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拠点へのガサ入れ

「拠点から転移門で逃亡ですか?」

魔王が事情を話したところでカミルが尋ねてきた。

「うむ、面倒でな」


魔王は、覗き見た襲撃者の記憶を反芻した。

「死んだ襲撃者達の記憶では………」

死者の記憶を見れるのかと、カミル達は内心震え上がった。


「まず、拠点に居るのは留守役の六人と子供二人の計八人だ」

カミルが怪訝な顔をした。

「子供、ですか!?」

「ああ、トマシュに斬りかかっていた二人組がな、夫婦役をする為に作った子供だ。ポーレ族のフリをして潜入するのに怪しまれ無いようにとな」

「うへぇ…………」

「そこまでするんですか」

若いアルトゥルとライネは顔を引きつかせた。


「後、留守役だが魔術士が主で、病院兼住宅の中の調度品にゴーレムやオートマタが混じっているので面倒だな」

「ゴーレムやオートマタ?」

カミルは聞き返した。

「ゴーレムは、さっき襲い掛かってきた土人形で、単純な命令文書かれた紙が頭に埋め込まれている人形。オートマタは機械人形とでも言えば判るかな?ゼンマイ等の動力で、コレまた単純な動作をする人形だが、ゴーレムの技術を組み込んで、ちょっとした機械の兵士みたいになっているな」


「かぁ~、勘弁してくだせぇよ。機械って事は金属っすよね?俺達は魔法とか(ろく)すっぽ使えねえから太刀打ち出来やせんよ」


「まあ、それらは私が無効化するが、問題は対処に手間取っている間に逃亡されるかどうかだ」

魔王の懸念にライネから提案があった。

「あの、魔王様。逃亡に関しては、通りと西地区全体を封鎖すれば大丈夫かと思われますよ。西地区はクヴィル族の兵士の城塞も在りますし。応援を頼めば五十人、一個小隊規模は借りられるかも知れません」


「……ん?」

魔王はちょっと戸惑った。

「一個小隊で五十人なのか?」

「えっ?あ、はい」

「八人で一個小隊では?」

カミルが答えた。

「それだと班規模ですよ。私達は十人前後の班が五個班集まって一個小隊で数えてますよ」

「ん?……んー、そうか」

カエはマズったかなと思った。ランゲ騎士団長への質問で一個小隊八人と、この世界の組織編成と違う組織体系を提示してしまったと。


『カエ、話が逸れてるよ』


イシスからの注意で、カエは話を元に戻した。


「まあ、そんな事よりだ。屋根裏部に転移用の魔方陣が仕掛けられていてな。緊急時はコレを使って神聖王国内の拠点に戻る事になっているんだ」


魔王が腕を組み「どうしようかなあ」とぼやいたが、エミリアが手を揚げた。

「魔王様、神聖王国の転移の魔方陣ですが、行き先を変更出来ませんか?」

「行き先を変更?」

「はい。例えばなんですが、西地区の城塞に出口を変更して捕まえるとか」


『どう思う?』

『いや、私に聞かれても』

『ニュクスが判らないなら止めといた方が良いと思うよ』


『ニュクスでも駄目か?』

『だってさ、転移魔法なんて、ようやく出来る様になった程度だよ?いきなり他の転移魔法に割り込み干渉するとか、無理だよムリ』


「やったことが無いから…………あ!」

『ちょっと待てよ。私達がこっちの世界に来たときの方法が使えるだろ!』

『ポーレ族が用意した召喚の転移門に私達が転移魔法で…………あ!そうか』

『?』


最初カエとニュクスはケシェフの街と神聖王国を結ぶ転移門の経路を無理矢理に城塞へとねじ曲げる事を考えたが、もっと簡単な方法を思い付いた。

それは、城塞側で転移門の出入口を用意し、襲撃者の拠点から神聖王国への経路に“割り込む”形で新たな経路を作る方法だった。


「いや、何とかなりそうだ」

魔王の一言でその場に居た全員が安堵した。

「となると、魔王様は城塞で待機になりますよね?」

「あ、そうか。カエ達は転移魔法を仕掛けに城塞に行く必要が有るのか」


トマシュがタメ語で魔王の事を呼び捨てたので、カミルが軽く腋を小突いた。

(お前、さっきから魔王様に対して失礼だぞ)

(でも、班長。目上として扱うなと魔王様から)


