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捜索隊、出発


「は、班長。待って下さい……」

恋人宅で夕飯を済まし、ベッドで微睡んでいた所をカミルに叩き起こされたアルトゥルは真っ暗の中、街へに入るため門へと走っていた。


「お前が隊舎や実家に居ないのが悪いんだろ!!何で恋人がいることを報告してないんだ!」


通常、緊急呼集に備え、隊舎以外で寝泊まりする場所を部隊に届けるのだが、アルトゥルは隊舎の他は実家でしか寝泊まりしないと届けていたのだ。

「んな事言われても」

「なにぃ!?」

「いぇ!何も!」


エミリアとのやり取りで一喜一憂しているカミルの手前、「恋人出来たんで、泊まって来やす」等と言えるわけがないと、報告しそびれていたのだ。


「公用だ!開けてくれ!」

門の脇に用意された詰所のドアを叩くと、クヴィル族の兵士が覗き窓を開けたので、カミルは所属と階級氏名を名乗った。

「ポーレ族のカミル・ジェリンスキ伍長です。ミハウ部族長の」

「よし、入れ!」


目的を告げる前に扉が開き、カミルとアルトゥルが戸惑っているとライネが顔を出した。

「班長、先遣隊は先に出ました。私達は一度、ミハウ部族長の屋敷に集まる様にと魔王様からの命令です」

「ミハウ部族長の屋敷に?何故?」

カミルが扉を潜ると、詰所の中には夜間にも関わらず、大勢の兵士が居た。


「さあ、ソコまでは……」

詰所の中を通り抜け、街に入った所でライネが耳打ちする。

「此方の路地を右に入ってください」

ライネの指示に従い路地に入ると、冒険者がする旅装姿のトマシュが腕を組み、仁王立ちで待って居た。


「遅かったな」

口調から魔王だと悟ったカミルは慌てて礼をした。

「申し訳ありません」


膝立ちの状態で頭を下げたカミルと遅れてやって来たアルトゥルに魔王が歩み寄る。

「では、行くぞ」


「!?うわ!!」

いきなり馬の尻尾で後頭部を叩かれたカミルは声を出した。

遠くに灯りが見える事から、三人は街の外に移動した事を理解した。

「先遣隊に追い付く為に馬を使うぞ。乗れるか?」

器用に鞍を掴み、飛び乗りながら魔王は質問した。


カミルが恐る恐る鐙に脚を掛けるのを他所に、アルトゥルは跳び箱の様に後から飛び乗り、鼻唄混じりに乗り心地を確かめる為にゆっくりと三人の周りを一周した。


「アレ?」

一方のライネは後ろ向きに乗ってしまった。




イシスが人馬の女の子を連れて、寝室に戻ると廊下の向かい側に有る会議室で話し声が聞こえた。

『ニュクス?何か会議でもしてるの?』

カエが“また”その場の思い付きで会議を始めたのか、ニュクスに聞いた。


『あー、やっと帰って来た!遅いよ!えっと、先ずね。エルノさんだけど』

『化け物に拐われたんでしょ?聞いたよ』

イシスが、ヨルムの所で聞いた記憶をニュクスに見せ説明を省いた。

『まあ、そう言うわけで。カエ達はエルノさんの捜索に行ったよ。で、カエが召集した会議が始まるから出るよ』

それだけ伝え、身体の操作をイシスから貰ったニュクスは「時間が掛かるから先に寝てなさい」と、人馬の女の子に言い聞かせ、そそくさと会議室へと入った。


「急な召集で済まないね」

魔王が現れ一同は起立し礼をした。

参加メンバーは、ミハウ部族長とクヴィルの兵士六人、ランゲ騎士団長と昼間に居た従士二人に騎士が五人、エーベル女史と秘書であるカミルの姉のマリア、そして魔王の席の左隣にポーレ族のマリウシュ部族長、右隣にエミリアとヤツェク長老と言った面々だった。


「さて、ランゲ騎士団長。現在の配備状況は?」

『エーベルさんから詳細を聴かなくて良いの?』

『うん、ちょっとカエから指示があってね』

座ると同時に、質問してきた魔王にランゲは胃が痛むのを感じた。

「現在、先遣隊に五十名を派出し、残りの騎士団は総員城塞にて待機。クヴィルの兵士と共同態勢にあります」

「結構」

ランゲが耳を若干萎み気味な事から、イシスはランゲが怯えていることに気付いた。


『何だろ?』

「ミハウ部族長、兵士の配備状況は?」

『さあ?』

実際のところは、ニュクスの値踏みをするような目線にランゲが耐えられないだけなのだが。


ミハウ部族長がゆっくりと席を立ちながら報告を始めた。

「警備要員は配備を完了しています。捜索隊も本隊で二個小隊、後発隊で二個小隊の中隊規模(約200人)の兵力を派出致します。また、先遣隊の分も含めた、三日分の物資を後発隊と共に輸送する輸送部隊も準備中です」

