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続・問題しかない

「えっとぉー?こうかな?」

鉄格子の鍵穴に針金を突っ込みながら、ジョンは独り言を言った。

「可笑しいな、映画だと直ぐ開くのに……」

「ロキ様?」

「うひゃああ!?」


ジョンが悲鳴を上げ、飛び上がった拍子に鍵穴に差し込んでた針金が根元からネジ切れた。


ジョンが針金をポケットに隠しながら振り返ると、声の主は鉄格子が嵌められた留置場の窓から顔を覗き込んでいた。

「あー、その名で呼ぶな。今はジョン・スミスだ」

声を掛けたのは、よく知った男。

自分が魔王をやってるドワーフの国の管理を任せている男だ。


「…はい?てか、何やってるんですか?」

状況が呑み込めないその男が思わず聞き返した。

そもそも、魔王遊びをしてた筈の創造神が、何故か三途の川に来ていると聞いて探し当ててみれば、何故か留置場に居ることからして意味不明なのだが。


「いやあ、見ての通り何故か捕まってね……。あ、アレ?」

ポケットから再び取り出した針金が千切れている事に気づいたロキことジョンが鍵穴に手で撫でると、チクチクと千切れて鍵穴の中に残った針金の先端が指先に当たる感覚が有った。


「千切れちゃったよ。なあ、何か持ってないか?」

「何かとは?」

ジョンが両手で30センチ程の長さを示した。

「このぐらいの大きさで、ちょっと硬いので」


男は自分の髭を撫でながら“何か有ったっけ?”と、懐に手を入れ、何の気なしに手が触れたものを取り出した。

「コレなんてどうですか?」

男が窓から差し出したのはフランスパンだった。


「ああ、助かる。ちょっと離れてくれ」


ジョンは男が窓から離れたのを確認してから、フランスパンに魔力を流し込んだ。




「それで、そのお連れさんの特徴は?」

駅前まで案内しがてら、警官がジョンの特徴をカミルから聞き取っていた。

「身長180センチ位。中肉中背。赤い髪で、口髭有り。瞳は赤…」

「何だ?」

警官の一人が振り返ると、桟橋の方から轟音が聞こえた。




「げふぉげほ」

「ロキ様やりすぎです」

砂埃まみれになりながら、ヨロヨロと留置場から出てきたジョンに男はぼやいた。

「いや、フランスパンを投げ付けたんだけど………此処こんなに脆かったっけ?」


記憶だと“他の神様の所で死霊術士が三途の川から逃げ出した”と聞いてたので、ちょっとやそっとじゃ壊れないように建て替えさせたつもりだったが。


「此処は只の煉瓦ですよ。もう、音速を越える速度でフランスパンを投げるなんて何考えてるんすか」

警官がホイッスルを鳴らしているのが聞こえてきた。

「ヤバい。逃げるぞ!」


そそくさと桟橋とは逆の方へ走り木立の陰に入った時だった。

「って、ちがーう!」

ジョンが振り返り男の肩を掴んで止まった。

「なんすか!?」

「クンツ君だよ!クンツ君!クンツ君を探していたんだ!まずい、渡し船はもう出たか?」

「出ましたけど!」


ジョンが三途の川へ向かった。

「走って追い掛けるぞ!」

「あ、ちょっと!」

ジョンが両手を上げると三途の川が真っ二つに割れ、川底を対岸に向け走り出した。

「急げ!汽車が出るまで時間がない!」

「クンツ君なら汽車に乗せましたよ!」


「ん!?」

川底を20メートルは進んだジョンがメジャーリーガーよろしく踵を返し、男の元に全速力で戻ってきた。

「ヨルムに頼まれたんすよ。“人狼のクンツが獣人化の呪いが掛けられたからお兄ちゃん助けて”って」


“いや、聞いてないんだけど!?”と思いつつも、“まあ、いっか”と思い、カミルを汽車に乗せるべく移動しようとした。


「じゃあ、もう一人呪われた少年が居るから、そっちへ行、アイタ!」

「痛ってぇ!」


騒ぎを聞き付けた警官が留置場から拳銃を発砲し、何発か二人に当たったのだ。

