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魔王との合流

「近い。ジェームズさん達はすぐ近くに居る」

「狼男達も近いな」

後を追っていたカエ達は廃村の手前まで来ていた。


「馬を置いて行こう」

馬をやられて足を失うのと、馬が嘶いて位置が露見するのを避けるために、置いていくことにした。


「合い言葉は呼び掛けで“コットン”、返事で“ウール”だよ。いい?」

ジェームズ達に間違えて撃たれないように、ライネが合い言葉の確認をした。

「ああ」

「大丈夫」


銃を扱えるライネがボルトアクションライフルを手にしたので、カエが嫌そうな顔をした。

「あ!………置いてくよ」


カエが雷にトラウマがあり、銃声が苦手な事を思いだしたライネ

は、銃を馬の鞍に戻そうとした。

「いや、大丈夫だ。暇を見つけては射撃場に出入りしてたから、慣れてはきている」


そうは言ったが、顔が歪み嫌なのがひしひしと伝わってきた。

それを気にしてライネとトマシュが顔を合わせるとカエは2度、左へ目線を流した。

「……ほら!銃を持ってさっさと行くぞ!」


ズカズカと歩きだしたカエを2人は慌てて追い掛けた。




「マギー、どうだった?」

ジェームズ達が銃を右手に持ち、小走りで持って来たので待機していた猟師達はようやく生きた心地がした。

「サラ達を見付けた。それと、狼男のボスを見付けたけど………」


サラ達が居た事に猟師達は喜んだが、“ボス”の一言で喜びが一瞬で覚めた。

「ナチだ。ショーン・ライバック軍曹がグエラ将軍に報告してた連中と同じかは未だ判らんが、ナチが居た。確認出来たのは女2人男4人、いずれも人狼だった」


猟師の中にいた転生者は驚いた表情をしたが、転生者ではない猟師達は首をかしげた。

「マギー…。そのナチってのは何者だ?」

ジェームズと付き合いが長い中堅の猟師が聞いてきた。


「……私達が居た世界を好き放題に滅茶苦茶にした連中だよ。私は未だ子供だったから行かなかったけど、グエラ将軍とライバック軍曹はナチが起こした戦争に従軍してた。アッチの世界だと戦争に負けてナチは一度は滅んでいるけど、アメリカ・ナチ党とかナチを模倣する組織とか、元ナチが何食わぬ顔で生活してたけど」

「具体的には?」


かい摘まんだ内容だったので、具体的な説明を求められたジェームズは少し間を置いた。

「………今の私達とあんまり変わらないかも。ナチは自分達の民族…。こっちの世界みたいに人狼とか人馬、人間みたいに、はっきりした見た目で種族が別れて居なくて、文明を持っているのが人間しか居ない世界なんだけど。それでも、人間の中で文化やルーツが同じグループを“民族”として考えていたんだ。で、ナチは自分達の民族が一番優秀でそれ以外の民族は穢れていると決め付けて迫害したんだ。……強制収用所で無理やり働かせるとか、餓死させるとかね。そう考えると荒鷲の騎士団と大差ないか………」