「出発は何時になる?」

「本隊は後一時間程で。後発隊は輸送隊の護衛も兼ね、日の出と共に出発します」

「ふむ」


ミハウ部族長は昨日の馬鹿騒ぎをしていた様子とは違い、落ち着いた口調で報告をした。

最後に、エーベル女史が立ち上がって事の顛末を含め報告を始めた。

「まず、この場を借りて、私共ギルド員の捜索にこれ程の人員を割いて頂いた事に御礼を申し上げます」

エーベル女史が深々とランゲ騎士団長とミハウ部族長に礼をする。


『もしかしてさ、御礼を言わせる為に、後に発言させたの?』

『うん、エミリアの話だと“組織間の仲は良くないから、出し抜こうとする組織が出るかも”って話だったから、これを機に協力する事に馴らすつもりみたいよ』

『そんなに上手く行くかな?それこそ、足の引っ張り合いになって、仲が悪くなんない?』

『そうなったら、“上はお互い頭を下げてまで協力しているのに、下は何やってんだ”って事で所属組織に処分させるんじゃない?カエはトマシュの身体で現場を見張ってるし』


イシスとニュクスが会話をしている間に、エーベル女史が羊皮紙に書かれた報告書を読みながら新たに判明した事を発表する。

「魔王様の命の元、今朝ギルドから早馬に乗った3人を遣いに出しましたが、助かったギルド員は一人だけです。その一人の話だと、北の山脈の泉でエルノと弟子のイェジを発見し、戻るようにと告げた直後、熊程の大きさの犬がいきなり現れ、ギルド員とエルノの馬を噛み殺した後、武装した6人程のグループが襲ってきたとの事です。魔術師も複数居たようで、エルノの弟子、イェジが魔法で重傷を負い、遣いの者も一人殺された所で魔法を掛けられ一度意識を失ったようです」


