魔王と少年兵
「小さい魔王のようです」の書き直し、その2になります。
一方の魔王は、エミリアと二人っきりになったのを確認すると、呑気に入浴の準備をしていた。
(縦横三メートル、深さは……五十センチも有れば良いか)
床の花崗岩に開ける穴のイメージをし、魔王は左手で再び床に触れると魔力を込めた。
「わっ!」
振動と共に砂埃が広がり、エミリアは驚き声を上げ尻尾を立てた。
「あいたっ!」
「え?魔王様、どうかしましたか?」
魔王が左手を痛そうに擦っていた。
「いや、岩を潰した時に静電気が」
花崗岩に圧力を掛けて穴を押し開けたのだが、静電気が発生し、魔王の手に流れたのだ。
(花崗岩に圧力を掛けると出るとは聞いてたがちょっと痛かったぞ)
なんか負けた気分になったが、魔王は気持ちを切り替え、穴の出来を確かめるために、風魔法で粉塵を吹き飛ばした。
「フム、まぁまぁの出来だなあ」
ほぼイメージした形に岩の浴槽が出来上がっていたので魔王は満足した。
次に魔王が風魔法を応用し、空気中の水分を集め、更にヒートポンプの様に空気を圧縮し、断熱圧縮でお湯にした。
空気中に水分が有ればお湯を出せるので船旅で重宝する魔法の応用法だった。
難点は湿度によって発生量が変わることぐらいだ。
それを二つ用意し、一つは浴槽のお湯張りに、もう一つはシャワー代わりに使い。湯が貯まるまでの間に身体の血を洗い落としだした。
「わぁ………」
魔法が無いわけでは無いが、目の前で魔王が色々な魔法を使うのでエミリアは目を丸くした。
「しかし、何で私を呼び出すのに雄牛の血を?」
お湯だけだと生臭さと牛脂が落ちないので、魔王は自分が仕えている神様から、“何か有ったら使いなさい”と持たされたシャンプーとボディーソープを異空間から取り出して洗う羽目になった。
「お祖父様達、長老と部族長が民会で人間対策を話し合っていたときに“雄牛を生け贄に捧げろ”と天啓を受けた、と聞きました」
生前と違い髪が肩まで伸びているので魔王はシャンプーに手こずっていた。
「人間対策?」
魔王は3回目のシャンプーを洗い流し臭いを確認しつつ、エミリアに質問する。
「はい、私達は数年前に北に位置する人間の国と戦争になりまして。今は小康状態なのですが、土地を失った部族の人達が奴隷として人間や、その……」
尻尾用に渡されたシャンプーの容器にゴールデンレトリーバーが描かれていたので、魔王はそれを異空間に投げ込み、普通のシャンプーを尻尾につけ洗いだした。
「逃げた先の人狼の部族の奴隷にでもなったのか?」
「………半自由人と奴隷の間、とでも言いましょうか。部族が消滅したので身分が保証されなくなりましたので」
臭いが気にはなるが許容できる範囲にまで抑えられたので魔王は湯に浸かる。
「落ち延びてきた部族を蔑ろにする程、土地が空いていないのか?」
胸がお湯に浮く感覚を楽しみつつ、魔王は上半身を伸ばした。
「未開の土地も多いのですが山がちな土地で、妖精が多く住む地域でして。手が付けられていないです。人馬や他の部族も南方から現れて小競り合いが起きたりも。幸い農耕が盛んな地域だったので餓える人は居ませんが」
魔王は風呂で充分温まってから、エミリアに身体を拭いてもらい、着替えを用意して貰ったが。
「……何これ?」
「鎧です」
「え?」
「え?」
魔王とエミリアは御互いに見合った。
「表で戦でもやってるの?」
「いえ、ここ二、三年は大きな戦は起きていません」
鎧を手に取り色々な角度で眺めてみる。
見たところ革製で、ゲルマニア傭兵の鎧とデザインは似ており。所々、狼やこの地域の神様だろうか。動物の意匠が配あしらわれており見事な品だった。
「平時で有るなら、軍装は纏いたくないな」
とはいえ、エミリアの様な服もどうかと魔王は考えた。温かいんだろうが、ロングスカートは歩きにくそうで、何かモコモコしているのが気になった。
「よっと」
「え、え!?」
魔王が用意された着替え一式を真上に投げ、異空間に放り込む。
無事に収納したのを確認してから、今度は一瞬で着なれた普段着に着替えた。
「わ、わー!」
魔王が一瞬で、始めてみるストラとトーガと言ったローマ人の服装に着替えたので、エミリアは驚き声を上げた。
「凄いです魔王様!一瞬で着替えるなんて!さっきも地面に一瞬で穴を開けたり、お湯を出したりと凄すぎます!」
「なんだ?魔法を使えるものは居ないのか?」
一瞬で着替えるのは珍しいが、“地面に穴を開けたりお湯を出す”程度は一般的な魔法だと認識していたので、エミリアの熱気に少したじろいだ。
「魔法が使える人は居ますが、皆さま方は火を放ったりするのが精一杯ですよ!」
(戦いくさ馬鹿の集まりなのかな?)
一抹の不安を覚えつつ、魔王はエミリアと地下室を出た。
呼び出された部屋をから続く坑道を抜けた先は、墓地だったので魔王は面食らった。
人の背丈程(といっても魔王の身長からすると普通に高いが)の丸太の柵で囲まれ墓地を見渡し、積雪が無いことに気付いた。
「冬は始まったばかりか?」
「はい、畑や森での収穫が一段落し、今は来年の種まきに向けて準備をするか戦をする時期です」
魔王が空を仰ぎ、息を吐く。
(うむ、白くはならないな。そこまで寒くは無いのかな?)
