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冒険者ギルドのようです


「大体、カミルはエミリアに対して押しが弱いんです!あんな態度じゃエミリアが気づくはず無いじゃないですか!」


冒険者ギルドに向かうまでの道すがら世間話をしていたが、マリアがカミルの姉で更にエミリアと親しいと知り、カエがエミリアに起きた事の顛末を説明したらマリアが怒り出した。


曰く、“押しが弱い”“情けない”“馬鹿!”“唐変木”だそうだ。


「マジ有り得ないですよ!恋してるのに、告白しないで眺めているだけで良いとか!それなのに、魔王様を降臨させる事が決まって、エミリアが世話係りに任命された時なんか半狂乱になったんですよ」


「何故?」


「ヤツェク長老が“エミリアにいい人が居ないから、魔王様と結ばれれば万々歳”とか、酔いの席で大騒ぎしたんです。それにエミリア本人もその気になったんですよ」


魔王が昨日の記憶を反芻してみたが、確かに身体を見たエミリアが少し残念そうな雰囲気だった事や、男の人格の事を矢鱈と聞きたがることを思い出した。


「モテるのは嬉しいが、私は妻子持ちだから、妻以外の女性を娶るつもりはないよ」


「そうそう、魔王様は妻子……妻!?」

マリアが振り向き、魔王の両肩を押さえつけた。まるで母親が子供に叱りつけている様な剣幕に、魔王の横に居たトマシュがたじろいだ。


「女の子同士でって事ですか!!」




「男……?」

失言だと魔王が誤魔化そうとしたが、あまりの剣幕に隣に居たトマシュが三兄妹だとばらしてしまった。


「まあ、その…………。三人が混ざっている人格は多数決で女性だから」


そもそも魂に性別なるものは無く、産まれた肉体に応じて魂の性別が男女に振れるらしいのだが、生前の記憶が三兄妹分有るので混乱が生じかなりめんどくさいのだ。


その混乱を解消するために三兄妹の人格を別ける準備で三兄妹が別々に思考し始めてはいるが完全に分離することは出来ておらず、他の身体へ分離した人格を移動させる事が出来ないのだ。今出来るのは三人の誰かの人格を元に分祀(コピー)を作るぐらいなので、違う意味でめんどくさく為るため魔王本人はしたくないと考えていた。


