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黒幕

「あれ?」

サラとルーシーは気が付くと見知らぬ建物が見える丘の上に立っていた。

「ジュブル川…かな?」

目の前に対岸が見えない大河が流れ、煙を吐きながら蒸気船が行き来するのをみてサラが呟く。


「違うんじゃない?あんな建物見たこと無いし」

ルーシーが指差した大きな建物に、同じく煙を吐きながら幾つもの長い箱を引張った機械が出入りするのが見えた。


「誰か他に…」

人が居ないか辺りを見渡すと、足元の草むらに誰かが寝ていた。

「あのぉ…」

「…!?……うん!?」

その老人はサラとルーシーに気付き、その場に飛び起きた。


「なんてこった……」

「あっ………!」

老人に耳と尻尾がなく、人間だと気付いた2人は銃剣を納めた腰の剣帯に手を伸ばし。何時でも抜刀出来るように銃剣と帯を結ぶ紐を解いた。


「ああ……。ああ、君達か…、なんてこった。他に誰か居ないか?」

2人の顔を見た老人がそう言ったので、2人はお互いに顔を合わせた。

「いや、僕だから。ショーンだよ」

「え!?」

「うそ!?」


目の前に居る日焼けをした白髪の老人が、ちょっと変わった人狼のおっさんだっ筈のショーンだと名乗るので、2人は声を上げた。

「ん!?……!ああ、なんてこった」

ショーンも自分の両手を見て、自分が前世の姿になったことに気が付いた。

「前世の姿だ。……あー…そう言えば身体が重いな」

老人の身体に戻り。ついさっきまでの引き締まった身体とは違い、膨らんだお腹を叩きながらショーンは残念そうに言った。


「なんだ!?」

他にも声がし、振り向くと同じ様な人間の老人や中年の男たちが川の方を眺めていた。


「あー、君達は誰だい?」

「俺達は…反乱軍だグエラ将軍の部隊の…」

「うわ!?お前!」

姿を表した男の1人が声を上げ、オリーブドラブ色の野戦服を着た男を指差した。

「元の姿に戻ってるぞ!」

「え!ってか、お前もだよ!」


男達は自分の姿に驚き、あることを悟った。

「俺達……死んだよな」

「ああ………多分…な」






あと、1ミリ……。いや、あと、コンマ5ミリ指を引ければ、撃つことが出来た。

しかし……、出来なかった。


スコープ越しに見える狼男化したサラを見るたびに、子供の頃の姿が頭をよぎり、あと少しの所で呼吸が乱れた。


最初はサラもルーシーも言葉を喋れなくなっていた。

声すら出さずに、突然泣き出し。嗚咽を吐きながら部屋の隅に隠れる日々が続いた。

特に酷いのがルーシーで、水もほとんど口につけず段々と衰弱し始めた。


前世から付き合いがあるポーターとその家族の手助けがあり、点滴や冒険者から譲ってもらった魔法具で何とか命を繋いだ。


「あの子達…やっぱり夜中は起きてるみたい。2人で抱き合って部屋の隅に居る」

ポーターの妻から夜中の様子を聞き、ジェームズは猟に出るのを控えた。


毎日、夫や息子達と一緒にサラ達と家で過ごし。夜中は家族全員で同じ部屋で寝た。


すると、些細な音に2人が怯えジェームズにしがみついて来るのが判った。

「ネズミよ。屋根裏に親子で住んでる」


ジェームズが音の原因を説明すると、2人が少し落ち着いたのが判った。

「あのネズミ、魔法を使うんだよ!」

「魚をあげると芸をするんだよ!」


歳が近いジョシュとジョージが音の原因だったネズミの一家を説明すると2人は屋根裏からする音を探し、天井を見上げ始めた。


家の内外から聞こえる些細な音にも敏感だった2人だが。音の原因を教えることで、少しずつ怯えることも少なくなり。少しずつ元気になってきた。





(マギー…)

