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宿営地到着


フランツの仲間の一人が光石を入れたカンテラを掲げると、何度か点滅し、暫くすると前方でも光りが点滅した。

『班長、発光信号です』

『冒険者が発光信号を使うのか』

『なあ、発光信号って何だ?』


灯りで合図をする事自体は有るのだが、少しやり取りが長いのでカエは気になった。

『ああ、光ってる時間が短いのと長いのがあるっしょ?』

所謂、モールス符号の長・短の事をアルトゥルが説明した。

『例えば、“短い光と長い光”でアルファベットの“A”、“長い光と短い光が3回”で“B”とか決まってんのよ』

『つまりは、文字のやり取りが出来るわけか』

『でも、魔王様の場合は念話の方が早いですからね』

音声どころか映像、感覚まで共有出来る念話の方が便利だとカミルは思っていたが、カエからは以外な反応が帰って来た


『そうでもないぞ、念話はお互いの魔力を合わせる必要が有るし、遠くまで届くが存外遠くまで届くし、内容を盗み聞きされやすいんだ』

『え!?じゃあ、このやり取りも聴かれてるかも?ってこと?』

『その心配は多分無いぞ、他の人には“ザー”って音にしか聴こえん様にしとるし』

カエのやり方は、音をAM変調の様に念波に変換した後に“わざと”念波を滅茶苦茶な波長にし、雑音に変えてから送っているのだ。


「先遣隊に追い付いたぞ」


しかし、先遣隊に合流するだけで、色々なことが起きるなとカエは厭な気分になった。




「襲撃されたのは、水車の手前と……」

指揮所に使っているテントに、騎士団、冒険者ギルドの代表者も交え、襲撃の報告をすることになった。

「はい、この辺りから道が泥濘まして、地中にゴーレムが潜んでいました」

「数は?」

「20は居ました」

「20……」


報告を聞いた騎士団のピウスツキ卿が冒険者のフランツに意見を求めた。

「この街道を一時間前に通った時は何もなかったが、短時間で待ち伏せの用意は出来るものか?」

「地形からして十分可能かと」

フランツが水車の脇を流れる小川の上流を指を示す。


「丁度襲撃された場所一帯は、この小川が何年も流れを変えてきた事もあって、地下水が多いので、水魔法を使えば簡単に地表に水を引けるはずです」

「なるほど、地下水を操ったのか。しかし、ゴーレムは?20もの数になれば、移動するだけで目立ち、斥候が見つけれると思うが」

行軍するときは、行進隊形を取る本隊と、それの前方と周辺を警戒する斥候が付くのだが。今回の先遣隊は、戦闘が得意な騎士団員とギルドの冒険者を二人一組で組ませ、かなり広範囲を警戒していたのだが。


ピウスツキ卿の発言を冒険者の一人が肯定する。

「斥候は魔王様から渡された指示書の通り“菱形の頂点に一組ずつ配置し、お互いの組の間隔が15メートル以上開くことがないように”と厳命を受け実際に間隔を守りつつ、警戒しましたし、“菱形の中心に魔術師を配置し、魔力の残滓に気を配れ”とも書かれてたので、その通りに配置して異常は報告されておりません」


「魔王様の話では、ゴーレムは命令文を書いた(コア)があれば、出先で作れるとの話でしたので、恐らく先遣隊が通り過ぎてから待ち伏せのために展開したのかと」

「そうなると、判らんなあ」

フランツの軽口に、その場に居る騎士団員の視線が集まる。


「厳しいですかな?」

「恐らくですが」


フランツが地図の脇に並べられた駒を使って説明した。

「魔王様から渡された指示書は結局のところ、“自隊に対し敵意を持った集団に対する事前警戒”程度の配置でしかないな」


駒をT字型に置き、チョークで台形を書いた。

「前方の警戒を密にして、攻撃して来る敵を発見するには適してはいますが前面に厚く配置された斥候をやり過ごした後」

先遣隊に組み込まれた騎兵の駒をフランツが指差す。

「特にピウスツキ卿と私達が居た最後尾の挺団が通りすぎた後は側面への警戒も薄くなる、その後に術者二人が徒歩で警戒範囲外から接近するのは十分可能な筈だ」


『で、どうなんですか?』

フランツが言ったことが正しいのか気になり、カミルはカエに尋ねた。

『実際にそうだ。結局のところ、破壊活動を行う連中を捜し出すには人数も足りんしな』


「となると、彼らの狙いは本隊か」

「それか、私達が引き返す際に足留めをするつもりだったのか」

ピウスツキ卿が宿営地周辺の地図に目を移す。


「宿営地周辺の警戒はどうなっている?」

「最低2個班(20人)が警戒に当たるようにシフトを組んであります。また、外周冊も半分ほど完成しています」

羽ペンでピウスツキ卿が地図に書き込みをし、指示を出した。

「今設置している外周冊が完成しだい、外にもう一周外周冊を作れ。それとここの斜面に先を鋭くした杭も設置して近付けないようにしろ。休憩中の班も総動員して本隊到着に間に合わせてくれ。警戒に当たる班には“警戒を厳となせ”と指示を出せ」

