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三途の川騒動

何でショーン達は三途の川で汽車を奪ったのか?


話はサラとルーシーが倒れた直後にまでさかのぼる。




「2人は危険なので警察病院で一度、警察病院に入院させます」

担架に乗せられたルーシーとサラがフェンリルがスマホで呼んだ古いボンネットバス・タイプの救急車に乗せられている最中に、ショーン達は2人を置いていくことを聞いた。


「待った、一緒に帰ったらダメなんか?」

「……精神的に不安定です。このまま帰っても、身体の方が獣人症で変化しているので心が拒絶して元の身体に戻れるかわかりません」

耳や尻尾に変化が無いので、ショーン達はフェンリルが嘘を吐いていない事を理解した。


「ですが、精神が安定すれば必ず送り返します」

魂に直接書き加えられた呪いによって身体も変化し、人狼の状態でも狼のような歯になる程度の変化だが、今の2人には辛い事が予想された。

もう少し安定するか、ロキに呪いを解いてもらうかして対処してもらう為に、2人は三途の川に留まらざるを得なかった。


「すみません!書類等の処理が必要なので誰か付き添いをお願いします!」

救急隊員に言われ、フェンリルは振り返ったが、“はっ”と気付きショーン達の方を見た。


「心配ない。2度目のあの世だしなあ」

「どっかで待ち合わせれば良いんだろ?」

「便所は何処か?」

「腹減ったな、なんか食いに行こうぜ」


好き勝手な雰囲気を前面に醸し出す、老人の集団に不安を覚えつつも、フェンリルは「では、3時間後の午後2時に汽車が出るので駅前の噴水で会いましょう」と言い残し、救急車に乗り込んだ。


「…で、どうする?」

走り出した救急車を見送りながらショーン達は今後の事を話し始めた。

「まあ、帰れるんなら大人しくしとくのもありだろ?」

「確かにな。少佐、駅前のカフェが結構旨いですがどうしますか?」

「いいな、腹減ったし行くか」


すっかり観光気分になった老人達は駅前に向かい始めた。

「しっかし、不思議なところだよな」

「ああ、大都市の一部を切り取って持ってきたみたいだよな」


前回もそうだが、大きなターミナル駅の周りにレストランや土産物屋が並ぶ様子はとても死後の世界とは思えなかった。

今も、駅の側まで来たが。電信柱の電話線や送電線が途中で途切れて居るのが目を引いた。


「おまけに色んな人が居るよな。……おい、言ってるそばからエイリアンが居るぞ」

広場の近くまで来たタイミングで、わき腹を肘で小突かれたショーンが視線を向けると、麦わら帽子を被りアロハシャツを着たグレイエイリアンが自撮り棒を使いスマホで写真を撮っていた。


「何かサインとかねだられてるな」

まるで映画スターの様に、エイリアンに気付いた未来人風の男女にサインを頼まれたエイリアンは快くサインに応じていた。


「此処だ、幸い空いているな」

一行が到着したのはパリ風の建物の1階に開かれたカフェ。

テラス席が空いているので席に着くと、すぐにウェイターが注文を取りに来た。


「ご注文は?」

来たことが有る面々はメニューから料理を選び始めたが、ショーンはメニューの文字に驚いた。


「なんだ、フランス語か」

「訳しましょうか?」

ショーンの一言に気付いたリッキーことエリック・ギレイ少佐がショーンに話しかけた。

「いやあ、大丈夫だ。フランスに居る時に日常会話程度は覚えたよ」





「えーっと……」

警察病院の受付では、フェンリルの身分証を見て警察病院の担当者が硬直していた。

「少々お待ちクダサイ…」


担当者が席を立ち、奥へと消えていく。

(……半分名前のせいなんだろうけど傷付くなあ)


