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援軍の到着

「ったく、ひどい目に遭ったよ!」


テントの中に入り、ショーンを見付けるなや否や、デイブは悪態を吐いた。

「何だい一体?」

「相変わらずボヤキ屋か?伍長よ」


「少佐っ!」

ショーンの隣に居る若い人猫の男がパオロだと気付き、デイブは慌てて敬礼をした。


「で、何があったんだ?話してみろ」

デイブに答礼したパオロに促され、デイブは起きたことを説明した。

「それが、手紙を届けるために城塞に行ったのですが、城塞には入れず。街の兵士に手紙を渡したのですが手紙を渡した瞬間に追い出されて。あれではちゃんと城主に届いているか…」


通常、公文書は然るべき責任者に手渡しし。その後、受け取った証拠となる文書を渡すしきたりなのだが、城塞の兵士は門前で手紙を受けとると、一応は使者であるデイブを追い出したのだ。


「それと、住民の一部がケシェフに向け避難を開始しました。南の神殿地区に居た住民の他、他の地区の住民も街を離れ、城塞に兵士が集まってます」

ケシェフへの避難はパオロ達、反乱軍の狙い通りでは有るが、兵士が集まって居るのは想定外だった。


「規模は?」

大隊(800人)規模です。街の兵士ではなく、近隣の町や村の兵士です」

「何だって?」


パオロは幕僚の1人を呼んだ。

「ジェームズ、援軍が入った報告は有ったか?」

人狼の“女”がメモの束を捲りながら、近付いてきた。


「無いな。街から出てった人の目撃報告は有るが、入ったって情報はライバック氏とデイビット・タッカー伍長だけだ」

街からに通じる街道が見渡せる場所に斥候を出し、逐一報告をさせたが、大隊規模の兵士が入った事は報告されていなかった。


「…ケイマン中尉?」

メモの束を捲る仕草と、自分の事を知っているので、デイブは女が元上官だと気付いた。


「久し振りだな。聞いたぞ、医者になったんだってな?」

女性らしく笑ったのでデイブは面食らった。

「そうですが…その…。中尉、変わりましたね……」

冗談の1つも言わず、下からは“あの人はイカれてる”と言われるほど厳しかったケイマン中尉の変化にデイブは理解が追い付かなくなった。


「まあね。結婚もしたし、子供も12人居るしな」

「ええぇ…」



「将軍!」

人馬の兵士が大慌てでテントに入ってきた。

「何だ!?」

「て、東から敵の援軍です!」


パオロはショーンとデイブと顔を見合わせた。

「早いな。恐らくニュクス様の部隊だ、心配ない」


「違います!」

パオロの言ったことを人馬の兵士が否定した。

「敵の援軍はケシェフからではありません!東の街道からです!」

「東からだと…」


パオロが立ち上がりテントから出たので、ショーンとデイブ、そして幕僚が後を追う形でテントを出た。

「どこ行くんだ?」

「見張り台だよ!」

テントを出て、街の在る方向とは逆側に向かったパオロの後を追うと、小高い丘に出た。


「将軍!大変です!」

木造の見張り台に立つ兵士がパオロに気付き叫んだ。

「誰だか判るか!?」

見張り台に備え付けられた螺旋状の階段を登り始めたが、途中で大軍が見え立ち止まった。


「嘘だろオイ………」

「うわぁ…」

パオロだけでなく、追い付いたショーンも目を疑った。


「ヤストロップ族、ガヴトロフ族、ウルベル族、ズォラフ族、ワベッジ族…。南部の部族です!」

南部の人馬と領地を接する人狼部族の大連合。2万の大軍だった。

「どうなってるんだ………。ショーン、これは」

「俺も知らないよ」

ニュクスからは何も聞いて無いし、ドミニカも何も言ってなかった。


見張り台の上にパオロとショーンが登ると同時に、デイブも追い付いた。

「マジかよおい………」

軍勢が横隊に並び変わる様は、まるで蝗の群れだった。


「ああ、でもアレか…。大砲と銃が有るし何とかなるか…」

ショーンは冷静に考えた。


数からして、半農半兵が多数の烏合の集。長距離から砲撃で敵兵の進行を阻止し隊列を乱し、連携が取れないまま陣地に取り付いた敵兵が拒馬や柵で足止めされている間に銃撃を浴びせ各個撃破すれば勝算が有りそうだった。


