キャッスルシャーク3~反撃 パンツァーアンドロイド~
「た~す~け~てぇ~!!」
ジョンを拐った黒猫が、壁際でジョンを降ろし、前脚でコロコロと転がしながら遊びだした。
「うわぁっ!」
只の黒猫が相手なのだが、ジョン自身が魔法で身長3センチ程に小さくなっているので、今のジョンはまるで英雄譚に出てくるドラゴンに襲われた人の様だった。
「…………。さ、乗りますか」
「いやいや、助けないと!」
フェンが“メンドクセェ”と心の声が聞こえてきそうな顔をしてジョンを見た。
「さ、乗りますか」
「いや、良いんですか?」
「あの人はいっぺん死んでみた方が良いかと。あ、死んでも直ぐに復活するから大丈夫ですよ」
何事も無かったかの様に、フェンが木製の脚立を立て始めた。
“本当に良いのかな?”と、振り向くと「ふわあ、あぁ、止めて~」と黄色い声を上げているジョンに黒猫が頬擦りしていた。
「あ、あの人。猫とか犬とか動物好きなんで」
「は、はあ………」
フェンが脚立に登り、複葉機の座席を確認して回る。
(先頭から操縦席、航法士席、無線士兼後方銃座、と。相変わらず時代設定がごちゃ混ぜだなあの人)
次に機首のエンジンを確認した。
(これはドイツ製の液冷12気筒か、あースターターが無い。イナーシャスターターか。本当にめんどくさいなあの人)
「ふははははは!イナーシャハンドルは私が持っているぞ!さあ、助けたまえ!」
(保険でイナーシャハンドルを抜いてたな、マジめんどくさいなあの人)
発進が面倒な事に気付き、フェンが考えを纏めるために、複葉機の左側に立って思案した。
(カミルさんにエンジンのスイッチ入れて貰ってから席替えするのは難しいよな。かといってイナーシャハンドルも備え付けて無いから、起動力は誰かが作らないと。でも、手でエンジンを掛けると、回り出したペラに捲き込まれかねないしな。あ!)
何か閃いたフェンが、足元に長さ10メートル…………(実際には16センチ位だが)のロープが投げ捨ててあるのを見つけた。それをプロペラ軸に巻き付けたところで、カミル指示する。
「カミルさん、僕が合図をしたら、このロープを思いっきり引っ張ってください。その後はコイツが回りだすので、捲き込まれないように迂回して後ろの席に乗ってください」
「あ、はい!」
バン、バンと扉を叩く音が聞こえた。痺れを切らした警官隊が突入しようとしているのだ。
“時間が無いな”と、フェンは手際よく発進準備を始めた。
操縦席に座り、まず電源のチェック。スイッチを入れると豆電球
が光り、問題無さそうだ。
振り返り、尾翼の方向舵を動かすフットレバーと同じく尾翼の昇降舵と主翼端に有る補助翼を動かす操縦捍を動かしたが、同じく問題なし。
本当は、ジャイロコンパスや磁気コンパスが正しく北を指しているか等、チェックしなければいけないのだが、仕方がない。とりあえずは問題なく飛べるので我慢する。
正面を向き、エンジンに燃料を供給するために手動式ポンプを操作しつつ、ブレーキレバーを目一杯効かせる。
「回して下さい!」
カミルがロープを引っ張り、プロペラから離れた。
「コンタクト!」
プロペラ軸がエンジン軸と接続され、エンジンが黒煙と爆音を轟かせながら回り出した。
「うわぁ、凄い」
何か判らんが、凄い事になったぞと、カミルはワクワクした。
「距離20。等速度で接近してます」
「1、2号は渡り廊下の残骸へ、5号は柱の陰へ」
指揮官の指示を操作員が打ち込み、それを受信したオートマタの魔術回路が指示されたとおり身を隠す。
「3号を引き返させろ、急げ」
通路に取り残されたオートマタにも指示を出す。単独行動は危険だからだ。
「3号、交戦開始」
「何!?」
石盤に映ったのは、鮫の咥内。
してやられた。頭が良いと聞いていたが、まさかオートマタを引き離して、各個撃破を図るとは。
「3号、頭部損傷。………1、2号、接敵。発砲します」
石盤の画面を状況確認画面に損傷状況が表示された。
3号
・ソーナー損傷 -使用不可-
・頭部光石損傷 -使用不可-
4号
・左脚部損傷 -走行不能-
・右脚部損傷 -走行不能-
