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キャスルシャーク ~恐怖のゴーレムシャーク~

「あー、此処此処。此処で降ろして」

フェンに降ろされ、ジョンことロキは急いで馬小屋に飛び込んで行った。


残されたフェンはカミルを馬小屋の前に置かれたロッキングチェアに乗せた

「大丈夫ですか?」

「なん、とか………」

尻尾から落ちた影響で、カミルはまだ下半身が痺れていた。


「尻尾ですかね?ちょっと失礼」

フェンが見るとカミルの尻尾は、くの字に曲がっていた。

(ああ、これは動けないな)


カミルも薄々感付いてはいるが、尻尾が根元近くで折れていたのだ。

(このまま身体に戻ったら、尻尾の感覚は無いだろうな)

現在、魂だけの霊体だが、霊体が傷付くと全く問題がない身体の部位が正常に動かなくなるのだ。


尻尾が切られたり、曲がってしまうとバランスが取りにくくなり。運動に支障が出る。人狼達が、わざわざ鎧の中に尻尾を入れるのは切り落とされる事を嫌がっての事だ。

そして、人狼を含め尻尾が有る亜人は尻尾が綺麗な事が社会的にもステータスであり、特にカミルの様な未婚の亜人は尻尾の形で結婚が決まる場合も有るのだ。


(まあ、コッソリ治すんだけどね)


流石に可哀想なのでフェンが治癒魔法で治した。


「あ、あれ?」

尻尾から痺れが消え、感覚が戻った。

「まあ、見た限り異常はないですよ」

カミルが立ち上がり尻尾の方を振り返り、色々と動かして感触を確かめた。


「おっと、警官だ」

フェンが警官隊に気付き、カミルを馬小屋に引っ張り込んだ。



「あそこだ!」

小銃を構えた警官が馬小屋を指差す。

「戦車は?」

「坂の下でエンストしてます」

「署長、装甲車なら来ます」

署長と呼ばれた男はため息を吐いた。


「他に応援は来れそうか?」


無線機を背負った警官が答えた。

「3班程向かってます。後………。今、連絡が。対岸(あの世)から軍隊がこっちに向かってきてます」


あの世から応援が来ると聞き、署長は焦った。

「後、どのくらいで?」

「1時間もかからないと」

いよいよ不味い。三途の川署の署長を任され30年。今までも脱走騒ぎは有ったが、今回のように分署とは言え、留置場を爆破された例はなく、犯人を逮捕できずに軍隊が来る事など無かった。


「ロキ様に怒られる………」

会ったことは正直無いが、他の神様の例からすると、最悪処刑されるかもしれない。


「応援の3班が来たら突入するぞ」

こうなったら、軍隊が来る前に制圧せねば。



「クシュン!」

「風邪ですか?」

上着を脱ぎ、テーブルの上で木材や布を切り貼りしていたジョンがくしゃみをした。

「いや、誰かが私の噂をしてるようだ」

フェンが“やれやれ”とジェスチャーをした。


「ところで、何を作っているんですか?」

「飛行機」

カミルがテーブルの上を見ると、ジョンは木材の骨組みにキャンパス生地をせっせと張り付けていた。

「あ、此処での出来事は言い触らさないでね。特にカエちゃんには」

「え!?」






「うわっぷ!」

一体、何が起きたのだ!?

