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援軍との戦闘

「お前達何をしてる!」

「ゲッ」

駐屯兵2人が縄を切るのに手間取っていると、隊長達が戻ってきた。


「早くしろ、南部の部族の大軍がこっちに来てる!それと、武器も返してやれ」

隊長の一言に、捕虜になった4兄弟は安堵し、大急ぎで駐屯兵達から武器等、持っていたものを返してもらった。


「いいか、捕まるなよ。真っ直ぐ戻れ」

「「「「ありがとうございました」」」」

4人は同じタイミングでお辞儀し、御礼をすると一目散に逃げ出した。




「リッキー!砲兵に撃たせろ!撤退を援護する!」

パオロが見張り台の上から、砲兵大隊の指揮官に命令を出した。

「了解!」

人狼の男が砲兵大隊の指揮所に走るのを見送ると、続いてパオロが命令を出した。

「リー!騎兵隊を率いて迎えに行って来い!だが、余り離れるな!ジェームズ!お前は部下と塹壕に向かって撤退を援護しろ!」

「応よ!」

「あいよ!」


「総員、戦闘(Battle)態勢(station)!」




砲兵陣地では街に入った部隊に撤退を告げる信号弾に続き、戦闘態勢への移行を告げる鐘が鳴ったので、砲兵たちは大慌てで持ち場へ走った。

「鐘だ…。おい!観測班は配置につけ!」

砲兵中隊の指揮官は、命令を待たずに射撃の準備を開始した。


砲兵大隊には4つの砲兵中隊(Battery)が隷下に存在し、各中隊に大砲が4門、全体で16門配置され、各中隊が独自に観測と射撃を行う近代的な編成になっていた。

「榴散弾だ!」

砲兵大隊の指揮所から伝令が中隊の指揮所へ飛び込んできた。


「中佐より…榴散弾にて制圧阻止射撃を実施せよと」

中隊の指揮官は耳を疑った。確かにこの中隊には榴散弾を割り振られたが、あんな危険なものを使うとは思っていなかったのだ。

「大尉!敵は大部隊です!数万は居ます!」


「数万だと…!?」

中隊指揮官の大尉が指揮所を出ると、観測所のカニ眼鏡を覗き込んだ。

「標的の先頭、方位070、距離5千!」

観測班が敵部隊の方位と距離を叫んだ。

「どっから湧いてきたんだ…」

情報だと、敵の部隊は魔王の妹が率いる3千人弱の軍勢が居ることは聞いていたが10倍近い軍勢がこちらへ向かっている事は一切情報がなかった。


「“榴散弾”を使用する」

大隊長も危険だと理解している上で、“榴散弾”の使用を命令してきた事を理解し、大尉は部下に命じた。

「了解」



「全員塹壕につけ!急げ!」

騎兵隊が進軍ラッパを鳴らしながら街へ向かうのと対照的に、ジェームズ・ケイマン大尉(・・)は部下を塹壕に集めた。

「ガトリングを出せ!」

足が遅い歩兵が数十人迎えに行ったところで、敵の騎兵に各個撃破されるのがオチだった。今彼らが出来る事は、街から戻ってきた味方の為に、陣地を守る準備と近付いてきた敵兵を追い払う事だった。



「敵兵が逃げ出してるな」

援軍に来た南部部族連合のウルベル族の部族長は、街から引き揚げていく反乱軍の兵士を単眼望遠鏡で確認した。

「初陣じゃ!首級を一番上げた者には褒美を出すぞ!続け!!」

「「「「応ッー!」」」」

ウルベル族の騎士団長の一言に騎士と従士が一斉に街へ殺到した。


「ウルベルの奴らに遅れるな!」

「我らも行くぞー!」

抜け駆けをしようとしたウルベル族に遅れまいと、各部族の騎士団が突撃を告げる角笛を吹き、総勢5千騎が一斉に駆け出したので、全体が見えなくなるほどの砂煙が巻き上がった。



「あー、くそ!急げ餓鬼ども!」

南東の外壁で撤退する兵士の数を数えていた兵士は、遅れてきたルーシー達4人を先に行かせた。

「小道がある。そっちへ」


大した川幅ではないが、街の南側に生活用水を流す為の小川が流れ。ちょうど陣地へ向かう小道を使えば、それを渡る為の石造りの橋が在った。

「俺達で最後だ!」


兵士が叫ぶと、橋の陣地側に潜んでいた彼の部下の1人が右手を上げ、全員が渡り切るのを確認すると「爆破!」と叫び、もう1人の部下が点火装置のバーを捻じった。


「きゃっ!」

「止まるな!」

爆音に驚いたサラが両耳を押さえて、走るのが遅くなったので兵士が彼女の腰を持って引っ張った。



Now()!」

各砲兵中隊が指揮官の号令に合わせ砲撃を開始する中、榴散弾を撃つはずの砲兵中隊では装填に手こずっていた。


「何やってんだ!」

「信管が固いんですよ!」

榴散弾は時限式の信管を使い、散弾が詰まった砲弾を敵の頭上で爆発させるのだが、如何せん工作技術が未熟なので信管の調整をしようとしたが、調整の為に掘られた溝の大きさに合うサイズのドライバーが無く、スプーンでメモリを合わせていたのだ。