「了解しました」


ピウスツキ卿がカミルに一瞥した。

「君の班は術士との戦闘もあったから、テントで休んでてくれ」

『カミル、断って警戒班に回すように願い出てくれ』

「いえ、私達も警戒班に編入して下さい」


ピウスツキ卿が砂時計で時間を確認する。

「では、30分後にシフトの交替がある。その時から頼む」




「起きろ、エドガー・コーエン博士」

前世の名前を呼ばれ目を醒ましたが、周囲が暗く声の主が見えない。

カビ臭い、何処か建物の中なのか、音が全く聞こえない。最後に記憶があるのは、妖精の泉で襲撃された時の記憶。その後に拉致されたのか。

「それとも収容番号478923と言った方が良いか?」


最悪だ!

「人違いだ!俺はクヴィル族のエルノ・ウラムだ」

身体を動かそうにも魔法で椅子から立ち上がる事が出来ない。


「現世の君の事は調べさせて貰った。人狼のクヴィル族、そこの部族長の孫で、その部族長の祖父も転生者だということもな」

足音が一人分聞こえ、天井に吊り下げられた光石が輝き、姿を表したのは人狼の男。


「誰だお前は」

「私を忘れたか?478923」

男が紙袋を差し出した。


「吸うか?」

差し出された物の臭いがキツく、思わず顔をしかめる。

「タバコは要らん」

「そうか」


男は一本取り出し、吸い出した。

平気なのか?


「ホントに判らんのか?」

「知らん……」

顔を盗み見て前世の名前を調べる。


ヘルマン・フォン・ガイガーSS中佐。

1975年、逃亡先のアルゼンチンで死亡。

前世での接点:ベックスシュタイン強制収容所。


「ふん、まあいい。君に協力して欲しいことがあってね」

そう言いながらガイガーが取り出したのは一枚の絵。

「原子物理学者だった君なら何なのか判るだろ?」

「ふっははは、下手くそな絵だな。ピーナッツ農家でもやれっていうのか?」


取り出したのは米軍のW53弾頭の内部構造が書かれた設計図。それも、現場部隊に配る必要最小限の情報や偽の情報が書かれた物ではなく、製造工場向けに描かれた物だった。

特に、ピーナッツ型に配置されたプルトニウム型原爆と水素リチウムの配置は一部の人間しか知らないはずだ、何処でコレを………。


「我々はこれの開発を開始した」


指差したのは水爆のプライマリー。プルトニウム型核弾頭。

「爆縮レンズを中世程度の技術力しかないこの世界で造れるとでも思ってるのか?」

原子爆弾の理屈自体は簡単だ。

ウラン235やプルトニウムと239言った核分裂物質が臨界量に達すると、連鎖反応を起こし、火薬とは比較になら無いエネルギーが発生する。


しかし、問題がある。それこそ兵器級のエネルギーを得るには一瞬で大量の放射性物質の塊にし、超臨界状態にせねば発生したエネルギーで放射性物質が飛び散る、下手すれば、デーモン・コアの様に中性子をばらまくだけで爆発すらし無いんじゃないか?