夫に抱かれたジェームズは顔を擦り付けながら涙を拭った。

(狼男のせいで家族を取られて、人生を滅茶苦茶にされたのに。今度はあの子達が狼男になるなんて……)


サラとルーシーの事を自分の前世と重ねていることを夫のサミュエルは知っていた。

前世で直接関係があったわけではないが、ポーターから聞いていたのだ。


ベトナム戦争でPTSDでなり、家庭が崩壊した事も含め。



第1印象は明るい娘だった。


当時は流れ者で、村に立ち寄ったサミュエルは小遣い稼ぎが出来ないか村を歩いている時にジェームズと出会った。


鍛冶屋で細かく注文をし、親方と言い争いをしている場面に出くわしたのだ。

ライフルのボルトの事で無理な依頼をしたのが原因だった。

「エジェクターはボルトに溝を掘ってそこから蹴り出すメカニカルタイプの方が良い。確かに工作が大変になるが、信頼性は段違いだ」

たまたま、前世で銃砲店で働いた経験があったサミュエルの一言で、全員の視線がサミュエルに向かった。


その後はジェームズが欲しがっていたライフル銃の設計や製造の手伝いを鍛冶屋の親方とジェームズから頼まれ、気が付けばジェームズと恋に落ちていた。


前世が男だという事も早い段階で聞いていたが。今世での彼女しか知らないサミュエルからすればどうでも良いことだった。



実際にサラとルーシーを養子にし、2人の為にあらゆる手を尽くす姿は母親そのものであり。2人が言葉を話した時の喜びようは今でも覚えている。



(マギー、サム。誰か居るぞ)

見張っていたもう1人の猟師が村に誰かが居ることに気が付いた。


(人狼だ。だが、神聖王国の兵士みたいだ)

人狼の兵士が何人か集まり、何やら話し合っていた。

(薄着だな。もしかして、あいつ等が狼男のボスか?)


気温が低いにも限らず、肌着や薄着の男女が6人居た。


(6人…。いや、もっと居るかもな)

ジェームズもスコープを覗き込み、姿を確認した。


(何を喋ってるんだ?)

(……アメリカ…合流を…妨害…)

唇の動きをサミュエルが朗読した。


(ハーバー……明日…襲撃する…)

軍服を着込んだ士官が地図を広げ、口許が見えなくなった。

(………ボスで間違いないが。くっそ、まさか神聖王国の兵士が狼男だったなんて)


狼男の中に知性を持つ個体がごく稀に居るのは知っていたが。まさか、自分達と同じ人狼が人間の神聖王国の兵士として参加し、狼男になって襲い掛かって来たとは。

(だけど、そう考えると合点がつく。わざわざ武器を持った私達を襲撃してきたし。グエラ将軍や士官を執拗に狙ってきた)


士官が顔を上げたのでサミュエルが読唇を再開した。

(国王の第5インターナショナルの妨害を………ボルシェビキの一掃……)

(?)


急に過去に自分たちの世界で存在した概念が話題に上り、3人とも首を傾げた。

(帝国の復活……)

望遠鏡で眺めていた兵士達が右腕を伸ばした。

(ジーク・ハイル……。アイツらナチか)

話していた人狼の女がおもむろに服を脱ぎ去ると、狼男に変身し村の中へと走り去った。


(………戻ろう、合流して。今後の事を決めよう)

ジェームズ達3人は銃や双眼鏡を片付け、仲間を残した場所へと急いだ。


狼男に変化したショーンが“ナチの親衛隊みたいな連中”と大森林で遭遇した話は聞いていた。

それが、自分達に牙を向けたことが判り、ひとまず態勢を整えることにした。

(マギー良いか?)

(何?)

そして、希望が有るのではとサミュエルが気が付いた。


(あの女が狼男になったのを見ただろ?もしかすると狼男化しても解く方法が有るのかもしれない)

サラとルーシーを含め他の仲間を助けられる可能性が見えてきた。

(ええ、そうね。……まずは、あの兵士達を何とかしないと)




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