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魔王降臨

「小さい魔王のようです」の書き直し、その1になります。


目の前で格子状の檻に閉じ込められた雄牛が喉を槍で突かれ、薄暗い地下室に断末魔が響き渡り、喉から勢い良く吹き出た血が床を掘っただけの穴に流れ落ちた。

その様子を20人程の人狼の集団が見つめ、穴の前に立つ長老が呪文を唱えている。


「うーん…」

この作業に立ち会って、10頭目の雄牛が突かれた所だが立会人の1人が眉間にシワを寄せ悩んでいた。

「「ランゲ様、如何しました?」」

遠巻きで眺めていた人狼の青年が首を捻ると、脇に居たの人狼の少年2人が尋ねてきた。


「いや、このやり方で本当に合ってるのかな?」

彼は人狼の騎士の1人。弱冠20歳でありながら、この街を治めるクヴィル族の騎士団長であり、騎士団長として目の前で行われている儀式に立ち会っていた。


「でも、本に書かれている通りですよね?」

「先代魔王様の時代の本ですから間違えは無い筈ですよね?」

儀式のやり方が書かれた本を自宅の屋根裏部屋から偶然発見し、部族長に提出していたが、少し問題があった。

「いや、読んでみた…。いや、読もうとしたんだけど、知らない言語だったんだ。部族長が読めるらしいけど、誤訳してなきゃ良いけどなあ。ほら、既に言い伝えと何か違うし」


言い伝えでは、“杯に新鮮な牛の乳と霊薬を入れる”となっているが、部族長の翻訳した文章では、“雄牛の生き血を濾した後、用意していた③を入れ、良くかき混ぜる”となっていた。

「そもそも、アレって霊薬かな?」


儀式を取り仕切っているポーレ族の長老の側に霊薬とされる③が入った篭が用意されていたが、中身が怪しかった。

バニラやシナモン、サルサパリラ、ナツメグ、てんさい糖とまるで菓子の材料だった。


「まあ…。前回の魔王様が酷すぎて、魔王様関連の書物が失われてますし」

「魔王様の居城も堕ちて資料がないので仕方ありませんよ」


他の立会人達も小声で儀式の進み具合について話しているのは聞き取れ、騎士団長は余計に不安になった。

雄牛の血がある程度滴り落ちると、ポーレ族の長老が孫娘に指示をだし、霊薬こと③を穴に入れさせ、普段は船を漕ぐために使うオールでかき混ぜさせた。


「っ!ランゲ様」

「穴が光だしました」


血が溜められた穴が一瞬だけ光り、血が波打った。



!?

異世界に転移してきた魔王は、いきなり得体の知れない場所に放り出され無我夢中で血の池の中をもがいた。

「うっ△★◎%〒&§!」


どっちが上だか下だか判らず、魔王はパニックになったが、運良く穴の底を蹴り、水面(?)に顔を出すことができた。


「ぶっは!?」

出てきたのは全裸の人狼。全身血(まみ)れになりながらも、必死に穴の端へと移動し、穴から這い上がった。


「おお、魔王様が降臨なされたぞ!」

「アレが魔王……?」

長老が叫んだが、出てきた魔王は小さく、ランゲは儀式が失敗したのではと青ざめた。


「あんな小娘が?」

他の立会人達も出てきたのが小さい子供で、背の割には胸に膨らみが有ることから少女だと判り落胆していた。


一方の魔王も何が起きたのか周りを見渡したが、鼻腔中に広がる生き血の臭いにやられ、口元を押さえた。

「うっ…」


「うわ、吐いたよ」

胃腸に貯まった雄牛の血を吐き出し、魔王はその場にしゃがみこんだ。

「長老、魔王様は大丈夫なんでしょうか?」

「直ぐに湯浴みの用意をするのじゃ」


血を吐く少女を眺め、ランゲは“かわいそうな事をしてしまった”と後悔した。

「あの爺…“また”やらかしたな」

今更、部族長や長老の悪口を言った所でどうにもならないが、ランゲは無意識の内に言葉で出していた。


少女は不安そんな目を周りに向け、尻尾も股に挟んでいることから、怯えているのが判った。


全身血塗れのせいで顔が良く見えなかったが、ギョロついた彼女の目が余計に目立ち。そこはかとなく不気味なので、ランゲは無意識の内に尻尾を股の間に入れかけていた。


「魔王様、此方にどうぞ」


魔王が振り向くと、布を持った女性が立っていた。


(身長がでけー…)