司書をしている若い僧侶は半ば溺れかけながらも必死に浮こうとした。

此処は神殿の地下だが、急に水が階下から溢れだし、あっという間に天井近くにまで水が迫った。

既に照明の蝋燭等は消え、天井付近に備え付けられた光石を使った僅かな照明だけが周りを照らしている。


「だ、れか、居ないか!」

叫ぶが、誰からも返事がない。

天井付近まで水位が上がり、梁にまで到達したせいか水位が増えなくなった。

「はぁあ!ゲッホゲホ」

「大丈夫か!?」


急に現れた同僚にビックリしつつも声を掛ける。

「ゲッホ、此処は?」

「図書室だよ。てか、お前は下から来たのか?」

コクコクと噎せながら首を縦に振った同僚は、更に下の階で転移門の管理を担当していた。


「最初、転移門が幾つも、開いたり閉じたりしだしたんだが。ルーター回路の故障かと思って、転移門に近付いたら急に“Ⅳ番”から水が噴き出してきたんだ」

「他の人は?」

「分からない。とにかく必死に泳いで、途中から天井付近の空気溜まりを伝わって、此処まで来たが誰にも会ってない」




「押せ!」

年長の神官の号令に合わせ、僧侶3人で外開きの木製の扉を押したがピクリとも動かなかった。

彼らは寝室で身支度をしている時に、天井や扉の隙間から水が漏れ出ている事に気付き、脱出しようと唯一の出入口で有る扉を押していた。

「もう一度、押せ!」

「ああああ"あ"!」


渾身の力を込めても、まるで壁を押している様に動かなかった。

「ダメか」

「一体、何が起きたのでしょう?」

「まさか洪水!?」

「此処は丘の上なんだ、あり得ない」


突然、扉がドンッ!と音を立てた。

「誰か居る?おい!此処だ!助けてくれ!」

「おーい!」

3人がドンドンと扉を叩くと、呼応するように、ドーンドーンと反対側からも扉が叩かれた。

「良かった。助かるぞ」


誰かがそう呟いた直後だった。

ドスンっ!と扉が吹き飛び、大量の水が3人に襲いかかった。





「陛下は避難してください。此処は私達が何とかします」

他の人が居るので、先程までの砕けた調子ではなく、形式ばった口調で大主教はアデルハルト王にこの場を離れるように促した。


「………判りました。ですが、直ぐに近衛兵を率いて戻ってきますよ」

一瞬、この場を離れる事にアデルハルト王は躊躇したが、この場に残ることで却って状況が混乱する事を危惧し一旦離れる事にした。

お忍びに近い形で居城から神殿に出向いていた以上、いきなり現れれば指揮系統や護衛の為に神殿関係者を混乱させるのは目に見えていた。


膝下まで水位が上がった廊下をバシャバシャと音を立てながらアデルハルト王が向かった裏口とは逆方向、水が噴き出している転移門の方にラオトハイト大主教は見習いの少年と僧侶の3人で向かった。

「しかし、一体何が」

大きい通路に出ると、水は流れを持っており、深みに足を入れてしまった僧侶がエントランスの方へ流されていくのが見えた。


「一度2階へ上がりましょう」

水が外に流れている以上、浸水はこれ以上は酷くはならない。しかし、転移門の在る地下に通じる階段がある場所は、この先に在る間口の狭い通路を通る必要があり、これ以上奥には行けないと大主教は判断した。

幸い、地下に通じる階段は吹き抜けになっており、エントランスの階段から2階を経由すれば行けるのだ。


壁伝いに見習いの少年が先頭、次に大主教、僧侶と一列になり、エントランスへ向かう。


すると今度は、言葉にならない奇声を上げながら、流されながらも出口に逃げる様に向かう僧侶が通り過ぎていった。

「に、逃げろ!」

もう1人叫び声を上げながら僧侶が流されて行き、ラオトハイト大主教は振り返った。


「………急ぎましょう」


しかし、慌てず慎重に3人は階段を目指す。




「図書室から上に行くには………」

一方、図書室に取り残された二人組は出る方法を話し合っていた。

「扉を出て左だ」

「左?右じゃなくてか?」

図書室を出て右に向かえば、1階へ通じる階段がある。なぜ、反対にと思ったが、下からやって来た僧侶が真剣な顔で理由を話し納得できた。

「ああ、古い昇降路が在るだろ?アレならこの地下2階から地上5階まで各階に通じてる。そっちなら右の通路と違って流れが無いから、途中流されて怪我をすることも無い筈だ」


確かに、昔は使われていた昇降機を通す縦穴、昇降路が左手にはあった。

「成る程。よし、行こう」


司書の男が息を大きく吸い、潜ろうとしたが。

「待った、ローブを脱ぐんだ。邪魔になる」

「………ああ、すまん」

すっかり失念していたが、ローブなど着ていたら絡み付くに決まっていた。


「よし、行こう」


先ず司書の男が潜り、僧侶が追う形で二人は扉の外へ向かった。

水が少し濁ってはいたが、頼りない天井付近の光石の灯りでも5メートル先までなんとか見渡せた。図書室の扉に掴まり、司書の男が僧侶を待っていたが、ふと、“ゴツン”と音がしたので司書の男は1階へ通じる通路を見た。

通路の方はもう少し明るく、下から流れてきた木箱同士がぶつかり、人が小走りする程のスピードで流れていくのが見えた。


トントンと肩を叩かれ、僧侶に“上がるよう”促された。

「ふっはぁ!」

通路上部の空気溜まりに二人は息継ぎの為、浮き上がった。

「はあ!ハアハア………」

「確かに、アレじゃ怪我するな」

「ああ、しかし、此処は意外と空気が残っているな」


幸いなことに、昇降路側と上に通じる通路側に仕切りが設けてあったため、天井に手が付かないほど空間に余裕があった。


二人はその空間に顔を出しながら、昇降路側に泳いで行く事が出来た。

「この上か。なあ、1階の扉の手前までしか水が来ていなかったらどうする?」

「大丈夫だ、梯子代わりに壁をよじ登る為の孔が空いてるから上に行ける」

「成る程、じゃあ行くか」


再び、司書の男が潜り、僧侶が後から続いた。

昇降路と通路を仕切る古い扉をとめている(かんぬき)を二人で外し、扉を少し押すと容易に開いた。


二人は手でジェスチャーをし、司書の男がゆっくりと上に浮かび上がる。


「う"っ!」

途中、地下1階の扉の隙間から人の腕が出ているのが見え、司書の男は声を漏らした。

地下1階の扉は閂だけでなく、転落事故防止のため、鎖で施錠していた。見えた腕は運悪く、その扉を開けようともがいたが、息耐えた人のソレだった。


ソレを正視する事が出来ない司書の男は顔を下へ反らしたが、異変に気付いた。

“後ろから着いてくる筈の僧侶が居ない”

