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汽車強盗

「誰も居ないなあ」


トイレに案内された仲間が入っていた扉から警察署に入ったが、誰も居ない廊下に出た。


「さっさと済まそう」

なるべく音を立てない様に、トイレの前を通り過ぎると、中で仲間が時間稼ぎをしている様子が聞こえてきた。


「何処だろ?」

廊下を進むと階段の踊り場に出た。

正面は相変わらず人の気配がないが、左手は警察署の正面入口が在るからか、話し声が聞こえてきた。

「なに、警察署は大体似たようなもんだろ」


そう言うと、仲間の1人が右手の階段の上段を確認し、次いで下に階が無いことを確認すると奥へと向かった。


「大体、銃は重量物だ。1階と相場が決まってる……。ほら在った」

鉄製の両引き戸の扉の上に“武器庫”と書かれた白いプレートが掲げられていた。


「センサーが付いてると思うか?」

武器庫には盗難や事故防止のために“開けられた”事を告げる接触式センサーが付き物だった。

「賭けてみるかな」


ショーンはそう言うと、おもむろに鍵の束から“武器庫”と書かれた鍵を探し始めた。

「…流石にこの中にはないか」

何処か間抜けな警官揃いだが、武器庫の鍵は束の中にはなかった。


「任せな」

他の仲間がドライバーと針金を鍵穴に突っ込んだ。

「見た目通り古いタイプだ…。開いたぞ」

簡単に開けて見せた仲間はショーンとは反対側に移動し、引き戸の取っ手に手を入れた。


「開くぞ」

「ああ」


錆びているのか、軋み音を立てながら開いた引き戸からショーン達は顔を出した。


「小銃にリボルバー式拳銃…。おい、機関銃まで在るぞ」

整然とラックに立てかけられた小銃の奥に、大型の機関銃が見えた。

「全部イギリス製だな」

銃に詳しいショーンからすると、“なんでこんな物ばっか有るんだ?”と思えるような旧式の武器ばかりだった。


「なんでもいいだろ、運ぼうぜ」




「サラさんとルーシーさんは戻せないよ。……いや、グナエウスさんには僕から訳を言うから大丈夫だよ」

フェンリルは警察病院を出るとスマフォでヨルムンガンドと話していた。


『でも、お兄ちゃん。グナエウスさんってお兄ちゃんの事を嫌っていそうなんでしょ?だったら私から言うし…』

稀にカエがフェンリルの事を快く思ってないフシが有るのでヨルムンガンドとしては心配になった。

「大丈夫だって。僕の口から言いたいんだ。それじゃ」


「ふぅ…」

ため息を吐きつつ、フェンリルはスマフォの画面を眺めた。


「あの子は優しいな…」

我儘な他の神様(ユリアとか)や問題を起こす主人(ロキ)に振り回され、フェンリルは今の自分の境遇が嫌になってきた。


対照的にヨルムンガンド達が優しいので助けられているが……。


弟分のナリとナルヴィも「兄さん兄さん」と人懐っこく接してくれるが違う世界に居るため接点が少なく。仕事柄良く会うヨルムンガンドの優しさに支えられているところがあった。