馬鹿な飼い主(ロキ)のせいで北欧神話のフェンリルの名前を付けられてはいるが、実際の所は全く関係ない元柴犬のフェンリルは毎回この名前に振り回されていた。

正直、改名も考えてはいるが。あんなのでも一応は主人であるロキに貰った名前に愛着もあるので、決心はつかないが。




「で、パオロはあの時“ムーランルージュでカンカンを見たい”って言うから皆で向かったんだけど。途中でドイツ軍が攻めてきたって知らせが入ったんだ」

ショーンを中心に、大戦時の昔話で盛り上がり。若い(?)リッキー達が聞き手に回っていた。

「そのあとは、バストーニュでドイツ軍相手に戦ったのは映画でも見たかと思うが…」


話の途中でショーンが席を立つと、ふらふらと通りへ向かい歩き出した。

「ヘイリー?ヘイリーか!?」

ショーンはオリーブドラブ色の戦闘服を着た兵士に話し掛けた。


なんだなんだ?と全員がショーンの方を見ていたが、他に4人程が立ち上がりショーンの下へ向かった。


「!?…誰だあんた?」

名前を呼ばれたヘイリーは、見ず知らずの老人に話し掛けられ困惑していた。

「俺だ、同じ小隊のショーン・ライバックだインディアンの…」

ショーンの正体に気付いたヘイリーは「お前、ショーンかよ」と声を震わせた。


「無事だったのか!?」

「ああ、あの時小隊長も被弾して、小隊の指揮はフランツが執ってな。俺達は何とか降下したは良いが、半分死んだよ」


コクコクとヘイリーは頷いた。

「知ってる、前回死んだ時に同じ輸送機の連中とパイロットたちと同じ列車だったんだ。駅についたらぎょっとしたよ、仲間が大勢居たから。ディック!こっちだ、ショーンが居るぞ!」


ヘイリーが仲間を呼ぶと、もう一人がちかづいて来たが、その様子を見ていた同じような戦闘服を着た兵士達が集まって来た。

「ショーン、おまえ。老けてんな!」

「やかましいわ!60過ぎだから当たり前だろ」


笑い声を上げ、お互いの腕を叩きあっていたショーンは、2人の後ろに集まった兵士達に気付いた。

「驚いた、みんな何でここに?」

100人以上は集まって来たので、ショーン達、獣人化した一同は唖然とした。

「皆、宿場町で戦死したか狼男との戦いで戦死した兵士だ…」


リッキーが前へ出た全員を見渡した。

「なんてこった」

彼らは自分たちと違い、呪われた訳ではなく死んだので“列車”でここまで来たのか……。

そう理解したリッキーはどうするか悩んだ。


「俺達は列車に乗って元の世界に戻るが、全員(・・)戻れると思うか?」

リッキーの言った事を頭の中で反芻しながらショーンは皺だらけの顔を向けた。

「あー。最悪ゾンビ化するんじゃないかな?身体は死んでるわけだし」

「だが、掛けてみる価値はあるんじゃないかな?」


2人の言ってる事を理解できず、ディック達は首をひねった。




「ああ、お待たせしました。病院長のハワードです」

案の定、病院長の執務室に案内されたのでフェンリルは作り笑顔をしながら病院長と握手した。

「どうもフェンリルです。すみませんが2人程預かって貰いたい女性が居まして」


“こんな用事なんか受付で済ませてしまえばいいのに”、と心では思いつつも、フェンリルは病院長相手に手続きを始めた。

「心霊科…。トラウマ持ちですか」

「ええ、本当は冥土休むのが一番だとは知っていますが、ここで治療をお願いしたくて」


フェンリルから提出された紙のファイルを見ながら病院長は頷いていた。

「判りました。お預かりいたします」

実際の所は治療が難しい案件だが、2人のトラウマの内容を知り、病院長は快諾した。

「ではお願いします」




「で、マジでやるの?」

「今更ビビんなよ」

警察病院の隣にある警察署の裏手でショーン達と一緒に居た老人5人が集まっていた。

「アレが良いな」

老人たちの視線の先には警察署の駐車場が有り、老人の1人は半ドアで放置されたパトカーを指さした。


「よし、任せな」

老人の1人がそう言い残し、守衛が詰めている門へと歩いた。


「すみません。便所を貸してくれんかの?」

「!…あ、おトイレ!?」

詰所の中で漫画を読んでサボっていた警官が慌てて出てきた。

「こちら、あのドアになります。入ってすぐに在ります」


裏口のドアの一つを指さした。

「すまんね」

そう言いながら、ヨロヨロとゆっくり歩く老人を眺めていると、縁石に躓き倒れたので警官が慌てて駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。最近目も悪くてね」


他の老人たちがこっそりと門を越えパトカーの方へ行くのを確認すると、倒れた老人は再び立ち上がった。

「トイレまで案内しますよ」

「ほんとうかい?ありがとうのお」



「ちょうどいい、詰所の中からカギを奪える」

「アカデミー賞もんの演技だな」

半ドアのパトカーから銃を奪うつもりが、仲間のお陰で詰所の中にある警察署のカギも手に入ったので残った4人は嬉々として駐車場内に入った。


「ショーン、俺はトラックに残っていつでも出せるように待ってる。3人で入ってくれ」

「ほいきた、任せろ」



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