「別にこのメンバーしか居ない時は敬語を使わ無くても良いぞ」

「しかし……」


「あの……、君の喋り方が王様っぽいから何か敬語で喋っちゃうと言うか……」

ライネから突っ込まれた。

「あ…………。ゴメンゴメン。ついさっきまで、ランゲ騎士団長が居たから、普段の口調で話してた」

魔王が申し訳無さ気に話したのを見て、全員が同じ事を思った。


「普段の口調が年寄り臭いのはどうかと思うよ」

トマシュが口を滑らした。


「だって、公務中に王に相応しい喋り方をしないと怒られるんだもん」

魔王が視線をトマシュから逸らしながら、むくれて見せた。


「まあ、とりあえず。私がその城塞から転移門を開くから、指示したら拠点に踏み込んで」

「あの、どうやって指示を伝えるつもりで?」

カミルから質問を受けた魔王はトマシュの腕を引っ張り、引き寄せた。

「トマシュに念話で伝えるから大丈夫。もし何かが起きても、トマシュの身体を操って戦うか、私が現場に転移するから」



『カエ、準備は良い?』

『ちょっと待ってー』

城塞の地下牢で、魔王は何を考えたのか縦穴を掘っていた。

魔王の身長の倍ぐらいの高さまで掘り進めたところで、穴の外に居るエミリアに確認をとった。


「流石に私の身長の倍以上の背の人は居ないよね?」

「人馬だったら後ろ足で立てば、越えるかもですね」

魔王は穴から飛び出てきた。


「それは大丈夫かな。記憶だと人馬は奴隷しか居なかったし」

魔王が右手を突きだし、小さな魔方陣が幾重も現れた。

すると、穴の中央から天井にまで届く勢いで水が吹き出た。


「おお……」

最初は水が湧き出た事にクヴィルの兵士達は歓談の声を上げたが。

「くっさ!」

「おぇ!」

「アッツ!熱いぞ、お湯だ!」


魔王が温泉を噴出させた事により、地下牢の気温が一気に上がった。

「待ってろ。今、熱を散らす」

お湯が縦穴に貯まり、お湯の温度も火傷はしない程度にまで冷ましたところで、魔王は大きな杖を取りだした。


『今から転移門を開く、合図と共に踏み込んで』

『判った』




「魔王様が今から転移門を開きます」

トマシュ達が居るのは、医者の家に面した広場内に止められた幌付き荷馬車の中だった。

「なあ、アンタ。魔王様は大丈夫なのか?」

クヴィル側の小隊長がカミルに尋ねた。

「あんな子供が転移魔法を扱えるんかね?」

カミルとトマシュは顔を見合わせた。


「いえ、あれで私達より歳上なんですよ。18歳だっけ?」

「えぇ、おまけに一人で襲撃者の殆どを倒したりと…………かなり強いんで」


クヴィル側の兵士が「本当かよ」と言ったところで、魔王から念話が届いた。

『準備良いよ。そっちのタイミングで転移門を開くよ』


「準備よしです!」


「行くぞ!」

小隊長が指示を出すと同時に帆馬車から飛び降り、クヴィルの兵士が突入用の丸太を四人で担ぎ小隊長に続いた。

トマシュ達も帆馬車から降りると、小隊長が突入の合図であるホイッスルを吹いた。


『突入開始!』

『了解!』

魔王が転移門を作動させると同時に、正面入り口をクヴィルの兵士達が丸太で打ち破った。


「行け行け行け!」


今回の突入の手順は、まずカミルの班とクヴィル側の兵士五人で正面入り口から突入し、それを合図に別の班が二階の窓に梯子を掛け突入し広場側の部屋を制圧。

裏口からも一個班が突入し、建物に居る全員を屋根裏の転移門に追い詰める計画だった。


「な、何ですか貴方達は!?」

トマシュが見たのは、受付で帳簿を付けていた同世代位の少女だった。

「神妙にしろ!魔王暗殺未遂のー」

小隊長が令状を見せ、罪状を読み上げている最中だった、少女がカウンター下から何を取りだし、炸裂音と共に小隊長が倒れた。

『きゃっ!』

Alarm(警報)Soldaten(兵士だ)!」


少女がカウンターに隠れた直後、裏口から別動隊が突入した。



「ちょっと!魔王様!」

魔王が急に尻尾を膨らませて硬直したので、エミリアは慌てた。



「小隊長!」

小隊長は肩を押さえて倒れた。

「銃を持ってるぞ!」

誰かが叫ぶと同時に、少女は裏口に通じる廊下に2発発砲して二階への階段を駆け上がった。


「もう、何なの……?」