特にプルトニウムの場合は例え臨界寸前の大きさであっても、完璧な爆縮をしなければ混ざり込んだプルトニウム240が先に反応し過早爆発で威力も下がってしまう。


「おいおい、大事なことを忘れているぞ、コーエン博士。この世界には魔法がある、そうだろ?」

まさか……。

「君にやって欲しいのは、プルトニウム239のパレットが“経験する”時間のスピードを一時的に止める技術の開発だ」

時間が進まなければ、中性子線が出ないから臨界も起きないか……、悪知恵ばかり働かせやがって。


「何をするつもりだ?核地雷でも埋めまくるつもりか?」

「イヤイヤ、まさかそんなイギリス人みたいな事はしないさ」

ガイガーはまるでひそひそ話をするように、耳に近付き囁いた。

「これで魔王を全て葬り去る、奴等の眷族共々な」





『コチラ、アルトゥル。異常無いっすよ』

宿営地周辺の警戒をしつつ、アルトゥルが念話を飛ばしてきた。

『コチラ、ライネ。同じく異常なし』

『コチラ、カミル。異常なし』

『静かなもんだね』

宿営地の周りを時計回りに歩きながら、周囲に気を配ってはいるが、何も起きる気配がなかった。

『しかし、静かすぎるな。トマシュ、周囲に反応はあるか?』

『小さい反応しかないよ。多分、リスか何かだな』


「倒れるぞ!」

トマシュが声がした右手を見ると、100メートル近い杉の大木が進行方向に倒される直前だった。

『まあ、この調子じゃ動物も寄ってこないか』

「よし、引けー!」


倒れる方向に誰も居ない事が確認されたので、8人掛かりで縄を引き、2人がハンマーで楔を打ち込み、杉の大木は大きな地響きを上げながら倒れた。

『でかいな』

『樹齢10年って所かな?』

『10年!?』

幹の太さは、枝を落とす作業をしている冒険者の腰辺りまであり、どう見てもそんなに若い木には見えなかった。

『この辺は妖精さん達が木を育ててるからね。もう少し奥に行くと、若い木も生えてるよ』

『妖精、がね……。勝手に切っても良いのか?』


妖精が管理している木々をさっきからすごい勢いで伐採しているが、良いのかと気になってきた。

『後から請求されるってフランツさんが言ってたよ。それに妖精さん達が本気になれば一晩でこの大きさの大木は生やせるらしいし』


カエに説明していたトマシュが急に左方向。宿営地から見て山脈に通じる街道の方を見た。

『どうした?』

『誰か来る』

「街道方向!なにか来る!」

トマシュの一言に、作業をしていた冒険者達が脇に置いていた弓矢などを取り、倒した大木や窪地に身を隠した。

冒険者の一人が松明を持ち、立ち木の影から様子を窺うトマシュのそばに走り寄って来た。


「何処だ?」

「街道の山側からです。速度からすると馬に乗っているか、それか例の大きな犬かと」

報告している間に、馬の蹄の音が聞こえてきた。


「馬か。拒馬を置け!急げ!」

街道側に伏せていた4人が丸太にX字に杭を打ち込んだ拒馬(移動式のバリケード)を街道に移動させた。


襲撃を報せる鐘が宿営地から鳴り響く。

『魔王様、何事ですか!?』

『街道を馬が駆け降りてきた』

「ここで待ってな」

そう言い残し、冒険者は松明を振りながら街道の真ん中に立った。


「止まれー!」

『今、現場に居合わせた冒険者が対応に当たってる。持ち場は離れるな、陽動かもしれん』

馬の姿が見え冒険者が叫ぶが、馬は速度を落とす事無く突っ走る。

「止まれ!あ、クソ!」

馬を避け、端に退いた冒険者が、馬の向かった拒馬の方向に叫んだ。


「暴れ馬だ!」

トマシュの居る位置からは誰も乗っている様には見えなかったが。

『誰か乗ってるな』

『え?』


馬が拒馬に衝突したのか衝撃音が聞こえた。

『うわ…った!』

『ん?アルトゥルか?どうした?』

アルトゥルとカミルの会話から、“そう言えば、拒馬の辺りにアルトゥルが居る頃合いか”と遅まきながらにカエが気付いた。


『暴れ馬がそっち行ったって教えときゃ良かったなあ』

『まあ、アルトゥルは大丈夫じゃないかな?』


『丁度、拒馬の近くに居たんすが、馬が拒馬に突っ込んで即死しやした』

『突っ込んだって話だが、止まりきれずにぶつかったのか?』

カエが気になり会話に割り込んだ。

『いや、違ぇ。拒馬があんのにお構いなしに突っ込んだわ。あ、待った。誰か乗ってたみてえだ』




「生きてるか?」

剣を抜いた冒険者と騎士団が馬から弾き飛ばされた人物に近付く。

暗がりで良く見えないが、アルトゥルの居る位置からでも、うつ伏せに倒れた人物が人狼だということは判った。


「いや……駄目だ」

冒険者が左手首を触り脈を調べたが、脈は無く体温も低かった。

「お前さんらの仲間か?」

「いや、冒険者じゃなさそうだ。知らん顔だ」


死んだ謎の男を調べられてるのをよそに、アルトゥルは馬の死骸を間近に見ようと歩み寄った。


馬が拒馬にぶつかるだぁ?

そんな訳ねえよな。馬は慎重な生きもんだからな。良く判らねえ物が足元に在ると拒止するもんだ。


拒止:馬が障害物を前に止まること。


『拒止する素振りも無かったのか?』

カエちゃんも同じ事が気になるか。

『いんや、全く無かったよ。襲歩のまま、突っ込んで……ひでぇ………。杭が2本胴体に突き刺さってるし、拒馬も軸に使っている丸太が叩き割れてる』

ヒデエもんだ。操られてたのか、それとも恐怖で拒馬に気づかなかったのか。


「うわ、マジかよ」

死んだ男調べていた冒険者が声を上げたので、思わず振り向く。


「なんだこりゃ?」

「熊かなんかが喰い千切ればこうなるが、ここまで口はでかくない。例の大きな犬じゃねえか?」


仰向けにされた男の胸は抉られていた。





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