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魔王暗殺未遂事件

「別に私はランゲ様と違って馬が恐いわけでは!」

ランゲが慌てて、従士の口を防いだ。


「恐いのか?」

「え!?いえその……」


まるで蛇に睨まれた蛙の様に、魔王に見つめられたランゲの目は泳ぎ回っていた。

『え…………。何かイメージだと冷徹な悪者だったのに』

「ち、違うんです。馬に乗ろうとすると、蹴られたり、振り落とされるだけです」

「…………何故?」

「知りませんよ!」

「もしや、三年前の戦の時に街から出なかったのは…………」

「アレは、騎士団の帳簿をつけていたら、次から次へと書類が舞い込んで来て処理している間に戦が終わってしまったんです!馬ぐらい乗れますよ!」

ヨルムやカミルの話しとは違い、ランゲはソコまで害がないのでは?と魔王は思い始めた。



「うひゃっ!」

急に襲ってきた悪寒にエミリアが声を上げた。

『今、念波が飛んできたよね?』

『ああ、廊下の方からだな』


「どうかしました?」

ランゲがエミリアの反応を見て質問をした。

「い、いえ。今寒気が」


扉の向こうから、怒鳴り声と何がぶつかり合う音が聞こえてきた。

「何かしら?」

「見てこい、ライネ」

「はい」

ライネが席を立ち、扉まで半分の距離まで歩いた時だった。

木の幹程はある右腕が扉を突き破ったのだ。

「う、わ!」

突然の事に唖然としたライネに向かい、もう片方の腕が物凄い勢いで近付いてきた。

「危ない!」

冒険者ギルド代表のゲルダがライネの襟首を掴み引き寄せたお陰で、ライネを握り潰そうと伸ばされた左腕は空を掴んだ。


「コラ、カミル!何やってんの!!!」

外で警備している筈のカミルを叱りつけながら、姉のマリアは剣を抜き、左腕を斬りつけたが弾かれた。

「岩!?」

マリアは刃溢れした剣を構え直した所に大きな右腕が振り下ろされたが、マリアは難なく避け、次は右腕の関節を斬りつけた。


「なんだアレは……」

ランゲは天井に届きそうな程の巨大な土人形が扉を突き破り、マリアと戦う様を見て思わず呟いた。


「ユダヤの民のゴーレム」

「え?って魔王様!危ないですよ!」

エミリアの制止も聞かずに、魔王はテーブルを飛び越え、ゴーレムの懐に飛び込んだ。

右腕でマリアを払い除けたゴーレムは、魔王の居る場所に左腕を振り落とそうと身体を捩ったが、それよりも早く魔王に顔を手刀で突かれた。

バンっ!と弾けるような音と共に、魔王の手が突き刺さったゴーレムの顔面から閃光と白煙が上がった。


「おっと!」

ゴーレムが土塊に戻りバラバラと崩れ堕ちてきたが、魔王はエミリアの居る辺りまで後ろ向きに飛んで避けた。


マリアとゲルダがゴーレムだった土塊を蹴ったり、剣で突いていたところに、今度は壁を二ヵ所突き破りゴーレムが二体侵入してきた。


「魔王様をお守りしろ!!!」

ランゲの指示に従い、従士の二人が氷魔法で二体のゴーレムの脚を凍らせ動けないようにした。


「頭だ!頭に埋め込まれた羊皮紙を破壊しろ!!」

魔王の一言でゲルダが雷で出来た槍を造りだし、ゴーレムの一体に投げ、見事頭部を吹き飛ばし土塊となった。


もう一体のゴーレムもランゲの従士の二人が火焔魔法で頭部ごと羊皮紙を蒸し焼きにし、ゴーレムは呆気なく倒された。


「掛かれ!!」

ゴーレムが失敗したことを悟った襲撃者達が一斉に会議室に雪崩れ込んできたが、ゲルダは襲撃者の一部を見て絶句した。

「貴方達……」

襲撃者の一部は冒険者だった。


「エミリアは下がって…………って、何すんの!?」

魔王の腰を掴み、エミリアは魔王が動けないようにした。

「魔王様が弱いって聞いたので。さあ、隅っこに行きますよ」

尋常ではない力に引っ張られ、魔王はエミリアに掴み上げられた。

いかんせん、身長差が30㎝以上もあり、体格も華奢な魔王は足が浮いた状態で部屋の隅へと運ばれていった。

「あれには訳が有ってだなあ!とりあえず離さんか!」


