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冒険者ギルドでの会談

「魔王様!何処に行ってたんですか?捜しましたよ!おまけに泥まみれになって!!」


転移した先で、仁王立ちしていたエミリアにいきなり怒られた。

「いや、野暮用でな。それより、もう良いのか?」


「へへへ、何と私はですね……」

エミリアがわざとらしく、胸を張りながら答えた。

「神様への願いが通じたのか、今しがた晴れて神官になれました!!」



ホントは私が神獣に依頼したのだが、と魔王は言い掛けたが、エミリアが神官になった事は周知されていたので、まあ良いかと思い、言わないでおいた。

…………もしもの時に、証人になると思い連れていったトマシュは骨折り損だが。


「そうなってくると、次はエミリアとカミルの式を何時挙げるかだが…………」

「え!?いえいえいえいえ!!!」

エミリアが右手をブンブンと振り回しながら否定した。

「なんだ、好きな者同士だろ?」

「カミルは!あ、アレデス!弟みたいなもんで!全然意識とかしてませんし!告白とかされたわけじゃ無いですし!」

すっかり赤面したエミリアが否定しても、全く説得力が無かった。

「そ、そうだ!会談が始まりますから!早く着替えてください!」

そう言われ、半ば強引に控え室に案内された。

「あ、ちょっと待ってくれ。私は一瞬で着替えられるから先にトマシュの方を着替えさせてくれ」

「え?トマシュも同席させるのですか?」

「うむ、書記としてな」

「はあ。では、トマシュの着替えを持って来ます」

釈然としない様子だが、エミリアは控え室から出ていき、暫くするとトマシュが入ってきた。


「ちょっと、何で僕が」

急に会談に出ろと言われて、トマシュは戸惑っていた。

「念話で会話出来るのは今のところトマシュだけでな。横からアドバイスが欲しいんだ」

「エミリアは使えないの?」

「ああ、まだ使えるようにしていないし、今回は兵士の意見を聞きたくてな」


カミルがトマシュ用の鎧を持って、控え室に現れた。

「何だ、居たのか」

魔王はカミルの顔を見るなり、にやついた。

「居ましたよ」

「で、その腫れは?」

少しばつが悪そうに目を反らしたカミルの頬は少し腫れていた。

「大したことでは…………」

「ふーん」

カミルはトマシュの着替えを机に並べ、服を脱いだトマシュに手渡ししていった。

「今日の会談ですが、騎士団のランゲが急に申し込んで来た会談ですので、ご注意下さい」

「ラ、ランゲが!?」

そういえば、トマシュは知らなかったなと、魔王は今更ながら気付いた。

「何か問題の有る人物なのか?」


カミルは遠慮するトマシュの手を払いのけ、鎧を着付けながら答えた。

「大有りです。まだ若く何も取り柄が無い平凡な騎士だったんですが、騎士団長に一昨年なったのです。三年前のファレスキが落ちたときも武勲を挙げた訳でもなく、ずっとケシェフの街に居たのにです。噂では謀略や賄賂で、他の騎士を蹴落として騎士団になったと」


