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転生者収容所

話の流れはぶった切れますが、収容所での騒動です


「大丈夫ですか?」

「心配ない。ピエトロの弟の情報だ」


人狼の領地と人間に占領された地域を隔てている大森林を抜けた先、人間の占領下に置かれた村の周囲に散弾銃を持った人狼の男達が集まっていた。


「もうそろそろ、収容所が襲われる」

リーダーが懐中時計で時間を確認下が、部下達は半信半疑だった。


「ドン。疑うわけじゃないですが。あの収容所が本当に襲われるんですか?あそこは銃を持ったドイツ野郎がうようよ居るんですよ」

“ドン”と言われた、ルイージ・ポルツァーノに代わり、弟のマリオ・ポルツァーノが質問に答えた。

「どうも彼らは勢力を広げるのに急ぎすぎたらしい。この世界の貴族や騎士を粛正しているが、その歪みで過激な反対派がテロを起こすようになったそうだ」


マリオが見つめる先に、石の壁で囲まれ。所々監視塔が備え付けられた刑務所のような施設が見えた。

「今回の襲撃も投獄された政治犯達の解放が目的のようだ」


「神聖王国に知らせてやんなくていいので?」

「……これは彼らの問題だ。私たちは仲間を救えればそれでいい」




『労働終了!食事!』

刑務所のような施設の中心に立つ3階建ての建物から声が響き渡り、収容者達は作業で使った道具を格納場所に置きながら、作業場や農場から食堂へと列を作り始めた。


「貴様!何を隠した!」

木工所の入り口付近で収容者を監視していた看守が不審な動きをする人猫の少年に気付き、拳銃を抜くとその少年を列からつまみ出した。

「な、何だ一体!?」

「出せ!ポケットの中身だ!」


ここでは日常と化していた。

今殴られている収容者の囚人服の襟には前世の世界で罪を犯した転生者で有ることを示す刺繍があり、特に看守達は罪を犯した転生者を狙って暴力を振っていた。


宗教国家であった筈の“神聖王国”でこの手の収容所が出来て30年近く経つ。


国政を動かしていた神殿組織の中で出来上がった、転生者達の派閥が主導して各地に建設し、今では占領地である人狼の領地にも建てられ始めていた。


異世界の技術を齎すので最初は持て囃され。神聖王国だけではなく周辺の人間の国でも支持を集めていた彼等だったが、現国王の代になる頃には神殿組織を牛耳り。彼等に従わない者たちを次々と収容所に送り始めたのだ。


勿論そんな神殿の横暴に黙っているだけの人間達は居ないわけでもないが、神殿が齎す異世界の技術を用いた機械類や技術のおかげで平民達の生活が急激に豊かになり。神殿に抵抗している貴族や騎士達が悪者に見られる事となり。反乱の芽は潰されがちだった。





「それで、何処の誰が収容所を襲撃するんで?」

豊かになった農民や商人でないとすれば、騎士達と相場は決まっているが、誰が収容所を襲撃するのかポルツァーノの手下達は気にしていた。


「さあ、な。私もピエトロから聞いただけで何処のイカれた奴なのかまでは聞いていない。だが、ピエトロの情報だと反共主義者のようだ」

ポルツァーノ兄弟からすれば、どうでも良い北の人間達の反乱にかこつけ、火事場泥棒的に収容所にいる昔の仲間を救助できればいいので。誰が蜂起するのかはどうでも良い情報だった。


「ドン、踏み絵ってことは無いっすよね?神聖王国側の?」

「今更そんな事をしてもどうなる?…始まったぞ」


収容所の一角から黒い煙が立ち上り始めた。


「火事だ!収容者を宿舎に戻せ!」

火事が起きたのは食堂に隣接する調理場だった。看守達は食堂に集まった収容者達が消火活動の邪魔にならないように大急ぎで出そうとした。


「戻れ!おい!」

「どけこら!」

しかし、食堂と宿舎を結ぶ狭い通路で、食堂に向かう看守達と宿舎に戻される収容者がぶつかり合い、動きが止まり始めた。


既に、一部の収容者達は将棋倒しになり、狭い通路を囲う木製の壁の一部から抜け出す者もいた。


「おい、止まれ!」

職員用のスペースに逃げ込んで来た収容者に看守たちは銃を向けた。




「火元は?」

収容所全体を見渡せる位置に建てられた指揮所に所長が入ってきたので職員達は緊張した。

「第1区の食堂です。消火隊を派遣しています。現在、全部の区で収容者を宿舎へ戻しています」

収容所は大きく3区に分けられ、第1区は非協力的な異人種の転生者等の危険度が低い者。第2区は人間の政治犯や害を及ぼす可能性が有る転生者。そして第3区は危険な政治犯や前世で重罪を犯した転生者が主に入っていた。