「よし良いぞ」

ようやく調整が終わり、椎の実型の砲弾を砲口に押し込んだ。

「装填完了!」

最後まえ手間取っていた砲の装填が終わり、中隊長が発射を令した。

「Now!」


砲兵が一斉に物陰に伏せ、それから拉縄が引かれ大砲が発射された。

「ほっ…」

正直、信用できない信管で榴散弾を撃つので、*膅発(とうはつ)事故が起きないか、全員ひやひやしていた。


*膅発 砲身内で砲弾が爆発する事故。原因に砲弾の加工不良や信管の不良があり。最悪、砲が使え無くなる上死傷者が出る。


「次弾装填急げ!」

装薬を担いだ兵士に続き、兵士2人が砲弾を運んできた。

「修正-400!」


「砲弾をこっちへ」

装薬が装填される横で、再び砲弾の先端に取り付けられた信管の調整作業に入った。

「こっちは大丈夫だな」

今回はドライバーを差し込む溝の大きさが合い、比較的回しやすかったので、すんなりと調整がすんだが、次回は大丈夫か判らなかった。


「慎重にやれよ」

“不安だがあの威力なら仕方ない”

そうでも思わなければ、やっていけなかった。




「敵弾だ!」

南部部族連合の騎士たちは、砲弾が飛んでくるのを確認した。

「ぬっ!榴弾か!」

「散れ!」

正確に騎士団の先頭集団に着弾した砲弾8発が爆発したので、騎士団たちは騎士団ごとに微妙に向きを変えて散り始めた。

「おのれ、ただの反乱軍ではないな!」

一部の投石器で魔法で作った爆発性の砲弾を射出させたりはしているが、発射時に高い圧力が掛かる大砲で榴弾が撃ち込まれたので、騎士の一部は慎重になった。

「退く事も考えておけ!」


「次だ!」

遅れた4発の内3発が目の前の地面や集団の中に撃ち込まれ、残りの1発が彼らの頭上を越えた。

「不発か…」

不発の榴弾。…彼らが油断した時だった。


突如、頭上の1発が爆発し、直径2センチ程の鉄球50個が彼らに降り注いだ。

「うわっ!」

「あっ!」

地面に触れていない筈の砲弾が頭上で爆発したので、中には音に驚き落馬する者まで出た。

「怯むな!進め!」

先頭を行くウルベル族の騎士団が止まったので、出し抜かれていたズォラフ族の騎士団が彼らを追い抜いた。


「ズォラフ共め…」

完全に脚が止まったウルベル族の騎士団長は忌々しく思いながらも、無事だった部下を集め、再び全身を始めたが。


「なっ!」

追い越したズォラフ族の足元で爆発が起き、1人が馬と共に宙を舞うのが見えた。

「さっきの砲弾か!?者ども、迂回するぞ!」

他の不発だった筈の砲弾が爆発する可能性に気づき、後続の騎士団は砲弾の落下地点から大きく迂回し始めた。



「助、かった…。アイツら、足止めされてる…」

走って逃げる反乱軍の兵士たちは、少しばかり余裕が出来たので安堵し始めた。

「騎兵隊だ…」

丁度、行程も半分進んだ所で騎兵隊が援護に駆け付けたので、ようやく生きた心地がしたのだ。



「先頭集団に一泡吹かせたら退くぞ!」

騎兵隊は逃げる歩兵とすれ違うと、そのまま一番先頭に飛び出てしまったガヴトロフ族の騎士団に向かって行った。


「人馬共だ!」

ガヴトロフ族の騎士団員は騎兵隊の先頭をで指揮を執る人馬のリーに気付き、一斉に進む方向を騎兵隊に向けた。

「引き倒して細切れにしろ!」

特に、南部部族は人馬と常に争っている為、反乱軍の騎兵隊の半分近くが人馬だということに腹を立てたのだ。


「突撃!」

角笛が鳴らされ、重装の騎士が一斉に槍を突き立てた。


「撃てぇ!」

一方のリーは手前で進行方向を右に向け、カービン銃で騎士達に銃弾を浴びせた。

「しまった」

剣なら銃弾を叩き落すことぐらい造作は無かった。しかし、右手で槍を構えていた騎士たちは飛んでくる弾丸が“見えて”いたがどうすることが出来ず、次々と落馬した。


「よし退け!」

リーの指示を聴き、ラッパ手が退却の号令を吹いた。

「なっ!?」

これほどのチャンスを目の前にしつつ、リーが部下に指示を出し、一目散に引き揚げていったので、ガヴトロフ族の騎士達は面食らった。

「なんだ、アイツら……」


闇雲に突っ込んで来る訳ではなく、こちらの生き脚が殺がれるとみるや、秩序だって退却する。

およそ、逃亡奴隷や農民が集まっただけの反乱軍とは思えず、追える状態にあったガヴトロフ族の騎士も深追いを避け、その場に留まった。

「…チッ。戻るぞ!」


癪に障るが、このまま自分達で追いかけても損傷するだけと騎士団長は考え、他の部族の騎士団と歩調を合わせるべく、味方の方へ近づくことにした。


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