「でも、それって。“召喚の儀”が失敗したって事では?」


マリアが懸念しているのは、召喚の失敗で魂が傷付いており、将来的に魔王の魂が自壊しないか?だった。


過去に召喚に失敗した魔王や勇者の魂が自壊し、悲惨な末路を辿ったと記録に残っているのだ。


「いや、その問題は無いよ。“召喚の儀”は成功してるよ」

当の魔王は“召喚の儀”で喚び出された訳ではなく、自分の仕えてる神様を含む数人で“勝手”に降臨しただけなのだが、適当に話を合わせた。


「そもそも前世で三兄妹の魂がごちゃ混ぜになっているのが原因だから“召喚の儀”は関係ないさ」

「はあ……」





「では此方になります」

マリアの愚痴と食べ物の話題で盛り上がっていたが、とうとう目的地の冒険者ギルドの前に着いた。


冒険者ギルドの建物は何と六階建てで、一区画(ブロック)丸々占めていた。


「コレは…………、デカいな」

「ミハウ部族長の発案で五年掛けて建設しました。コレでも収まりきらずに、別棟が三ヶ所ありますよ」

「何でまた、そんなにデカいの?」

「人狼の領地全体の冒険者ギルドの本部を兼ねているのでこの規模になったんですよ、戦争が始まる前は人間の冒険者ギルドの支所も入る予定でした」


規模で言えば魔王の実家の方がデカいのだが、絶え間無く出入りする人の多さに魔王は目を奪われていた。


「流石に人が多いなあ」

「此処は大通り側の正面出入り口ですからね、他にも荷馬車用の入り口と出口、更に地下洞窟を使った船用の桟橋も地下に有りますよ」


「地下洞窟だって!?」

船が通る大きさの地下洞窟など、魔王は見たことが無いので、興味を引かれた。


「ミハウ部族長の話だと、“街を築く前に大河に繋がる洞窟を進んだら、巨大蛇の巣が有ったから皆で退治した”とか」

「それ、ヤツェク長老から聞いた事が有ります。何でも、神獣だったとかで、倒したら神話級の秘宝が手に入ったとか、手懐けて地下通路で飼ってるとか」


そう言えばロキが“ペットのヨルムが人狼に捕まった”とか言ってたなあ、と魔王は思い出していた。



利用者でごった返してる受付を横目に見つつ、魔王達は職員用の通路に向かった。

「此処に居るのは全員冒険者なのか?」

「半分程が冒険者で、残りが依頼を出しに来た人や依頼を受け取りに来た仲介人ですよ」

「仲介人?」

「流石に冒険者全員が此処に集まるとパンクするので、些細な依頼を仲介人に割り振っていまして。仲介人は手数料を貰える仕組みになってます」

「“些細な”と有るけど、何を基準にしているんだ?」

「それはですね」


マリアは受付の壁に横に描かれている地図を指差した。


「各冒険者にはシラバスが用意されていまして、各カテゴリーの試験に合格すると、それに対応した内容の依頼を受けれる様になります」


指差した先の地図には今居る街、“ケシェフ”と“シラバス試験場”と書かれていた。


「この街での試験内容は朝からは“妖精との契約”、昼からは“初級水魔法”、夕方からは“初級火魔法”の三つです。今は“初級水魔法”を受ける人の受付時間なので混んでいるんです」


「水魔法だけど昨日お湯を出しただけでエミリアに驚かれたが、初級では何をするんだ?」

厳密には“風魔法の応用で雨を降らした”が正しいのだが、この世界の基準が知りたいので魔王はボカした質問をした。


「お湯ですか!?」

「あ、ああ」

マリアの反応に振り返った冒険者の数人が魔王だと気付き、また視線を戻したが聞き耳を立て始めた。


「中級でコップ一杯分の水、上級で樽一杯の水とは言われますが、お湯ですか!?」

「昨日見た量だと、樽二杯以上は有りました」

トマシュからの追加情報でマリアが頭を抱えた。

「何に使ったのですか?」

「えーと、血塗れだったから身体を洗うのに」


魔王からすれば意外な反応だった。元居た世界では水の生成自体はポピュラーな魔法で、水道を引けない地域では飲み水には使えないが生活用水として使われているのだ。

方法は色々有るが、空気中の水を集めるやり方が一般的で、虚無から水を生み出す訳では無いので割りと簡単なのだ。


「まさかだけど、虚無から水を生み出してる?」

マリアの反応から、一番非効率なやりかたではないかと質問してみた。

「「え!?」」

「え?」

トマシュとマリアが顔を見合わせた。

「いや、空気中に水分が有るんだから、それを集めれば良いじゃん」

「?」

「空気中に水……ですか?」

「いや、洗濯物が水で濡れたり雨で道が濡れてもその内乾いて無くなるでしょ?」

「それが?」

魔王は思い始めた。もしや自然科学に疎いのではと。


「水って気体になって空気中を漂っているから、魔法で集めて液体にすれば簡単に出せるでしょ」

「水が漂っているんですか?」

「もしかして冬場にストーブを焚いていると、壁が汗をかくのと同じ?」

多分、結露の事を言ってるんだろうと、魔王は思った。

「そうそう、それと同じ。水魔法で水を触媒にする方法を理解できていれば簡単に出せるよ」

「アレ、妖精のいたずらじゃないんだ…………」




「では、この部屋でお待ち下さい」

魔王達は五階の会議室に併設された控え室に案内された。


控え室には何故かテーブルで突っ伏しているエミリアと対面に腕を組ながら何か文句を言っている女性が居た。

「あれ?エミリアじゃん。何してんの?」

「あ、マリア……」

顔を起こしたエミリアは何時ものボケボケした雰囲気は何処に行ったのやら、か細い声を何とか絞り出した。


「エミリアったら馬鹿カミルがエミリアの事が好きって知ってからずっと突っ伏してるんだよ」

恐ろしくマリアの姉妹だろう、察するにカミルは同い年の姉達に弱いようだ。

「だ、だって…………。カミルは良い()だし、私みたいなドジの巫女なんか不釣り合いだよ………」

「馬鹿カミルの方が不釣り合いよ!親の商家を継がずに兵士になったかと思えば、エミリアに毎日会える神殿付きの警備を希望して毎日会ってるのに告白の一つもしないんだよ!マジ有り得ないんだけど!!」