トマシュが喉元を押さえたのをカミルは見た。

「どうしたトマシュ?」

トマシュが驚いた顔をしながら、胸や股間を確かめるように触れ、手にしていた剣に顔を写したところで悲鳴を上げた。


「きゃぁぁあー!」

『な、なにコレ!!何で私がトマシュの身体の中に居るの!』

『な、えー!』

「お、おい、トマシュ!?」

わなわなと、トマシュが崩れ落ちたのを見たカミルがトマシュを建物の脇まで連れていった。

「あ、あれ?班長!?」

「トマシュの様子がおかしい。小隊長も連れてこい!此処に応急所を作るぞ」



『ちょっと、他に誰か居ない!?』

『居るわよ!トマシュの中に~!』

ニュクスの問いにイシスだけが答えた。

『トマシュ!居る?』

トマシュからの返事は無かった。

『え、え!?どう言うこと?』

『知るわけ無いでしょ!』


「ちょっとカミル!アンタ何か知ってるでしょ!」

急にトマシュが叫びながら胸ぐらに掴み掛かってきたのでカミルは目を白黒させた。

「トマシュ、何するんだ!」

「私だよ!ニュクスだよ!」

「はぁ!?」



「あ、あれ?エミリアさん?」

見馴れない場所にいきなり移動したと思い、振り向くとエミリアが居た。

左手には見覚えの無い杖。心なしかエミリアの身長も伸びている気がした。

「どうしたのですか?魔王様」


エミリアの反応から嫌な予感がし、下を向くと男なら有る筈の無い膨らみが見えた。

『カエー!君かー!!』

カエが悪さをしたのかと思い、念話で叫んだが誰からも反応が無かった。



咆哮と共に、ゴーレムが二階の窓から飛び降り、窓から侵入しようとした兵士達が梯子ごと押し倒された。

「あがっ!」


落下の衝撃で腰を打ち、起き上がる事も儘ならない兵士は止めを刺そうと近付いて来るゴーレムを見て死を覚悟した。

「どりゃっ!」

しかし、ポーレ族の兵士が放った魔法がゴーレムの頭を吹き飛ばし、ゴーレムは崩れ落ちた。

「カミル、負傷兵を下げろ!アルトゥルとライネは私と来い!」


「え!?俺らっすか!」

「良いから行け、アルトゥル」

どう見ても、初年兵の階級章を着けた兵士が先輩兵士達に命令を出しているのを見て、クヴィル側の兵士達は混乱した。


トマシュの身体に何故か移動したイシスとニュクスだったが、カエと念話が繋がらないため、とりあえず拠点の制圧を進めている事にしたのだ。

『ニュクス、カエと繋がった?』

『全然ダメ、たまに念波が繋がるけど念話で会話は出来ないよ』

何とかカエと連絡を取ろうと、戦闘には参加していないニュクスが八方手を尽くしてはいるが、状況は芳しくない。


『一気に制圧するよ、ニュクスは呼び掛け続けて』

『判った』

建物内に戻ると、オートマタが突入した兵士相手に大暴れしていた。

「回り込め!」

現場指揮官が的確に指示を出し、兵士達はオートマタの死角から攻撃をしているが。

「あ、クソ!」

すぐさま、オートマタが振り返り、人ほどの大きさはある大剣を振り下ろすので兵士はその都度、距離を取るために離れた。

オートマタの分厚い装甲の前には剣も大槌も全く歯が立たいのだ。


「あ、待て!」

すぐ脇をポーレの兵士がすり抜け、オートマタの懐に入り込んだ。

オートマタがそれに気付き剣を振ろうとしたが、それよりも先にイシスに胸を殴られた。

イシスはトマシュの身体を身体強化の魔法で無理矢理強化し全力で殴った。音速を越えた左手により、オートマタの胸部は吹き飛び、軋み音を出しながら仰向けに倒れた。


『ちょっと、こわ!』

『流石に私もビックリした。トマシュの力がカエよりも強いからかな?凄い威力になったね』


オートマタを殴り付けた左手を開いたり閉じたりし、怪我をしていないか確かめてみた。

「残りは四体だ!着いてこい!」


呆気にとられたクヴィルの兵士達だったが、慌てて後を追うポーレの兵士二人を見て、後を追う事にした。


現在の状況


拠点:カミル、アルトゥル、ライネ、

ニュクス(トマシュの中)、

イシス(トマシュの中)

城塞:エミリア、トマシュ(魔王の中)


魔王グナエウス・ユリウス・カエサル・プトレマイオス(行方不明)

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