「イシス、帰って良い?」

「大丈夫だよ、私達の隣で会談の内容を記録しているフリでもしてれば良いから」

「あー、でも……」

「じゃかあしい!!いいから来なさい!」

「お…………~~~!!!」

「うわ」

急に魔王が豹変し、トマシュの脇腹を殴ったのを見て、カミルは驚いた。

『ちょっと、ニュクス!何て事をするのよ!』

念話からニュクスがやった事だと、トマシュは理解した。

「ああ、そうだ。カミルよ、会談が終わるまでにエミリアへの告白の言葉を考えておけよ」

「え!?」

魔王はローマ風のトゥニカにトーガと、良くイメージされるローマ人の服装に一瞬で着替え、カミルの肩をポンと叩いた。

「期待してるぞ」

そう言い残し、控え室から出ていった魔王をトマシュが慌てて追い掛けるのをカミルは呆然と見送った。




「魔王様、入られます!」

入り口に居る兵士の一言で会議室に居た全員が立ち上がり、入室した魔王に一瞥した。

「遅れてすまなかった。ちと、野暮用が有ってな」

四角形に置かれたテーブルの窓側の席に魔王が着くと、それを合図に一斉に席に着いた。


魔王の右側にエミリア、左側には軍服に着替えさせたトマシュを座り。

迎えの廊下側の席には冒険者ギルドのゲルダと昨日の宴会にも来ていた秘書のマリアと初めてみる男性。

右手側に鍛冶ギルドの代表のビスカ氏と秘書、それに何故か息子のライネ。

左手側に騎士団のランゲとトマシュよりも幼い二人組の少年従士が座る配置になった。


「まず最初にですが」

会談の進行役である、ゲルダから発言した。

「急な会談の要請を受理して頂き、ありがとうございました。昨日、頼まれていた資料が纏まりましたので報告と、騎士団長の紹介を併せて行うために、お呼びしました」


ランゲが立ち上がり、自己紹介を始めた。

「クヴィル族の騎士団長を務めます、オスカー・ランゲです。以後お見知りおきを」

『ふーん、結構良いじゃない』

『そうかな?私はトマシュの方が』

『へ?』

トマシュは念話で驚いたような声を出し、目線だけ魔王の方を向いた。


「魔王のグナエウス・ユリウス・カエサル・プトレマイオスだ。さっそくだが、騎士団に頼み事が多々あるのだが、よろしいかな?」

『トマシュ、この二人の事はほっといてくれ』

ランゲに自己紹介ついでに質問を投げ掛けつつ、トマシュに本音を言っておいた。

カエの一言にニュクスとイシスが(かし)ましく抗議をしてきたが、カエは無視していた。


「はい、何でしょうか?」

ヨルムの言っていた印象とは違い、爽やかな雰囲気を醸し出しながらランゲは答えた。

「私が軍の編成するために兵士の募集を始める事は知っているな?」

「ええ、昨日の民会でその様に仰有ったのを聴いていましたが、それが?」

「うむ、規模としては夏までに三個軍団。総員約一万五千の兵士を集めるつもりなのだが」

「一万五千……」

約十ヶ月の間で、それだけの数の兵士を集めて戦えるのか、ランゲは不安に思った。仮に手練れの冒険者の数が揃ったところで、戦場で統制が執れない烏合の集は邪魔にしかならないのは、流石に戦に出た事の無いランゲでも理解していた。


「小隊長までなら、新兵に任せられるとは思うが、中隊長、大隊長になると、流石に厳しいと思ってな。騎士団から中隊長、大隊長、それと軍団長を任命したいのだが良いか?」

魔王も全くの無知では無いとランゲは感じ、二つ返事で了承せずに慎重に質問をすることにした。

「数はどれ程ですか?」

「大隊長で30人、中隊長で180人と言うところか。まあ、他の部族の騎士団と競い合って適任者を決めるつもりだ」

「各隊の定員は?」

「一個小隊で8人、十個小隊80人で一個中隊、六個中隊480人で一個大隊、十個大隊4,800人で一個軍団を予定している」

コレは凄いぞと、ランゲは思った。

今の騎士団では多くても10人の従士を連れて戦場で指揮を執れば一躍有名になれるが、魔王の軍団で軍団長を拝命出来れば最大で4,800人、中隊長でも80人の兵士を指揮する事になるのだ!

「競い合うとの事ですが、どのような方法で!」



『フムフム、計画通り』

ランゲがまるで真新しい玩具を目にした子供の様に耳を伸ばしながら食い付いてきたのを見て、カエが脳内会議でほくそ笑んでいた。

『やっぱ、男の人って(いくさ)好きが多いのか』

『カエも軍団を貰ったときは、小踊りしてたもんね』

『アレはローマに私が正統な王だと認められたのが嬉しくてだな!』

妹達との会話を適当に切り上げて、ランゲの質問に答えた。


「武術で…………、と言いたいところだが、指揮官としての能力を見たいから、教養、武術、指揮能力と総合的に判断したいのが本音だが…………」

わざとらしく、焦らしながら、ランゲの様子を見つつ、ランゲ達クヴィル族の騎士団にとって有利な条件。暫くは裏切るのではなく従う方が得だと思わせる条件を切り出した。

「特に今回に限っては編成までの時間が無いのでな、社会的に地位の有る騎士団の者を優先的に上級指揮官に任命したいのでな」


ランゲが期待からか尻尾をソワソワと振りだした。

「ランゲ騎士団長には軍団長候補として他の指揮官候補の騎士団員と共に新兵の訓練に参加して貰いたい。そこでの訓練結果が良ければ、そのまま軍団長に任命する形をとるつもりだ。いきなりの事で負担になると思うが、頼めるかな?」



