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総攻撃前

ちょっと短いですが、キリが良いので

「昨日は凄かったな」

「ああ、俺なんか飛び起きちまったよ」


 朝を迎え、朝食の準備をしてるショーンとデイブは夜襲の事を話していた。


「そう言えば、何人か飛び起きて銃や剣を片手に徘徊してたな」

「ん?……ああ」

 思い当たるのかデイブが言葉を濁した。


「元海兵隊のゴードン中尉達だよ。ラッパを聞いて“JAPだ”って叫んでたんだ。あの人は海兵隊で沖縄に行ってたろ?それで、突撃ラッパと爆発音で昔を思い出したみたいだ」

「ああ、そういう事」


 夜襲の砲撃でショーンも昔のことを思い出していた。

 そして、一緒のテントで寝ていたデイブがベッドから転がると、銃を片手にテントから出るのも目撃していた。


 従軍経験の有る転生者は皆、昔の記憶を呼び起こされて居たようだ。

 転生して、前世ほど苦しめられては居ないが、昨日の夜襲で戦地のトラウマを思い出していた。


 魔王軍が新たに設置した砲塁の方角から、砲撃音が5発聞こえ、ショーンとデイブは懐中時計で時間を確認した。


「未だ2時間は有るな」

 最初の攻撃まで時間が有るが、昨夜の夜襲の後から方兵隊が定期的に砲撃を続けていた。





「伏せろ!」

 テントの外で誰かが叫び、リシャルドが身構えていると鉄製の丸い砲弾がテントの壁を突き破り転がり込んできた。


「危ない!」

 幸い、何度か地面で跳ねたのか。勢いが無い砲弾は長机を1基壊してその場に止まった。


「今度はコッチか。被害は!?」

 1時間ごとに攻囲陣に向け砲撃が飛んで来ているが、爆薬の詰まっていない砲弾だった。しかし、地面で転がる砲弾が兵士が休んでいるテントや壁に当たり、死傷者が出るので油断できなかった。


「投石機が壊れた!怪我人が出ている、誰か来てくれ!」


 夜襲に続き、何処に落ちてくるか判らない砲撃で兵士達は寝ることが出来ず疲れていた。


「急いで救護班を回してくれ」

「リシャルド様、食事の用意ができました」


 人馬の少女に話し掛けられ、リシャルドはもうそんな時間だと気が付いた。


「ああ、後から取る。他の者達は先に食べててくれ」


 少なくとも、今の砲撃の混乱を収めるまでリシャルドは食事を取るつもりはなかった。




「夜襲に砲撃か」

「つっても、砲撃も本気じゃねえからな。本格的な攻撃をされたらどうなることやら」

 反乱奴隷の兵士達は各々、席に着いて食事を取っていた。麦の粥にオムレツ、丸焼きにした豚や鶏と言った贅沢な物だが、殆どは普段ならビトゥフに届けられている畜産品だった。


「あ、また居ない」

 幹部が座る席に、ブレンヌスが居ないので席に着こうとしていたホセはその場から離れた。


「あの、どうかしました?」

「ちょっとブレンヌスさんを喚んで来るわ」

 何か粗相が有ったのかと、人馬の少女が気にしたのでホセは優しく訳を話し、ブレンヌスのテントの方に向かった。


(もう少し、気にして欲しいぜ)


 心の中で文句を言いつつ、ホセはブレンヌスが使うテントの前にやって来た。


「ブレンヌスさん、居ますかい?」

「……ああ、居るぞ」


 返事が有ったのでホセは「失礼しやす」と断ってから、仕切っている布を押し越え、中に入った。


「何か用か?」

 薄暗いテントの中で小さい祭壇の前に跪き、何か祈っていた様子のブレンヌスはホセの方を向いた。灯りは祭壇のランプだけなので、表情を窺う事は出来なかった。


「飯の時間っすよ。……ゴーレムだから飯は要らないかも知れませんが、偶には人前で飲み食いしてくださいよ。FELNに怪しまれます」

 ブレンヌスの素性を知っているホセは、FELNにその事がバレるのを恐れていた。

 FELNには“流れ者”と説明していたが、ブレンヌス達の様な魔法と剣術に長けた流れ者がこうも都合良く現れるとFELNが納得しているとは思えず、魔王のゴーレムだとバレるのは避けたかった。


「……そうだな」

 立ち上がったブレンヌスはランプの火を消し、ホセの方に歩き始めた。


「誰に祈ってたんすか?」

「……古い友人だ」





「捕虜の様子は?」

「捕虜ですか?普段と変わらず、足元を見続けてましたよ」

 ニスルに妙な事を聞かれ、捕虜の食事の世話をしている女魔術師は首をかしげた。


「そう、ありがとう」


 短く礼を言い、ニスルは城の屋上に足を向けた。

 朝靄が眼下に広がる城の屋上に出ると、周囲に人が居ないのを確認し、懐から黒い猫を出した。


「見張りますか?」

 黒いメス猫は身体を伸ばしながら喋った。


「ええ、勿論。昨日、FELNの幹部が捕虜の……誰だっけ?……ああ、チェザリを洗脳したのをクィントゥスが確認しているから」

 既にネズミに化けてFELNの幹部達の動きを確認していたクィントゥスから、“チェザリが洗脳されたようだ”と聞いていたニスルは他の部下にチェザリを見張らせることにした。


「でも、食事を運んだ際に逃げないとなると……何ですかねぇ?後でこっそり牢破りでもするんですかねぇ?」

 ゴロゴロと喉を鳴らしながら、ニスルの足首に頭を擦り付ける黒猫の頭をニスルは撫で始めた。


「恐らくね。異変が有ったらすぐに報せて」

「はい、姉様。私にお任せあれ」


 意気揚々と黒猫は城内へ走り、屋上に残されたニスルは色々と考えを巡らせた。


「後はアイツらか」


 ブレンヌスとリシャルド達がオルゼル城に向け出陣してからが忙しかった。

 FELNの幹部は今まで以上に、北の神聖王国とモールス無線で連絡を取り合っているが、ニスル達はモールスが判らないので内容が理解できず。そのせいで動き回るFELNの幹部が何をするのか、ニスルを含め残ったゴーレム総動員で見張る事となった。


 だが、殆ど部屋に籠もっていたFELNの幹部が出歩く用事はどれもしょうもない用事が多かった。食料庫へつまみ食いに行ったりするのはまだ可愛げが有るが、中には複数の奴隷と寝たりする奴も居るのでニスルはホトホト参っていた。


「姉御!大変だ!」

 反乱の指揮を殆しないで、好き勝手しているFELNの幹部の事でイライラし始めた頃にネズミに化けたクィントゥスが物陰から滑り出て来た。


「今度は何?」

 ニスルの目がかなり不機嫌そうだったので、見の危険を感じたクィントゥスは慌てて人に化けた。


「アイツら動き始めました。無線機からの連絡を見た後、城中に散りました」

 クィントゥスの報告を聞いても、ニスルは表情を変えなかった。


「具体的に何かしてる訳?」

「今まで行かなかった場所に顔を出してます。武器庫や農兵の宿舎、反乱奴隷の宿舎等です」

「ふーん……」


 ニスルは表情を変えなかったがクィントゥスは静かにしていた。こういう時は考え事を始めた時なので変に声を掛けると普通に顔をビンタされるのだ。


「判った、見張ってて」

「はい」



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