4号に1、2号が撃った銃弾が当たっているので致し方ないが。
「1、2号は目視出来ているのか?映像では何も映っとらんが」
「相対位置から予測して撃っているだけです。映像を回します」
1、2、5号の映像も指揮官の石盤に転送されたが、確かに相手を確認出来ないのに、5号からの映像では通路に向かい水中銃を撃っている。
止めさせるべきか?オートマタは歯車を用いた機械式計算機と、魔術と異世界の電子工学が融合した魔術工学によって制御されているが、本格的な戦闘は例がなく。一度、発砲を止めた後に再発砲を判断できるのか不安があった。
「うわっ!」
突然、足元が揺れて指揮官と操作員が転倒した。
「うわぁぁ!」
声のした方を見ると、シャハト卿と彼の部下が居なくなっていた。
彼等が居た辺りの回廊が崩れ落ちたのだ。
「ふ、2号喪失!」
5号からの映像には、背後から鮫の突進を諸に受けた2号が、そのまま南側の柱に叩き付けられ、吹き抜け回廊を支える柱が折れたのが確認できた。
「崩れる!走るぞ!」
けたたましい音をたてながら、吹き抜け回廊が崩れ始め、指揮官と部下の操作員は大慌てで、2階の通路に向かった。
落下物が原因で起きた濁流と粉塵の中、無傷の1号は2号を潰した鮫のゴーレムに突進し、近接用の大剣を突き刺した。
大剣が刺さった鮫のゴーレムが暴れるが、1号は鮫のゴーレムごと大剣を振るい、ゴーレムの頭部を何度か地面に叩きつけた。
やがて鮫のゴーレムが動かなくなり、1号は周囲を見渡す。
僚機の2号は上半身がひしゃげた上に、崩れ落ちた残骸で完全に埋もれてしまい、5号も残骸をもろに受け、同じく埋もれてしまった。
3、4号は未だに動いてはいるようだが、各部を損傷しているのが、念波を使った通信で確認できた。しかし、今の騒ぎで南側通路の入り口が残骸で埋もれてしまい合流するには迂回する必要があった。
つまり、1号は無傷では有るが孤立してしまった。
命令では、“現在地を死守し、神殿兵が魔法を放つまで援護せよ”となっているが、状況が変わりすぎたと1号は判断した。
操作員へ“命令を継続するか”を確認したが返信が無い。
1号は捜査員が居るはずの地上2階が“在った”場所を見た。
そして、水面から地下4階までを見渡し、ある結論を得た。
“捜査員が死傷、もしくは操作機器が使用できない状態”だと。
………何故なら、瓦礫の量からすると、明らかに地上2階どころか最上段まで崩れ落ちていたからだ。
従来型のオートマタなら、どれ程状況が変化しても与えられた命令だけを盲目的に守ろうとするが、1号は状況の変化に対応しおうと自らに与えられた命令を変更する決断をした。
“3、4号は戦闘態勢継続。可及的速やかに合流し、管制室を調査せよ”
“1号は臨戦態勢へ移行。要救助者を護送後、3、4号に合流せよ”
軍用オートマタの存在理由は戦場での兵員の援護、文民の保護。
そう神聖王国の技術者に定義付けされている1号は、開発者の意図通り落水した人の救助を優先すべく、胴体に備え付けられた水中用の推進機をの起動を準備した。
1号は体内のタンクから水を排出し浮力を得てから推進機を慎重に吹かし、意識を失った神殿の魔術兵に向かって進んでいった。
鮫のゴーレムに襲われた3号は、鮫の顎から逃れようと右手で鮫の胴体を掴み、左手で鮫の頭を殴り付けていた。効いてはいるようで、鮫ゴーレムは身体を捩り、3号の拘束から逃れようとした。
それでも3号は執拗に殴り続け、鮫ゴーレムの動きが弱まった所で左手を鰓に突っ込み頭を鮫ゴーレム頭を引き千切ってみせた。
左手に胴体。右手に頭部を持つ形になった3号は、それぞれを壁に叩きつけ4号の元へと走った。
4号から送られてくる念波から、だいたいの位置を把握することが出来た3号だったが、頭部を激しく損傷したせいで、頭部から視覚情報を得られず、胸部に取り付けられたカメラを模して作られた視覚装置しか使えないので視野が著しく限定されていた。
途中、狭い視野のせいもあり、通路に散乱していた書棚等を踏み潰しつつも、3号は現状を確認しつつ装備を選んでいた。