魔王は立ち上がり、女性を見上げて思った。


「この者が魔王様の身の回りの世話をいたします。私の孫娘のエミリアでございます」

そう言い終えると、長老とエミリアは深々と頭を下げた。


(小さ……)

魔王の目線の高さがエミリアの胸の高さに当り、立会人達は一様に思った。


“こんな貧相な小娘に何が出来る?”と。


魔王が長老とエミリア、そしてその場に居合わせた者達を見渡す。


(髪は黒ベース、耳はオオカミ、尻尾もあり。うむ、打ち合わせ通り人狼の魔王になったみたいだ。………しかし、男はズボンを履いているな蛮族(バルバロイ)か)

転移前に神様達と決めたルール通りの場所の様なので、魔王は安心した。


エミリアから布を受け取った魔王が自身の身体を確かめながら、ゆっくりと血を拭き取っている間も、立会人達は固唾を呑んでその様子を眺めていた。

皆、魔王様が何か話すのを待っていたのだが、魔王本人は自身の身体がちゃんと“予定通り”の姿になったか確めるのに忙しかった。


(やりずらい、な)

横目で視線を感じつつ、魔王は辟易としていた。

衆人の目の前で全裸で居る趣味など無い魔王は、“さっさと関係がない人は掃けてくれ”と思っていた。


「魔王様、お湯をお持ちしました」


魔王が振り向くと、運び込まれた鉄の釜には確かにお湯が入っているが。


「………少ない」

「え?」

魔王の耳があからさまに、“しゅん”としたので、エミリアは慌てた。

「風呂は無いか?」

「え、えーと。“ふろ”ってなんでしょうか?」

実際は、“風呂屋”等は在るのだが、エミリアはテンパっていた事で、思わず聞き返してしまった。


「普段身体を洗う時はどうしてる?」


「温かい季節は川で水浴びをしますが、今は冬なのでお湯で濡らした布で身体を拭くぐらいです」

そして、エミリアは持ち前の天然ボケを炸裂させた。

入浴の習慣は無いわけではなく。むしろ、神職に就いているエミリアは身体を清める必要上、頻繁に入浴しているのだが、“勿体無い”と水浴びや身体を拭く程度で済ませていたので、その通りに答えてしまった。


(私は血塗れなのだが。しょうがない)


魔王は誰もいない方に数歩進み、しゃがんでから魔法で床の材質を調べた。

(花崗岩か、水が漏れる心配は無いな)


「あの、魔王様?」

しゃがみこんだ状態で床に手を触れた様が、まるでその場で項垂(うなだ)れた子供の様だったのでエミリアは声を掛けた。

「人払いを」

「あ、はい!」


流石に公衆の面前で風呂には入りたくないので魔王は男性陣には暫く下がってて貰う事にした。




「これでポーレ族どもは終わりだな」

地下室から坑道を抜け、地上の墓地に出た所で、ランゲは同じクヴィル族の騎士に話し掛けられた。

「まだ結論を出すのは早いですよ。これから、部族会議での魔王様の御発言が有ります」


相手は同じ騎士団に属しているリューベック卿。親子程の歳の差がある相手だったので、ランゲは丁寧に答えた。

「いい加減、あんな負け犬どもに遠慮する必要など有るまい」


墓地の境界に設けられた詰所を通り過ぎ、リューベック卿は鼻を押さえた。

「我々は攻め立てられているのに、こんな連中を囲う余裕があると思うのか?」

墓地と街との間に在るポーレ族の難民が住むスラム街に出たリューベック卿は忌々しそうに言葉を吐いた。


「我々には彼等を保護するだけの余裕はあります」

「ふんっ」


ランゲの指摘を鼻で笑い、リューベック卿は早足でその場から離れた。




元「小さい魔王のようです」は一覧から消します。

m(__)m

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