「マグノリアさん、誰か来ます!」

村とは反対方向を見張っていた猟師の報せで、全員武器を構えた。

「数は?」

「2人…いえ、3人」

「散開。合図するまで撃つな」




「えー、アルトゥルとアルベルトに銃の撃ち方を習ってたの?」

「うむ、やっぱり使えた方が良いかと思ってな」

トマシュ達が大森林の遺跡に行っている間、暇を見つけては鍛冶ギルドに出向き。アルトゥルとその弟のアルベルトに銃を習っていたのだ。


「でも、最初は危なっかしくてさ。怪我すんじゃないかと思ったよ。それでアルベルトが後ろに立って押さえたりしたんだけど、2人共、手が触れ合うだけで顔を赤くしてさ」

ライネの一言に、カエが振り返った。

「あ、あれはアルベルトが引き金の落とし方を教えてくれただけでな!」


カエは誤魔化したつもりだが、慌て様とカエから“恥ずかしさ”の感情が流れてきたのでバレバレだった。

「……カエってさ。一応は男だよね?」

「ん?そうだが?」


“だからどうした”と言う反応に、トマシュは困惑した。


「いや、男なのにアルベルトに恋しているみたいだから」

「………え?」

「え?」

「え?」


カエの“何言ってんだコイツ?”と言いたげな顔にトマシュは逆にたじろいだ。


「相手から行為を寄せられてるし…断る理由がないだろ?」

「でも、男同士でしょ?」

ライネが“まさか……”と右手で口許を抑えた。


「?……え!?……あ!」

なにかに気が付いたのか、カエは顔を背けて黙り込んだ。

「……その。今は女の身体だし、ちょっと良いかなって……」

「まあ、そうだね…」

引きつった笑顔と、心が混乱しているのが判り、トマシュはこれ以上追求しないことにした。


「!」

「どうしたの?」

トマシュが耳を立てたのでライネが聞いた。


「ジェームズさん達が動き出した。正面に3人、左に4人、右に3人…。左右に散った人達は…回り込もうとしているみたいだ」

トマシュの言ったことが本当か、ライネは目を凝らした。

「全くわからないな。便利だなあそれ」


トマシュが使いこなしている念波を用いた気配の探知に憧れつつ、「まるでレーダーだな」と呟いた。


「そうそう、前にライネとアルトゥルが言ってたレーダーのイメージだよ。それがあったから、直ぐに使いこなせたんだ」

「なんだそのレーダーは?」

取り囲まれつつあるのに、呑気にそんな事を聞くもんだからライネまで呑気に説明を始めた。


「えーと、電波ってあるじゃん。鍛冶ギルドで防諜に使ってる無線機で使う……」

「来た!右だ!」

トマシュが叫びつつ、ナイフを突き立てながら突っ込んできた猟師を投げ飛ばすと、左手でナイフを奪い空いた右手で鼻面を殴りつけ気絶させてしまった。


「うおっと!」

不意打ちを食らった筈のライネも猟師の攻撃を避け、カウンターで後頭部を殴り気絶させた。


「ふん!」

最後にカエだが……。猟師の首根っこを掴み馬を置いてきた方へと放り投げてしまった。


「あー…コットン!」

コレは収拾がつかなくなると思い、カエが合言葉を言うと「ウール」と返事があり。他の猟師達が銃を下に向けながらゆっくりと姿を表した。


「……魔王様!?」

「そうして此処へ」

ジェームズとサミュエルは反乱軍の陣地に顔を出しに来ていたカエを目撃していたので、一目で魔王がやって来たことに気付き、声を上げた。


「狼男の襲撃を受けたとアルトゥル…、ハーバー将軍から聞いてな。それで、来たんだ。して、狼男共は?」

ジェームズは廃村の方向を指差した。


「向こうの廃村です。獣人化し狼男になった仲間と襲撃を仕掛けてきた狼男に変身できる兵士が、確認できた範囲で6人居ます」

「…変身できるか。やはりな」

カエの反応からジェームズはショーンが言っていた“ナチの親衛隊みたいな連中”との関係が有ると思った。


「私が読唇術で会話を確認した範囲では、初めからグエラ将軍と私達狙いで襲ってきたみたいです。それと、明日にはハーバー将軍の部隊を襲撃するとも」

「読唇か…他には?」

“器用なことが出来るんだな”と感心しつつ、他に情報がないかカエが聞いた。


「それと、連中はナチのようです。右手を挙げ、“ジーク・ハイル”と敬礼をしていました」

「……そうか」

カエが口許を緩ませ、笑顔になったので若手の猟師達は背筋に悪寒を感じた。

カエが笑ったのは、今度こそ正体不明の“ナチ党員と思われる集団”の正体が掴めるチャンスが巡ってきたからだった。


「奴等を襲撃するぞ。先ずは狼男にさせられ、操られているはずの仲間を無効化する」

「仲間の始末は私達が!仲間としてのせめてもの餞です……」

今度こそ引金を引き、娘達を楽にするつもりでジェームズは志願したが。


「…?いや、操られてるだけだから、眠らすぞ。獣人化も呪いを抑えれば元の姿に戻るしな」

「え!?」


噛まれると感染する病気の類だと信じていた猟師達は“呪い”の一言に驚いた。

「既に、2人程獣人化した者の呪いを抑えるのに成功しているし、獣人化を使いこなせる捕虜を1人確保してある。…アレは病気などではなく、抑制できる呪いなんだ」


カエの説明を聞き、ジェームズは泣き崩れた。

手遅れになったと思っていたサラとルーシーを助ける事が出来ると知り。緊張の糸が切れたのだ。

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