魔術師が複数居たと聞き、クヴィルの兵士と騎士団からどよめきが起きた。

皆口々に「魔術師が複数?」「熊程の犬?」「エルノ坊を出し抜く程の手練れ魔術師が?」と、にわかに信じられないといった反応だった。


「その助かったギルド員だが、何故助かったか判るか?」

魔王の質問でその場に居る参加者の視線が再びエーベル女史に集まる。


「目が覚めると、一人だけ泉に置き去りにされていた、と本人は言っています」

「洗脳はどうなんだ!?」

騎士団の一人が立ち上がり質問した。

「仮に神聖王国の魔術師だった場合、洗脳して帰らせた可能性があるだろ」

「現在彼をギルドの地下牢で軟禁しつつ、聞き取りを続けています」


騎士団とクヴィルの兵士から発言がある前に魔王が手を挙げ、その場が静かになる。

「皆も心配している事だし、この後私が洗脳されているか調べよう」

魔王の一言にその場が落ち着き、エーベル女史が深々と頭を下げた。


『全く、油断も隙も有ったもんじゃないわね』

『まあ、騎士団とクヴィルはの兵士は街を守る義務があるし、ね』


エーベル女史が一通りの報告を終え席についた所で、魔王が立ち上がり今後の事につて説明を始めた。


「まずは現場の指揮官だが……、マリウシュ部族長に任せようと思う。現在、調整のためにカミル・ジェリンスキ伍長を先遣隊に派遣済で、山脈の手前……」


魔王が右手を挙げ 陣地を意味する駒が1つ浮き上がり、中央に拡げられている地図上に置かれた。

「概ねこの地点に陣を張る。日が出ないうちは捜索範囲を南部に限定、日の出後も土地勘がある数名だけで泉周辺の捜索を行う」


「数名だけで捜索をするのですか?」

クヴィルの兵士が発言したのを皮切りに、騎士団からも「何ですぐに捜索を始めないんだ?」と疑問の声が上がった。


「恐らく、奴等は我々を待ち構えている筈だ」

魔王の発言を受け、ヤツェク長老が立ち上がり、指し棒で地形の説明を始めた。


「街から泉へ抜ける街道じゃが、急勾配を登るために、崖を切り崩したカーブが重なっておってな。上の道が崖上に有るから待ち伏せを受けかねないじゃろ?」

ヤツェク長老がわざとらしい態度に、騎士団とクヴィル族の兵士は“そんぐらい知ってるは!”と心の中で怒った。


「それを言ったら、昼間も変わらないのでは?」

騎士団長のランゲの一言に、“そうだそうだ”と声が出た。


「問題はその後じゃ、カーブを抜けた先は、開けた草原と森が広がるが、此処で待ち伏せに有ったときに、簡単に退けるか判らん」


ヤツェク長老が指し棒でカーブとカーブの間を示した。

「特にこの橋だが、行きに通る時は良いが、もし退く時に橋を落とされでもしたら」

ヤツェクが橋の手前を示す。

「真っ暗の中、この崖を降りる事になるぞ」


ヤツェク長老が示した崖は、高低差100メートル。

全くの垂直では無いが、ケシェフの街を眺める事が出来。景勝地としても有名だった。


「それと、敵には魔物も居る。待ち伏せに会えば、ひとたまりもないだろう」

ミハウの発言にクヴィルの兵士の一人が聞き返す。

「良いのか?エルノ坊はお前の孫だろ」


「構わん。元より冒険者を選んだのはアイツだ。こうなることも覚悟しているさ」


「なので、夜明けまでは不用意に近付かない事にしたいのじゃ」




「くそ、何だこの道は」


せっかく、馬を使って追い付こうとしたが、草原のど真ん中で馬が泥濘に足を取られ思うように進む事が出来ずにいた。

「ファレスキの街が堕ちてからは整備されていないのですが、流石にコレは酷すぎます」

最近、雨は降っていないにも関わらず、馬が歩くのもやっとな程に酷いのでカミルも心底嫌になっていた。


「あぁ……めんどう…………」

カエはそうボヤキ、固い地面を探すため、周りを見渡した。

「止まれ!」

気配を感じ、カエが指示を出した直後、泥が盛り上がる。

「なっ!?」

盛り上がった泥から腕が生え、カエに向かい殴りかかったが、カエは剣を抜き、腕を払った。


「ゴーレムだ!アルトゥル、ライネ、後にも2体居るぞ!」

「りょ、了解!」

「嘘でしょ~!?」

背後にも居ると言われ、後衛の二人は剣を抜き後ろを警戒した。


『トマシュ、使い方を覚えとけよ!』

カエが剣に魔力を流すと、赤く発熱する。

『うわぁ』

カエは暴れる馬の鞍に立ち上がり、ゴーレムの頭を飛び越えつつ斬りつけた。

ゴーレムは頭が熱による乾燥で弾け飛び、身体は泥の塊に戻った。


「うわ!」

『冷たっ!』

着地した先が深い水溜まりだったため、トマシュの身体を使っているカエは、ブーツの中にまで濡らしてしまった。


「!」

『どうしたの?』

カエが何かに気付き、身体を強張らせたのを感じたトマシュが質問した。

『他にも居るぞ……』

『何だって!?』

カエが右掌を中に向け、光る弾を空中に打ち上げた。

打ち上げられた光は空中で一際輝きを増し、辺りを昼間のように照らし出す。

「い、居ねえぞ!」

「カエ!何処にゴーレムが居るんだ!」

「足元だ!何十体と居る!」

周囲を見渡すと、道だけでなく、路傍の草むらまでもが泥濘んでいることが見てとれ、カエはゴーレムに囲まれている事を悟った。

『どうするの?』

『一旦、離れるしか無いが、道が無い。せめて地面がゴーレムが近付けない岩場ならば魔法で一掃する時間を稼げるんだが』

今の状態でゴーレムに命令を出しているコア。恐らく素焼きの粘土板を魔法で壊すことは出来なくはないが、壊しきる前に何体かが襲い掛かって来るリスクがある。

その為、可能であれば、岩場のような固い地面の上で有れば、襲い掛かって来ても、固い岩に阻まれ被害を受ける可能性を極限出来るのだが、見渡す限りまるで沼地と化している草原と小高い丘しかない。逃げる事も一瞬考えたが、仮に魔法剣で地面を焼き、来た道を見ても泥の上を自由に動けるゴーレム相手に逃げ切れるか判らなかった。勿論、転移も考えたが…………。


『仮に逃げられたとしても、先行している冒険者と騎士団が危ないしなあ。行くしかないかあ』


「うわあ!」

警戒していたライネにゴーレムの一体が襲い掛かったが、ライネが必死に放った火球が当り、脆くなったゴーレムの脚が身体を支えられなくなり、ゴーレムはその場に倒れた。


『カエ!地面が岩なら良いんだよね!?』

『策があるのか?』

トマシュは見覚えの有る枯れ木から、近くに何があるのか思い出した。


『枯れ木がある丘を越えた先に、古い水車小屋の跡地があるんだ!そこは基礎が石造りだけど使えない?』

『向こうは……二体しか居ないな。よし!』

カエが再び剣を振ると、今度は巨大な火柱が切っ先から噴出し地面が直線的に乾いた。

「こっちだ!走れ!」

馬に飛び乗ったカエが、乾いた地面に向かって進んだのを見た後続の三人が慌てて追い掛け出した頃に、泥に潜むゴーレムも一斉に動き出した。

「急げ!取り囲むつもりだぞ!」

最早、隠れる必要が無いとでも言いたいのか。バシャバシャと水音を出しながら泥濘の中をゴーレム達が迫って来た。


途中、二体のゴーレムが道を塞ごうと、乾いた地面に這い上がったので、その都度カエが新たな道を切り開きつつ、之字(ジグザグ)に進みながらも丘を越え、水車小屋が見えた。


水車小屋は火事になってから放置されているのか、壁が一部崩れていた。

「飛び込め!」

カエが馬ごと飛び込んだので、三人は躊躇しつつも同じように馬ごと飛び込んだ。



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