「止まれ!止まらんと撃つぞ!」

「「もう、撃ってんじゃん!」」

反射的に二人が突っ込んだ。


銃を撃ってきた警官の他に、一人二人と警官が集まりつつあった。


「どうします?」

ジョンは我関せずといった感じで駅の方へと歩き出した。

「あんな22口径(5.56ミリ)の豆鉄砲なんてちょっと痛いだけだ」

ドドドドドッとエンジン音を響かせながら留置場が入っている建物の影から装甲車が現れた。

「流石に30口径(7.62ミリ)ならきついが」

「ロキ様。アレ見て」

「ふぇ!?」

男の方を振り返り、指差した先を見るのと、装甲車の砲塔が自分達の方を向くのはほぼ同時だった。


「走るぞー!!!」







「現状必要なのは、そのウラン鉱石とベリリウムの2つだけ

か?」


魔王からしたら遥か未来の話。それも、平行世界とはいえ自分の死後約2000年後に、要約すれば“都市を一瞬で破壊する爆弾が量産されました”といきなり説明され。その爆弾を神聖王国で造られようとしているとしているとミハウ部族長の孫のエルノから説明を受け、なんなら自分達も造れないかと話題になった。


と言っても、魔王と前世は物理学者として核開発に参加していたエルノの二人の間で会話が弾んでいるだけで、ライネとアルトゥルは暗い顔をして考え込んでいた。


「後は、高純度のグラファイト(黒鉛)が有れば……と言いたいところですが、如何せん十分な電気も有りませんし、冶金術も進歩してないので道具すら揃えられない状況です」


「ある程度純度が低くても、錬金術師が不純物を除去出来ますので」

何故か参加しているウラム家のメイドのヴィルマの発言も二人を不安にさせた。

“錬金術師が居れば開発のハードルがかなり下がるのか”と。


ウラン鉱石(ピッチブレンド)からポロニウムを抽出。それから発せられるα線をベリリウムに当てるとベリリウムは中性子を放出する。その中性子を減速材と言われる、軽水、重水、黒鉛(炭素)にぶつけ、ある程度速度を落としてから天然ウランの99%以上を占めるウラン238に吸収させ、複合核ウラン239に変化させる。その後、中性子過剰になった複合核ウラン239がβ崩壊を起こし超ウラン元素であるネプツニウム239に変換される。そして更にβ崩壊を起こしたネプツニウム239が別の超ウラン元素のプルトニウム239に変換する。

言葉にするのは簡単だが、そもそも中性子やα線を観測する機器は?満足な電子機器が無いのに爆縮は?本当に魔法で爆縮出来るのか?そもそも、どうやって巨大な爆弾を敵地に送るのか?



『飛行機やロケットは無えだろうな……』

『内燃機関が無いし、ロケット燃料も誘導に使うジャイロスコープも無いしね。ペイロードもV2基準で1トン弱だし。初期の原爆とか5トン位あるから無理だろうね』


「黒鉛って、鉛筆の芯のか?」

フランツが懐から鉛筆を出し、魔王とエルノが盛り上がっているのも他所に、二人は念話で話し込む。


『飛行船や気球はどうだ?』

『速度が遅いでしょ。それにどうやって移動すんのさ?』

『風魔法とかどうよ?カエも似たような感じで使ってるし。後、ズヴェルムで馬車みたいに引っ張るとか』


巨大な原爆を吊るした気球を何頭ものズヴェルムが引っ張っている姿を想像してみたが、何とも間抜けな絵面だった。

『そんなにうまく行くかな?速度も出なさそうだし、簡単に迎撃出来そうだし』

『高高度なら?検討してみる価値は有るんじゃねえか?』


確かに、1次大戦時にドイツ軍が飛行船を使って空爆をしてたが。


『後は船か何かの魔法かな?』

『ああ、日本で観たテレビ番組なんだけど。デッカイ怪獣に爆弾を呑み込ませて敵地に送るなんてどうよ?道すがら街も壊してくれるし』

ライネは額に手を当て、“エルノさんはハーバー議員だと言ってたが、たまに孫と話してる時を思い出す程に幼稚と言うか、ぶっ飛んだ事を言うんだよなあ”と、念話には流さずに心のなかで思った。


