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総攻撃 −前哨戦の終了−

お互い手の内を知ってるし、考えることが同じだから盛大にグダるな

 目の前で地面を跳ね転がる円柱状のロケット弾をアルトゥルは誰かが悪戯で放り投げた火の着いた兜か何かだと思った。


「え?」


 ロケット弾の推進剤が詰まっている下部部分が裂け、そこから火が吹き出し、止まること無くアメリカ連隊が居る陣地の端から本陣よりのアルトゥルが居る場所へ真っ直ぐ跳ねて来た。


「っ!」

 “何だか判らねえが、避けねえと死ぬ”

 アルトゥルは左に跳ぼうと重心を動かしたが。


伏せろ(Get down)!」

 咄嗟にショーンがアルトゥルの肩を掴み右方向に引っ張り、一緒に塹壕の中に飛び込んだ。


「わっ……」

 さっきまで立っていた場所をロケット弾が通り過ぎ、陣地の外に跳ねていった。


「なんでぇ!?」

 反対方向に逃げるつもりが、無理矢理引っ張られアルトゥルは腰が痛かった。

「多分、不発のロケットだよ。個体燃料が詰まった胴体が工作不良で弱かったりすると、そこから裂けて真っ直ぐ飛ばないんだ」


 何回か地面に当たる音が続き、最後に大きな音を立てて地面に突き刺さり、ロケットは漸く止まった。


「……ったく、誰が作ったヤツだ?おい!工兵隊を呼べ!不発弾の処理をさせろ!」

 腰を摩りながらアルトゥルは部下に叫んだ。





「よし、行け!」

 イシスが指揮する工兵部隊は粗朶を積んだ荷馬車を手で押しながら、空堀に近付いていた。




「火矢を放て!」

 攻囲陣を防衛する反乱軍側が粗朶に気付き、火矢を浴びせて来るが、工兵隊は粗朶の後ろから砂を掛けたり、魔法で水を掛けたりして燃え広がるのを防いでいた。


「縄切れ」

 空堀の手前に到達した荷馬車の一団が粗朶を固定している縄を切り、空堀に突き落とした。




「しつこいわね」

 地面に突き刺してある馬防柵の陰に隠れているイシスと南部部族連合の兵士にも矢が放たれ、地面や馬防柵に当たる音がまるで雨音の様だった。


「イシス様、魔法陣の用意が終わりました」

「待って。準備は良いか!?」


 イシスが荷馬車を押していた工兵隊に向かって叫ぶと、指揮官が剣を掲げ準備が出来ていることを告げた。


「一番手前のを作動させて」

「はい!」


 一緒に着いてきていた魔術師が地面に描いた魔法陣を発動させると、粗朶を積んでいた荷馬車が通った道が青白く光始め、地面の表土が動き始めた。




「しまった!おい、火を放て!」

 ブレンヌスが慌てて指示を出し、魔術師の少年が魔法を発動させると、粗朶が放り込まれた空堀から煙が上がったが、直ぐに土に覆われてしまった。


 粗朶を焼き払うか、取り付いた歩兵を一網打尽にするために油と火魔法を仕掛けていたが、流石に土に覆われては酸素が無いので燃えないのだ。


 それを見越して、イシスは粗朶を落とした後に魔術師に土を掛けさせ、空堀を埋めたので、ブレンヌスの仕込みは無駄になってしまった。




「最初の堀は越えたか」

 2つ目の空堀を埋める作業をイシス達が始めたのを見たニュクスは、地図に目を移した。


「西からも攻撃を開始。それとオルゼル城に動くように指示を」

「了解」

 伝令が高台の指揮所から降りようとしたが、別の伝令が指揮所に飛び込んできた。


「西のポーレ族陣地に敵兵!地面から現れました!」





「集まれ!」

 急に背後から襲われたポーレ族の部隊は攻囲陣側の壁際に追いやられつつも抵抗していた。


「わああぁぁぁ!」

 攻めて来たのが農兵だった為、なんとか踏み止まっているが、数が多いのと奇襲だった影響で劣勢だった。


「このっ!」

 剣を抜いたカミルは槍を突き出し、突っ込んできた農兵の攻撃を躱すと足を引っ掛け、地面に転ばした。


「うっ」

 地面に倒れた農兵の背中を前にカミルは硬直した。


 今刺せば簡単に相手を殺す事が出来るが、突然身体が動かなくなった。トマシュが強盗と遭遇し、斬り殺してしまった後、様子がおかしかった理由が此処に来て痛い程わかった。


 相手は同じ人狼で、重税を理由に反乱を起こした農民。境遇は理解できるし、同情もしているが最早彼らは敵だった。情けを掛けた所でもはや意味がない。


 先に倒さねば自分が殺られるのは頭で理解しているが恐怖に飲まれた。


 他の兵士も訓練の時とは違い太刀筋が鈍り、兵士によっては素手で殴りかかっている者も居た。