魔王が運ばれている目の前を抜刀したトマシュが駆け抜けて行った。その時、襲撃者から火球が魔王に向かって放たれようとしていた。


『トマシュ、弾け!』

「!?」

魔王からの念話と同時に放たれた火球がトマシュにもはっきり見えた。

「よっと!」

トマシュが剣で火球を斬りつけると、火球は刀身に纏い着いた。

『何これ?』

『火魔法が出せる剣だからね、魔法由来の火とか集められるんだ。刀身が触れたところに火球が当たったのと同じぐらいの火を出せるよ』

『へぇ……』


トマシュのところに、前衛のランゲやゲルダ達をすり抜けてきた男女二人組の襲撃者が斬り掛かってきた。

トマシュが男の剣を魔法剣で受け止めたところ、男が悲鳴をあげながら飛び退いた。

男の剣は熱で溶け落ち、剣を握っていた右手は一部炭化していた。

「あ、わ。御免なさい!」



魔王がエミリアの拘束から逃れようとしている間に、鍛冶ギルドのビスカ代表や息子のライネまで襲われているが、全員それなりの手練れなのか、何とか持ちこたえてはいた。

しかし、廊下には後詰めの襲撃者がおり、状況次第では数で負けるのは目に見えていた。


「エミリア、魔法だけでも使いたいから離してくれ!」

戦いは全く駄目だと聞いたが、魔法が得意なのはエミリアでも知っていた。

「魔法だけですよ!無茶だけはしないで下さいね」


地面に着地した魔王はそのまま両掌を床に付け、魔法を掛けた。

すると、襲撃者の半分ほどがその場に倒れ込んだ。

「何だ?」

ランゲは鍔迫り合いをしていた相手が急に倒れたので、困惑しつつも止めを刺すために、剣を構えた。

「倒れた者は洗脳されていただけだ!捨て置け!」

魔王の指示で止まったランゲに、今度は別の襲撃者が斬り掛かってきた。


魔王は全体を見渡し、襲撃者の猛攻を何とか耐えていたトマシュを助ける事にした。

「ちょっと、魔王様!」

魔王を捕らえ損ねたエミリアの声は無視された。


「このガキ、良くも!」

トマシュが相手していたのは、両手に短剣を持った女性剣士だった。

先程、右手を負傷した男性剣士は治癒魔法を必死に掛けながら、悶え苦しんでいた。

「わざ、と、じゃ」

「五月蝿い!」

直後、何が風を切る音が聞こえ、女性剣士の頭が半分弾けとんだ。

「なっ!」

トマシュは手斧が頭に突き刺さった女性剣士が倒れるのを見た。


「嘘だ……」

男性剣士が押し出すように声を出し、女性剣士に向かい歩み寄った時だった。男性剣士は魔王に背中から剣で突かれ倒れた。


「無理するな」

そう言い残しつつ、トマシュの肩をポンポンと叩き、魔王は襲撃者を何人か切り捨て、廊下へと飛び出して行った。



「魔王だ!取り囲め!」

魔王が廊下に飛び出ると、カミルとアルトゥルが血を流して倒れていた。

『イシス』

『アルトゥルは大丈夫、腕が折れてるけど、死んだフリをして機会をうかがっているだけ、カミルは危ないよ。肺に骨が刺さってるし、頭蓋骨も折れてる』


魔王は廊下を見渡し、リーダーが誰か探した。

『アイツか』

入り口側にあたる廊下の階段側ではなく、何故か逃走に不利な、突き当たりが窓になっている側にその男は居た。

階段側に七人、窓側に八人と襲撃者の数が多い事に魔王は気になったが。

『ニュクス、後ろは任した』

『私?めんどくさいな。死霊術はイシスの方が得意でしょ。イシスがやりなさいよ』

『やだ、私はさっきから調べものしてたんだから。ニュクスの番でしょ』


「掛かれ!!」


『もういい、私がやる』

妹達が押し付け合いを始めたので、しびれを切らしたカエが結局一人で戦う事にした。

魔王が剣を右手に構え、それを合図に魔王の後ろ、階段側に居た男が袈裟斬りを仕掛けてきた。

魔王は左足を下げ、袈裟斬りをギリギリのところで避けてから、男の両手を切り落とした。

急な出来事に、袈裟斬りを仕掛けた男は手を失った事に最初は気付かなかったが、避けた魔王に逆袈裟斬りで斬り付けようと、振り下ろした腕を持ち上げた時になって、漸く軽くなった事(・・・・・)に気付いた。