「第2,第3区の閉鎖処置は終わりましたが、火元の第1区は未だです」

途中で狭い通路を通すために避難が進まず、一部の収容者は通路の壁を越え外と収容所を隔てる石壁の周囲にまでやって来たので、監視塔の兵士が彼等に向け小銃を撃ち威嚇射撃をしていた。


「村の消防隊に応援を要請しろ。それと、火災警報を鳴らせ!」





「おい、此処を通れ!」

火災警報を聞き看守達が職員用の通路の一部を開放し、収容者達を避難させ始めた。


「おい、…オットー・ジーベルか?そのまま前を見続けろ。看守達に見られたくない」

「誰だ、あんたは?」

急に前世での名前を呼ばれ、人狼の男は身構えた。


「仲間だ。今から脱走する。……こっちだ着いてこい」

オットーの宿舎の手前で列から外れ、別の宿舎へと向かった。

「待ってくれ。第2区に妻が居るんだ。私だけ逃げるなんて」

「心配無い、貴方の妻も仲間が逃がす」


30人用の宿舎に入ると他の収容者10人に囲まれた。

「コレに着替えろ」

渡されたのは、神聖王国の国王軍が使う兵士の制服に特徴的な末広がりの鉄兜だった。

「急いでください。仲間が来ます」





「始まったな」

収容所から黒煙が上がるのをみて、ポルツァーノ兄弟たちも動き始めた。

「爆薬は?」

「何時でも」

手下の1人が黒いカバンを掲げてみせた。





「所長、消防隊が来ました」

部下に言われ、正門を見ると消防隊と荷馬車が敷地内に入ってくるのが見えた。

「っ!アイツ等銃を撃ったぞ!」

門を守っている職員と第1区へ通じる内門を警備していた職員が撃ち殺され、消防隊が第1区に入るのが見えた。


「アイツ等テロリストか……。軍に応援を要請しろ!それと警報だ!全員戦闘態勢」

所長が指示した直後、門徒は反対側の壁が吹き飛んだ。






「ドン、そのマルコってどんな見た目ですか?」

「知らん!!」

「えええ゛!?」


助けに来たはずのマルコという転生者の見た目を“知らん”と言い放ったルイージに部下達は驚いた。

「とりあえずだ!」

ルイージは目に着いた看守を散弾銃で撃った。


「看守は倒せ!マルコを見付けたら合図を忘れるなよ!」





「現在、第1区の収容者が逃げ出し、村の防衛隊が出動しています。第2区は延焼の影響もあり人狼の侵入者に対処しきれていません。第3区は警備を固め今の所は大丈夫です」

神殿からは第3区の政治犯だけは何があっても外に出すなと厳命されていた。最悪、焼き払う事も許可されたいた。


「所長、竜騎兵のワイバーンが着陸の許可を求めています」

部下の1人が指差した先に4体の黒いワイバーンが旋回しているのが見えた。

「よし、第1区と第2区に降りてもらえ」





「来たぞ」

宿舎の脇で様子をうかがっていた兵士に化けた収容者達の目の前に黒いワイバーンが2体降りてきた。

「こっちだ!銃を持った連中が収容者を逃している」

看守の1人がワイバーンに近付いた。


ワイバーンの背中には従者の座席と更に後ろに2列6人分の座席が着けられた鞍が乗っており、そこに乗っていた6人の銃を持った兵士たちは大急ぎで正門へと向かった。


(よし、こっちに来い!)

ワイバーンの従者と看守が手招きし、オットーと兵士に化けた収容者達がワイバーンに近付いた。

「このまま仲間の拠点にまで飛ぶぞ!」

兵士に化けた1人が慣れていないオットーに鞍に備え付けられたベルトを着けると、従者に合図を送った。





「居たぞ!」

銃を撃った相手に苦戦しつつもマルコを見つけたポルツァーノの部下は叫び、笛を鳴らしていた。

「よし、逃げるぞ!」

第1区で暴れているどっかの誰かに便乗し、マルコを助ける作戦だったが案外うまく行き、ポルツァーの達は施設爆破した壁から大森林の方へと走った。

ルイージ達が看守を倒した事もあり、他の収容者達も大勢逃げ出していた。


「こっちです!」

途中、待機していた仲間の人馬や人狼が馬を連れてポルツァーノ達の元にやって来た。

「乗ってくれ」

「アンタ達は!?」

馬に跨がりながらマルコは誰なのか聞いた。

「久しぶりだなマルコ。私だ、ルイージ・ポルツァーノだ」


馬に跨がり、大森林へと向かいつつ。ルイージが名乗るとマルコは涙ぐみながら御辞儀をした。

「ドン・ポルツァーノ……。一体なぜ、私を……」

ルイージは左肩を撃たれていたが、マルコとの再開を喜び微笑んでいた。

「…お前はファミリーに尽くしてくれた。これはその礼だよ。あの時はありがとう」


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