まず4号だが、3号とは違い“敵かの攻撃で損傷”を受けていない。脚部に受けた損傷はいずれも、1、2号が放った銃弾が原因で歩行可能だが、走行不能状態に陥っただけだった。
しかし、拘束してきている敵は鮫ゴーレムではないと、4号からの通報を受けていた。視野を奪いつつ、オートマタの怪力を持ってしても、尚拘束し続ける未知の敵が相手だと理解した3号は、急ぎつつも慎重に進んだ。
『あー、もう1体やられた』
一方の魔王3兄妹は2体目の鮫ゴーレムがやられた事に少々焦りだした。
『妙に頭が良いな、術者から操作機器を奪い取ったのに的確に動いて見せるとはな』
今、カエが指示を出しているのは、ちゃっかりと先の崩落騒ぎでオートマタの操作員と操作装置、更にはシャハト卿を捕虜にした大ダコのゴーレムだ。1号が居た地下4階を迂回し地下3階から転移門に向かわせていた。
『どうする?もう1体、鮫ゴーレムを中央に回す?』
『んー』
チラリと、カエは転移門の脇に出来た本や書類、更には魔術具に機械類を積み上げて出来た山を見た。
捕虜の確保と平行して、物を運び出していたので、転移門周辺はまるで隊商が商品を並べた様に雑多な雰囲気になってきた。
「これは電波の本に、ディーゼルエンジンの本、航空工学に………料理本」
「こっちは………、亜人大全、異世界の近代史を纏めた本、SF小説、園芸書、漢字の本だな………“古事記”?うっは、日本の本まで有るぜ!」
アルトゥルとライネは自分達が居た異世界の本が有ることに狂喜しつつも、想像通り神聖王国で20世紀の技術を積極的に開発していることに不安を感じていた。
「アルトゥル。何か使えそうなものはあるか?」
「あー、そうだな」
アルトゥルが本を何冊か手に取った。
「本だけみても色々ある、これなんか鋼鉄のレールの上を物や人を乗せて走る“蒸気機関車”って機械の本で、こいつは|蒸気機関の設計に関する本、薬学の本」
ライネも何個か機械類を手に取った。
「こっちも凄いよ。腕時計に真空管、トランジスター、電子機器だらけだ。それとこいつは………」
ライネが指差したのは鋼鉄の塊。
「僕らが居た世界だと、ディーゼルエンジンって呼ばれてた発動機だよ。これで車輪を動かして“自動車”っていう馬の要らない鉄製の馬車とか、スクリューを回して鋼鉄の船を動かしたりしてたんだ」
「後、こっちもすげえぜ。色々な文化についての解説本だぜ」
アルトゥルは本を一つ手に取り、読み始めた。
『うーん、頃合いかしら?』
『他にめぼしい物も無さそうだしな。オートマタを回収したいところだが、既に2体もやられたし、今回はこれで良いだろう』
『じゃあ、転移門を調べ終わったらコアを回収するよ』
3号が構えた盾に水中弾が当たり、金属音が辺りに響く。
3号は4号に追い付いたのだが、4号を拘束している大ダコのゴーレムが4号の機関銃を奪い、発砲してきているのだ。
4号が3号に照準が合わないように動き回るので、狙いは不正確だが、毎分1000発は弾が出る機関銃を使っていたので、当たる時は当たるのだ。
ガンッ!と音がし、機関銃の発砲が止まった。
4号が左手の中指を徘莢口に突っ込んだので遊底が前進出来なかったのだ。
大ダコのゴーレムは、当然銃の知識など無いので、“棹桿を引いて銃本体を叩けば直る”何て事は知る由もなかった。
その上、相対していた3号が、発砲が止まると同時に4号から“銃を無力化した”と通報を受け、盾を投げ捨て剣を構えて突っ込んで来た。それを見た大ダコのゴーレムは4号を突飛ばし、逃げようとする。
3号と出会う直前に、ニュクスから“時間稼ぎをしつつ後退しろ”と指示されていたので、撤退を決めたのだ。
しかし、大ダコのゴーレムは勢いよく泳ぎ出したものの、壁に衝突した。
4号が逃すまいと右手で足を掴んだので、壁に叩き付けられる形になったからだ。
大ダコのゴーレムが4号を他の足で叩き、引き剥がそうとするも、3号が間近にまで迫った。
悪足掻きに、墨を吐いたが無駄だった。
3号が構えた大剣が目と目の間に突き刺さり、そのままの勢いで3号と大ダコのゴーレムは壁に衝突し壁を突き破った。衝撃で動かなくなった大ダコのゴーレムは予備の短剣を何度も突き立てられ完全に動かなくなった。