「頑張るか……」

“転生者を汽車に乗せ、あっちの世界に送り届けたら、大好きなフランスパンでも食べるか”等と考え。フェンリルは警察病院から駅の方へと歩きだした。



・・

・・・


―ドンッ!―


「きゃ!」

「なんだ!?」

10メートル程歩いたところで、銃声のような音が響き、フェンリルは身をかがめた。


「何!?」

通行人も音がする方を探しながら、道の端に寄るなどしていた。




「バカ!なんで撃ったんだ!」

警察署から出てきた警官はいきなり銃撃され、大慌てで警察署の中へと戻って行った。

ショーンと一緒に駐車場で銃を積み込んでいる仲間が、警官に気付き発砲したのだが。


「ほら!警報が鳴ったじゃないか!」

警報が鳴り響くので、ショーン達は大慌てでトラックの荷台に飛び乗った。


「出せ!」

まだ、半分しか積み込めてないが、時間が無い。

残りは諦めるしか無かった。


「おーい!待ってくれ!待てって!」

トイレに案内されてた仲間が大慌てで出てきた。

「あー待った。1人忘れてた」


3人掛かりで引っ張り上げると、顔を腫らした警官が慌てて出てきた。

「行ったかと思ったぞ!」

「お前こそ、あの警官に何したの!?」

追い掛けてきた警官はヨロヨロと地面に倒れた。


「ぶん殴っただけだ。コレでもボクシングの州代表だぞ」


乗ったことに気付いた運転手が一気にアクセルを踏み込み、クラッチを繋いだのでトラックの後輪が白煙を上げながら空転した。

「うおっ!」

急にトラックが前に出たので、立っていたショーンが危うく放り出されるところだった。




「裏手だ!急げ!」

警察署の正面から警官が飛び出し、フェンリルの横を通り過ぎた。


「居たぞ!」

「…えっ?」


特徴的なディーゼルエンジン音を響かせながら、古いタイプのボンネットトラックが路地から走り出てきたが、荷台に乗ったショーン達を見てフェンリルは言葉を失った。




「おい!どうする!?」

運転手が荷台に向け叫んだ。


「このままホームまで突っ込め!」

荷台に居るショーン達は各々小銃や散弾銃に空砲弾を込めると、空に向け銃を乱射し始めた。


「退け退け!」

「轢かれてぇのか!」

安全の為に、ショーン達は空砲を使っているが、駅前に居る一般の乗客(?)達はクラクションを鳴らし銃を乱射しながら突っ込んでくる暴走トラックに気付き、大慌てで通りの端へ避け始めた。



「来たぞ」

駅のホームでショーン達を待ち構えていた他の仲間たちは表の騒ぎに気付き、列車の方を見た。


「アレだな?」

操車場で向きを変え、編成し直した列車が丁度ホームに入ってくるところだった。


「12両編成か…。前6両を残して切り離すぞ」

ショーン達別働隊を含め118人。

6両も有れば十分だと考えた結果だった。


「逃げろ!」

ボンネットトラックが入り口を突き破り、改札を突っ切りホームに入ってきた。


「やるぞ」

「Go!Go!Go!」


仲間達は列車を切り離す者と、銃を列車に積み込む者に別れ一斉に動き始めた。


「うまく行ったな!」

ショーンが荷台から降りると、リッキーが走り寄ってきた。

「ですが、半分しか積めませんでしたよ。では、汽車を確保してきます」


ショーンは挿弾子(クリップ)を用い、小銃に実弾を装填した。



「嘘だろ…」

慌てて追い掛けてきたフェンリルが見たのは、警察のボンネットトラックから銃を積み下ろす兵士達、逃げ惑う乗客、小銃を構え汽車の運転席に向かうショーン達。



「汽車から降りな!」

ショーンは叫ぶと運転席に一発発射し、ガラスを割ってみせた。


「ひぃ!助けて!」

「降りんか!」

仲間の1人がその場に蹲り、両手を上げた運転士を蹴降ろした。


「止まれ!」

警棒を持った警官が駅のホームに現れたが、ショーンが小銃の銃口を向け撃ってきたので慌てて売店の影に隠れた。


「おい、動かせるかい!?」

運転士を追い出し、代わりに汽車に乗った仲間にショーンが声を掛けた。

「大丈夫だ行けるぞ!」

前世で機関車の運転経験が有る仲間が慣れた手付きでレバーを動かし。弁を操作し始めた。


そして汽笛を鳴らし、汽車が動き出すとショーンは客車に乗り込んだ。


「うわあぁ…どうしよう……」

後ろ6両が残され、汽車が出発したのを見て、とうとうフェンリルは頭を抱えこんだ。


なんで、ショーン達は列車を強奪したのか?

なんで、警察のボンネットトラックから銃を?

あの兵士達は誰だ?


判らない事だらけだが、原因は自分が引率しているはずのショーン達なので、責任は自分に有ることをフェンリルは理解し、そして嘆いていた。


「もう1人になりたい……」


いっそ消えたいと思ったが、そうもいかないので。フェンリルはハッと我に返りスマフォを取り出した。

「そもそもグナエウスさんの所の人達なんだからグナエウスさんに……」


だんだんと悲壮感が怒りへと変わりつつあるが、電話帳アプリを開いたところで、ある事を思い出した。


「……グナエウスさんの連絡先知らない」


そもそも、カエ達はスマフォすら持ってないから連絡がつかないのだが。

「こうなったらユリア様だ!」

半ば八つ当たりで怒りをぶつける相手を探す形になったが、フェンリルはカエ達の主人であるユリアへ電話を掛け始めた。

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