エミリアの顔が赤面して顔を両手で隠した。


「ちょっと、トマシュ」

「何?」

「ポーレ族の恋愛事情ってどうなってんの?」

流石に魔王も付き合いきれなくなり、トマシュに話を聞くことにした。

「ど、どうって?」

(カエ)は妻に対して求婚して受けて貰えたから結婚出来た訳だが、ポーレは女性側が求婚するのか?」

「あー……」


「そんな訳無いわ!!普通、男の方から求婚するし、良い歳なんだから見てるだけじゃなくてさっさと求婚するし!!と言うか、エミリア!何であの馬鹿がアンタの事が好きって気付かないの!!」

マリアの姉妹が会話に割り込んできたが、よっぽど腹に据えかねてたようだと、魔王は思った。


「だ、だって。弟みたいな感じだし。カミルは兵士になってカッコ良くなったのに、私なんか神官に昇任できないダメ巫女だし周りの皆に迷惑をかけてるだけだし、結婚したらカミルの邪魔になるよ」


エミリアが目を潤ませながら話を続けた。


「ダメな自分に嫌気が差して、せめて部族の役にだけはたちたいからって、カミルの気持ちに気付かないで魔王様の夜伽の相手をお爺様に頼んだんだよ。今更カミルに顔向け出来ないよ…………」


エミリアが本格的に泣き出し、顔を伏せてしまった。


「トマシュ、ちょっと廊下に出ようか」

「うん」



「言うほどエミリアはダメ巫女なの?」

魔王が他の人に聴かれないように無音化の魔法を使ってからトマシュとヒソヒソ話を始めた。

「それが、神官になるための方法が判らなくなって」

「どういう事?」

「本当は巫女を二年間勤めたら神様と契約するんだけど、三年前に人間との戦で神殿が破壊されて契約が出来ずにいて。ポーレの神官も捕まったから儀式の再現も出来ないんだ」

「それって、エミリアのせいじゃないでしょ」

「そうなんだけど、エルノさんがいるでしょ」


魔王は昨日の宴の席の事を思い出した。

「ミハウ部族長の孫で魔法の得意な冒険者だよね?」

「そう、あの人クヴィル族の冒険者だけどポーレ族では無いのに神様と契約出来たから問題になって」

「ん?」

話が見えない魔王の反応を見て、トマシュが続けた。


「本当なら神様と契約出来るのはポーレ族の人だけで、儀式をして契約するんだ。ただ、エミリアのレフ家の人は儀式をしなくても15歳になると神様側から選ばれてたらしいんだけど。今回だけエミリアが選ばれずに、部族長の跡継ぎだったのに家出して冒険者をしてた他の部族の人が選ばれたから、その…………、エミリアに問題が有ると中傷されてて」


「あの野郎」

「?」

魔王は同じく魔王を始めたロキが適当に仕事をしたと思った。

この世界はロキが魔王遊びをするために適当に創った世界で、各種族の神様はロキが“適当に演じたから神様の遣いとして降臨したとか口裏合わせといてくれ”と言うほどに適当なのだ。


「何か、腹立ってきた」


その適当な仕事のせいで、何の落ち度が無いのにまるでエミリアが問題の様な扱いをされているのだ。

問題が有るのは神様側だというのに。


「トマシュ、この街に居た蛇と神様の縁って切れてる?」

「え!?いや、まだ神獣だって聞くから切れて無いんじゃないかな?」

「じゃあ行こうか」

そう言うと魔王はトマシュの手を握り、姿を消した。



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