「おい!全軍陣地に戻すぞ!信号弾を撃て!」

パオロの命令で、見張り台の根本で呆然としていた兵士が割れに帰った。

「は、はい!」


「…え?」

急ぎ、信号弾を取りに、弾薬集積場に走る兵士を見て、ショーンはそれすら厳しいことを知った。

「な、なあ。陣地に殆ど人が居ないんだけど、皆どこ行ったの?」


パオロが額を両手で覆い、絞り出すような声で訳を話した。

「街に200人派遣してる。それだけだ………」

「何ですって?」


デイブは聞き間違えだと思ったが、ショーンは下に並べられた案山子から事実なのだと確信した。


「俺達は最初から300人位しか居ないんだ…」

「どういうことですか!?」

パオロ達、“反乱軍が宿場町を襲撃している”と、聞き大軍だとばかり思ったが、まさか寡兵だとは誰も想像だにしていなかった。


「誰も集まらなかったんだ…」

信号弾が“ヒュー”と音を立てながら撃ち上がり、爆発すると赤い煙が空中を漂った。

「知ってる奴ら、それと同じアメリカ人に声を掛けて回ったさ。だが、殆どの奴が“支援はするが、戦いたくない”と」





「何だ?」

薬屋の倉庫に戻る途中の駐屯兵達は信号弾の音に気付き、音がした方向を向いた。

「隊長、奴ら引き揚げて行きます」


奴隷の救出や商店を襲っていた反乱軍の兵士が一斉に南東に向かい移動を始めた。

「急ごう」

捕虜を見張らせるために残した部下達と合流するべく、隊長は路地裏を急いだ。




「赤い煙だ…」

薬屋の倉庫に残ってた駐屯兵は窓から信号弾の赤い煙を確認していた。

「なあ、あの煙は何だ?」

「退却の合図」


「退却?」

駐屯兵2人の内、若い兵士が答えた女の捕虜の方を見た。

「おい、反乱軍の兵士が引き揚げてるぞ」

もう1人の先輩の兵士が銃を持ち南東に向かう反乱軍の兵士を目撃した。


「………」

若い兵士は悩んだ。

隊長達が偵察に出ている間に捕虜の4人と話をし、 彼等の事を知りすぎたのが原因だった。

4人は兄弟で両親が転生者だった影響で反乱に参加していた。


理由は純粋に“奴隷が可哀想だから”と言う気持ちからで、正直なところ若い兵士はその理由に共感していた。


「ルーシー、サラ…すまない…」

兄弟の1人が姉妹に謝った。

「なに謝ってるの。こういうのも覚悟の上よ」

「そうだよ、後悔してないよ」


強がって見せたが、ルーシーとサラの2人は震えていた。

これから、この4人に降りかかる運命に若い兵士は心を痛めた。

捕虜に対する人権など全く無い上に、この4人は反乱軍の兵士。

兄弟2人は良くて鉱山奴隷。最悪、兵士に切り刻まれるか縛り首。姉妹2人ルーシーとサラは陵辱され、奴隷として娼館に売られる筈だ。


「ちっ、しょうがねえな」

先輩の兵士が剣を抜いた。

「っ!」

「ひぃっ!」

剣を抜いた音と、剣を見たルーシーとサラの反応から、兄弟2人が騒ぎだした。


「何する気だ!」

「来るな!」

「うるせえな。動くんじゃねえ」

若い兵士がまさかと、声を掛けた。

「先輩、一体何を」

「…誰にも言うんじゃねえぞ」


先輩兵士はルーシーとサラの2人と柱を結んでいる縄を切った。

「先輩!」

後ろ手に縄で縛られただけの姉妹2人を立たせ、兄弟2人に剣を向けたので若い兵士が叫んだ。

「っ!黙ってろっての」

先輩兵士が剣先を若い兵士に向けた。


「貴方がそんな事をするとは…」

「人は見掛けによらねえんだよ。…そこで座ってな」

先輩兵士が踵を返し、兄弟2人の歩み寄ったので若い兵士は意を決した。


「そうだな、先ずは顔を…っ!うっが!?」

足音に気付き、先輩兵士が振り向こうとしたが、若い兵士に急所の尻尾付近にタックルされ、前のめりに倒れた。


「てめぇ!何しやがる!?」

「貴方こそ!」

若い兵士が剣を奪おうと馬乗りになったので、先輩兵士は身体を捩ったが、剣が先輩兵士の手を離れ5メートル程弾き飛ばされた。。


「サラ!こっち!」

ルーシーとサラは巻き込まれまいと倉庫の隅へ向かった。


「うっ!がぁ!」

若い兵士がお構いなしに顔面を殴り付けてきた。

「このっ!」

「っ!」

先輩兵士が馬鹿力で下半身を起こし、若い兵士が体勢を立て直そうとした所に頭突きお見舞いした。


「はぁ!」

若い兵士を横に退かすと、先輩兵士が剣を取りに走り、剣を取ると、一目散に兄弟の方へと走った。


「ぬあ!?」

兄弟まであと2、3歩というところで、若い兵士に再びタックルされ、先輩兵士は倒れた。


「いい加減にしてください!」

「こんガキ!離せ!」

今度は先輩兵士の背中に若い兵士乗っかる形で押さえ込んだ。


「「おい!コレで縄を切れ!」」

若い兵士と先輩兵士が同時に叫び、若い兵士は腰に差していた剣を先輩兵士は手に持っていた剣をそれぞれ兄弟の足元に投げた。


「…え?」

「…おい!」

振り返った先輩兵士が、“マジで怒った時”の顔で振り向いたので若い兵士は大急ぎで飛び退いた。


「ったく、勘違いしやがって。………おい、おめえは嬢ちゃん達の縄を切れ」

「は、はい!」

先輩兵士から剣を受け取り、若い兵士は2人の縄を切った。




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