じようで、ヨルムの肩にしがみつきながら、「原爆?」「収容所?」と知らない単語を口にしていた。

(まさか、昨日居なくなったのは、この事を知ってたから?)

「ヨルム様、コレでは………」

「ヴィルマ様とは………」

魔王を置いてきぼりにして、ヨルム達が何やかんやと話し出したので、しびれを切らしたカエが話し掛けた。


「で、危ない物は有ったのかい?」

妖精さん達が「大丈夫です」と口々にヨルムに報告すると列を作り、転移門に戻っていった。

「大丈夫だって」


「それはよかった。ところでだが、人間が原爆開発をしていることは知らなかったのか?」

嫌な質問をするなと、ヨルムは天を仰いだ。

「全く、寝耳に水だよ。人間側に妖精は居るには居るけど、私みたいに管理をする神獣は居ないから、情報が入ってこないし」


『適当だな』

『まあ、ロキだし』




「なんと………」

吹き抜け回廊にようやく到着したラオトハイト大主教は被害の大きさに声を漏らした。


回廊の南側はと階段は完全に崩れ落ち、魔術兵だけでなく、5階などから推移を見守っていた高位の神官や巫女も巻き添えを食らい、行方不明になっていると報告を受けた。

「指揮を執っていたシャハト卿と救援に来ていた近衛の一部も行方不明です」


水中では孤軍奮闘しているオートマタが居ることなど露知らず、2階では混乱が広がっていた。

既に1階では1号が落下した人々を救助していたが、溢れ出る水の音が邪魔をし、叫んでも2階にまで状況が伝達されず。伝令を出そうにも水流のせいで中々辿り着けず、既に居なくなったシャハト卿が10分以上前に指示した命令や現場の状況が遅れて届き全体が把握できなかった。


「水を凍らせて塞ぐ計画でしたが、魔術兵が全滅したため継続は不可能です」

神殿から外に出すぐらいならと、シャハト卿が氷で塞ごうとしたが完全に失敗し。もはやなす術がなかった。


「ラオトハイト*座下(ざか)!水が止まりました!」

*主教に対する敬称

腰に命綱を着け、通路から様子を伺っていた僧侶が叫んだ。


「何?」

急に静かになったので、他の通路からも兵士や神殿関係者が顔を出した。


動いているのは1号と溺者そしてトビマスだけだが、誰も動けなかった。

再び鮫が現れるのではと恐怖し、動けなかったのだ。

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