『ふふふ……。コレで私の仕事が大きく減ったな』

『え?どういう事?』

『ん?判らんかトマシュ。一から軍団を作るという面倒事をランゲ騎士団長に丸投げしつつ、指示だけ出せば良くなったんだ。コレで政治の方に手を回せる』

『恐ぇ…………』


魔王の胸の内を知り、トマシュは萎縮した。


ふと、ランゲの右側に座っている少年従士の一人がランゲに耳打ちし、ランゲが何かに気付いたのか、一瞬だけ顔を強張らせてから魔王に質問をした。

「ところでですが、馬等は持参ですか?」

「軍団で指揮官の移動用の馬を用意するつもりだ、なに馬の扱いになれている騎士なら大丈夫だし、自前で馬を使いたいなら使って構わんよ」

『なんだ?』

あわよくば、魅力の少ない事実はギリギリまで隠しておこうと思ってはいたが、何かおかしな質問だなあと魔王は思った。


金銭面で不都合が無い事を説明した後、今度はランゲの左側の従士が耳打ちし、一番隠しておきたい事に質問が及んだ。


「戦闘時も騎乗する必要が?」


『げ、嫌な事を聞かれた』

「いや、中隊長、大隊長は歩兵の指揮官だから基本は下馬して指揮を執る事になるな。只し、軍団長は騎乗したまま指揮を執っても差し障りは無いだろうな」


「歩兵…………」

『歩兵はやりたがらないんじゃ…………』

トマシュも魔王と同じ事を考えていた。

プライドばかり高い騎士が果たして、戦場の花形イメージが有る騎兵ではなく、泥臭いイメージがある歩兵の指揮官をやりたがるかと。

『私もそう思ってだな。訓練が始まるまで黙っておくつもりだったんだ』


ランゲが従士達とひそひそ話をしだした。

話に聞き耳を立てると、どうやら魔王達の危惧した通り、“騎士から歩兵の指揮官がそんなに集まるか?”と話し合っているようだった。

「基本的に軍団は歩兵主体になるから、戦場で軍団長が馬に乗るのは専ら偵察や移動ぐらいで、伝令も付けるから軍団長によっては常に下馬している者もいる。

とは言え、歩兵だけだと柔軟性に欠けるからな。各軍団に騎兵一個大隊は置いときたいと思っておる。どうしても馬に乗りたいものは、騎兵大隊の所属とするつもりだ」

三人の耳がピクリと魔王の方を向いた。

「それと、私が居た世界での話だが、歩兵指揮官は軍務が終えた後に、歩兵指揮官時代の部下達と征服した土地で村を造る者も多くてな。騎兵だと、既に社会的地位が高い部下が多いから征服した土地に移り住もうにも色々と手間でな。それと軍団の屋台骨である歩兵の事を知りたいからと、中隊長や一兵卒として軍団に入る者もいたなあ。それと、才能が有れば無名の家の兵士から軍団長になった者もいるしな」


ランゲ達の耳がピクピクと動いた。

「それで私も軍団兵には、北の大河を越えた先の土地を退職時に割り振るつもりだから、除隊後に開拓して村や街を治めて貰いたくてな」


「それは有り難いです。実は私達なんですが…………馬は苦手でして。乗るのはともかく、闘うのは、ちょっと…………」

「ちょっと、ランゲ様!」

「僕たちは別に!」



廊下で警備しているカミルとアルトゥルは会議室に聞き耳を立てるが、中からの音が聞こえずヤキモキしていた。

「今のところは何もなさそうかな…………」

「へぇ、何かクヴィルの騎士団長が居るので、もっと険悪になると思いやしたが」

カミルは「何もなければ良いが」と呟いて視線を廊下の端に向けた。


「ところで、班長」

「何だよ」

アルトゥルが“また”無駄話を始めたと思い、カミルは半ば呆れながら返事をした。

「いやねぇ、エミリアが神官になったじゃねえすか。何時告るんです?」

何時もなら顔を真っ赤にさせて怒るような質問だったが、珍しくカミルは真顔で答えた。

「お前には関係…………ん?」

ふと、カミルの視界の端に目深くローブを被った一団が現れた。


「すいません。こっから先は会談で使用中の為、通行止めです」

穏やかな口調で喋ったが、カミルとアルトゥルは何時でも剣を抜けるよう、見えない様に鯉口を切った。


二人が見た瞬間に怪しいと確信した一団はカミルの手前で止まり、奥に居る一人が部屋と廊下を隔てる壁をゆっくりと見た。


「やれ」


先頭の三人の身体が徐々に膨れ上がり、やがてローブがはち切れ、呆気にとられたカミルはソレに殴り飛ばされた。

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