「魔王様!」

会議室から出て来たランゲと従士の二人が目にしたのは、軽くなった原因に気付いた男が魔王に喉を突かれた瞬間だった。

魔王は剣を抜きつつ、階段側をチラリと振り向いたが、そのまま窓側に向かって歩み出した。


魔王がまるで階段側に残った六人を無視する動きに、ランゲ達は戸惑ったが、その後に起きた出来事に言葉を失った。


「な、何すんだよ!」

背中を浅く斬られた男が振り向く先に居たのは、仲間だった。

「ち、違う俺は何も」

先に斬った男の肩に、斬られた男が剣を当てた。

「ちょ、ちょっと待て!俺はホントに」

「え?」

自分が持っている剣の先が仲間に刺さっていくのを、先に斬られた男がこの時になって気付いた。

「身体が勝手に動く!?」

ランゲは、階段側に居た襲撃者達全員が自らの意思に反し仲間割れを始めた所を目撃したのだ。


窓側の襲撃者達は困惑しつつも、悠々と歩み寄ってくる魔王を迎え討つために、剣を構えた。

先ず、魔王の持っている剣よりもリーチが長い、両手剣の剣士が突きを繰り出した。

魔王はまた、半歩だけ左に躱わしただけで剣士の攻撃を避け、すれ違い様に剣士の首を剣で撥ね飛ばした。

魔王は真顔のまま、次の男に斬り付けるために、首を撥ねる為に剣を振り切った状態で構え直し、歩みを止めることなく進んだ。


次の男は持っていた両手斧で剣を受けようと構えたつもりだったが、本人の意思に反し斧を持った状態で、両手を持ち上げたところを呆気なく斬り伏せられた。


前の二人が瞬く間に倒され、三人目の男が振り向き、走り出した。

魔王は二人目の男が握っている両手斧の柄を左手で掴み、男の両手を切り落としてから、逃げる三人の背中に投げつけ、三人目も絶命した。



「退却!」

リーダーの合図で残った襲撃者五人の内、四人が窓へと走り出したが、一人は恐怖から腰が抜けて倒れた。

「あ、あ……」

魔王は腰を抜かした男の首を蹴り潰し、逃げる四人に向けて放つ魔法を用意した。


先頭を走っていたリーダーが窓を突き破り、笛を吹いたと同時に魔王が放った風魔法により壁が吹き飛び、風圧で圧死した残る三人と壁の残骸に巻き込まれた。

「うっ!」

リーダーは破片を頭に受け、気絶した。

リーダーが飛び出したのは冒険者ギルドの6階、この高さから墜ちれば即死だ。


魔王が残る襲撃者がどうなったか確認する為に下を見たが、予想外の光景を目撃した。

「竜?」

物陰から飛び出てきた竜が、自身も破片で傷付くのを厭わず、リーダーを庇い、向かいの建物の中庭に堕ちて行ったのだ。


『竜だよな?』

『うん、見てくれは竜だった』

『でも、今ので弱ってるから飛べないと思うよ。リーダーもしぶとく生きてる』

『そうか、しかし何故竜が?』

『ロキ達、神様に見た目が似ただけの物かも』

『私と猫みたいに?』

『私達と狼の様に?』


「魔王様!」

「「「何か!?」」」


話し掛けたランゲは魔王の返事に萎縮した。

『おっと』

「お、お怪我は?」

魔王は目を瞑り、ゆっくりと一呼吸してから答えた。

「何も」

ふと見ると、階段側にまだ六人の襲撃者が残っていたので、魔王は彼等を片付けつつ、ランゲに指示を出した。


「貴様に仕事が有る」

浅い傷ばかり負わされた襲撃者達が穴へと歩き出した。

「今度は、何だ……た、助け……」


「襲撃者のリーダーが竜と一緒にあの建物へ墜ちた、リーダーは拘束しろ」

ランゲは命乞いをする襲撃者達が次々と穴から飛び下りたのを目の端で見て、血の気が引いた。

「私はこれから奴等の根城を潰しに行く、報告はミハウ部族長のところにまで届けろ」

そう言い残し魔王はアルトゥルの元へと向かった。


「大丈夫だよ。ほら、剣を納めて」

びくりとアルトゥルが顔を起こし、魔王の顔を見た。

「は、班長が、岩人間に殴られて死んじまった…………」

「大丈夫、まだ生きてるよ。ほら、貴方の腕を先に治すから、見せて」


魔王が急に、年相応な雰囲気を出したのを見て、ランゲは階段へと向かった。

「そうだ、ランゲ騎士団長」

魔王に呼び止められた。

君達の件(・・・・)は不問にするから、よく団員に伝えといてくれ。“私に歯向かうとどうなるか”を」

「はい」


ランゲは会議室に空いた穴から様子を伺っていた従士二人を呼び、急いで階段を降りた。

騎士団の中で強硬派が魔王暗殺を企んでいたので、会談をしてみて強硬派が納得できる物を魔王から引き出し、強硬派を説得するつもりだったが、それどころでは無くなった。

騎士団で広がった噂と違い、魔王は強く、そして残忍だった。


「何なんですかあの人は」

「とんでもない人を魔王にしちゃいましたね」

「あの様子だと強硬派の事もバレてるな、リューベック氏の所に遣いに行ってくれ。誰でも良いから現場を見てもらい、魔王様に逆らわない様に説得する」

「渋ったらどうするつもりで?」

「通行税の不正をネタに脅せ、なんなら抜け荷の事も告発すると言ってな」

従士二人は顔を見合わせた。

「しかし、それは」

「いささかやりすぎでは?」

「構うもんか、魔王様の逆鱗に触れて殺されるのに比べればよっぽどましだ!」

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