目を凝らすと、地下2階の扉付近で何かが動くのは見えた。


「ふっはぁ!」

「大丈夫か!?」

司書の男が水面に出ると光石のカンテラを持った、複数の兵士が上に居るのが見えた。

1階部分の昇降路の扉は、荷馬車から荷物をそのまま降ろせる様に1段高くしているので、その分低い位置が水面になっていた。

「下にもう一人居るんだ!」

「良いから早く上がれ!」


「がっ!あ"あ"あ"あ"あ"あ"!」

僧侶が遅れて浮かび上がったが様子がおかしかった。

「掴まれ!」

兵士の一人が縄を投げ、僧侶が掴んだが。


「あ"っ!」

「うわあぁぁ!」

僧侶が急に潜り、縄を投げ入れた兵士も引っ張られ、水中へと消えた。


「なんっ………」

“何だ?”と、司書の男は喋ようとしたが、水中の深い所で赤い何かが広がっている事に気付き、言葉を呑み込んだ。


水中では、腰に結び付けた縄を剣で切ろうともがく兵士が、まるで雲の様に広がった、其処へ引きずり込まれた。


“何かが居る!”

司書の男は大慌てて、扉へ泳ぐ。

「手を伸ばせ!」


手を伸ばした司書の男だったが、身体を突き上げられ、宙を待った。

「ああ!」

手を伸ばした兵士の叫び声がした方を見ると、巨大な魚に飛び掛かられていた。


(アレは………まさか、鮫?)

司書の男は壁に打ち付けられ、再び水に落ちた。

巨大な鮫は兵士の右腕に噛み付くと、そのまま水の中に兵士を引きずり込んだ。


(鮫なら雷魔法が苦手な筈だ)

ドワーフの昔話を纏めた本に、“商人、杵屋庄左衛門が幕府の御用船を襲う鮫を雷で退治した”と書いて有った事を思い出し、水中で雷魔法の準備を始めた。


しかし、魔法が準備段階に入るが、何故か打ち出せる電圧に上がらなかった。掌に魔方陣は広がるが、水中で発動させようとしたため、充電されずに発生した電気が全て水中に散っているのだ。


「うっぷ!クソ、やられた」

だが、兵士を引きずり込んだ鮫を追いやる程度には効果はあった。鮫は頭部にロレンチーニ器官と言う生物が発する電気を探知する器官があるのだが、司書の男が放電した電気を嫌がって深みに逃げ出したのだった。


「お、おい、魚はどうした!?」

更に他の兵士が剣を構えながら顔を出した。

「判らん、急に腕を離してどっかに消えた」

幸い、右腕に骨折と裂傷を負っただけで助かった。


「上がれるか?」

「ああ、左腕は無事だ。あんた、先に上がってくれ」

司書の男が兵士に促され、先に1階に引き揚げられた。

「こっちだ」

立とうとしたが、恐怖で足が震え立ち上がれず、兵士二人に脇を抱えられ、通路脇の小部屋に移動する。


「ゲッホ!ああ!ロープをくれ!」

僧侶と一緒に引きずり込まれた兵士が上がってきた。


「大丈夫か!?」

「俺は大丈夫だが急いでくれ!それと誰か彼に回復魔法を!」

僧侶は脚を何ヵ所も噛まれていたが、まだ息があった。


「救護班!」

慌ただしく、兵士が行き来し、担架に乗せられた僧侶も部屋に運ばれてきた。

僧侶は意識が無いのか、呼び掛けに反応しない。

「血をかなり失ってるな。血液型は判るか?」

「今調べます」

兵士が紙に血を付けると白煙が上がり、やがて黄緑色に燃え上がった。

「O型です」


「他に生存者は?」

「彼等だけだ」


外の方に目を向けるとフードを被った魔術兵が昇降路に向かうのが見えた。


「よし、昇降機を落とせ」

「了解………。爆破!」


爆発音と共に、木製の昇降機が落とされ、衝撃と溢れた水が通路に流れる。

「放て!」

指揮官の号令の後、冷気が広がり通路にうっすらと霧が流れた。


魔術兵が昇降路に貯まった水を凍らせ、昇降路を封鎖したのだ。

「次に向かうぞ」


負傷した兵士を小部屋に送り届けた後、兵士達は小走りで移動を始めた。



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