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風舟

「……」

倒れている狼男から十分に距離を取りつつ、カエは狼男を観察していた。


(面倒な奴だな)

(やっぱり?)

トマシュは直感から、“狼男は本当は軽傷なのでは?”と感じていたが。カエが調べる限りでも大した怪我は無いように思えた。


(ちょっと見てろ)


カエが右手を上げると、自分達の足元から足音が鳴り狼男の元へと音が向かい始めた。

「ガァアア!」

足音に釣られた狼男が爪が伸びた左手で斬り掛かったが、空を切った。


「アっ!」

誰かに斬りつけ、盾にしようと思っていたが誰も居ない上、銃を構えた猟師達に狙われているので狼男はどうしたらいいか判らず固まった。


「構わん、殺せ」

冷たくカエが言い放つと、狼男は変身を解き。命乞いを始めた。


「ま、待ってくれ!降伏する!」

両手を上げ、叫んだ男に猟師達は引き金を引かなかった。


「どうするの?」

ライネがカエに近付き、指示を求めた。


「こうするさ」

カエが左手に持っていた捕縛用の縄を放り投げると空中で真っ直ぐに(ほど)け、鞭の様な大きな音を立てつつしなると男を思いっきり叩いた。


「あ!?」

「…え?」

カエが声を上げたのでトマシュが振り向くと、カエがばつの悪そうな苦笑いをしていた。

「間違えちゃった……」


叩かれた事で気を失った男が地面に倒れると、カエは深呼吸した。すると今度は縄が男の身体に巻き付き、全く動けなくなった。


「これで狼男化する呪いを起動しないようにすれば…完成と」

見た目では判らないが、カエがそう言うので周りの猟師達も安心し、男を運び始めた。


「…!?」

トマシュが耳を立て周囲を見渡したので、カエとライネは“トマシュが何かを察知した”事を理解した。


「今度は何?」

銃を構えながらライネが質問した。

「人っぽいけど周りに沢山…数え切れない。何だろ?」

「…確かに何か居るな」

カエも気配に気付いたが、正体までは判らなかった。


「妖精か何かじゃない?大森林は多いよ」

ライネはそうは言ったが、カエは心配になった。


「ニュクスが捕虜にしたナチの兵士を護送していた騎士団が誰かに襲われ全滅したんだ。そいつらかも知れん」

結局捕虜が逃げ、この世界でのナチ党についての活動を調べられなくなったのだ。

カエは同じ失敗をしたくはないので、どうするか暫く考えた。


「……アルトゥルに迎えを要請するのは止めるか」

「止めるって…。じゃあ、僕らだけで帰るの?」

ライネは心配になった。相手が多くてもアルトゥルのアメリカ連隊なら大丈夫じゃ無いかと思ったのだ。


「相手が自動小銃とか言う物を持ってるらしいしな。アメリカ連隊に被害が出るのは避けたい」

「自動小銃って、マジで?」

自分の父親達が試作に手こずっている自動小銃が既にナチが持っている事が信じられなかった。

「ねえ、徒歩じゃないよね?転移でも使うの?」


「いや、船を使う」

「船?」

森に囲まれたこんな所で船と言われ、ライネとトマシュは顔を見合わせた。


「うむ、ちょっと乗りたくなった」

カエの気分の問題で、“何か面倒な事になりそうだ”とトマシュが考えていると、カエの目の前の地面に魔方陣が浮かび上がり白く光った。


「わ!?」

まるで、鯨がジャンプしたように魔方陣から何かが飛び出したので、トマシュは驚いた。

「ダウ船!?ちょっとカエ。本当に船で帰るの!?」


出てきた2本マストの船を見たライネは戸惑った。

「勿論」

「えぇ……」

ダウ船は現代でも中東で良く見られる船だが、当然海の上を進む物だ。


「猟師達にも乗るように言ってくれ。そうだトマシュ、馬を忘れないように」

「本気?」


未だに信じられないがカエが船に飛び乗り、乗り降りに使う板を下ろし始めたので、トマシュ達は言われるがまま指示に従うことにした。




狼男になっていたサラを含む反乱軍の兵士達に掛けられた獣人化の呪いを無効化し、適当な服を着せ船の船倉に座らせるとカエは叫んだ。

「よぉし、では行くかぁ!」

上機嫌になったカエが王の杖を掲げると、マストに取り付けられた横帆が風を受けた。


「マジだった………」

ライネだけでなく、ジェームズやサムといった猟師達、更には船倉に置かれた鉄製の檻に押し込まれた捕虜達も目を覆った。


「ライネさ、あの帆は何だろ?」

「え?どれ?」

トマシュが「あれ」と言いながら指差した先には、2メートル四方の横帆が1枚落ちていた。横帆には(さく)が結ばれ、船の左舷前部に向かって伸びていた。


「アレと繋がってる?」

船の左舷、少しだけ全部よりの所に開いた穴から索が伸び、※クリートに結びつけられていた。


※索を結びつける金具


「何だ?……あ、後ろにもある」

バタバタと音がしたので、甲板に出ていた全員が音がしたマストの方を見ると、マストに取り付けられていた大きな横帆が空を飛んでいた。


「え!?っちょと」

「えー何あれ!?カエ、どうするの?」

風を吹かし過ぎて飛ばしたものだと思われたが。


「これで良い」

すました様子のカエに戸惑っていると、真上に向け飛び立った2枚の横帆に結び付けられた索が伸びきり、軋み音が鳴った。


「お!?」

直後に懐かしい浮遊感を覚え、ライネが視線を横に向けると、木のてっぺんが下へと消えて行った。

「飛んだ!?」


まるで飛行機の様に船が飛び、全員が恐る恐る外を見た。

「帆を風魔法で飛ばして船を浮かべるんだ。私達は“風舟(かぜふね)”と呼んでる」


2枚の横帆に引っ張られ、上に飛んだ風舟が右にロールし始めたが。先程までトマシュとライネが疑問に感じた2メートル四方の横帆が左右に引っ張られ、風舟は再び水平になった。


「凄い…。上に吹く風と船の左右に吹く風を……4つ同時に操るのか」

2メートル四方の横帆が右舷側にも在り、左右舷の横帆だけで、同じ風魔法だが別の方向に吹く風を操っているのだ。


「一度、アルトゥルの居る村に寄ってジェームズ達を降ろす。その後は、捕虜と獣人化の呪いを受けた兵士と一緒にケシェフに戻るぞ」


「待ってください。呪われた仲間は降りないのですか?」

サムはカエの言った事が気になり質問した。


「そうだ。呪いは無効化したが、意識が戻るまでケシェフで様子を看たい。まあ、心配せんでくれ」


フェンリルが三途の川で上手い事やってくれていればだが、呪われたメンバーにショーンも居るから多分大丈夫だろうとカエは思っていた。






「汽車から降りな!」

そんなカエの考えと裏腹に、三途の川ではショーン達が警察から奪った銃を使い汽車を奪おうとしていた。


「止まれ!」

警棒を持った警官が駅のホームに現れたが、ショーンが小銃の銃口を向け撃ってきたので慌てて売店の影に隠れた。


「おい、動かせるかい!?」

運転手を追い出し、代わりに汽車に乗った仲間にショーンが声を掛けた。

「大丈夫だ行けるぞ!」


汽笛を鳴らし、汽車が動き出すとショーンは客車に乗り込んだ。


「うわあぁ…どうしよう……」


ホームに残されたフェンリルが頭を抱えたが、ショーン達は気にせず駅を後にした。

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