「普段どの程度雪は積もる?」
「あまり降りませんが、降った年で足首の辺りまで積もりました」
冬季の間に軍の訓練等にどの程度影響するか思案しつつ門へと向かった。
エミリアの案内で墓地を抜け、街の入り口と思われる門に着いた。
墓地を囲っている丸太の柵の倍以上は有る柵の脇に門とちょっとした詰所が有るだけの簡素な入り口だった。
「柵の割には門の警備は少ないのだなあ」
門番は若い兵士、というよりも少年だった。
「ここは街と墓地を往き来するだけで外とは繋がっていない門なので、そこまで厳重にする必要はありません。ただ、街の裏手に山が有るため念のために詰所が置かれたんです」
(念のため、…ね)
「エミリア!ちょっと良い!?」
少年兵グループの中で一番背の高いリーダー格の兵士、カミルが話し掛けてきた。
「後じゃ駄目?今仕事中よ!」
「少しだけ、ほんの少しで良いから」
「だから駄「構わんよ、少し話して来なさい」
魔王から許可が出たことにエミリアは驚いたが。
「あ、はい。ありがとうございます」
エミリアは魔王にお辞儀し、カミルの元へと走った。
エミリアがカミルと詰所に入って行くのを横目に見つつ、門の脇に立っていた別の少年兵に近づく。
「あ、あの、何でしょうか?」
「ちょっと、槍を見せてくれるかな?」
「槍、ですか?」
「うん、ちょっと気になってね」
少年兵は一瞬躊躇したが、魔王に槍を手渡してくれた。
「どうぞ」
「ん、ありがとう」
受け取った槍を軽く振り回して、取り回しを確認する。
(柄の部分は固い木材を削り出し、穂先は鉄で出来ていると。)
(誰、あの娘?)
詰所の会話を風魔法で聴いてみたら、難なく聴こえてきた。
(親戚の娘?)
(違うわよ!魔王様よ!)
(え!?子供が?)
子供と言われ、魔王は眉をひそめた。
(子供じゃない………と思う、たぶん………)
(否定しきれないのか)
近くに居る少年兵と自分の身長を比較しする為に顔を近付ける。
「なん、でしょうか?」
「ちょっと動かないでくれるかな?」
(さてと、少年兵と私の目線の高さはっと)
目線の高さを合わせ身長を比べた。
(………うん、私の方が少しだけ見下ろす程度の差か。顔を見る限りあどけなさが残っているけど)
「君、何歳?」
「13です」
(うーん、服装からしてゲルマンぽい感じだけあって、この部族は総じて背が高いのか)
前世では背の高い方だった魔王だが、北方のゲルマン系の人狼と並ぶと子供扱いを受けていた事を思い出していた。
(しかし、13か。ホントに子供だなあ)
「本当に兵士?」
「そ、そうだよ!」
ローマだと成人年齢は14からだったが。
「志願兵?」
「うん」
(でも、魔法は凄かったよ。何も無いところでお湯を出したり、一瞬で着替えたり!)
詰所では相変わらずエミリアと少年兵が私の事を話しているのが聞こえる。
「何で兵士に?まだ子供なんだから学業に勤しむべきでしょ」
「子供とか言うな!君だって子供じゃないか!」
まさか魔王とは思わず、エミリアの親戚の生意気な子供か何かだと思い、少年兵は声を荒げた。
「失礼な、私は18だ」
「えー………えー!!」
「何、その反応は?」
「僕よりも歳上なのに背が僕よりも低いから、意外で」
そう言うと、少年の目の高さが上になった。
「!?。あ、段差が有ったの………」
少年が段差から一歩出ると、見下ろされた。
(アレ?エミリアは何歳なんだろ?)
もしや、エミリアも年下なのかと魔王は思った。
「魔王様、お待たせしました」
「……魔王様?」
話が終わったエミリアが走って戻って来たので、魔王は少年兵に槍を返した。
「はい、槍ありがとう」
「魔王様、なんですか?」
何となく良い匂いがするので、良いところの人かと思ったが、“まさか魔王なのか”と少年兵は身構えた。
「そうだよ、じゃまた」
「トマシュ!おい、トマシュ!」
自称魔王の女の子が去るのを眺めていたらエミリアを呼び止めたカミルと詰所に居た先輩兵2人が来た。
「へ?あ、何?」
魔王が去った後を、ボーッと眺めていたトマシュは我に帰った。
「お前がどうしたんだ?惚けやがって。で、魔王様と何を話してたんだよ」
「そうだよ、聞かせろよ」
普段から騒がしいベラんめぇ口調のアルトゥルだけでなく、普段は大人しいライネも興奮していた。
「チビだけど、まるで女神様だよなあ」
「オッサンかと思ったら女の子だもんなあ、でどうよ」
「何か、甘い匂いがした。花みたいな。あと、あの見た目で18歳らしい」
トマシュの一言で、3人は顔を見合わせた。
「アレで大人かよ!」
「マジか子供じゃないのか!」
「でも、良い匂いか確かにしたなあ。アリだな」
カミルの一言にアルトゥルは肘でカミルの背中をつついた。
「伍長、あんたエミリアという想い人がいるのに………」
「な、ちげーよ!!」
「でも、美人だったよね」
「まあ、確かにエミリアとは別方向に可愛かったなあ」
( ´△`)書き直してて思ったが、誤字が多すぎたんご。