 そして、それは敵も同じで子供の喧嘩のように手足や剣を振り回すが上手く当たらず、敵味方入り乱れているので、混乱に拍車がかかっていた。


「危ない!」

 カミルの首根っこを誰かが掴み、脇から来た別の農兵の頭に剣が突き刺さった。


「っ!」

「カミル!変身して敵を追い払え!」

 カミルの首根っこを掴んだ小隊長はそう言うと、他の農兵と切り合いを始めた。




「クシラ騎士団を増援として送れ」

 寄りにもよって実戦経験が無い新兵ばかりのポーレ族部隊が奇襲を受けたので、ニュクスは経験豊富なクシラ騎士団を火消し部隊として差し向けた。


「しかし、敵は何処から……」


 川から魔王軍の陣地の間は幾重にも哨戒部隊を置いて敵の侵入に気を配っていた。


「恐らく攻囲陣から……穴を掘ったはず」





「西は敵陣の後方に出ました!」

 リシャルドは伝令の報告を聞いて地図の前に走った。


「この、5番坑道です。6,8番も間もなく」

 地図に描かれた4本の坑道の内、距離が一番短い坑道が開通したのだ。


「場所は丁度敵陣の後方でしたので、6,7,8番もこの距離で地上に向かって掘り進めます」

 運悪く敵陣の手前に出てしまった時の対策として掘る距離を変えた坑道だったが、一番短い坑道で陣地の裏に出れたのは僥倖だった。

「7番は?」

「岩に当って迂回中です」


 途中、巨大な岩に出会した7番は未だに半分程の距離しか進んでいなかった。


「いや、7番は良い。それよりも1から4番に人手を送れ」

「はい」



「2番で魔王軍と鉢合わせしました!」

「何だって!?」




「地下坑道に反乱軍です!」

「場所は?」

「B坑道です。途中で、天井が崩落して反乱軍が降って来たました」

 ニュクスも、反乱軍と同じく。攻囲陣に向けて坑道を掘らせていたが、運悪く反乱軍と鉢合わせたのだ。


「向こうの方が浅いのか?」

「はい、3メートルほど浅いと」


 掘ってる音でバレるのを気にして、魔王軍側は深めに掘り進めていた。


 狭い坑道内で戦闘になれば、単純に技量だけで勝敗が決まるが、途中で相手が高所に居るとなると、そこで優位が覆るのは明らかだった。


「兵を退かせて火を炊け。坑道内に煙と熱を充満させて反乱軍を追い払え!」

「はっ!」


 次から次へと事態が動くが、未だに本隊は動いておらず、本格的な総攻撃は始まっていなかった。

 ニュクスはイシスの方を向き合図を待った。




「……もう少し近付くぞ!」

 周囲の魔力の動きを探っているイシスは部隊に前進を指示した。


「粗朶投入しました!」

「魔法は?」

「もう少しお待ちを」


 南門の正面は堀がないので容易に近づけるが、大型の弩弓が配置された櫓が睨みを利かせているので、比較的櫓の少ない壁側から堀を埋めながらの進軍だった。

 それでも、壁に近付いたことで投石機から放たれた火炎弾や弩弓から放たれた大型の矢が粗朶を積んだ荷馬車に向かって飛んでくるので、風魔法を担当している魔術師達は大忙しで。その上、粗朶の上に被せる土を操る魔法まで用意しなければいけない状況なのだ。


「出来た!発動します!」


 再び粗朶で埋まった堀に土が被され、残す空堀は1つとなった。


「本隊に連絡はしますか?」

「まだ待て!」


 突入路としては十分だが、イシスは周囲の様子を探り続けた。


「土を盛って土塁を作って」

 イシスは魔術師に指示を出したが、相変わらず何かを探していた。




「敵が止まった……」

 イシス達が土塁を魔法で作り動かなくなったのを前線で指揮を執るブレンヌスが目撃していた。


「おい!風魔法は妨害されとらんか?」


 ブレンヌスが魔術師達に声を掛けた。


「今の所は……」

 地面に魔法陣を幾つも描き、攻囲陣に降り注ぐ砲弾を弾いている空気の層を操る魔術師は返事をするのも一杯一杯だった。


 馴れないことをぶっつけ本番でやっているので、魔法を維持するだけで必死だった。


「むぅ……」


 その様子を見たブレンヌスは、魔王軍全体を眺めると、伝令に指示を出した。


「総攻撃に備える!弓隊に用意させろ!」


 魔術師の限界が迫っており、ブレンヌスは総攻撃に向け用意をさせた。

 小競り合いはもう終わりだ。後は互いの主力がぶつかり合って、最後に立っている方が勝者となる。

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