『それ僕も観たけど、帰巣本能で戻ってきたり、首を回収されたらどうすんの?』


「では、資金については私が用意するが、エルノさんの提案通りに核開発検討委員会を設置して、月に一度報告をする事。その報告の場で必要な物資、資金について話し合う事。この2点を決定する」


いつの間にか会議に近い形になり、魔王が終了を宣言し全員が席を立った。

「アルトゥルとライネは残ってちょうだい」

エルノ達と話し合っている最中も念話で色々話しているのを聞いていたニュクスが二人を引き留めた。


「そんなに恐ろしいものなのか?」

他のメンバーが出て行き、暫く経ったところで魔王が語り掛けた。


「………核兵器が出来てデケェ戦争は無くなったさ。考えてみてくれ、戦争がおっ(ぱじ)まれば1時間もしねえうちに、大都市の殆んどが焼かれ数千万人、下手したら数億人が死んじまう時代(じでぇ)が来たんだ。“相互確証破壊”って言ってな。核を持った大国同士が24時間365日休みなくお互いを監視してた位なんだ。だがよ、神聖王国だけが核兵器を持ったら、お構いなしに其処ら中にばら蒔くに決まってる」


アルトゥルの鬼気迫る様子に、ニュクスは戸惑った。

「……詳しいわね」

髪の毛を撫で下ろし、アルトゥルはめんどくさそうに答えた。

「コレでも前世は軍に居たし、上院(senator)議員として軍事委員会に参加してたんだ」


「ん?………元老院(Senatus)議員?」

「僕らの居た世界だとローマに倣って元老院(上院と訳され事が多い)と下院を置く国が多いんだ」


魔王がボリボリと後頭部を掻いた。

「貴方達、転生者なのね」


珍しく、ライネが肩を竦めながら愚痴り出した。

「君が知っている限りだと、僕とアルトゥルの他に、ヤツェク長老、ミハウ部族長、チェスワフ部族長、フィリップ卿の4人、僕の今の父になる鍛治ギルド長に冒険者ギルド長、フランツさんとそのパーティーメンバーの人達って所だけど、アルトゥルは酷いんだよ。前から転生者だってバレてるのに、“何してたの?”って聞いても、“しがない保険のセールスマンだよ”って適当に嘘ついてはぐらかして」


余程鬱憤が溜まってたのか、ライネが指折り数えながら早口で話し出した。


「鍛治ギルドや冒険者ギルドで“前世の技術を再現してる”って聞いたら、やれ“映画が観たいから映写機を造ってくれ”、“映画とくればコーラとポップコーンだよな、作ってくれ”、“ポテチが食べたい”、“ジーンズ無ぇの?”、“空飛びたいから飛行機を造ってくれ”、“サーフィンしたいからサーフボードを作ってくれ”……後は………」


とうとう、アルトゥルが口を出したが。


「おい、シナトラの曲が聞きてぇから、レコードを依頼してたろ!どうなったんだよ?」


ライネが「フンッ」と、アルトゥルの頭にチョップを落とし、ニュクスが「あらら…」と声を漏らした。

「な、何しやがんでぇ」

「いい加減にしろ!もう、鍛治ギルドは君のオモチャを作る所じゃないんだ」

「な、違ぇよ!」


アルトゥルは痛かったのか、頭を擦ったっていたが、立ち上がって抗議した。

「お前、プロパガンダ戦略とか舐めてんだろ。海外行ってな、大統領の顔と名前とか知らねえ子供なんかがハリウッド女優やアニメのキャラクターの名前とか知ってたりすんだよ」

「………で、本音は?」


アルトゥルが満面の笑みで答えた。

「カミンスキーランドを造って億万長者に!」

「こんのっ!」

ライネがアルトゥルに掴み掛かった。

「お、おい!ライネ」


普段大人しいのがいきなり切れるととんでもないことになる。

前世は短い人生だったが、普段大人しいイシス()ミケア()………。いやま、どっちもカエの妻だが。この2人が特に酷かったので、ライネもこのパターンかと身構えづつですアルトゥルを心配したが。


「わ、たんまたんま!」

「君一人だけ儲からせて堪るか!」

「ギブギブギブ!」

ライネはキチンと加減しながら、関節技をアルトゥルに掛けていた。



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